ep.30 独断専行
* * *
【江戸川第三前線基地 三星】
「さて、君らに集まってもらったのには、理由がある」
全員に知らせた後、各部門のリーダーというかそれっぽい人たちを集めた。
「私が入っても良いんでしょうか? 今日来たばかりですし、気象予報士ですが?」
「あーいいのいいの。聞くだけでもいいよ。気が付くことがあったら遠慮なく言ってね。抱えちゃだめよん」
「滝口さんはともかくとして、私別に専門職ではないのですが?」
「1号は住民の代表ね。責任が重いとか言うなよ? ここにはそのためにいるんだから。皆の意見を聞き洩らさないで教えてね」
1号はまじめだからな。だが、家族と一緒に来た以上、覚悟はあるんだろう。
「警察や消防、医療関係の皆さんも納得しますが、私は書士ですけど? それに若すぎないですか?」
「あーいいのいいの。年齢は問題ない。むしろ気にしちゃダメだ。あ、あとさ、ちょっとだけおっぱ……」
(お父さん?怒)
あれ? お母ちゃんは今炊事場のはずなのに。
エスパーか。チクショウ。
「おっぱ? 河童は実在しないと思いますよ? ここではわからないですけど」
「う、うん。その話はまた今度ね」
「おい、気をつけろよ。その手の話が苦手な人もいるんだから」
3号のヤロウ。すっかりお母ちゃんの手下に成り下がりやがって。
だからお前は独身術なんだよ。ぷぷ。
「まあ、他の皆も色々あると思うけど、とりあえず聞いて。その後質問を受ける」
「さて、最後の大物グループが到着して、全体の把握が出来たら出発する」
「まあちょっと俺の方でも仕込みしなきゃいけないことがあるから、数日はかかるかも知れないけど一週間もかからないと思うから、皆もそのつもりでいてね」
「おうわかった」
3号はどうでもいいが、皆真面目に聞いてくれている。
真面目は良いけど何か調子狂うな。
緊張してるのかな?
「あ、それと言っとくけどさ、俺はリーダーだけど何もしないよ。荷物も運べなきゃ、ご飯も作れない。何なら自分で歩けないかも知れない」
「皆さんご存知ないかも知れないが、こいつは本当に実務では役に立たん」
いいぞ3号、その調子だ。
「そうですね。実際ここ数日の三星さんの動きを見てれば、大体ごろごろしているか、誰かと話をしてるぐらいですもんね」
いいぞ、名前は忘れたが消防の人。
「まあ、だから何も出来ないと思ってくれ」
「では、なぜ三星さんがリーダーなんだ?」
「良いねえ、その質問を待っていた」
いいぞー、もっと俺を下げろー。
「俺ができるのは考えること。あとはちょっとした観測だな(サッチーかわいいよ)」
《(三星、ありがとう。ぽっ)》
「なのにリーダーなのか?」
「そうそう。俺もどうかと思う。そんなわけだから、皆でどんどん話し合って良い方針とかあれば進めちゃっていいよ」
「なんとも頼りないリーダーさんだなあ」
そうそう、頼りないのよ、俺。
「いいえ、三星さんはすごいです」
やめろ1号。
「松戸が他の地域に先んじて動けたのも、自衛隊が参加しているのも、ましてやこの先遣隊を発案したのも三星さんです」
「ほお」
「へえ」
モブキャラみたいな反応はいいから……
1号、俺の計画に水を差すな。
皆が自分で考え、意見を交換して、前に進む。
それがこのクランの方針だ。
誰かが率いるなんてダメだ。
「いや、皆さん橘さんの意見を信じちゃいけない」
3号!
「こいつは確かに先を見通す力はあるかも知れないが、全く実行が伴わない。全部丸投げだ。だから参考意見ぐらいにとどめておいた方がいい」
「ついでに言うなら、こいつの依頼は基本的に聞き流した方が皆さんのためだ。余計なことをやらされる」
「でも、結果良い方向に進みますよ?」
ちきしょう! たちばな! 水を差すな!
