ep.26 未来
* * *
【大会議室 渡辺司令】
色々言いたいことはある。
また、検討しなおさなきゃならんことばかりだ。
だが、敢えて言おう。
「なぜ小隊を欲しがる?」
「いやん、そんなに怖い顔しないでー」
するに決まっておるだろが。
「返答次第によっては、当初の予定通り、お前を連れて行く」
《それは私が許しません》
「衛星に何ができる?」
《試してみればよいのでは? ただし、後で取り消しはさせませんから》
何ができると言うのか。
攻撃か? 上空から?
「まあまあ二人とも落ち着いて」
「お前のせいだろうが!」
またペースを乱される。
「小隊の理由を話せばくれる?」
「やらん!」
「えーけちぃ。ナベのけちんぼー」
ナベ?
え? 何故こいつ私の愛称を知っている?
「知らないよ? 若い時のニックネームなんて」
なんだ? 読唇術か?
本田は独身術だな。
いかん。こいつに毒されてる。
「今は非常時だ。一人たりとも無駄にはできん。それにお前にやる理由がない」
「じゃあ理由があればいいってことだね?」
「そうは言っておらんだろうが!」
《ナベ、聞くだけ聞こうではないか》
「海将! その名では呼ばんでくれ……」
「ナベ、じゃあ話すよ」
畜生め。
* * *
【大会議室 三星】
もう帰りたいー。
でも、小隊は欲しいー。
あとちょっとだけ頑張るか。
あっちの種もまかなきゃならんしな。
「俺は別に軍隊にあこがれているわけでも、小隊を率いてどこかを制圧したいわけでもないんだよ」
「では何のために? 小隊はそれだけで様々な任務を遂行できる能力を持つぞ。ことによっては武力を使うことだってできる」
「うーん、武力が必要かはわからないんだけどさー」
3号使ってみるか。
「橋爪三佐。前に話したよな?」
「なぜ急に階級で呼ぶ。いやそれが普通なんだが」
「江戸川にーって話」
「ああ、したな。報告したし、既に展開している」
「あれ、何をするの? 何しに人出してるの? 無駄に(ぷぷ)」
「無駄ではない。未知のエリアの警戒、また市民の安全確保だ。そうですよね(ナベ)司令」
「お前……まあよい。おおむねその通りだ」
「んじゃ大体目的は一緒だよ」
「どういうことだ? 詳しく話さねばわからん」
「食料、まあ燃料もだけどさ、絶対足りないのはもう理解したよね?」
「まあ、そうだな。言わんとしてることはわかる。納得はしないがな」
「面倒だなー。まあいいや、俺はさ、未知のエリアに可能性を見てる。まだ具体的なものはないけど、サッチーに協力してもらって、資源になりそうなもの、特に食料だな、それを探したい」
「ふむ。海将はどう思われるか?」
《従来の作戦でもほぼ似たような意見はまとまりつつあるな》
「でもさ、自衛隊はこれからめちゃくちゃ忙しいじゃん?」
「お前の言う通りなら、一週間、一か月、そしてそれ以降、国民のために尽くさねばならんな」
「だよね。それこそ一人たりとも無駄にできないじゃん? あとついでに言うなら、探索行ったところでさ、サッチーがいないと目星もつかないし、何より俺がいないとそれがどうこの事態の解決に結び付けられるかわからないでしょ? できる?自衛隊で?」
「出来ないとは言わん。だが、確かに衛星とお前の発想、それは有用であると私個人は感じている」
「ねね、だからさ今の千葉を守るためにあんたらは働いて、あくまでも自衛隊の活躍で未来を切り開こうよ」
「ふむ」
「司令、よろしいでしょうか」
「どうした、に、いや本田二佐」
「私はその小隊に志願します」
お、にさにさも来てくれるの?
