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ep.20 ズレ


  * * *

【大会議室 渡辺司令】


 なぜ知っている?

 どうしてわかる?

 衛星だと?

 どういうことだ。何が見えるんだ。


《さあ、選びなさい。渡辺》

《あなたがたが滅ぶか、三星の話を聞くか》


《答えによっては、今この場で自衛隊を封じ込めます》


 ハッタリとしか思えん。

 信じがたい。だが、妙な納得感はある。

 また、先ほど入った情報の裏付けとなるのかも知れん。


「サッチーと言ったな、それは我々に対しての宣戦布告か?」

《先に仕掛けたのはあなた方です》


「仕掛けてはいない。備えただけだ」

《なら、私も備えているだけです》

「水掛け論だな」

《あなた方は専守防衛が主義では?》


 確かに三星より厄介だ。


「松井君? 君は三星や衛星の話を聞くのか? 信じられるのか?」

「渡辺司令、少しだけ考えてみてください」

「何を考える?」


 松井はどこを見ている?

 三星か? 五十万の市民を見ているのではないのか?


「私たちができるのは、これまでよりも遅く届く情報に対し、動くことだけです」

「現状はそれしかできまい」

「ええ、ですがそれでは失われるものが多すぎる」

「そうは言っても何も起きていないところに手は出せんだろう」


 部隊を動かすには、発生した事態と命令がセットだ。

 命令が下って初めて出動できる。それが自衛隊だ。

 

 君らは隊員たちの苦労を知るまい。

 凄惨な現場に立ち、悲しみに暮れる人々の声をぶつけられたことなどないだろう。

 

 隊員にだって家族がいる。

 隊員の生命だって大切なんだ。

 

  * * *

【大会議室 松井市長】


「渡辺司令、やめましょう」

「なぜだ?」

「この時間が無駄です」

「たしかに。そうだな」

「すまなかった。三星、話してくれ」


 このまま立場の違いで延々と討論しても答えなんか出ない。

 それよりも未来を見なければならない。

 

 援護射撃になればいいですね。

 あとはお願いします。

 三星さん。

 

  * * *

【大会議室 三星】


 えらい人は大変だなー。

 そんで面倒くせー。

 サッチーに投げたいがちょっと無理だな。

 想定から外れすぎてる。

 

「二人ともお疲れさん。立場の表明はよくわかった」

「な!」

「三星さんらしいと言えばらしいですが……」


「本当はさ、サッチーに全部説明丸投げしようと思ったんだけど、自衛隊が動けないな。それじゃあ」

「どちらが話したにせよ、自衛隊が動くなどという保証があるとは思うな?」

 あー面倒だなぁ。

 

「まあいい、聞け。んでわからないことはサッチーに聞け。まとめてくれるさ。多分な」

「時間が惜しい。話しなさい」


「途中で止めるな、いや、止めてもいいが、話したいことは話させろ」

「わかりましたよ。三星さん」


「俺が、お前らに対して、遅いと言ったのは……」


 頭の中を言葉に置き換えて発言する。


  * * *

【大会議室 三星の発言】


 あんたらは現状維持、もしくは多少の不足はあっても継続できると思っているからだ。

 

 それはできない。

 千葉県が転移したのは事実。

 そしてここは地球じゃない惑星。

 

 あ、一日が二十四時間じゃないから、時計をなんとかするか考えておいてね。

 あと一年が長いらしい。

 

 千葉県という土地だけでは、六百万人は食いつなげないだろう。

 いや、むりくりやれば出来なくはないが、それでは食うためだけに生きるしかなくなる。

 

 なら、どうするか。

 

 三だ。

 

 一は個人。

 二は家族。

 三は集団。

 

 集団といっても、町とか市とか県のような単位じゃない。

 大きくても町内会だ。

 まあ、人数や面積にもよるな。

 

 まあ、集団とか町内会では、呼び方がカッコよくないからコロニーでもクランでもいい。

 漢字とか日本語のがいいかも知れないが、これから働くのは若い人らだ。

 なら、名前もカッコよくした方がいい。

 

 集落とか班とか、共同体、自治会なんて、絶対反発する。

 だから、わかりやすい横文字にしろ。これは命令だ。

 

 まあ俺としてはコロニーがいいかな。

 クランだと一部しか理解できないかも知れないからな。

 

 呼び名はなんでもいいんだ。だが、若者が中心になれる集団にしなきゃならん。

 

 高齢者?

 勿論役に立つ。これからは働けなくても、皆が生活を支える一員だ。

 高齢者に限らんが、人の話を聞き、なだめ、知識を伝えるなら有用な人材だよ。

 

 寝たきり? 病気?

