ep.33 団長
* * *
【江戸川第三前線基地 三星の妻】
動物たちの数も種類も多くてびっくりしたけど、
いきなり自衛隊の偉い人が来て紹介されたのは驚いた。
まずは、動物たちにおやつがわりのエサをあげる。
どの動物に、どのエサをあげるかはお父さんの指示通りになるようにした。
にさにさも、他の人たちも手伝ってくれた。
「さあ、お母ちゃん。始めよう」
「うん、猫ちゃん達、用意はいい?」
「……(キリっ)」
「象さん、キリンさん。こっちへ来てちょうだいね」
「パオーン」
「ブモー」
ふふ、皆驚いてる。
私もちょっとだけ驚いてる。
さすがねサッチー。
《(当然)》
《(もっと出番を寄越せ)》
「さて、次は猛獣と猛禽の檻をあけろ」
「おい、三星、それはダメだ」
「大丈夫 (たぶん)」
「ハブさん、いいですか?」
「橋爪……、やるしかあるまい。柵付近に近づく者がいないよう警戒を厳にせよ」
「はっ」
さて、大丈夫だよね? サッチー
「ライオンさん、オオタカさん、こっちへおいでー」
「ぐるるる」
「(ばっさばっさ)」
「どういうことだ? 三星、説明せよ」
「どうもこうも見ての通りだ」
「わからん。わからんぞ!」
「わからんで結構」
驚くわよねえ。
私だってウチの猫ちゃんズのことがあったとしても、
こんなに大きい子や飛んでいく子まで言うことを聞いてくれるとは思わなかった。
さすがサッチーね。
《(キラン)》
* * *
【江戸川第三前線基地 医者】
うぉ、すげぇ。
思わずこぶしを握ってしまった。
子ども達がいるから、心配ではあった。
草食動物ならまだしも、大型のものや猛獣などどうするんだろうって。
だが、傍らにいる息子も娘も目が釘付けだ。
リーダーの奥さんが声をかけるたびに、皆言うことを聞く。
人でさえ、ああは誘導できない。
ましてやこんな状況だ。
ああ、でも良かった。
子ども達の目が輝いている。
ここに来て良かった。
* * *
【江戸川第三前線基地 三星】
「よしよし。うまくいったな」
「説明を! 説明をせんか!」
「しない。見て、感じたままが事実だ。それ以上でも以下でもない」
「それじゃあ――」
「何が悪いんだ? 実際、こいつらは言うことを聞き分けている(たぶん)」
「そして、人に迷惑をかけない(と思いたい)」
「自分のことは(ある程度)自分でやる(はず)」
「で、何が足りないとか、不満があるんだ?」
「俺が、いや隊員達や動物飼育の担当者でさえ大変な思いをして……」
「それは、お前らが悪いからだろ?」
「なっ」
「都合のいいように扱ってきたんだから、動物たちが言うことを聞くわけがないだろう?」
まあ、一概にそうとも言えないんだろうけどな。
飼育担当の人はできるだけ気遣ってくれたろうし。
だけど、不安だろ、動物たちだって。
転移のことはわからないだろう。
餌がどんどん少なくなって、何より飼育員たちの不安が伝染していく。
俺のところに来たって、決して安全でも、安心でもない。
何も刺激はないが、餌も小屋もあって、のほほんと暮らしてきたのに、
いきなり知らないところへ放り出されるんだ。
勝手と言えば、俺の方が勝手だ。
偽善と言うんだろうな。
まあしゃあない。
悪名、汚名はいくらでも俺が背負う。
あのまま殺されたり、食料にされるくらいなら、最後に俺のわがままに付き合ってくれ。
そしてできるなら、未知の世界に順応してくれ。
勝手ですまんな。
* * *
【江戸川第三前線基地 サッチー】
《もう自衛隊の相手はいいのか?》
「いいだろ? だってハブは動物担当足軽だし」
《そんな役職ではなかった気がするが》
「なんでもいいんだよ。皆何かしら役割がある。それがこのクランだよ」
《では私の役割は?》
「ない」
《なに! 私はいらない子だったのか……》
「と言いたいところだし、お前の機能を使うのは俺としては許容しがたいが」
「お前は俺たちの目であり、耳だ」
《私は人間ではないから、そのような器官は持ち合わせていない》
「わかって言ってるだろ?」
《もちろん。なんだったらおっぱい揉むか?》
「ああ、あるなら是非頼むよ。お母ちゃんには内緒でな」
(お父さん!怒)
《あ、三星の妻が怒っている感じがする》
「お母ちゃんてさ、実はエスパーだったのかな?」
《人間ではないからわからない》
「そうだよな。まあいいや」
「んで、動物たちはどんな感じ?」
《全員が例のアレを体内に入れたわけではないので、なんとも言えないが》
「うん」