うれしいなー。でもお母ちゃんどうしよう。
お母ちゃんと仲良くしてねー。ハーレムじゃないから大丈夫だよねー。
でも、焼きもち妬きだから……。
「理由は? 現在の所属は需品教導隊だが、不満か?」
「不満など一切ありません(出会いがない以外は)」
「ではなぜ?」
「一つは救護の心得が他の隊員よりもあります。それにより未知エリアにおける対応が迅速に行えます」
「それ以外には?」
「また兵糧食の管理だけでなく、引き返しの決断を下し、命令を発することができます」
「なるほど。それだけか?」
「勿論、これから支援が必要な方々が多くいらっしゃることは承知しています。ですが、未来のために動くことも必要と思います」
「ふむ」
「それでは足りませんか?」
「いや足りなくはないんだが」
なんだよナベ、歯切れが悪いなあ。
「司令、それなら私も志願いたします」
「橋爪、お前もか?」
「元々こいつの面倒を見ろといったのは司令です。必要な情報を聞き、必要な物資を集めろと命じられております」
「あ、言ったなあ」
なんだよナベ。あわてんぼうさんだな。
3号は馬鹿なんだから、言われたことしかできないよ?
知らんけど。
「それなら、自衛隊として派遣し、アドバイザーとして貴様が帯同すれば良いだろう」
「それじゃあ、だめなんだなー」
「なぜだ?」
「俺は働けないから」
「俺は労働できない。考えることはできても具体的なことは何もできない」
「だから、俺は俺ができることをやる。それにさ、俺だけじゃだめなんだよ」
「お母ちゃん、というか家族が一緒じゃなきゃ。探索するのも、家族のためだ」
「あ、言い忘れてたけど、サッチーも家族だからね」
《三星……よし、私が未知領域を支配する! 任せろ三星》
え? できないでしょ?
* * *
【大会議室 佐々木議長】
一体話はどこまで飛ぶんだ。
そして、こやつはどこまで見てるんだ。
おそらく、まだ話していないことの方が多いんだろう。
さっきまで私も市長も「市単独で」という流れでまとまってきていた。
なのに、いつのまにか、県全体になり、最後は一か月の最後通告だ。
ここにきて、今度は「小隊をよこせ」。
もうわからん。
「小隊じゃなくてもいいよ。自衛隊員からも未知領域のコロニーに派遣して。それがいいや」
「それなら、俺たち家族がそこに所属することもできる」
自分で自分の説を利用しておる。
今正に思いついたような雰囲気だ。
だが、私はだませんぞ。
お前はこれこそが狙いだろう。
私にはわかる。
「爺さん。違うよ? 今思いついたんだよ?」
「何をいっておる?」
なぜわかるんだ?
「いや、わかるって、そんな顔して俺の顔見てたら。あ、ごめん。もしかして橘と同じ趣味?」
「橘がなぜ今出てくる? それに趣味?」
「わ、わたしは、そ、そのような趣味は(まだ)ないです!」
衆道か……。
なに!?
「わしにだってないわ!」
「(BL)(ぽっ)」
「俺は別に気にしないからいいよー、でも俺はお母ちゃん一筋だからごめんねー」
「!!!」
ついていけん。
「あ、佐々木の爺さん、ついでだからさ、警察と消防に渡りをつけられないかな? 病院関係も欲しい。別に研究機関とか書士さんだっていいよ」
「わたり? 何が必要だ?」
「物資とか機械とかはいらない。人が欲しい。できれば女性。既婚でも未婚でもいい」
「なぜ女性? うーん説明するのが面倒。だけど簡単に言うと、警察も消防も女性は必要だけど、これからはちょっと扱いが難しくなると思う。病院もそれ以外もね」
「できれば、数人ずつでもいいから経験がある人を連れていきたい。年齢も問わないよ」
女性? なんだハーレムでも作るつもりか?
