ep.34 強行軍
* * *
【未知の領域 元警察官の妻】
「子ども達は元気ね」
「ああ、そうだな。楽しそうだ」
動物達がたくさん来てから、あっという間に出発が決まった。
最初は、動物達の第一陣と、小さい子が多い家族を含む第二陣にわかれて行動するという意見が出た。
だが、結局は子ども達が動物達と行動を共にすることを選んだ。
その子ども達は、休憩のたびに甲斐甲斐しく動物の面倒を見ている。
その分、野営の時はご飯を食べてすぐ寝てしまう。
少しうらやましいと思う。
「水場だっけ? どれぐらいかかるんだろう」
「あと二日ぐらい歩いたところだそうだ」
「結構あるわね」
これまでの移動を含め数日かかる距離にある水場。
そこが最初の目的地だという。
「体力がもつかな。私のね」
「まあ持たなかったら、動物たちに運んでもらえるんだから、無理するなよ」
「うん、それはそれで楽しみにしてるんだ」
リーダーさんが真っ先に動物たちに運ばれている。
その他、体調がよくない人、また子ども達、それ以外は順番に多くの動物たちに助けられている。
私たちは子ども達を優先してもらい、順番は後回しにした。
* * *
【未知の領域 獣医学部卒 元ペットショップ店員】
普段運動しないから毎日歩くのはつらい。
でも、歩くスピードは比較的ゆっくりだ。
こまめに休憩もとってくれる。
何より、水も食料も、そしてトイレも気配りされている。
リーダーが「女性が主役」と言った意味が少しわかった。
私は「女性の視点」という意味だと理解した。
でも一番うれしいのは、たくさんの犬や猫たちと一緒に行けることだった。
多少の喧嘩はあるけど、一匹もはぐれることなく、夜は共に寝る。
中には添い寝してくれる子もいる。
犬たちの多くは、大型の動物たちの周辺、そして子ども達を守るように走り回ってる。
猫たちは、リヤカーや動物たちの背に乗ったり、人の背に乗ったり。
本当に自由に暮らしている。
停電とか電話が使えなくなった時、お店の店長は動物たちではなく、売上金の心配をしてた。
悲しいことに、魚類やヒーターが必要な小動物たちは次々と死んでいった。
丁寧に葬りたいと言ったけど、店長は無視した。
転移と知り、世の中がだいぶあわただしくなった。
コロニーだかマロニーだかに所属してないとご飯がもらえないと知った。
私は動物たちと一緒にいられないなら生きていても意味がないと思ったので、
どこにも所属せず、お店で暮らすことにした。
これからどうなるんだろうと思った時、自衛隊の人たちが来た。
すべての動物を保護すると言ってくれた時は涙がとまらなかった。
できれば一緒に行きたいと言うと、審査があると言われた。
数日後、証明書をもらった時、また泣いてしまった。
毎日歩くのは大変だけど。
あの時私が泣いた意味。
店長を嫌いと思ったこと。
私は忘れない。
* * *
【未知の領域 三星】
「3号ー、まだ休憩ポイントじゃないのー?」
「まだだ」
「えー少し休まない?」
「お前、象から降りて歩いてから言えよ」
「象と呼ぶな! こいつは『バスだ象君』だ!」
「よくわからんが、お前、初日にちょっと歩いて以降、ずっとそこだよな」
くそう。3号のくせに。痛いところをつきやがる。
「なあ」
「なんだ? わが友3号」
「な、なぜ友と呼ぶ」
「お前友達いないだろ?」
「お前こそいないだろ?」
なんとなく同類の匂いがするからな。
「ああいないが? 自慢じゃないが友達などいたことはない。中学校まではいた気もするが。相手がどう思っていたかなどわからん」
「俺だって同期はいる」
「まあ似た者同士ってことでいいよな」
「今はそれじゃない。水場まで行った後ってどうするんだ?」
「あーそれはなー。着いたら話すよ」
「勿体ぶるな。というか皆、気になってるぞ」
「あらそうなの?」
「飯のこともある。水だって飲めるのかわからないだろ?」
大丈夫だと思うんだけどなー。
その証明を忘れてたなー。
わざと考えなかったんだけど。
こういうのは流れとタイミングがあるんだよなー。
「友よ」
「なんだよ。また無茶ぶりだろう?」
「よくわかったな。人類のために犠牲になってくれ」
「なんでいきなりそんな話になるんだよ!」
こいつ胃袋は丈夫そうだしな。
俺が大丈夫だったんだ。こいつなら大丈夫だろう。
まあ、自衛隊と警察と消防を半分にわけて犠牲にさせよう。