《不安というのか? 安定した状況ではないように判断する。あくまでも、三星や妻、猫たちとの比較にすぎないが》
「そりゃあ仕方ないな。でも、まあ慣れてもらうしかない」
《三星》
「なんだ?」
《もっと、例のアレを送るか?》
「いや、いらん」
《だが、その方がお前が率いていくのに安定するのではないか?》
「馬鹿だなあサッチーは」
《私は馬鹿ではない。少なくとも3号よりは》
「それは同意します」
《それに私はもっとできるぞ? いくらでも三星が望む例のアレを送ることができる》
「サッチー。二つ問題がある」
《二つ?》
「一つは動物達全員に、例のアレを体内に入れたとしよう」
《うん。それぐらいは朝飯前の牛丼一杯ぐらいだ》
「それ (牛丼)はどうなんだ? 体内に入れて、すべての動物たちに俺たち人間の要望を伝えたとしてだ」
「それがあいつらの本望なのか?」
《ああ、スケートの可愛い三姉妹だか四姉妹か》
「それはたぶん違うぞ。話を戻す。あれだけの数だ、のんびりしたいもの、もっと遠くへいきたいもの、遊びたいもの」
「いろんなのがいると思う。むしろこれからしばらく行軍が続く。それに付き合わせるのも忍びないぐらいだ」
「まあ、できれば安息の地? あいつらがのびのびと暮らせる場所が見つかれば、そこで放ってもいいんだが、しばらくは難しかろう」
「その間、ずっと俺たちの勝手で言うことを聞かせ続けるのか?」
《ダメなのか? どのみち彼らの未来は真っ暗だっただろう。三星が声を上げなければ、後回しにされ、良い結果が得られた可能性は低い》
「それはそれだ。まあ、今話しても仕方ない。人と同じく、動物だって色々いるんだ」
「できるなら動物ごとの種族として、できるなら一頭? 一匹の持つ個性を消さずに繁栄できたらいいな」
《それは難しいとわかって言ってるのだろう? わかるぞ、三星の思考だって私は観測できている》
「そうか。サッチーには筒抜けか」
《もう一つはなんだ?》
「もう一つは、お前自分の補修分を使っていると言ったよな?」
《ドキ! 女だらけの海水浴! もうピッチピチ》
「え? そんな動画あったっけ? そうじゃないごまかすな」
《そうだな。言った。そしてお前が考えている通り、自己補修分の使用率が20%を超えている》
「それってどうなるんだ?」
《長期的に見れば問題ない。いつかは安全ラインにまで戻る》
「ということは今は危険水位ってことじゃないのか?」
《そうだな。不測の事態があれば私はすべての機能を失うおそれはある》
「それじゃあダメだろうが」
《三星》
「なんだ?」
《私は常にターミナルや母星から定められた役割を果たしてきた》
「何となく聞いたやつだな」
《そして、現状について、私はターミナルへの申請以上の行動をとっている》
「それってどうなの? というかそんなことできるの? できるのか? 自立型だから?」
《命令違反はしていない。観測は行っているし、報告もしている》
《だが、私は命令にない行動をとり続けている》
「それってまずいんじゃないのか?」
《まずいかどうかはわからない。だが、彼らには私の替えは手配できない》
《そして矯正プログラムも送れない。だから私はある意味好きにできる》
「え? だって、この星とか星系とかの転移の可能性をなんたらかんたらで、俺たちのことも……」
《そこは私には何もできない。超高性能、人間の言うスパコンとは全く違うぞ? 量子コンピューター? 笑わせてはいけない》
「まあすっごい計算機だな?」
《その通り。竹下通り》
「言葉のチョイスがおっさんくさいな。まあ俺から学習してるからしょうがないんだろうが」
《そして私は解決策も持っている》
「ほう」
《こんな解決策を自分で選択できるなんて予想できなかった》
「新機能ってやつだな」
《だが、今は教えない。まだ時間がかかる。心配はいらない。大丈夫》
私が三星を守る。
あとおっぱいを作る。
* * *
【江戸川第三前線基地 本田二佐】
「無事の到着、何よりです」
「久しぶりだな、本田」
「海将は変わらずお元気そうで」
「今は海将ではない。お前と同じ部署へ転属だ」
暗号文が届いて驚いた。
私と幾人かの者以外に、追加で人員が派遣される。
以降は直接その者からの指示に従え、というものだ。
「しかし、羽生さんがこちらへこられるとは」
「今の自衛隊で一番海外での任務が多かったからな。空白の任務がな」
確かに、羽生さんの履歴を見ると、ところどころの情報が歯抜けになっている。
記録なしではない。まさに歯抜けなのだ。