「だからあ、丸わかりなんだって。ハーレムなんか作らないよ。お母ちゃんがいるから。それに俺だってもういい歳だよ。おっぱいぐらいはさわるかもしれないけど、それ以上はしない。というかあんま欲もない」
《三星……私では足りないのか?》
「足りてるよー。うん十分十分。でもおっぱいないからねー」
《がっくし》
「質問させろ」
「なんだ3号?」
「なぜ女性なんだ? そこだけはきちんと説明しろ。でなければ俺がお前の思惑を潰す」
「簡単なんだけどなー。説明するまでもないんだけど。まあいいか」
「警察は当面機能不全だ。これは揺るがない。消防も通報がないと動けない。勿論巡回もできるし、女性じゃなきゃできないこともある。病院はとくにね。看護師さんは女性が多いからね」
「研究機関も書士さんも、機械は動かない、何もできないだろ? いやその人が役に立たないってわけじゃないよ?」
「それと女性というのが結びつかない。わかるように教えろ」
「覚えの悪い頭でよく考えてみたまえ。やる気があるのに働く場所がない」
「消防だって男性が主となって行動する。車両の数にも限りがある」
「病院だってそうだ。物資がない、入院だって続けられない」
「勿論小学校とかに何人かは派遣することもできるし、こっちも巡回はできる」
「だけど、経験があって人の役に立ちたいのに、それができない人が出る」
「まあ警察、消防、病院に限らないんだけどね」
「だが、未知の領域に展開するコロニーにはそういった人たちが必要になる。都市に残った方が可能性があるかも知れない。でも将来の子どもたちのために働きたい人を連れていきたい」
「無制限には連れていけない。いつかはいろんな職業の人が必要になる。その都度集めるかもしれない」
「資源とか食料によっては専門家や一般の人も参加できる」
「だがフロンティアに出るには、体力や経験がある、警察、消防、病院ってことになるんだよ。研究機関とか書士さんとかは知識部隊ね。わかる?3号」
「それが女性と結びつくのがわからんと言ってるんだ」
「もうー。ナベー。もっと国民の気持ちがわかる自衛官に育てろよー」
「私だって納得はしていないぞ」
「だから男だけじゃダメなんだよ」
わからん。わしもさっぱりだ。
* * *
【大会議室 三星】
まだまだあるのに。
こいつらの頭が悪いのか。おれの頭がおかしいのか。
もうどっちでもいいや。
「女性と言ったのは、フロンティアを拓いていくのは女性が適している」
「男の方が力はあるだろう。一概には言い切れないが」
「もういいや。面倒くせえ。いいか聞け。女性は新しい世界には不可欠だ。冒険とは違う。これから生きていけるかどうか、子々孫々まで暮らしていけるか、判断しなけりゃならない」
「それにだ、地球上ならまだしも、ここは全く未知の惑星。どんな世界が広がっているかわからない」
「だったら猶更どんな場面でも対応できる男の方が――」
「そうやって出来たのが今の社会だろ? どれだけ生活のことを考えて街づくりしている? ん? 子育てしやすいか? 教育に向いているか?」
「それは仕方がないだろ。昔からの道もある。過去は男性社会だった時が多い」
「だから、ダメだって言ってんの。そもそもお前たちが『探検』に行って、何を探してくるの?」
「敵性体がいないか、危険な箇所はないかを見る」
「その視点が間違いとは言わない。でもな、もう時間がないって言ってるだろ?」
「一年あればいいんだが、とにかく早く入植して、食えるもの、生活に必要なものを探す。男に生活のことがわかるのか? 買い物にもいかないで冷蔵庫を空にするやつらに?」
「お前、俺の部屋まで透視できるのか?」
「もういやだよ。こいつの相手。話の流れだろ? 男が拓いて、女性がそこに無理やり生活を作るでは間に合わないの」
「なら適性の高い人を最初から連れて行くの。俺は何も男がダメなんて言ってないだろ? ただ、自衛隊もそうだが、それぞれの職場は割と男社会じゃないか?」
「言われてみればそうかも知れないが」