「まあ、俺のことはいいよ。ご意見番ぐらいで。あと責任者は誰かやらないといけないから。責任はとる。自由にやって」
「口だけは立派だな」
「言っとけ」
「脱線ばかりで悪いね。質問はあとね。ごめんね。考えを形にするのがちょっと大変なんだ」
「じゃあ、続ける」
「転移に巻き込まれたのは人間だけじゃない。それはわかるよね。俺としては人間の方は地域や自衛隊に頑張ってもらえばいいと思う」
「だけど一緒に転移してきた『飼育されている動物』は地域や自衛隊では見られないと思ってる」
「そりゃあそうだ。人間だけでも食う量やその他の活動を制限されているのに、生態を見せるために連れてこられた動物たちの面倒までは見切れない」
「じゃあ、放っておいていいか? 俺はダメだと思う」
「さすがに鴨川とかの海の生き物はどうしようもないので、生きてるものは海に逃がしてもらった。本当に無責任だとは思う」
「でも仕方ないよ。誰だって転移してくるなんて思わないもんな」
「残るは大型動物や猛獣だ。こればかりはどうしようもない。殺処分すればいい? それが意見としては簡単だろうね。意見としてはね」
「でもさ、自分勝手すぎると思うんだよ」
「だから、俺の家族にした」
「俺の家族ならコロニーの一員にしたってかまわないだろ?」
「まあコロニーの発想自体は、個人を、家庭を、集団を皆で支える。だからね。ウチの家族だけが大所帯になっちゃうと周りの皆に迷惑かけちゃう」
「できるだけ動物たちが自力で生きていけるようにしたかったんだ」
「動物にアレルギーやトラウマがある人もいるだろう。俺だってちょっとグロイ系のは苦手だ」
「でもさ、人間の都合で生かされたり見世物にされたり、殺されたりじゃあ可哀そうじゃん?」
「この未知の領域で暮らしていけるか、確証はない」
「だけど、ある程度目星はつけてあるんだよ。少なくとも草食動物はいけると踏んでる」
「あとは肉食動物だが、最悪は3号を餌にするから心配しないでいいよ」
「おい、ふざけんな」
* * *
【江戸川第三前線基地 研究職】
「良いだろうか」
「ほい、どうぞ」
「動物を連れて行くのはもう決定事項なのかな?」
「そうだね、決定事項。俺の家族だからね。動物たちが家族になりたいとは言ってないから押し付けの家族だけどね」
「なるほど。もし、もしですよ、それに相容れない場合は?」
「うんうん、わかる。それも考えてある」
「どうやったって怖いとか、自分たちの食事もままならないのに、動物の分まで、ってのは納得できないよね」
「それが当然の考えだよ。なので、このクランは三つに分かれる」
「三つ? 二つなら今の話でわかりますが」
「俺主体でごめんね。動物を含む大所帯グループ、含まない普通のグループ、そしてすでに先行している先発隊の三つだ」
「先発隊……」
「まあ先発隊は、俺のところに所属してるんだけど、ずっと一緒にはいないかも知れないからね」
「ついでといってはなんだけど、先発隊はもう出発している。報告も入ってる。水場も見つけた。だからとりあえず俺のグループはそこを目指す」
「では、その先発隊と三星さんのグループに参加しない者たちは?」
「先発隊も俺たちも基本一所には留まらない。できるだけ多くの動物や生物に適した場所を探す。また資源が見つかればそこを拠点とする。そっちも目途はたってる」
「なるほど」
「だから、全員が一度に動くわけじゃない、動物がいないグループは数日から一週間ぐらいはずれて行動するといいさ」
「あ、あとさ、そのグループだって、別に一つの集団にこだわる必要はないよ。そこからさらに小さくわかれてもいい」
「できれば、生活できる、集団だったらいいけどね」
「ただ、これは皆の意見を聞いてからにするけど、医療関係と自衛隊の一部、それから警察・消防は二班にわける」
「狙いは、どちらのグループでも怪我や病気への対策、自治、力仕事を担えるようにしなきゃいけないからね」
「ちなみに先発隊は自衛隊と消防だけなんだ。探検が好きだそうだ」
「では逆に全員が一つで居たいとなったら?」
「えーそんなことある? 動物組のリーダーは俺だよ? 何にもしないよ?」
「そうは言っても……」
「あー不安か。そっか。大丈夫、一緒でも良いように考えているし、二つに分かれても大丈夫なようにしてある」
「具体的には?」
「おそらくね、自衛隊の一番偉い人が参加するよ。だから二つに分かれるならもう一つのリーダーはその人にやってもらおう」
「おい、ちょっと待て、もしかして」
「いやわからないよ? ハブちんとは言ってないから。ナベかも知れないよ?」
「どっちも嫌だよ。マジで勘弁してくれ」
「さて、俺からのお話は以上。あとはさ、近くにいる人と顔を突き合わせて話してみてよ」
「話すのが苦手とか、こんな意見をいったらだめじゃないのか、とか気にしないでいいよ」
「俺だって全部を考えられるわけじゃない。でもできるだけ皆の負担や抵抗がないようにしたいと思ってる」
「全員が同じ方向なんて気持ち悪いからいやだけどね」
「まあ、その辺はそこにいる橘さんに話を聞いてもらえばいいさ。ね、1号」
「お任せください。だてに長い市役所勤務じゃないですからね」
「お、頼もしいね」
「んじゃ任せたー。よろしこー」
* * *
【江戸川第三前線基地 本田二佐】
「報告します。三星氏の構想の全容が見えてきました」
《話せ》
「彼は動物たちを使い――またグループを三分割乃至はそれ以上と――」
《ふむ。水場は報告を受けている。ただ物資は何も言ってこんな》
「そちらにも草が?」
《ああ、それに草食動物の目途がたったと言ったんだな?》
「はい、断定はしませんでしたが」
《それでいて肉食動物への言及はしていないのか》
「そうですね、橋爪を餌にすると言ってました」
《それはいい。よしそれで進めろ》
「ちょ、ちょっと、それは……」
《ジョークだ。上官ジョークだ。お世辞でも笑っておきたまえ》
「は、失礼しました。はははははは」
《……》
《(しかし、予測の精度は相変わらず高いな)》
* * *
【江戸川第三前線基地 元警察官】
あ、また新しい人かな?
