ep.32 咆哮
* * *
【県道5号 千葉自衛隊 まだ自衛官】
「あと少しですね」
「ようやくだ」
「え?」
「ようやく、あいつをぶん殴れる」
移動でかなりの時間を要した。
移動距離はさしたるものではない。
だが、合間合間に動物たちの面倒をみなければならない。
水やり、餌やり、糞などの始末。
また、様子をみながらマッサージしたり、話しかけたりしなければならなかった。
苦ではない。むしろ人間を相手にするよりはいい。
だが、それと、あいつをぶん殴るのは別だ。
絶対に殴る!
* * *
【江戸川第三前線基地 橋爪三佐】
すっげぇ車列だ。
下手な行軍より長い。
あれで第一陣?
大丈夫なのか?
「おい、あの車列を動物保護エリアに誘導しろ」
嫌な予感は消えない。
だから遠ざける。
一時しのぎだ。
「お、すごいねえ。どんだけつながってるんだ?」
「わからん。この後はどうすんだ?」
「柵の中をさ、分割してもらったじゃん?」
「ああ、だが入りきるかな」
「ん、ダイジョブだよ。きっと」
こいつ、いい加減すぎるだろ。
「んでさ、申し訳ないんだけど、人とかの相手はそっちで頼むよ」
「ええええええええ。勘弁してくれ!」
「わかるけどさ、動物の方を俺が先にやっとかないと、人に危害が出てからじゃ遅いから」
「本当に大丈夫なんだな? 子どもたちもいるんだからな?」
「ああ(たぶん)大丈夫。俺を信じろ」
信じられねー。
「というわけで、俺は動物対応します。あ、お母ちゃん見かけたらさ、俺のところに来るように言っておいてね」
「ああ、わかったよ」
絶対、殴られろ。
* * *
【江戸川第三前線基地 三星】
「サッチー。準備はいいか?」
《もちのロン。三星こそ大丈夫か? 新しい装置「監視装置1号から4号」に不具合はないか?》
「その不穏な名前はやめろ」
《ダメだ。私があなたを観測するのは絶対だ》
「わかったわかった。だが4号?だっけか? 俺の周りに飛んでるやつ。随分増えたな4号シリーズか?」
《それはあきらメロン。一機だけでは心もとない。それに……ゴニョニョ》
「気になるが、聞かないでおくよ。他のもバージョンアップしたみたいだな」
《よくぞ気が付いたな。消費エネルギーは三分の一だ。とってもお得です。お買い得》
「良いんだか、悪いんだか。まあお前の維持に問題のない範囲でな」
《……わかった。(ありがとう)》
さて、腹をさすりながら動物を待つとしますかね。
あとは、この大量の6号、7号。
うちのお母ちゃんと猫ちゃんズが来れば何とかなるかな?
ぶっつけ本番だがやってTRY!
* * *
【江戸川第三前線基地 猫ちゃんズ】
「……」
「……」
「フー!!」
* * *
【江戸川第三前線基地 三星の妻】
「うちのかわいい子たちが呼んでる気がする」
* * *
【江戸川第三前線基地 本田二佐】
昨夜、三星さんに呼ばれた。
ちょっとドキドキしながら彼の待つテントへ向かう。
「にさにさ、悪いわねえ」
奥さんが居やがった。
まあ、居てもいいんだ。
居ても当たり前なんだが。
下着を新しくしてきた自分が恥ずかしかった。
「いえ、リーダーのご指名ですから」
「ぷっ。履きなれない下着はどうだい?」
「なっ! くっころ!」
なぜかわからないが、変な言葉を口にしてしまった。
「さて、にさにさを呼び出したのは他でもない」
「あなたにしかできないことをお願いしたいの」
え?
奥様まで?
まさか、そんな、初めてが……いいのかしら?
「妄想乙」
「お父さん、ちゃかさないの」
手玉に取られている。
私は決めた。
結婚するなら、スレていない若い男とする。
「もういいや。にさにさ見とけ」
「?」
「猫ちゃん達、おいで」
「……(ふーっ!)」
「にさにさのお膝に乗ってー」
「……(ふぎゃぁー!)」
え? 何?
そういう芸?
