ep.29 ムツゴ●ウ王国
* * *
【千葉自衛隊 統合本部 羽生海将】
厄介だ。本当に厄介だ。
「海将、どうしますか?」
奴め。あいつは疫病神だ。
「どうするもこうするも……」
確かに大型車両は使えるが……
「早くしないと、維持できない、とせっつかれてます」
「わかってる。回せる車両は用意した。今日中にはピックアップできるだろう」
くそう。
仕返ししてやらねば気がすまん。
覚えてろ!
三星。
* * *
【江戸川第三前線基地 橋爪三佐】
「先輩、通信入ってます」
なんだ?
定時連絡の時間じゃないぞ?
「おう、今行く」
嫌な予感しかしない。
ひと月ぶりのあいつの無茶ぶり。
それが原因だと、俺の第六感が囁く。
「先輩、早く」
「お待たせしました。橋爪です」
《おう3号》
「え? 誰?」
相手に聞こえないように気を付けながら、通信士に聞く。
「おい、相手どこだ?」
「先輩、本部ですよ」
「本部?」
《3号。よく聞け》
「えーっと、もしかして海将であられますでしょうか」
《あられもみぞれもない! 明日の朝から例のものを送る》
「例の? えーっと」
《三星にそう伝えろ》
「は、はあ。それで?」
《三星をぶん殴るとも伝えろ》
「なんだったら代わりにやっておきますが?」
《俺がやる! 以上。終わり》
「何だってんだ?」
「だいぶ怒ってましたね?」
よくわからん。
まあ、伝えておくか。
海将がお前を殴ると言ってたことを。
あ、俺も殴って良いっていわれたことにしよう。
* * *
【江戸川第三前線基地 三星】
《もう、ダーリンたらぁ》
「いやいや、本当だぞ? それでな」
あ、3号だ。
「サッチー、日本語レッスンはまた後にしよう」
《絶対ですよー、またお店来てくださいねぇ》
「わかったわかった。次はボトル入れるから」
《やったぁ》
俺には全く経験のない、女性のいる酒場編を二人でロールプレイしてみた。
俺より詳しいサッチー。くやしい!
「おい、海将がお前を殴るってよ」
「なんでハブちんが俺様を殴るんだよ?」
「知らん。あと、例のものを明朝から送るそうだ」
「お、やっと来るか。人も大事だが、そっちの方がもっと大事だ」
「なんなんだ?」
「あれ? 話してなかったか?」
「言われたかも知れんが、どのことだかわからん」
「そうか、おーいにさにさー」
「なんでしょう。例のものが明日から届き始めるらしい」
「いよいよですか。これでようやく出発のめどがたちますね」
「何の話だ? 俺にわかるように話せ」
「ふふふ。ここはクランと言ったな?」
「ああ、納得はしてないが、お前がリーダーだ」
「それは世を忍ぶ仮の姿。本当はムツゴ●ウ王国だー!」
「はあああ?」
「王国ではありません。先遣隊コロニーです」
「じゃあそれでいいよ」
「どういうことだ? 詳しく話せ」
「あーお前だけに話しても仕方ない。手の空いている人を呼んでくれ。休憩がてら話そう」
「ああ、わかった。俺にわかるように話せよ!」
「はいはい」
* * *
【江戸川第三前線基地 気象予報士 滝口】
何とかたどり着いた。
幕張からここまで、荷物を引きながら歩いた。
疲れた。
「すみません」
「はい。どうされましたか?」
「こちらは先遣隊コロニーでよろしいですか?」
「そうですが、失礼ですが?」
「名乗るのが遅くなりすみません。私、気象予報士の滝口と申します。あ、これが証明書です」
自衛隊が発行してくれた証明書を渡す。
「習志野の証明書ですね。確認しますのでお待ちください」
「はい」
自衛隊のテントだけでなく、一般向けのテントも並ぶ。
炊事場から煙が上がっている。
ふむ。さながら大型キャンプ場だな。
迷彩色強めだが。
「確認がとれました。所属は観測班となります」
「観測班ですね。この後はどのようにすれば?」
「あそこに民間の方が集まるテント広場があります。そちらで待機してください。あ、テントはお持ちですか?」
「ええ、一人用ですが」
「なら良かった。不足するものはこの受付へお申し出ください」
「助かります。どなたかにご挨拶した方がいいですか?」
「あー、それなら……丁度(自称)クランリーダーがあそこの炊事場にいますので、あの方へ」
「どなたかな、あ、なるほど。わかりました。色々とありがとうございます」
コロニーと聞いてきたんだが。クランリーダー?