君たちの犠牲は無駄にはしない!(きらん)
「気にすんな。あと、水も大丈夫だ。そっちはある程度研究班がお墨付きをくれた」
「そっちは? ということは飯は?」
「まあ、うん、あれだな。目星はついてる」
「目星? 動物でもいたのか? いやそれだって食えるかどうかわからんだろう」
こいつアホだな。
地球の動物と同じわけがないだろうに。
というか、動物としての発見報告がないな。
サッチーも言葉を濁していたしな。
「先発隊からも動物の報告はないなー」
「じゃあどうするんだ? その辺の土とかを食うわけじゃなかろう?」
「土なあ。まあ眉唾だが、どっかの国の女性は土しか食わずに健康だったなんて記事があったな」
「それは嘘だな。一部の栄養素は摂れるかもしれんが、たんぱく質が圧倒的に足りない」
「そうだよなー」
「まあ、心頭滅却すれば火の用心って言うじゃないか」
「まったくわからん」
「飯はあるとだけ言っておく。ただ検証が必要だ」
「検証?」
「安全はある程度確認した」
「サッチーか」
「そうだ。だが、アレルギーとかなんかは個人によって違う。俺は割とアレルギー体質っぽいんだがなんともなかった」
「お前? まさか……」
「ああ、食った。問題なかった」
「馬鹿野郎。そういう時は俺にも言え」
「だから今言った」
「違う。そうじゃない。そうなんだが、そうじゃないんだ」
「わかってる。だが、もしもの事があった時を思うとな。俺よりお前の方が役に立つ」
「本当にお前は馬鹿だ。手分けすりゃいいだろ」
「サッチーの事は言わん。そして言えん」
「わかるが……皆があてにすると言いたいんだろ?」
「わかってるじゃないか」
「なら、俺だって、1号(橘さん)だっているだろ?」
「いや、あそこで躓くわけにはいかなかったしな」
「ちきしょう。今度何かをやるときは俺にまず言え。いいな、絶対だぞ」
「ああ、わかった。わが友3号」
「くそが」
照れちゃってまあ。かわいいこと。
でも嬉しいよ。
* * *
【未知の領域 1号(橘)】
なんだろう。
お腹の調子が悪くなってきたな。
変な物を食べないように気を付けよう。
* * *
【未知の領域 野営地 元消防署員】
突然リーダーに集められた。
比較的若い男の人が多いな。
それも自衛隊や警察、消防の関係者がほとんどだ。
在職中にレスキューの資格は取れなかったけど、若さと体力が良かったみたいだ。
有資格者は参加できなかったみたいだし。
きちんとリーダーと話をするのはこれが初めてで、ちょっと緊張してる。
「よし、良く集まった男ども」
(男ども?)
「皆、毎日ご苦労である。私は君たちの日々の活躍を陰に日向に見ており、とても感激しておるのだよ」
「そして、君らの活躍に応じて、私は皆に報いるべきと思っておるます」
(おるます?)
「おい、言葉遣いが変だぞ? もしかして大勢の前で緊張してるのか?」
「ちがーう! 決して緊張などではない! 男が好きじゃないからであります!」
(女性ならいいのかな?)
「まあ、ちょっと変だよな。俺もそう思う」
「でさあ、皆を集めたのは訳がある」
「ちょっと試食してくんないかな?」
(試食?)
「お前、今日食わせるのか。まだ残りの日数あるぞ?」
(え? 何を食べさせられるんだろう)
「質問いいですか?」
「警察くん、なんだい?」
「警察くん? 私にはちゃんと永瀬という名があるんですが……」
「じゃあ永瀬くん。なんだい?」
「おそらくは今後の食事に関してだとは思うのですが」
「鋭いね。チミ。私が警視総監なら、君をすぐに警視ぐらいにするのに。残念だったね。転移しちゃって」
「はあ、それは別にいいんですが」
「まあ、皆もわかっているかも知れない、わからないで今ここに呼ばれているかも知れないが、大体は水場からの食事に関することだ」
「主食ということでしょうか?」
「そうだね。主食なのかなー?」
「なのかな? わからないんですか?」
「いや、成分はわかってる。そしておそらく人体に影響がないことも(俺が)証明できてる」
「実際、持ち込んだ食料や自衛隊さんの戦闘糧食では持たないことはわかっています」
「うんうん」
「ただ、未知の領域で仮に何かを見つけたとしても、分析班が解析しないと安全かどうかはわからないのでは?」
「そうだろうなー。わかるよ。俺も逆の立場だったら絶対に反対するし」
「では一体何を食べさせようと?」
これからどうなるんだ?
