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ep.31 サーカス


  * * *

【国道16号 千葉自衛隊 輸送班長】


 とにかく、今日ここまで来るのにどれだけの思いをしたことか。

 

 ただ運ぶだけじゃない。

 移動中も様子を見なければならない。

 

 専門職もついてきてくれたが、圧倒的に人数が足りない。

 足りない分は自衛隊が補う。

 

 まあ、それでも丁寧に応対すればいい。

 言葉は通じないが、少しでも心が通うならと思い手伝う。

 

 だが。

 この助手席のお方だけはいかんともしがたい。

 

 誰か運転を代わってくれないか。

 

「運転に集中しろ」

「はっ。集中します」

 心まで読む。

 大変申し訳ないが、一言だけ言わせてくれ。「くそが」

 

「司令官」

「司令官とは呼ぶな」

 チクショウ。


「では顧問」

「顧問になった覚えもない」

 ……。


「では、失礼して。元上司」

「ふむ。新鮮だな。それで良い」


「所持品はそれだけですか?」

「ああ、ほとんどの物は、家内と子供たち家族に持っていくのを拒絶された。私が持ち出せたのはこれだけだ」

 なんて言えばいい。


「あの、その辺の私物って、支給品ですよね?」

「古びたものを廃棄せずにもっていたものだ」


「それって良いんですか?」

「勿体なかろう」


 いや、「勿体なかろう」では駄目でしょ。

 紛失は届け出ないといかんでしょ。

 それ以外は正しく新しい支給品と交換しないと。


「何も言いません」

「そうだな。お前は何も見ていないし、何も知らなかった。それでいい」


 この人、退官しても絶対影響力ありそうだからな。

 知らぬが仏。

 くわばらくわばら。


  * * *

【江戸川第三前線基地 三星の妻】


 時折お父さんが何かを食べている。

 私には内緒で。

 

 ただ、量はほんのわずかなようだ。

 でも、自分だけずるい。

 私に少しくれたっていいのに。

 

 心配事もある。

 何かを食べたあと、しばらく休んでいる。

 一時間は完全に動かない。

 時には数時間様子を見ているようだ。

 

 他の人から見れば、何もせずにダラダラしているようにしか見えない。

 それは普段とあまり変わりないから、仕方ない。

 

 本当に考えるしか出来ない人だ。

 

 でも、少しだけわかる。

 さっちゃんがくれた5号。

 薬と言ったが、薬じゃなかった。

 何かの機械。

 分かってはいた。薬にあんな機能はない。

 

 でも、そのおかげで、お父さんの思考が少しだけわかる気がする。

 思考と言っても、感情の起伏のようなものだ。

 

 食べ物らしきものを口にするとき、少しだけ不安になる。

 一時間は緊張しているようにも感じる。

 

 もしかしたら……

 先発隊の皆さんがもってきた、植物のようなものや、その他なのかも知れない。

 

 少し不安になる。

 でも、それだったら私だって半分手伝うのに。

 

 なんでもかんでも自分で背負う。

 

 家族と言いながら、相手は守る対象と思いながら。

 自分を粗末に扱う。

 

 お父さんらしいけど。

 もっと自分を大切にして欲しいと思う。

 

  * * *

【江戸川第三前線基地 橋爪三佐】


「おい、誰が来るんだよ、教えろ」

「へっへっへ、わかりませーん。来ないかも知れないじゃん」

「そんなわけないだろ。お前があんな風に言うってことはほぼ確定演出だろ」

「まあ、明日か明後日にはわかるんじゃない?」

「むううう」


 気になって夜しか眠れん。

 

「そんでさ、フロート橋は大丈夫そう?」

「ああ、92式浮橋な。大丈夫そっちも間もなく到着する」

「オーケーオーケー。柵は?」


「動物のためとは知らなかったが、代替品で何とかなる」

「ついでに言うと、ネコ科の動物には何の役にも立たんぞ。勿論、鳥類には全く意味がない」


「そりゃそうだ。その辺はいいよ。二三日もてばいい」


 あらかじめ話してくれりゃあ何とかなったかも知れんのに。

 本当にこいつの言葉はいつも足りん。

 

「ちなみに、3号は犬派? 猫派?」

「あーどちらかと言えば犬かなあ」

「裏切り者め! うちの猫ちゃんズを愛でておきながら! 浮気者!」

「いや、愛でてはいないが……」


 いつも近づいてこないし。

 