「不思議だろう。そして芸だと思っているだろう」
「え、あ、はい。でもそういうことできる猫もいるって聞いた事あるような」
「そうねー。小さい時から少しずつ慣らせば、できる子もいるみたいねー」
「さて、では次は芸とは思えないことをしよう。にさにさ、動くなよ?」
「?」
「母ちゃん頼む」
「はーい。みんなー制圧」
「!」
猫たちが、私の行動を抑え込む。
瞬く間に私は身動きがとれなくなる。
いや、動こうと思えば全然動ける。
うん、ちょっと力を入れれば抵抗できるんだけど。
この可愛さには抗えない。
「よし、偉いぞー」
「三星さん?」
「ちょっと芸とは呼べないだろ?」
「ええ、まあ。すみませんが、皆にどいてもらってもいいですか?」
「どかせばいいだろ?」
「いや、ちょっと可哀そうだし」
温もりが嬉しい気もするし。
「猫ちゃん達ー、任務完了ー」
「……(がじがじ)」
一匹だけなぜか、私の頭をかじってるし……。
「そんなわけで、にさにさには秘密を一つ教える」
「秘密?」
「ああ、うちの子、まあ母ちゃんも含めてなんだが、相互通信ができる」
突然何を言い出すんだ? この人は。
「信じてないのは顔を見ればわかる」
「にさにさー、本当なのよー」
奥様まで。
「原理は教えてやらんが、明日来るであろう動物たちも同じようにする。あ、全部は無理だけどな」
「何を言ってるんですか?」
「あのね、私ちょっと(サッチー)色々できるの。変な能力じゃないわよ」
「奥様? 悪ふざけはやめてくださいね」
「悪ふざけじゃない。相互通信と言ったが、それができるのは母ちゃんと猫ちゃん達だけ」
「そう、動物たちは、私たちからお願いというか、こうして欲しいっていう要望を送れるだけなの」
「ちなみに、俺も似たようなことはできる。だが、母ちゃんと猫ちゃん達の方がうまい」
「はあ」
「なんで、動物たちの面倒は主に母ちゃんと猫ちゃん達が見るので、よろしく頼む」
何をよろしくすればいいんだろう?
「何をよろしくとか思ってるな?」
「な」
「まあ皆まで言うな。わかりやすいよ。にさにさは」
そんなに顔に出ていたのか。
「母ちゃんと猫ちゃん達は、意思の疎通の手始めの簡易版チックなことはできる。完全じゃない。でもできるのは間違いない」
「はあ」
「となったとき、そっちを狙う不届き者がいるかも知れん」
「はい」
「その時、お母ちゃんだけじゃないが、動物たちを含めて、守ってほしいんだ。あ、勿論にさにさも守るからな」
「はぅ(テレ)」
恥ずかしげもなく言うのはずるい。
「まあ、大丈夫とは思うが、気にかけてやってくれな」
「かしこまりました。お任せください」
安請け合いしちゃった。
回想シーン終了!
* * *
【江戸川第三前線基地 三星】
「パオーン」
すげぇ……
壮観だなあ。
餌も心配だが、トイレ大丈夫かな……
「おい、配置はこのままでいいのか? 猛獣類と鳥類は、檻の中のままだが」
「3号、お前なんでこっちにいる? 人間相手を頼んだよな」
「できるかアホ」
お前が抑えないと、一番の猛獣が来ちゃうだろ?
「三星」
「やあ、海将。会うのは初めてだな。割と若作りなんだな」
「三星」
「しかし、今、そっちは忙しいんじゃないの? あんたがここに来ちゃって大丈夫なの?」
「三星」
「そんなに名を呼ばなくてもいいのに、照れるなあ、ははは……」
「ぶっ飛ばすっ!」
ひゃぁぁぁ。
「シュッ」
「うっ」
え? 今の何?
「お前、何をした?」
「私にもわかりませーん」
《(三星。監視装置1号の機能だ)》
なるほど。
え? 未知の武器?
「よし、わかった、お前そこから動くな。殴る」
「殴るから動くなって、それはもうアカンのでは?」
「うるさい。動くなよ」
「シュッ」
「んが」
すごいな。
サッチー。また余計な機能を。
「お前……? 衛星か?」
「秘密だ。だがもう俺を攻撃するのはおすすめしないぞ? 次は丸焦げになるかもな(ぷっ)」
うーん、これは良いのか悪いのか。
一度サッチーはお説教だな。
「まあ、あんたが何を怒っているかわからんが、人として、社会人としてはまずは挨拶じゃないのか?」
「おまえ……そうだな。殴るのはいつでもできる」
「あのぉ、司令官? いつでもとはどういう意味でありますか?」
「橋爪三佐。私はもう司令官でも自衛官でもない」
くびになられてあそばされたのかしら。(ぷっ)
「三星。免職でも解任でもないからな。まあよい」
想像はつくが、聞きたくないなあ。
「おい、お前たち」
「はっ」
「ここまでご苦労。まだ引き続きの任務となるが、残りの運搬を頼むぞ」
「海将もお疲れ様でした(やっと解放される)」
「三星、よく聞け。私は個人としてこのコロニーに参加することになった羽生だ」
「わかりました。拒否しますのでお帰りください」
「ふざけんなーーー」
* * *
【江戸川第三前線基地 橋爪三佐】
どうして海将が自衛隊を辞めてまでここにきたんだ?