「すみませーん。こちらは、えーっとなんだっけ、うーん」
外国人? きれいな髪。
「先遣隊コロニーの受付になります」
「そう、それそれ、せんけんけんcolony」
コロニーの発音だけさすがにうまい。
「えーっと、おひとりですか?」
「いえ、何人かまだきます」
外国の方も受け入れるのか。
「では、証明書をお願いします」
「はーい。えーっとどこだっけな、あ、これだ」
「はい、お預かりしますね」
生粋の外国の方だ。
日本語うまいなあ。
「はいエリザベスさんですね。結構ですよ。他の方はいつ頃到着されますか?」
「今日中には着くと思います。時間にルーズですみませーん」
ステレオタイプだけど、時間を守らないって聞くなあ。
ここでやっていけるかな?
あ、でも他でも似たような感じだったんだろうな。
三星さんなら何とかしそうだし、丸投げしちゃおう。
少しは働かせないとね。
「皆さんが揃ってからでもいいですし、おひとりでもよいので、三星さんという方を探してお話されるといいですよ」
「わかりました。ありがとうございまーす」
しかし、きれいな人だなあ。
絶対三星さん、セクハラするな。
奥さんに怒られればいい。
* * *
【江戸川第三前線基地 エリザベス】
「あなたが、三星?」
「イエース。あいむ、みつほし。ないすちゅーみーちゅー」
「普通に日本語でいいですよー」
「良かった。俺英語わからないから。スカンジナビア語ならわかるんだけどね」
「おーそれはすごいですねー」
「嘘だよーん」
「おージャパニーズジョークねー、はっはっは」
面白い男だ。
「で、どちら様?」
「私、エリザベスといいます。ベスと呼んでください」
「ベスかあ。なんかスライムみたいだなあ。かわいいから許す」
「ありがとうございます?」
よくわからない。とりあえずごまかしておこう。
「一人で来たの?」
「今は一人でーす。あとから数人きまーす」
「お知り合い?」
「知り合いと言えば知り合いですが、こみんかん?で会いました。他の方は初めての人もいました」
「公民館かな。ふーん。しかしスタイルが良いですね」
「おーありがとございます」
「今度ちょっとだけおっぱいをさわらせてもらえますか?」
「対価が必要でーす。払えますか?」
「払えません」
「じゃあだめでーす」
日本ではセクハラと言うんだっけ?
アメリカでもハラスメントになりかねないけど。
「がっくし。他の方たちはどこのご出身?」
「くわしくは知りません。ただ、アメリカは私一人でーす」
「ヨーロッパとかかな」
「たぶんそうだと思いまーす」
「そっか、慣れない環境なのに、転移なんて災難だったね」
「そうですねー。でも日本なら何が起きても不思議じゃありませーん」
アニメでもコミックでも、日本は不思議で一杯だ。
最初は不安だったけど、何とかなると思った。
だが、周りの日本人は私を受け入れてはくれなかった。
仕方なく、様々な施設を渡り歩き、第一次先遣隊という冒険のグループがあると聞いた。
興奮した。
魔法が使えるかも知れない。
楽しみだ。
「妄想中ごめんね」
「してませーん」
「はいはい。テントあるなら、あの辺で立てて。ないならアーミーっぽい服装した人に声かけてね」
「ありがとおございまーす」
「はいよー、んじゃこれからよろしこねー」
「はーい、よろしこでーす」
変な日本語を使う男だ。
手を出して来たら、ダディに教わったマリーン格闘術をお見舞いしてやる。