「どのみち、自衛官で独身という条件では動物を飼うのは難しい。小さい時は飼ってたけどな」

「そりゃそうか」


 嫌いではないが、馴染みがないという感じだな。

 

「もう一つ聞きたい」

「んーなんだ?」

「先発隊が持ち帰っているもの、あれはなんだ?」

「ああ、植物っぽいもの、水のような液体、土壌のサンプル、あとは石?」

「ふむ」


 何かこいつは秘密を持ってるんだよな。今度も絶対。


「その辺はどうしてるんだ?」

「研究班の人たちに解析してもらってるが?」

「結果は?」

「うーん簡易機材じゃわからないことが多い。わかったとしてもなあ、それがどうなるかはなあ」

「なんだ? 歯切れが悪いな」

「今はいいよ。その内わかるさ」


 こいつは、俺のことを信用していないのか?

 まあ、3号だしな。


「なあ、俺は信用してもらえないのか?」

「何言ってるんだ。信用してるだろ。お前と橘さんは特別だ」

「……」

 こいつは恥ずかしげもなく、そんな事いいやがる。


「あれー、3号君は照れちゃってるのかな~?」

「照れてなどない!」


 うまくごまかさねば。

 

「あーちなみにもう、どこへ、いや、どの方面に展開するかは決まったのか?」

「どぎまぎしてるー、照れ屋さんめ。ああ、決まってるよ。最初からそのつもりで先発隊を出してるし」

「サッチーか?」


「ああ、そうだ。おい、サッチーのことはあんまり話すんじゃないぞ」

「もちろんわかってる」

「お前だから、お前を信用してるから話してるんだからな。期待してるぜ。相棒」


 この野郎。

 相棒か。


 こいつを助けてやりたいな。

 

  * * *

【千葉県庁 新知事】


 前任の元著名人だった方は体調不良を理由に退かれた。

 結果、千葉市の市長であった私に白羽の矢が立ち、その責を負うことになった。

 

 最初から狙っていたわけではない。

 ゆくゆくは、とは考えていたが。

 

 だが、実際この席に座ると、転移という事実は処理しきれなかった。

 ましてや、誰かさんがすべてを放り出した後だ。

 

 警察も公安も最初は協力してくれなかった。

 わからなくはない。彼らのマニュアルに転移はない。

 

 法に反した行為に対処する。

 何かが起きてから対処する。

 

 当然だ。勝手な先回りをしていては人々の信頼を失う。

 だが、後手後手の対処も、以前から問題にはなっていた。

 

 今は違う。

 そう思いたい。

 

 松戸市長と自衛隊の声かけを起点に、千葉北西部が動いた。

 また、南房総や外房、内房の生産拠点も声をあげた。

 

 私はそれに乗っかったに過ぎない。

 でも、それでいいんだ。

 

 一人でも千葉市民が、千葉県民が助かるなら。

 私が道化を演じればいいんだ。

 

 さて、今日もできることを一つずつやろうじゃないか。

 ピエロの本当の悲しみや苦しみは、観客には見せてはならない。

 

  * * *

【江戸川第三前線基地 三星】


 動物たちが来たとして……

 「仲良くしようよ№6」「言うこと聞いてくれないとイヤン7号」は完璧ではない。

 長いから「草食君6号」、「猛獣ちゃん7号」と呼ぼう。

 うん。その方がいい。

 覚えやすい。俺が。

 

 草食君6号は大型のものと、リーダーっぽいのに渡そう。

 猛獣ちゃん7号は、できるだけ配りたいが……足りんだろうな。

 猛禽かあ。あいつら頭いいから、お願い聞いてくれないかな。

 好き勝手にしそうだけど。

 

 それに、これ以上サッチーに要求しちゃだめだ。

 便利ではある。

 だがこれでは、サッチーありきの開拓になる。

 最初の一歩だけでいい。

 あとは自分達でやる。

 

 何よりあいつ、自己修復パーツを使っている。

 おそらくそれは許可の範囲を超えているんだろう。

 人間様をなめるな。

 それぐらいわかるぞ。

 

 できれば地上からサッチーに、自己修復パーツの素材ぐらいは送ってやりたいが。

 いかんせん、大気を突破するだけで莫大なエネルギーが必要だからな。


 でも、忘れないでおこう。

 サッチーから受けた恩はサッチーに返す。

 

 一寸法師にもお椀の魂だ!

