ep.24 長い夜
* * *
【大会議室 三星】
きついなあ。
しかも、別のことまで浮かんじまった。
途中から、その枝が伸びる伸びる。
そりゃあ強制シャットダウンにもなる。
でも悪くない。
ただ、母ちゃんは怒りそうだが。
「さてと、にさにさ、ありがとう」
「いえ、あ、こちらこそ? どういたしまして?」
うぶだねえ。こんなに純粋な娘がいるのに、他の隊員は何やってんだろな。
まあ、関係ないからいいけど。
「松井、佐々木の爺さん」
「じ、爺さん? そんなに歳じゃないぞ? 孫はいるが」
「いいんだよ。それだけ貫禄があるってことなんだから。あんたには期待してる」
「そうか。おう! 任せとけ!」
「佐々木議長、話も聞かずに引き受けない方がいいですよ?」
「いや、まあなんだ、心意気には応えないとな」
「わからなくはないですが。三星さん無茶なことはさせないでくださいね」
ふふふ。無茶しかさせませーん。
「今から残っている職員を使って、急いで向かわせろ」
「どこへですか?」
「商工会、大きめの企業、郵便、警察、消防、あとは宅配便。スーパーも来てくれりゃあいいんだが、うーん。まあ、とにかく従業員を多く抱える企業、団体を明日の朝集めろ」
「それはどういう意味ですか?」
「ちょっと待て」
こいつらが居るんだよな。
あとはマイクとカメラか。
「サッチー」
《(やっと出番だ)はい、三星》
「カメラとマイクを無効化できる? ジャミングってやつ」
《できません》
「あっそ。じゃあいいや」
《(不覚)》
「にさにさ、ついでに3号」
「なんですか? 三星さん」
「だから3号と呼ぶな」
まあ聞かれてもいいっちゃいいんだけど。
念のためな。
「お前たちの今の職務は?」
「あなたのお話を伺うことです」
「俺は同席しているだけだ。何の任務も受けてはいない」
「にさにさ。話を伺うってのは聞くだけだよね?」
「ええ、聞いた上で後ほど行われるであろう対策会議で証言します」
証言か。どうすっかなー。
「まあ、どのみち、マイクもカメラもあるから筒抜けなんだけどさ」
「そうですね」
「この話は自衛隊にしてるわけじゃない。君らが個人的な発言をすることは許可するが、自衛隊としての意見は聞かないから、そのつもりでいてくれ」
「はあ。よくわかりませんが、本田個人としての発言はお許しいただけるのなら、良いです」
「俺はお前に聞くこともないし、さっぱりわからんし」
「だから3号はいいよ。無理しなくても。なんだったら休憩してきてもいいよ?」
「そんなわけにはいかん。職務中だ」
はいはい。頑張れよ3号。
「松井、爺さん。これまでは市民向けの話しかしてないよな?」
「そうですね。ですが、企業の社長、代表、また店長というかこの地の責任者も市民ですし、国民ですよ」
「そういうのはいいんだ。違うんだよ。市役所も自衛隊もこれから『金』は使えない。それぐらいはわかるよな?」
「まあ、お前さんが言う前提ならそうなるな」
「ならその時、多くの社員や職員、その他大勢を抱えるところは何を対価にしていくんだ?」
「ないですね。まあ食料品関係は現物支給できるでしょうが。それもごく一部でしょう」
「だよな。だがな、もうしばらくはそいつらにはまとまっていてもらわなきゃ困るんだ」
「困る、うーん、確かに生産は勿論のこと、それぞれこの非常時には必要な人たちですからね」
本当はいつも必要な人たちなんだよ?
お前の言い方だと、普段は必要じゃないってとられかねないよ?