* * *
【未知の領域 野営地 三星】
「この星が未知の惑星であることは皆理解しているよな?」
「ええ、それは、こうして地球とは違う場所を歩いていますからね。地球にこのような場所はないと思いますし」
「そうだね。んで、ここまで植物らしきものも、動物のようなものも見てないよな?」
「ええ、砂漠でもないですが荒野というほどでもない。なんて言うんですかね、火星の地表みたいな? よくわからないですが」
「うまい表現だねー。ただ見た目上はそう見えても、実際は違うのだよ、明智君」
「永瀬です」
「うん。もっと本を読みたまえ」
「はあ」
「この中で地面の下を掘った人は?」
「はい! トイレ用の穴を掘りました」
「うんうん、で何か見つかったかな?」
「いえ、土の色が変わりました。あと、表面とは違う土壌?でいいんですかね。割と掘りやすかったです」
「だろう? 地中は地上とは別世界だ。おそらく顕微鏡でもあれば何かしらの生命らしきものの存在は見つかったかも知れないね。わからんけどね」
「え? それって触れても大丈夫なのですか?」
「うん、大丈夫(俺が)試してある」
「それとさ、一部の動物だけど、持ってきた餌やおやつ以外にも少し混ぜ物をしてるんだ」
「それこそ大丈夫なのですか?」
「ああ、(たぶん)大丈夫。(それも俺が食ったし)問題ない」
「今のところ動物に何か変化あった?」
「特に目立った変化はないように見えますが」
「だろうね。というわけで、(俺と)動物では実験と言っていいかどうかはわからんが、毒となるものや害になるものの可能性は非常に少ないと言えるかな?」
「かな? 断定ではないのですね」
「うん、今ここでは証明も説明もできないが、分析班とは別に、解析する方法を俺は持ってる」
「そんな話は初耳ですが」
「うん、言ってないからね。だが、分析班しか解析できないと色々困ることが多いだろ?」
「そうなんですかね? よくわかりませんが」
「いいか?」
「3号。いいぞ」
「こいつはリーダーと言いながら、毎日象に乗って楽してる」
「皆もそれは見ている。怠け者と思っているだろう」
「だがな、出発前からこいつは、先発隊が集めてきたものをすべて自分で食べて試している」
「動物たちに分けるものもそうだ。全部自分で食べてから判断している」
「解析については、俺も知っている。だからおそらく間違いはないと思う」
「更にはこの馬鹿野郎はこの行軍中も、その食料候補を食べてどんな影響があるかずっと調べている」
「食べて一時間ぐらいは安静にして、反応の確認。数時間後の調子など見てるんだ」
「だから怠けているように見えるし、実際に怠けているが、体を張っているということだけはわかってやってくれ」
「3号(馬鹿だな。行軍中はほとんど食ってないのに)、お前には全部お見通しだったか」
「ついでに言う。こいつは今日の今日までそれを俺に黙っていやがった」
「だから、これからこいつがおそらく言うであろう『試食に付き合え』って話なら、俺は参加する」
3号。本当にお前ってやつは。
馬鹿だけどありがたいよ。
「まあ大体3号に言われちゃったから、もう説明はいいかな?」
「いや、まったくわからないのですが」
「そりゃそうだよな。簡単に説明する。この先、そうだな明日の行軍中には植物らしきものが見えてくる」
「植物らしき? 植物ではないのですか?」
「動物と植物の定義ってよくわからんからなー。動けば動物? そうなるとサンゴって植物みたいに見えるじゃん? 動物だってよ。あいつ」
「へえー。そうなんだ」
警察くん改め永瀬君。君も素質あるな。
19号にでも任命するかな。
数が多いと忘れるからやめておこう。
「ちょっと分析班の連中には聞かせられないけど、先にこっちが知ってて、後から彼らが『わかりました!』って報告してくるのを潰しちゃうと、かわいそうじゃん?」
「なんで、ここだけの話にしてね」
「その植物っぽいのって、光合成をする器官があるんだよ。葉に相当する部分。だけど枝から幹にかけてはたんぱく質が主成分になる」
「よくわからないのですが? 皆さんは分かりますか?」
わっはっは。
わかるなら、君らは肉体派グループにはおるまいて。
「わからんでいいよ、その辺は。でな、その植物っぽいの一つで草食動物も肉食動物も賄えるって寸法なんだよ」
「そして人間は雑食性だ。ゆえにこれはアレルギー問題さえ解決できれば主食になり得ると考えている」
「タンパク質とかだけでは駄目なのでは?」
お、脳筋グループにも知識人がいたか。
「そうなんだよ。そこがちょっとだけ問題だが、水場にはその解決策がある」
「当面、肉体派グループは、試食と観察組、作業班の二つに分けて反応を見ていきたいんだ」
「女性とか子どもに食わせるわけにはいかんだろ?」
「まあ、もうしばらくは持ってきた食料も持つ。戦闘糧食もある。君らが食う分を置き換えできるなら、さらにそれが在庫にできる」
「大人の女性は君らの状況を見て協力してもらう。だが、子ども達は最後だ」
「質問とか、やりたくないとかあれば、じゃんじゃん意見言ってね。それで帰れとも言わないし、その場合でも何とかするから大丈夫よん」
「信じていいんですか?」
「うーん、自己責任と言いたいところだけど、それじゃあ無責任だよな」
「あんまりやりたくはないんだが……永瀬くん、髪の毛一本ちょうだい」
やだなあ……
できれば若い女性の方が……
(お父さん!怒)




