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ep.35 びっくり人間コンテスト


  * * *

【未知の領域 野営地 サッチー】


「すまん、誰か消毒液を少しちょうだい。除菌シートでもいいよ」

「あ、永瀬くん、これって別に君がばっちいからしてるんじゃないからね? 気を悪くしないでね」

「いえ、わかります。未知の何かがついてたら、って意味で納得しておきます」


「んで、これを食べます。すぐにはわからないから皆雑談しててね」

「(サッチー頼むぞ)」

《(任された)》


「さて、結果が出ました。永瀬くん、君は生まれてから29万8200時間ぐらいですね?」

「時間で言われても……」

「そうだよね……(サッチー日数、いや年数で教えて)」

《ごにょごにょ》


「えーと1万2425日、だから……34歳と一週間ぐらいかな?」

「合ってはいますが」

「そうか、お誕生日おめでとう。何もプレゼントなくてごめんね」

「いや、それはいいのですが、ただ、リーダーなら証明書に書いてある私の履歴見られますよね?」

「あ……そっか、他の情報……ちょっとまってね」


「えーっと、血液型はB型、あ、これも証明書に書いてあるか」

「そうですね」

「じゃあね、最近痛み止めとか飲んだでしょう?」

「それも使用歴ぐらいリーダーわかりますよね?」


「ダメかあ……じゃあ、ちょっとだけ言いにくいけど……薄毛の家系の方でいらっしゃるとか……」

「え? もうきてますか?」

「いや、きてないよ。大丈夫安心して。可能性としてだけど、父方母方両方におられたりしないかな?」

「なぜ、それを……」


「とまあ、こんなわけで、遺伝情報を分析できるんだよ。(ごめんね永瀬くん。君の尊い犠牲は忘れない)」

「ああ、もう僕(の髪の毛)は、だめなんだ……」

「あー、そこまで悲観しなくても大丈夫だよ。もしかしたら何とかできるから」

「え? できるんですか? 本当に? もしできるなら一生ついていきます!」

「いや、そんなに顔を近づけなくても。今のところは可能性とだけ言っておくけど、心配しないで」

《(三星、あまり安請け合いするな)》


 私は解析はできるが、遺伝子までは変えられないぞ。

 

  * * *

【未知の領域 野営地 三星】


「とまあ、少なくとも俺は食べることで遺伝情報を解析できると思ってね。あ、もう人間のは食べたくないから髪の毛もってこられても困るます」


 多分、これだけでもダメなんだろうけどな。

 脳筋諸君、だまされて(?)くれたまえ。


「お前、それってさ、適当に言っても確率は半々ぐらいだよな?」

 くそ、身内から裏切り者が出たか。

 光秀め!

 

「そうか? 俺は父方母方と言ってるから、可能性は半々ではないと思うぞ?」

「そうなのか? わからんが。じゃあ俺のを食うか?」

「さっきやらんと言ったろうが。できんとは言ってない。これ以上はあまり意味がないからやらんって言ってるんだ」


 何とか言いくるめられないかなあ。


「いいですか?」

「消防くん。よいよ」

「消防くん……いや、いいんですが。リーダーは安全だから食べて欲しいんですよね?」

「ん、ああ、そうだね(そうなのか?)」

「なら、僕はリーダーを信じます」


 お、君サクラの素質あるぞ。

 よし、消防君38号とは呼ばない。

 

「一応理由を聞いておこうか」


「転移したと言われても、実際今だって実感はないんです」

「確かに景色の違いとかは見ればわかりますが。地球じゃないのかな、とかは思います」

「でも、空気があって、水場の水も飲めるんですよね? そんな偶然って起こりますか?」

「起こるんじゃない? 実際そうだし」


「いや、そこでリーダーがそっちの意見をいっちゃダメなのでは? ここは強く転移を言い張らないと」

「そうは言っても、未だに信じられない気持ちもわかるし、俺だってこんな偶然あるわけないと思ってるもん」

「もん、って……まあいいです。でもこれだけ動物達が集められて、自衛隊の人もいて、普通じゃないのは確かですよね」

「うん、そうだねー」


「なら、これから食事というか生活がままならないのは当然?って言っていいのかな? 今までみたいに外食したり、配達してもらったりできないじゃないですか」

「そうねー、そこまで戻るには長い時間がかかるだろうね。もしかしたら戻らないかも知れないけどね」


「……。僕たちがこの先のエリアを探索して、何かを持ち帰れれば、それがわずかであったとしても皆が食べ物を得るチャンスがあるんですよね?」

「うん、そうあることを願いたい」


「あまり否定ばっかりしないでください……自信というか、元気がなくなります」

「ごめんごめん。でもね嘘はつけない。絶対できるなんて言えないからね。あ、勿論可能性があるし、すでにいくつか見つけているから出発したんだから、その辺は心配しなくていいよ」