まあその辺は直接聞けばいいか。
「すみません。クランリーダー?でよろしいですか?」
「えーっとどちらさまで?」
「私今日からこちらのコロニーでお世話になる滝口です。気象予報士をしております」
「滝口……滝口……? あ、ぐっさん?」
「あ、はい。皆さんからはそう呼ばれています」
「おお、すげえ! あとでサインください。色紙ないけど」
「サインは……はあ、まあ後にしましょうか。受付で伺ったらクランリーダー?にご挨拶してはと勧められたので」
「そうそう、クランリーダーの三星です。リーダーと呼んでください」
「え、あ、あのこちらはコロニーではないのですか?」
「ああ、コロニーと言えばコロニーだけど、一所に留まるわけじゃないし、役割も固定するわけじゃないからねー」
「移動するとは伺っています。あとやれることは積極的にやった方がよいとも言われてきました」
「うんうん、生活を維持するのが目的じゃなく、未知の領域を切り開く。まあ大きな家族みたいなもんですよ。あ、敬語はもういいかな?」
「もちろん、私はこんな口調ですが慣れてしまっているので気にしないでください」
「うんうん、良く知ってる。でもよく来る気になったねー」
「自宅といってもアパートですが、独り身ですし、こちらならお役に立てるのではと思いました」
「そっかー、じゃあ気象関係はばっちりだねー」
「手作りの観測機器はありますが、固定式のものが多いのでどれだけ役に立つか」
「まあその辺も一緒に考えて工夫していこうよ」
視聴者さんだったのか。
少し気恥ずかしい。
「リーダーとか色々気になるとは思うけどさ、ちょっと明日から大きな動きがあるんで皆に説明しようとしてたんだ」
「そうでしたか、お邪魔してしまってすみません」
「いいって、来てくれたらもう家族なんだから遠慮しないでよ」
「はい、ありがとうございます」
「で、ぐっさんは一人で来たの?」
「ええ、私一人ですが? 何か問題でも?」
「一緒に番組やってたキャスターさんとかは来なかったのね……」
「若手の予報士はコロニーで役割があるとかで、キャスターは家族のそばがいいと」
「そっかあ……でもぐっさんが来てくれただけで百人力だ」
「いやいや、おじさん一人ですから。出来ることに限りはあります」
「大丈夫。俺が一番何もできないからね」
そんなに自信満々で言われると、納得してしまう。
「まあ、もうちょっとしたら集まるから、その時皆に紹介するよ」
「はい、よろしくお願いします」
これからどんなお手伝いができるのか。
未知の惑星、未知の領域。
楽しみだ。
* * *
【江戸川第三前線基地 元警察官】
また、新しい参加者が来た。
どれぐらいの規模になるんだろう。
仕事柄、人の整理や誘導には慣れているが、受付業務というのはなかなか慣れない。
だけど、三星さんは気楽にやれって言ってくれた。
本当に様々な人が集まってきている。
自衛隊所属のままの人、退官された人。
消防関係。レスキュー候補だった人もいる。
病院関係はとても充実している。
ドクターは内科、外科、それに研究職もいる。
看護師さんも豊富。
そして私のように警察退官組。
女性が多かった。でも若い男性も何人か参加している。
ほぼ独身。私を含めて警察退官組の特徴と言ってもいい。
知識組と呼ばれる人たちも豊富。
大学や研究機関は言うに及ばず、企業の研究職。
また、様々な分野を独自に研究してきた人。
更には本好きの人も知識組として参加している。
家族で参加している人には小さなお子さんもいる。
さすがに小学校低学年は危険すぎると三星さんに言われ、帰らされた人もいた。
だが、拠点が出来たら必ず声をかけるとも言っていた。
それまで、もう少しだけ頑張れって。
そう、転移から一か月が過ぎ、世の中は大きく変わった。
松戸は比較的軟着陸できたみたいだけど、その他は大変だったようだ。
次に問題になったのはコロニーに参加できない人。
性格もあるのかな。
人付き合いが苦手な人だっている。
地域に馴染めない人だっている。
しばらくはコロニーで耐えていたようだが、結局は市役所、今は松戸地域だっけ。
地域が担当する小学校へ移った。
そこに示された第一次開拓団の話。
名称は違ったかも知れないけど、はみ出た人の希望にはなった。
私もその一人。
元の職場で経験もあり、第一陣の候補になれた。
三星さんと会ったときは緊張した。
でも、変な人だった。
のんびりやろう。
家族なんだからって。
未だに距離感は掴めない。
でも、私でも役に立つなら頑張らなきゃって思う。
うん。
あ、三星さんが皆を集めてる。
私も行かなきゃね。
* * *
【江戸川第三前線基地 三星】
「よくぞ集まってくれた。マイファミリー」
「俺はお前の子どもじゃねえ」
くそ3号、すぐ合いの手を入れるやつがあるか。
もっと、間合いを測らんとチャンピオンへの道は険しいぞ。
「うっさいわ。俺だってお前を子どもとは思わん。遠い親戚の子供の学校の先生の家の隣に住む、カミナリ親父ぐらいがお似合いだ。お前にはな」
「それもう他人じゃねえか」
よし、今度はいいぞ。
だが笑いは起きん。
経験が足りなすぎるな。俺、頑張れ。まずは一回戦突破だ!
