ep.25 裏側
* * *
【別室 海将】
《面白いことになってるな》
大会議室での模様がモニターに映し出される。
《おい、スピーカーの音量を上げろ》
《これは?》
《随分早いお目覚めだな》
「大丈夫そうだな。奴は。とりあえず良かった」
《マイクもカメラもあると知りながら、話し始める胆力は良いな》
《民間人にしておくのが勿体ない》
《自衛隊にはいらんな》
《そりゃそうだ。初期訓練ではじかれる》
笑い声だ。
さっきまであんなに場が緊張していたのに。
ふむ。
奴はお笑いの素質があるのか。
《まあ、我々の結論は奴に聞かせる必要もない。大筋は決めた、あとは明朝次第》
《そうですね。舞台袖から見ている気分で、奴のご高説を拝聴するとしますか》
《ああ、このところ考えることばかりだったからな。少しだけ我々も休憩させてもらおう》
スピーカーに集中する。
「見返りなしで、どうやって協力をさせるんだ?」
市議会の議長か。
「奉仕の精神ではないですよね」
「当たり前だ。そんなもんどぶにすてて流しちまえ」
「なら、どうやるんだ?」
《それを自分達で考えないから愚民と呼ばれるんです》
衛星……か。
実際どうなんだ?
通信は確認した。
おそらく惑星上の存在だろう。
だが、いま我々がもつ観測機器やレーダーなどでは確定はできん。
三星があらかじめ台本を書いてAIに読ませているような雰囲気もない。
AIが進歩しているのは自衛隊でも研究しているから理解はするが、あくまでも「捕捉、攻撃」や、「通信」のような専用のユニットをコントロールするためだ。
だが、それがAIだろうが、三星の発言だろうが変わらない。
奴が何を話すか。
そこだけが重要だ。
《もう一度だけ言います。三星は労働力が対価になり得ると言いました》
「言ったか? 言ったような気もするが」
《大体同じです》
「なら、それでいい」
《まったく。その労働力を食料や物資に換えるのは、どこの誰が行うのですか?》
「そりゃ、依頼主が働いた人に物資を提供するんだろう?」
《三星。大変でしたね。あなたの苦労が身に沁みます。その依頼主はどこから物資をもってくるんですか?》
「んぐ。そうだな。そのためには労働をしなきゃならんな」
《では、誰がその労働力に対して、レートを定めるのですか?》
「なるほど、それが市役所の役割なんですね」
《事が進めば、ギルド方式で小学校を起点にすることができます》
《ですが、スタートアップは何もない状態です。ですから協力をお願いするのです》
「接収じゃないんだよな?」
《接収したところでその内使えなくなりますよ? 無駄な投資です》
ふむ。そういう理屈か。
それなら乗りやすい。
《賛同しなくてもいいんです。設備が無駄になるだけですから。ただ、食料の生産に関するところは絶対おさえなければなりません》
「それがパン工場を柱とするやつか」
《そうです。電力が使えない状態では彼らも何もできず、ただ原料を無駄にするだけです》
《それなら、少しでも市民の役に立とう、と声をかければ乗ってきます。市民は集まった代表者も、その従業員も含むのですから》
「ふむ、確かに豪雪で道路が動けなくなった時だったか? あそこのトラックは商品を『無駄になるくらいなら、皆さんに』ってわけてたな」
《過去の例をあげて『またやってよ』ではだめです。それはそれ、これはこれ。甘えてはいけません》
ふむ。衛星の割には筋は通すのか。
三星よりこっちが欲しいな。
《諸君、この衛星が使えるとした場合のシミュレーションをしておいてくれ》
《海将、信じるんですか?》
《私は信じない。だが使えるものは使わんとな》
《ごもっとも》
使えるなら大きな武器になる。
使えなくても、なかったと思えばいい。
* * *
【大会議室 橋爪三佐】
俺は、何もできないんだろうか。
奴はいい。皆を助けるための発想がある。
橘さんだって、市民のために遮二無二働いている。
市長も議長も役割を全うしようとしている。
本田二佐は……。うん、今はいいや。
俺は何もできないんだろうか。
作戦さえ下りれば俺は忠実に動ける。
敵を倒すのも、国民を守るのも、被災者を救護するのも。
土砂の中から人を見つけ出すことも。
だが、今、転移というこの事態に、何もできないんだろうか。
俺は役立たずなんだろうか。
* * *
【大会議室 三星】
あんまり枝増やしすぎると、また強制終了になるからな。
考えたくはないが、サッチーの言ってる方向であってるのか?
なんか違う気がするが。
まあ、それでこいつらが納得して動くんならいいや。
それよりもこのチャンスを生かして、あっちを考えよう。
警察と消防、病院は微妙だな。
さて、どっから攻めるか。
警察は協力しない。ほぼ確定だな。
だから、こっちは誘導してやればいい。
消防はどうなんだろ。
資料見たことなかったなあ。
だが少なくはないはずだ。
あ、そうだ。いるいる。
うん、大丈夫。
だが、乗ってくるかなあ。
病院なあ。
できれば残らせたいんだが。
まあ俺みたいに、はみ出すやつもいるか。
期待しないでおこう。
んで、どっから攻めるか。
警察が簡単だな。
あとは流れでいい感じでお願いします。
(お父ちゃん?)