「よかった。だったら、リーダーの言う試食も僕は付き合います」


 偉いな。若いのに。

 俺が消防くんぐらいの歳の頃って何してたっけ。

 きっと消防くんは、永瀬くんより若いんだろうな。

 

「まあ、意見はありがたいし、気持ちは受け取った。だからってそれを皆に強制してはだめだからね」

「それはもちろんです。あくまでも僕は参加するだけです」

「うんうん、助かるよ。本当に」


  * * *

【未知の領域 野営地 自衛官】


 さて、どうすべきか。

 注目すべきは三星氏が特殊な器官なり装置を持っていることだ。

 これは報告しなければならない。

 

 だが、この試食に付き合うべきか否か。

 興味はある。

 人間たちだけじゃない。

 様々な生物の生存の可能性が広がる。

 

 食いたい半分、食いたくない半分だな。

 まあ、周りの反応次第で乗っておこう。


「というわけで、自衛官と退官組は全員食え」


 え? 選択肢なし?

 自由って三星氏は言ったよね?

 三佐は馬鹿?

 もともと馬鹿っぽいなあとは思ってたけど。

 

「俺は食うぞ。もぐもぐ」


 あ、全員三佐に従った。

 くそ、腐っても士官か。

 

「おい、3号、それはだめだろう」

「ん? 食って欲しいんだろ? だったら訓練でいろんなもの食ってる俺たちが最適だ」


 最適だ(きらん)じゃねえ。

 地球のものは食います。

 先達も食ってるから。

 でも状況が違うでしょうがあ。

 

「どうしたお前? 俺の命令は聞けんのか? 所属はどこだっけか?」


 まずい! 所属を詳しく問われると任務に支障がでる。

 わかったよ、食うよ、食えばいいんでしょ。


「いえ、いただきます(もぐもぐ)」


 ん? まずくはない?

 あんまり味はしないが。

 吐き出すほどでもないな。


「割と食えるなこれ」

「だろ、まあ実際は焼いて食った方がいいんだが。君らは勇気あるね」

「ぶーっ! それを先に言え」

「まあ、実験だよ。君らは実験動物だ。わっはっは」


 もう帰りたい。

 

  * * *

【未知の領域 野営地 元看護師】


 皆、勇気あるなあ。

 俺だったら絶対に食えない。

 

 でもほとんどの人が食べた。

 食わなかったのは数名だった。

 

 だが、リーダーは決して責めなかった。

 逆に、食べた人たちの様子の観察と対処法を示して、役割を与えてくれた。

 

 まあ、どうして俺が脳筋組に入れられているかはわからないが。

 その役割のためだったと思いたい。

 決して魅せる筋肉を保持しているからとは思わない。

 そう、決して。

 ちょこっとだけ、ざーっつぷ!

 

  * * *

【未知の領域 野営地別班 橘】


 キャンプの先、三星さんが何かしている。

 今回も私は呼ばれなかった。

 

 橋爪さんとは割と一緒にいることが多いが、私のところにはあまり来てくれない。

 まあ、私は家族と共に後方を歩いているので、物理的な距離もあるし仕方ないが。

 

 でも、楽しそうだ。

 行ってもいいかな。

 たまには。

 

  * * *

【未知の領域 野営地 三星】


 ん? 1号がきた。

 しばらく放置プレイだったから寂しくなったか。

 だが、仕方ない。

 家族組を引っ張る存在として、1号は最適だからな。

 ちょっと気配りが足りなかった。反省反省。

 

「三星さん」

「どうした1号。甘えに来たのか?」

「あまっ……、まあそうですね。たまには構ってください」

「なんだよ、お前、かまってちゃんだったのか。見かけによらないねー」


 変わらない。この反応もだいぶ慣れた。

 少し安心する。

 

「何とでも言ってください。で今は何をされてるんですか?」

「今は人体実験だ」

「おい、やっぱりお前そういう魂胆だったのか?」

「どう言い繕うが、やってることは実験だ。だから俺は隠さない!」


「人体実験?」

「1号、お前も食べてみるか? 割といけるぞ、これ」

「なんですか、これ?」

「まあ騙されたと思って食べてみろ」

「はあ、皆さんも食べてるみたいですし。いただきますね」


 なんだろこれ?