 

  * * *

【江戸川第三前線基地 東アジア出身者】


「すみません。こちらは受付でよろしいでしょうか」

「はい……あ、すっごいお綺麗な方ですね……すみません。はい、先遣隊コロニーの受付です」


「良かった。こちら証明書です」

「お預かりしますね。え? この証明書って……」


「何か問題でも?」

「いえ、少しここでお待ちいただけますか?」


 バレたのか?

 

 受付の女が誰かに相談している。

 あ、連れて来た。


「ニーハオ。お綺麗な方。私は三星。独身です」

「ちょっと、三星さん、嘘ですよ。奥さんいます」

「くそ、だまっとけよ、もう(ぷんぷん)」


 なんだこの男は?

 まあ良い。


「その証明書に何か不備はありましたか?」

「いえいえ、ちっとも全く、さっぱりないですよ。ちなみにバストサイズは?」

「Hですが? それが何か関係しますか?」


「うひょーーーーーーーーーーーー」

「三星さん、絶対後で奥さんに言いつけますからね」

「ば、やめ、お願い。あとでいいものあげるから、ね?」

「もう、それに女性にそういう質問はセクハラです」


「あー良いだろうか。私は別に気にしない。また男性がこの身体を見るのには慣れている」


 当たり前だ。そのためにこの身体を維持しているんだ。


「ふーん、なるほど。で、この証明書はどうしたの?」

「問題はあるか?」

「それがさあ、あーここだと他の人の邪魔だから、ちょっと移動しようか」

「ああ、構わんが」


 ふむ。不審な点があるとは思えないが。

 まあ、よかろう。入ってしまえばこちらのもんだ。


「咲紀ちゃんありがとね。あとさ9番でよろしくね」

「え? はい。わかりました。9番で手配しますねー」


 9番?

 よくわからんが。

 

 さて、日本人のたくらみを暴いてやろうじゃないか。


  * * *

【江戸川第三前線基地 本田二佐】


 受付からのコール。9番。

 侵入者あり。


 受付の方を見る。

 なるほど三星さんが侵入者か。

 よし、退治してくれる。

 

 冗談はさておき、あの女性か。

 すごいな、堂々としている。

 あと胸も……

 

「橋爪、他の隊員を控えさせておけ」

「了解」


 三星と共に歩いてくる。


「さて、この辺でいいかな。あ、テーブルと椅子があるから、テントの中でもいい?」

「身体的接触がないと約束するなら構わんが」


「あーそれはどうかなー」

「じゃあ、テントの中は遠慮させてもらおう」


 堂々としている。


「じゃあさ、俺じゃなくて、あの女性とだったら大丈夫?」

「どの? ああ、構わん。中に男がいないと言うならな」

「大丈夫、二人だけだから。心配ないよ」

「了承する」


 三星さんから下手なウィンクで合図される。

 

「では、ここからは私が代わりますね」

「手数をかける」

「いえいえ、では中へどうぞ」


「あとよろしくねー」

「承りました」


 さて、お話し合いをしましょうかね。

 胸部装甲についてもね。


  * * *

【江戸川第三前線基地 橋爪三佐】


 先ほどの女がドナドナされていく。

 行先は松戸駐屯地。

 

 これで何人目だ?

 あやしい教祖様、魔王、予言者、ありとあらゆる胡散臭いのが集まってくる。

 

 しかし、今回は微妙に違う。

 組織の人間のようだ。

 

 奴らも転移に巻き込まれて本国と連絡がとれない中、もがいているんだろう。

 同情はしない。


 それなら普通の人として生きていけばいいだけだ。

 この期に及んで、まだ支配を目論むなら、その芽を摘むだけ。

 

 しかし、あいつ。随分慣れているな。

 全く動じていない。

 

 円滑に、また誰も怪我をしないように、気を配りながら回している。

 ある種の才能なのかも知れんな。

 

 少しぐらいは見直してやってもいいか。

 

 ちょっとだけだがな。

 

  * * *

【江戸川第三前線基地 三星】


 いやー、まじでびっくりした。

 大きいおっぱいにしか目がいかなかったが、怖かったな。

 

 しかしすごいよなあ。

 咲紀ちゃんも、にさにさも。

 

 普通にしてられる。

 俺? 無理無理。

 だっていきなりナイフとかつきつけられるかも知れないんだぞ?

 こわいよぉ。

 

 まあ、少しだけ眼福だったのでよしとしますか。

 

 ああ、ちょっとだけさわりたかったな。

 

 (お父ちゃん!怒)

 

 ぐすん……



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