どき!
エスパーか。
* * *
【大会議室 本田二佐】
私はこれから何をするか。
そればかり考えてしまう。
できれば結婚しておきたかったが、駐屯地では出会いに恵まれなかった。
うん、恵まれなかっただけだ。
国民のため働くことに問題はない。
だが、国がないかもしれない。
司令たちは何かこそこそやってる。
不信ではない。
国民のための動きだと思う。
そう信じるしかない。
だが、私だって国民だし、市民だ。
三星さんが言う転移した千葉県。
自衛隊が守ってくれるとは限らない。
かよわい(……)、私は生きていけるんだろうか。
橋爪は問題外。
三星さんか。
いいなあ、奥さん。
きっと素敵な人なんだろうな。
* * *
【大会議室 三星】
「さて、大体の流れはわかったか?」
「そうですね。方向性はまとめられます。また明日の件も大丈夫でしょう。徹夜になりそうですが」
「つきあうぞ市長」
うーん、この程度で徹夜か。
爆弾投げ込めないな。
どうすっかなー。
「おい、3号」
「だから3号と……もういいや、なんだ?」
「司令呼んで来い」
「命令すんな。わかったよ」
面倒だなあー。
「もう大丈夫なんだな?」
「ああ、心配かけたようですまん。で、大体そっちは方針決まっただろ?」
「それは言わん」
「いいよ、『三星の案には乗れん、千葉全体で考える』ってとこだろ」
「言わんよ」
顔に出てるよ。おっさん。
「じゃあ折角まとまったところ悪いが、一番偉い人の声が聴きたい。別室の通信機もってきて」
「なぜだ?」
「あんたらがまだわかってないからだ。俺がなぜ『もう手遅れ』と言ったか話してやる。あ、にさにさは俺のこと診ててね。いいでしょ司令」
「本田は……構わん。本田二佐、そいつのフォローをしてやれ。通信機も持ち込もう」
「はいっ! 全力を尽くします」
「尽くさんでいい。適当で」
「お、ごっつい機械だね。で、どこと繋がってるの? 全部の駐屯地? 一番偉い人だけ?」
《その回答は私がしよう。私は羽生だ。階級や所属は今はいいだろう。勿論通信は、各駐屯地および基地の代表も聞いている》
「お、なら話は早いや。別に答えは聞かないけど、俺の話をしっかり聞いてね」
さて。
「まず、俺はお前たちにもわかるようにできるだけ順序だてて話した。最初はコロニー制度、次に松戸の独立と自衛隊の協力、そして今は企業というか人が多くいる会社を押さえろ、つまりお金が使えないから労働力とのトレードになる仕組みを作れ、って話だね」
「それはわかった」
「でもね、まだあんたらは可能性があると思ってるでしょ? 何とかなるって」
「お前もそのつもりで話しているんじゃないのか?」
「そしたら俺はもう遅いなんて言わないでしょ」
「そうだな。お前のこれまでの話とその部分は相容れないな」
さあ、覚悟なさい!
「いいか、松戸の五十万人だって、千葉全体の六百万人だって、備蓄は一週間も持てば御の字だ。港に荷揚げされた分、これからされる分、成田の倉庫、主要道路の倉庫、あとは、卸とかの倉庫だな」
「それを全部かき集めて、最低限のカロリー分を配ったところで一か月は持たないだろう」
「そして、米が出来上がるのはまだ数か月先だ」
「その間、食い物がなくなる。餓死するんだよ、大勢の人が」
「俺がさっきまで話したのは、市民に新しい制度に目を向けさせること。労働をしていれば報われるってことだ。だがあくまでも対症療法でしかない」
「ではどうすればいいんだ!」
「また、それかい。一週間はなんとかなるって言ったろ? またかき集めれば一か月未満はなんとかなるかも知れない。それだけ時間があるんだ。あんたらで考えろよ。俺は神様じゃねえよ」
「なら! それなら!」
「市民とか県民をだますのか?って言いたいの? だましてなどいないだろ? 働けば食える。それだけだよ」
「あ、働くにも色々あるからね。肉体労働だけじゃない。ご飯を作ったり、子どもたちを集めて面倒をみたり、教育を施したり、連絡に走ったり」
「動けない人もいるだろう。そういう人は家族で、コロニーで助けるんだよ。それでもダメなときは市役所が動け。そのための市役所だ」
「まあ、俺もおそらく働いたら負けの部類だし、これからのこの社会ではなんも役には立たんから同類なんだけどね」
「いずれにせよ、そこまでつなぐのはあんたらの役割だ」
「人間一週間もたてばだんだん慣れる。一か月もあれば新しい環境を受け入れる」
「その受け入れられる時間を伸ばしてやるのがあんたらだ」
「ついでに、もうちょっと具体的な話をしようか」