 肉でも植物でもないな。

 大豆ミート? 人工肉みたいなもんなのかな?

 サッチーさんが作ったのか?


「どうだ?」

「うん、別に食べられなくはないですね。ソースなり味付けなりしたいですが」

「だろ? それさ、未知の領域の植物っぽいもんらしいぞ」


「ぶっ! え? なんで先に言ってくれないんですか?」

「先に言ったら食わないだろ?」

「もう、橋爪さんまで、いつのまにか三星さん化しちゃいましたね……」


 あ、もしかして、これって……

 

「でも、食べられないものじゃないですね。これはこの先で手に入るんですか?」

「ああ、取り放題だそうだ」

「へえー。なら、多少は食べ物の問題は解決できそうですね」

「それはまだこれからなんだよなー」


「どういう意味で?」

「今から一時間は安静にしておいてね。様子見るから」

「え?」


「んで、その後は自分のテントに戻って、寝て。お腹痛くなったらすぐに夜番に声かけて」

「え? 痛くなるんですか?」

「わからんなー。ちなみに俺も動物たちも今のところ問題ない」


「今のところ? なるほど、それで人体実験って……先に言ってください!」

「わっはっは。お前は1号だからな。既に俺の命令を聞くだけの存在だよ」

「まったく」


 でも、久々に大きな声を出せた。

 ちょっとお腹がもぞもぞしてるけど、気のせいだよね。

 大丈夫だよね?

 

  * * *

【未知の領域 野営地 橋爪】


 一晩あけて再び行軍が始まった。

 昨夜のアレはとくに目立った反応もなく、今のところ問題なさそうだ。

 一名を除いて。


「おい、1号。そこは俺の指定席だぞ」

「だって仕方ないじゃないですか。体調が悪いんですから」

「うそつけ。医療班からの報告では、なんともないって言ってたぞ」

「だって、体調悪いんだもん」


 三星と橘さんがじゃれている。

 

「悪いんだもんって大の大人が……」


 橘さんが家族と一緒に今日は動物に乗っている。

 家族サービスのようだ。

 

 たまにはいいんじゃないか。

 あの人も気を張りすぎてるからな。

 

 守るものが多いと大変だな。

 

 俺も結婚すっかなあ。

 

  * * *

【未知の領域 野営地 自称民間人】


 なぜだ。

 どうして私の周りにだけウサギが集まる。

 

 次々と抱きかかえろとせがむ。

 中には私の大事な髪をかみちぎろうとするのもいる。

 

 結局、交代で抱きかかえたり背中に乗せたり、頭の上に乗せたりして歩きにくいことこの上ない。

 まあ子ども達も近づいてきて、うさぎのおじさんと呼ばれるのは悪くない。

 

 変人と思われていないなら受け入れよう。

 三星のように「完全な変態」でないなら十分だ。

 

  * * *

【未知の領域 サッチー】


 ようやく解析を終えた。

 

 これを何と説明したらいいんだろう。

 私の母星の生命体とも違う。

 勿論、三星のような地球型生命とは違う。

 

 一つでありながら、全。

 全でありながら、個。

 

 なんと表現すればいいのか。

 

 生命体であることはわかる。

 

 増殖と言っていいのかわからないが、増えている。

 また、単純なコピーではない。

 

 吸収した物質により、新たな生命体の派生方向を左右しているようだ。

 

 基本組成は共通している。

 だが、環境やエネルギーによって、その生態や形態を変える。

 

 長い年月をかけて、だいぶ安定した食物連鎖となっているようだが。

 果たして食物連鎖なのだろうか。

 

 地上種だけでは足りない。

 水中、できれば海に生息する生命体を採取して分析したいが、その術はない。

 

 三星にどう説明すれば理解してもらえるだろうか。

 

 不思議生命体?

 

 あなたがたはその不思議生命体をお食べになってあそばしたのよ。おほほ。

 

 うーん、オチがないな。

 

 まあとりあえず。

 

 うっふん。

 

 これで勘弁願いたい。

 え? 足りない?

 

 困った……

 

 

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