そんなにこいつは重要なのか?
いや、人を惹きつける魅力があるとでも?
ないないないない。
何もできんぞこいつ。
「えーっと、ではこれからは何とお呼びすれば良いでしょうか」
「そうだな。羽生でいい」
「ハブでいい(キラン)とか言われても、自衛隊の人たちは切り替えられないぞ?(ぷっ)」
「キランなどしとらん! まあわからんでもないがな」
「橋爪。本当に羽生で構わん。他の隊員にもその旨を伝達せよ」
「伝達って言ってる時点でさあ、もう上官じゃん」
その通り。
なんて言えばいい?「海将が俺たちのところにきました。羽生と呼んでいいそうです?」
言えるか!
「そのうち慣れる。それまで我慢せよ」
「言ってることが無茶だよ。んで、目的は?」
そこだ。
何が狙いなんだ?
「目的? このコロニーは探査と開拓なのでは?」
「あれ? 俺市役所で言わなかったっけ? 女性目線でって」
「言った。だからその女性をサポートするためにきた。お前の毒牙から守るためにな」
「なんだかなあ。(まだ)手なんか出してないよな。3号」
「まあ、出してはいないな」
「というわけで、そのご心配は無用ですので、お帰りください」
* * *
【江戸川第三前線基地 民間人? 羽生】
「残念だな、三星。ここに証明書がある。そして松戸地域の承認もある。お前に拒否権はない」
「ふーん。ってあんた自分で証明書にサインしてるじゃねえか。偽造だ! 捏造だ!」
「その当時はまだ、司令官だった。だから何も疑念はない。以上」
反対の声は多かった。
投げ出すのか? 無責任!
という声もあがった。
だが一番は「お前だけずるい」だったな。
勿論、任務や国民や助けを求める人がまだ多い。
それを放り出してくるようにも見えよう。
最後は皆納得してくれたがな。
「よし、わかった。ではコロニー改めクランリーダーからハブ君へ最初の指令を伝える」
「クラン? リーダー?」
「気にすんな、ここのコロニーの別名ぐらいに覚えておけ」
「おけ? ふむ。命令されるのは久しぶりだな。新鮮ではある」
「だろ? 指令を伝えるぞ? ハブ君。君は動物保護サポート係補助だ」
「ふむ。動物保護サポートか。ん? 係? 補助?」
「海将……ハブさん、それってただの使い走りじゃないですかね?」
「まあ構わん。動物の世話は大変だが、愛着も湧いた。自衛官ではなかなか動物を飼う機会もなかったからな」
「あら前向きでいらっしゃる。で、本当のところは?」
「あ、自分、席を外した方が良いでしょうか」
「構わん。橋爪。呼び方は我慢してくれ」
「何と呼ばれようと構いませんが。橋爪きゅぅ~んとか呼ばれない限りは」
こいつはこいつで、かなり三星に毒されているな。
私も気を付けよう。
「自衛隊だけじゃない。各地域の長もお前の言葉を聞きたがっている」
「何も話すことはないよ。もう皆動いてるんだろ? それに俺以上に役立つ奴らもいただろ?」
「後半は確かにお前の言う通りだった。そういうジャンルがあることさえ知らなかった。まあ知っていたところで使えなかったろうがな」
「まあそうだろうなー」
「前半については、少しだけお前は思い違いをしている」
「なんだろ? 俺なんてただの編集屋だぞ? 実務とか専門的なことはわからんし」
「思考の枝? お前は枝と言ったな。その組み合わせや細かな知識のつながり」
「枝ねえ」
「もちろん、だいぶ抜け落ちてるところも多い。それにしてもなぜその組み合わせになり、お前の示す道筋となるのか誰も言い当てられなかった」
「ふーん。俺にもわからん。五十年以上ずっと考えてきたからな。そういう意味では年季が違うからか?」
「五十年? 幼少期から考えている? そうか。まあその辺は今度じっくり聞かせてくれ」
「えー面倒だからいやだ。そして、俺はハブ君とは任務が違うので接触する機会もありません」
「ふふふ。語るに落ちたな。動物班はお前が見ると聞いているが?」
すでにその情報は手に入れてある。
すでにな。
「へー。その話も知ってるのか。そっかー。じゃあ仕方ないか」
「そう、仕方ないんだよ」
「まあいいよ。んじゃさ、これから君たちに面白いものを見せてあげよう」
「面白いもの?」
すまんな。皆。
俺だけ楽しめそうだ。
サポート係補助だが。