「人間の一日の必要なカロリーって二千キロカロリーぐらいだっけ?」
「年齢、性別にもよりますがそれぐらいですね」
「えらいぞ、にさにさ」
「これを千五百、うーんできるかなあ、まあそれぐらいを目標にする」
「それでは、生かせる人も生かせないだろう!」
「知らんがな、と言いたいが俺は優しい男だ。あんたらがこれから無駄に過ごす一週間を少しだけ軽くしてやる」
「鶏の話はしたな? 餌の問題はあるが、あれは将来に亘って多くの人間を救う。無論うずらでもいい。だが成長は早いが可食部がなあ。まあどちらか一方ってことはない、両方というかやれることは全部やるんだ」
「あとはカイワレ、二十日大根、そして芋だな。芋はいい。土は痩せるがとにかく早くたくさんできる」
「それだけじゃない。蕎麦だ。こいつもいい。米と併用してもいいし、単独でもいい。痩せた土地でもそれなりに育つ」
「まだある。海はどうなってるかわからん。その辺は漁師の皆さんと自衛隊さん次第だが、おそらくダメだと踏んでいる。だが、県内には沼も池も川もある。ブラックバスもいるさ」
「普段はアングラーだけのものだが、食いたくない物でも食うしかない」
「水回りはいいぞー。タニシ、ザリガニ、カエルもいる。その他にも食えるものはたくさんある」
「あ、加熱は絶対に忘れるなよ。寄生虫だけはどうにもならない」
「俺は食えんが、虫もあるんじゃないか。俺は勘弁してもらいたいが」
「だが、そこまでやっても持続させるのは厳しいだろう。でもな、人間はたくましいぞ。食べられるものを探してくる。生きるため、家族のためなら真剣に探すさ」
「全部を用意してやる必要はないんだ」
「お前の頭の中はどうなってるんだ?」
《よいか? 自衛隊の偉い人として教えてくれ》
「どうぞー」
《コロニー制度は、自律させるための集団とお前は考えるんだな?》
「そうだよ。市役所も自衛隊も最初のお膳立てだけすればいい。ルール決めって奴だな。あとは勝手に人々が動く」
「ついでに言うと、弱者を助けるのはあんたらの仕事だ」
《面白いな。わかった。確かに工夫はできる》
「ついでに枝葉の先も教えてやろう。犯罪者の扱いだよ」
「もう留置所も拘置所も使えない。捕まえたって働かない奴に飯は食わせられない」
「罪を犯せば飯が食えるとなったら、犯罪者だらけになっちまうだろ?」
「だから、人を集めて見られる自衛隊の仕事だな。教育的指導(訓練)をしてやってもいい。勿論労働力になれば御の字だ」
《罪の確定はどうする?》
「現行犯はいいよな? あとは訴え出る人がいれば応じるしかない。危険だがな。罪をでっちあげられる」
「コロニーがちゃんと機能すれば、防犯だって進むだろ」
「食料と一緒だ。全部を公の機関が担えないなら、人々に委ねるんだ」
「まあ法律周りは俺にはわからん。原始的な制度を地裁や高裁の判事を集めて決めりゃあいい」
知らんけどな。
「とにかく、一年持たせろ。一年持てば来年も見通しがたつ」
「だがな、来年はもっと厳しい。農業をやるための肥料がない。とくに窒素だ。これはなあ。堆肥なんだけどなあ」
「あ、そうだ、犯罪者は堆肥づくりのお手伝いってどうだ? 実際やるかどうかは別にして、あんまり好き好んでやりたい奴はいないだろ?」
「一人でも生かすなら犯罪者も生かさないとならんだろ?」
「抑止は刑罰じゃだめだ。教育的指導(訓練)は刑罰じゃない。あくまでも訓練だ。罪を犯せばやりたくない訓練をやらなきゃいけない、かも知れない」
「だったら罪を犯さずに、自分のやりたい仕事をやる、って寸法だ」
子どもたちが真っ先に理解するよ。
「つまり、三星さんは、ステップを踏んで説明してくれてたんですね?」
「いや、違うよ?」
「はい?」
「俺の頭の中には、転移がある。んで、どうやったら生き延びられるかは考えられる。だがそれは俺の家族だけだ(サッチーも含む)」
「でも、俺の家族だけ生きたって意味がない。年とってそれで終わり」
「それにさ、俺が先に死んで、お母ちゃん一人じゃかわいそうだろ? だからついでにお前たちを助けてやる」
「そこが出発点だ。お前らのためじゃない。家族のためだ。勘違いするな」
「まあ、色々言ったけどさ、少ないなら少ないなりに、人間は工夫する。家庭にもよるかも知れんが、その辺は目配りしてやらんとな。特に子どもたちは守れ。子どもたちは俺たちの未来だ」
「あ、それとさ、自衛隊の小隊、一つ俺に頂戴?」
《ふざけるな!》
あ、怒らせちゃった。
やべ。