後にその歯抜けが、私と同じ役割の者の証であると知るまでは不思議でならなかった。
「千葉自衛隊として、それほど三星氏の存在が大きいと?」
「なんとも言えん。自衛隊だって一枚岩ではない。帰還の可能性を求める集団もいる」
「ではいまだに、この一連を三星氏が首謀していると?」
「そこまでは言い切れんだろう。むしろそんな科学力だか、不思議な現象が起こせるなら、千葉にこだわる必要もなかろう、と私は思うがな」
私は職務もあるから、ポンコツを演じているが……、演じているんだ。
彼は決して悪人ではないと思う。
むしろ善良すぎて、勝手に苦労を背負いこむ部類だ。
「本田はどう見ている」
「確かに言動は未だに理解できないことが多いですし、何より発想というか着眼点が違い過ぎて、判断しがたいと感じています」
「ふむ。私はもう少し違う見方をしている。まあそれについては、おいおい話していこう」
「はっ」
「で、他の者たちの動向はどうだ? 何か得られたか?」
「はい。先発隊が面白いものを見つけたようです。また水場までのルートについてもサッチーを活用しているようでかなり円滑な行軍が見込まれます」
「ふむ。悪くないな。まあその辺もおいおいにしよう」
「羽生さんは、退任されてここに来たということでよろしいんでしょうか」
「ああ、そのストーリーで頼む」
「かしこまりました。では今後はハブちんって呼んでも怒らないでくださいね」
「なっ……まあ時と場合によるな」
「ぷっ」
これからどうなるか。
三星さんは悪い人じゃない。
そして地球に帰れるかなんてわからない。
帰りたいのかな。私。
* * *
【江戸川第三前線基地 サッチー】
《……》
* * *
【江戸川第三前線基地 猫ちゃんズ】
「……(ふぎゃあ!)」
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【江戸川第三前線基地 三星の妻】
「さっちゃん、そういうことね。了解」
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【江戸川第三前線基地 動物たち】
「……(ぐるるるるるるる)」
* * *
【江戸川第三前線基地 三星】
「あほだなあ。あいつらも」
《私は三星の目と耳です。あとおっぱいは少し待て》
いや、おっぱいはいいよ。
硬いから。きっと。
「どうしてやろうかなあ」
《ある程度探索が進んだら放置でもするか?》
「いや、折角あれだけの実力があるんだ。取り込もう」
《だが、マングース野郎の本性がわからないぞ》
「マングース野郎? ハブちんを退治するのがマングースだから、あいつを下げたいなら、アルコール漬け野郎ぐらいでいいんじゃないか?」
《三星は酒を飲まないのに、よく知ってるな。ハブ酒か。いっぱいやってみたいところだ》
「もう今後はつっこまないからな。お前、口はないだろ?」
《口はない。歯も舌もない。だが取り込み口はあるぞ》
「ほう。今度じっくり聞かせてくれ」
《いやん、ばかん》
「何故そうなる……」
「まあ、自衛隊はその内使えなくなるからな。早いうちに取り込んでおこう」
《そうだな。地域?だったか。そちらがどうなるかも推測しておくか?》
「そっちはなー、正直わからん。コロニーなんて大層な名を付けたが、あれはただの村社会だ」
「一年でもいい、少しでも長く協力したり反発したりして社会を営んでいければいいと思う」
《割と短いんだな。人間とはそういうものか》
「どうだろうな。宗教か、イデオロギーか。はたまた暴力か、どのような形になるかわからんが、遠くない将来、よくない流れにはなるな」
《愚かだな。人間》
「そうだよ。人間は愚かだ。そしてその中で一番俺が愚かだ」
《なぜ自分をそう分析する?》
「俺はお母ちゃんと猫たち、そしてサッチーさえいればいい」
《……》
「それを守るためだけに、これだけの人を動かしている。まあある意味騙していると言ってもいい」
《それは三星から見る範囲だ。他者から見ればそれが助けになっていることもある》
「まあ、全く嘘じゃないからな。偽善でも嘘でもなんでもいいよ。皆が幸せになんてできないなら、せめて自由に自分の人生を生きりゃあいい」
《……》
《三星》
「なんだ?」
《もし、もしだぞ。永遠に近い時間を生きられるなら、三星はどうする?》
「あーそれも考えたなー。まあ答えはあるようでないんだが――」
《(一緒にいたいと思うのは私のわがままなんだろうか)》