「さて、3号は放っておくとして、新しい人が来てくれた。知ってる人もいると思う。ぐっさん」
「はあ、滝口です。気象予報士をやってました。よろしくお願いします」
拍手と笑みが見える。
くそ。ぐっさんの方が知名度高いぞ。
「さてさて、ここ数日ばたばたしたけど、いよいよ本命が到着する」
「本命?」
「ふふふ。にさにさ! 読み上げたまえ」
「はい、順不同ですが――
ライオン、チーター、象、キリン、シマウマ――アルマジロ、レッサーパンダなどです」
皆驚いて開いた口がふさがらないぞ。ふふふ。驚け驚け。
まだここからが本番だ。
「鳥類は、イヌワシ、オオタカ――ダチョウ、エミューなどです」
「にさにさ、おおよその数は?」
「実際にここに来ないとわかりませんが、事前の話では、大型動物百頭前後、中型は三百、小型は六百以上、鳥類は千数百羽となってます」
「お、おい、二千頭?匹? 来るのか? 飯とか水とか、それこそトイレとかどうすんだ。いや、それより安全なのか?」
「気が早いな3号、話は最後まで聞くもんだぞ」
「お、おう。すまん」
「にさにさ、最後の二種の数は?」
「はい、犬百頭余り、猫百五十匹余の見込みです」
「どうだ!」
「いや、どうだって言われてもな。皆さん驚いてるぞ?」
「あれ、そんなに驚かなくても……」
「いや驚くって。それより安全とかの質問に答えろ」
「おう! 安全は自分達でなんとかしろ! 以上」
「ふざけんな!」
「うそぴょ~ん」
「海将が殴るまえに俺がお前をぶん殴る」
「暴力はだめでーす。子どもたちがみてまーす」
「くそ!」
「あー心配もわかるよ。ただな、危険と言われる猛獣関係は俺が何とかする」
「ただ、お前らがいたずら半分や悪意を持って攻撃すればやられるから勘違いするなよ」
「あと、水は大丈夫。もう水場も押さえてある。食料は三日分は持つ(たぶん持ってきてくれるはず)」
「糞とかはなー、手分けして集めよう。そのままでも構わないっちゃあ構わないんだがな」
「動物たちの世話は専門家が数名来るが全く足りない」
「なので、民間参加者や手の空いている人は当面そっちを手伝ってくれ」
「あと何だっけ?」
* * *
【江戸川第三前線基地 サッチー】
水場は既に上空から見つけた。
三星の指示で何人かが派遣され、水質検査を行ったようだ。
また、植物と言っていいのだろうか?
人間たちの言う二酸化炭素を吸って酸素に換え、酸素を吸って二酸化炭素を吐き出す、ほぼ動かない生命体の分析も終えたようだ。
それが草食?動物たちの主食になるかどうかは賭けだと三星が言っていた。
三星が手に入れ、少量だけ口にした。
私の機器でも特に問題はないと思える。
消化され、エネルギー化できていた。
拒否反応というかアレルギーのようなものもなかった。
それがたまたまなのか、わからないが。
最悪は河川敷の草を――と言ってごまかしていたが、行き当たりばったりとは言え、それでは動物たちが不憫と表現すべきなのだろう。
それに、三星はその草食?動物をクランの主な原動力にするとも言っている。
相変わらずめちゃくちゃな理論だが、私にも伝えきれない何かがあるのだろう。
猛獣という、たんぱく質を主食とする生命については、仲良くしようよ№6改、すなわち「言うこと聞いてくれないとイヤン7号」を送った。
絶対ではないだろうが、かなりの抑制にはなるはず。
勿論、そのパーツには私の将来のパーツが充てられている。
構わない。
三星のためなら。
あ、そう言えば三星が面白いことを言っていた。
この星の植物は地球の物と違う。
当たり前だ。だがそれが何を意味するか。
この時私は気づいていなかった。
と言えば、私が注目されるとアドバイスをもらったので、早速取り入れてみました。
ご満足いただけたなら幸いです。