「おいおい、市長、非常時でなくとも彼らは必要だ。忘れてはいかんぞ」
「そうですね。少し合理が過ぎました。取り消します。彼らはいつでも必要な人たちです」
爺さんの方がわかってるな。
「というわけで、接収とまではいかないが、コロニー制度が落ち着くまで、協力をしてもらう。強制的にな」
「それを接収と言うのでは?」
「行き過ぎると共産思想になるぞ?」
言うと思った。
「ならんよ。皆が平等なんてこれからはあり得ない。平等になんてしたら生きられる人も生きられない」
「それでは弱者の切り捨てになるぞ? お前の意見とは正反対じゃないか」
「だーかーら、切り捨てないために、市役所があって、自衛隊がいて、会社というか何というかわからんが、商工会でいいや、そいつらが生きるんだよ」
「ふむ、もう少しでわかりそうです」
「一週間だ。一週間後には松戸は食料がつきる」
「そうですね。そこまで持てばいいですね」
「だから、まずはパン工場をフル稼働させる。白玉さんちはちょっとごめんだけど、主食となるものを中心に動かすようにする」
「コメも精米しなければ持つしな」
「そう、だから、あーもう面倒くせえな。サッチー任せた」
《はい。引き受けます。聞け愚民ども》
ここで使う言葉じゃねえよ。面白いからいいけど。
* * *
【大会議室 サッチー】
《失礼しました。三星が怒っているようなので通常モードでお話します》
外してしまったようだ。
サッチー失敗しちゃった。ぽこぺん。
《市民への告知ですが、自衛隊の協力があるか否か、また松戸単独で動くか否かにもよりますが、松戸は動く方向にしてください》
《期限は明後日。それより遅いと暴動が起きます》
《内容は、転移のこと、コロニー制度、コロニー未所属は市役所もしくは小学校に設ける出張所へ来ること》
《コロニーは所属する家庭の数、またその人数、年齢を集計し、出張所へ届け出ること》
《食料、その他生活必需品はコロニー単位で配布すること》
《外国の方や松戸市に住民登録をされていない方も未所属扱いで》
《それらを簡潔にまとめ、告知し、即日施行してください》
「サッチーでいいかな?」
《松井、本来なら許しませんが、今日は特別にそう呼ぶことを許可します》
「ありがとう? 告知するための手配、貼り出す手間、そもそもその原稿を作り、印刷しなければならないんだ」
《わかっています。ですからこの後の自衛隊の結果次第というのもありますが、市としての方針をあなたの頭の中で決めておきなさい》
「おきなさい?(命令されてる?) まあ三星さんがそういうなら、私自身もその発想は採り入れるべきだと考えているから」
《考えている、では遅いです。決めなさい、今すぐ》
「今すぐは、決められないだろう?」
「松井市長、決めろ。構わん。おそらく三星の案以外は悲惨な結果にしかならん。そして我々ではコントロールできなくなるのは明らかだ」
「ですが、自衛隊の協力の有無で方針が変わる可能性もありますよ」
《松井、自衛隊は頭から外しなさい。彼らが三星の案を聞き入れないなら、私は彼らを敵対勢力として認定します》
「おい、サッチー、だめだよ」
《3号は黙りなさい》
《よいですが、松井、佐々木、そして聞き耳を立てている愚か者ども》
《私は上空から観測ができます》
《人間を個別に識別することはできませんが、熱源はわかります》
《どこでどのような事が起こっているか、どれぐらいの数が集まっているか、私にはわかります》
《その存在なしに、あなたがたがこの事態を乗り切れる可能性は「ゼロ」です》
* * *
【大会議室 本田二佐】
本当に衛星なの?
自衛隊を敵対勢力と認定?
「あのぉ、サッチー?さん」
《なんですか、にさにさ》
「あなたの能力ってどれくらいなのでしょうか?」
《教えるわけがないでしょう?》
「そうですか……」
《仮に、あくまでも仮定の話です。熱源で火災を発見したとしましょう》
「それなら消防と連携することもできるのでは?」
《何故私がそれをしなければならないのですか?》
「え? だってわかるんだったら教えてくれても」
《私はあなたがたのための存在ではありません。母星からの指示でこの惑星および星系を観察しているのです》
「でもできるなら少しぐらいお手伝いしてくれても?」
《まだわかりませんか。私はあなたがた人間のための存在ではありません。あなたがたが滅ぼうが、泣きわめこうが、私の役割には何の影響もありません》
なら、なんで三星さんの手伝いをしてるんだろう?
三星さんだけ特別なの?
司令が言うように三星さんはこの事態の首謀者なの?