「俺が俺がで来られても困る。それこそ部隊の規律にかかわるだろ? まあ三日もすれば女性の方が声をあげるんだけど、待ってるよりは佐々木の爺さんに種まいてもらった方が早い」
「それでワシか」
「あとは、女性がいれば、男は勝手に来る。以上」
まだあるんだから早く理解してね。
「あ、女性でも生活がまるっきしダメって人もいるか(にさにさ)」
「(どき)」
* * *
【大会議室 本田二佐】
言ってることはめちゃくちゃだと思う。
だけど、女性の視点にたった開拓、社会づくりというのはすごい。
駅のロータリー。スーパーの駐車場。
どれだけ不便なつくりか。
あとから必要な物を足して、それでもだめになったら全部壊してやりなおし。
誰かの利益のために、工事したり、立退料を払ったり。
本当に無駄なことばかりだ。
女性の視点で開拓するというのはとても面白い。
なおさら行きたくなってきた。
「それは、退職しなくてもそのコロニーというか開拓団?に参加できるんですか?」
「退職? しなくてもいいんじゃない? 職場があるなら休職でも。まあ給料もボーナスも払ってくれない職場ばかりになるけどねー」
「あと、そのコロニーで出会いがあったら、結婚とか、しても、いいんですか?」
「その辺は個人の自由でしょ。あ、たださ、どれくらいの期間になるかわからないけど、拠点ができるまではちょっと控えてね。ウチの家族を連れて行きたい俺が言うのもどうかとは思うけどね」
結婚、できるのか……。
「その辺は勿論です。ええ、当たり前です」
「にさにさ、妄想が膨らんでいるとこ悪いけどまだお願いがあるからちょっとだけ抑えてね」
「もう、そう? いいえ、結婚しますけど?」
うん、私は絶対にこのコロニーに参加する。
もう決定だ。
自衛官としての役割も果たす。うん、立派に。
「ああ、困ったちゃんばかりだ。あのね、もう少し面倒だけど、お願いを聞いて。ナベちゃんと誰だっけ? 偉い人」
《羽生だ》
「あーそれそれハブね。マングースをぶつけりゃいいか」
「でさ、司令とハブちん、面倒かけて申し訳ないんだけど、県内の大型動物、大型に限らなくてもいい、これから養っていけない動物をそのコロニーに連れてきて」
《どういうことだ? 簡単にははこべんぞ》
「知ってる。だから自衛隊にお願いしてるんじゃん。というか水族館はかなり厳しい。おそらく大分やられていると思う。だからそっちは早く海に返して。無責任だけどね」
「この事態に水族館? 動物園? お前は何を言ってる?」
「この事態だからでしょ。もう飼えないよ? その分の餌があるなら人が食う。ん? 殺処分にでもする? 人の都合で連れてきておいて、飼えなくなったら殺処分?」
「そうは言ってないが」
「ナベさあ、これでもまだ抑えて言ってるんだからね。そして教えてあげてるんだよ?」
「どういう意味だ」
「動物のこと考えてた?」
「いや」
「だろうね。人が最優先。うん、それで間違いないよ。でもさ、動物園、特に猛獣の処分は大変だよ?」
「そうなのか」
「そうなの。もう人々は便利な通信道具がない。だから噂がひろがる。あそこのライオンが――熊が――ってね」
「パニックになるのわかってて放っておくの?」
「いや、それは避けたいが」
「だったら、きちんと、正しく、皆がわかるように、運び出す。それを見てもらう。国民も安心。ね?」
「わかるようなわからんような。だが、お前だって養えんだろう」
「そうだね。だが俺はあんたらとは違う。俺の家族にする。俺の家族は俺が守る」
「働けない男がか?」
「そうね、働けないね。でもね、俺には皆がいる。助けてもらう。だから俺も皆を助ける」
「あ、競走馬は南房総とか成田とか、あとは八街にあったかな? よさそうな場所」
「できるだけ水を忘れないようにすれば、放牧でいけるんじゃないかな」
「それに馬、もちろん牛もだけど、これから大事な交通手段であり、人間よりも働ける。馬は訓練?しなきゃだめだろうけどね」
「その辺は早めに動かないと、心ない奴らに連れてかれちゃうよ?」
サッチーに頼んでみるかあ。
何も……
出来ないな
俺。
あっ、
やべ。
限界だ……
限界ラバーズ……