《どんな妄想をしているか知りませんが、この千葉県という狭いエリアだけを観察し、指定されたところへ通報することは私の機能ではできませんよ》
「ポンコツ?」
《それは、にさにさとか3号、橘ではないですか?》
「私はポンコツではないです。職務は立派に果たしています」
「言葉もない」
「私はポンコツなんですか? 市長代理を仰せつかってるのに……」
《なんでもかんでも都合よく使えると思わないでいただきたい》
「サッチー、君、一つごまかしてるね?」
《(ドキ)なんですか、松井》
「三星さんの言葉には従っているよね? そして三星さんのために、なんらかの機構、もしくは観測機を使ってるよね?」
《それの何が悪いのですか?》
「いや、悪くはないんだが」
《三星はとても興味深い存在です。母星の許可も得てます。ですがあなたがた人類には興味がありません》
《私があなた方の役に立つ可能性もゼロではありません。ですが、それはあくまでも三星がそれを望んだ場合です》
《しかし、私という特異点を使うことは、人間がそれに依存することになります》
《それを三星は許しません》
サッチー、あなた三星を……
* * *
【大会議室 三星】
なんだこいつら?
勝手に盛り上がって。
ずるいじゃないか。俺もまぜてくれ。
「サッチー、もういい、いいんだ」
これでかっこいい再登場になるかな?
《三星、出番がとられたからといってしゃしゃり出ないでください》
ぶひ。
「う、うるさい。そういうんじゃない」
《私がわからないとでも?》
「違う、わかってようがわかっていなかろうが、関係ない。話を戻せ。もう少ししたらやつらが戻る」
《わかりました》
《確かに「ゼロ」と言ったり、手伝わないと言ったり論理が破綻していました》
いやわかるけど。こいつらには無理。
《正確に表現するなら、三星の言葉を要約したり、三星のこれまでの考えから算出される危機を伝えたりすることができます》
《それでさえ、あなたがたには過剰な投資です》
投資なの? そうなの?
それはヤヴァイ。俺ならすぐ下りる。
《三星の言葉は今のあなた方には貴重なはずです。特にこの一週間、そして安定が見込める期間までは、三星を失うことは人類の損失です》
そこまでは言わないで。
そんなに背負えない。
母ちゃんと猫たちだけで十分。あと、サッチーね。
「それは理解します。実現性や具体的な点はともかくとして、今このタイミングで一刻を争う時に議会や有識者の意見を聞いてまとめることはできません」
「そうだな。皆自分の利益を求めるだろう」
《ですから、三星の言葉を起点にあなた方が考え、すぐに決め、とっとと行動するのです》
そういうこった。
「三星さん、サッチーでもいい、集めて何を話すんですか?」
《だから愚かだと言うんです》
《それすらもわからないから三星が消耗するまで考えることになるのではないのですか?》
「いや、衛星。わからんもんはわからん。だからすまん、ヒントでもいい助けてくれ」
《最初からそう聞けばいいんです》
《組織はこれから対価を払えず、ただ設備だけが残ることになります。それは損失です。特に食料は急務なのに》
「すみません、サッチーさん」
《1号、なんですか?》
橘さんまでその名で呼んでやるなよ。面白いからいいけど。
「1号……組織を集めるのはわかります、協力を要請するのも理解できます。ですが、三星さんが言ったようにお金が使えないなら、何を市役所は対価とするのですか?」
《対価などありません。これからは労働力が物資を得るための手段と言いましたよね?》
「いや、それも聞いていますが、実際お金がそんなにすぐに意味をなさなくなるのですか?」
《はあこれだから人間は。松井説明してやりなさい》
「(また命令された?)そう、そうですね。今の通貨は国がその価値を保証しているよね」
「ええ、そうですね」
「その国がない、つまりはその価値を保証してくれるところが存在しない」
「橘室長、こう考えてみろ」
「佐々木議長、なんでしょう」
「今は千円もあれば水だろうが、飯だろうが買えるよな」
「はい」
「だが、それは売り手が商品をその値段で売っているからだ」
「うーん、そうですね」
「売り手が千円で物を仕入れられないなら、値段はあがるだろ?」
「確かに」
「だが、売り手もお金で物を仕入れられないときはどうなる?」
「お金じゃ買えないですね。そういうことか」
《実に無駄な時間。ジンバブエドル。理解なさい》
それを知ってる人がいるのか? いるんだろうが……
「その辺はもういいだろう、わかる人にはわかればいい。わからなくてもいいんだ。その人にはコロニーで頑張って生きてもらう」
威張りくさって、命令ばかりしてたら、すぐに爪はじきだけどな。
「集めて話すのは、事実のみ。転移、補給がない。松戸が動く。だが、市民の生活、すなわちここに集まった人たちの生活を担保したい。だから、当面の間協力してくれ。だ」
「あ、見返りはないとちゃんと説明しろよ」
さて、どうなるかな?
自衛隊さん。