 うーん、あまり良い表現が浮かばないが……

 厳しい言い方をするぞ。

 

 病院は人を生かすための設備じゃなくなる。

 介護も同様だ。

 一人を守るために、他の一人の労力を使う。

 これでは二人働けない、つまり食料を得ることができなくなる。

 

 ロスではない。

 家族にとっては大切な存在だろう。

 そうじゃない人もいるだろうがな。

 

 だから、まとめて見るんだ。

 だが、これまでと同じような目配りは難しい。

 

 あー、切り捨てるんじゃないぞ。

 それはできるだけ集団で見るんだ。

 

 個人や家庭で見るにはあまりにも重すぎる。

 

 全体の扶養の一部になるだけだ。

 今までと変わらん。

 年金か食料の違いだけだよ。

 

 年金で思い出した。

 金は意味をなさない。

 

 これからはしばらくの間、物々交換だ。

 労働力との対価でもいい。

 

 宝石類? 価値はないね。

 

 貴金属。うーんどうだろ。

 そこまで加工できるようになるまで、どれぐらいの時間がかかるかな。

 だが、今は無価値だ。

 

 色々問題があるのはわかる。

 

 さっき出た病院をどうするかだろ?

 

 病院はなあ。

 物資がなくなったら技術があるだけの集団だ。

 彼らは絶望する。そして悲しむだろう。

 技術だけじゃなく知識も有効なんだが。

 

 だが仕方ない。仕方ないんだ。

 優先順位は子どもから若者、働き手という順につけなきゃならん。

 

 これまでのように全員が等しく医療を受けられるなんてできなくなる。

 

 厳しいが現実だ。

 

 ああ、市としてみるなら一か所ぐらいは大きな病院は必要かな?

 松戸市ぐらいなら三か所かなあ。どうなんだろ。

 そこに今ある資源と人を集める。

 うーん、だが検査機器も動かせないからな。

 やれることは限られると思うぞ。

 わからんが。

 

 それ以外の医療は巡回かなあ。

 もしくはコロニーのいくつかで一つの医療機関。

 うん、巡回とコロニー単位の併用がいいかね。

 

 通信は割と簡単。

 郵便のネットワークを使う。

 だが通信に車を使ってはだめだ。

 よくても二輪車。

 できれば自転車。なければ走れ。飛脚だな。

 

 あ、食料な。

 これ、本当はめちゃくちゃ大変なんだが、ざっとだけ話す。

 

 とりあえずは米と芋とトウモロコシ、小麦でもいいが松戸で採れるのをバランスよく作ればいい。

 ネギも悪くはないんだが、必須かと言われればなあ。

 個人的には欲しい。

 だがな、これは本当に厳しい。

 

 それと、食料とは言ったが、人間には必須なものが多い。

 塩はちょっとずれるんで後で話すかも。

 

 それ以外の野菜類な。

 それをできるだけ多く作れ。

 

 コロニーというか家庭では、作れるなら芋、トマトかな。

 茄子科なら割と簡単だろう。

 家庭の分は苗なんて作って配る手間がもったいない。

 種からだ。種から育てるノウハウを学べ。

 

 家庭で作る分は家庭の物。それは交換してもいい。

 自分たちで消費してもいい。

 介護が必要な人を預けているなら、差し入れでもいいよな。

 

 話が飛ぶのはわかってる。

 割と近い話してるつもりだが、わからなかったらメモでもしておいて後でサッチーに聞いてくれ。

 

 えーっと。

 あ、鶏、ニワトリな。

 とにかく早くオスも含めて手に入れろ。


 最初はコロニー単位で飼育。

 卵は無精卵だけ食べる。

 それ以外は食うな。廃鶏は食う。

 子どもたちにやらせてもいい。

 

 とにかく増やす。

 どこかのタイミングで、一家庭に最低二羽行き渡るようになればいいな。

 

 うるさいだろうな。

 でもいいじゃないか。どうせ時計も使い物にならなくなる。

 いい目覚ましだ。

 

 とにかく鶏はいい。卵も食える。

 サルモネラには気をつけろよ。

 

 あ、幹線道路以外はできるだけアスファルトを掘り返せ。

 土を出すんだ。

 アスファルトの道は、雨水のほとんどを下水に流す。

 土に水を吸わせろ。

 

 んで、雑草を生やせ。

 虫を増やすんだ。

 そしたら鶏のエサは人間の食べ残しでも賄える。

 勿論足りないだろうがな。でもないよりはマシだ。

 

 あ、また前後する。

 調理で出た卵の殻は集めろ。

 畑にもその他にも使い道がある。

 詳しくは千葉大の奴に聞け。隧道のとこにいるだろ?

 

 窒素、リン……

 ああ窒素か。肥料だよな。

 これは……

 今は言わない。

 

 あとはなんだ……


 仕事か。

 

 俺もだが、これからは基本は肉体労働がメインになる。

 技術職、といっても木工は必要だが、鉄工は限られるな。

 

 いや、必要か。

 ラジオだな。

 

 鉱石ラジオわかるか?

 俺は詳しくわからんが、市内だけならなんとかなるんじゃないか?

 受信専用。市からの定時放送。

 うん、高台の元短大あるよな。あそこの屋上か、あー電話会社のアンテナあったよな。

 あそこにアンテナをおけばある程度は送れるだろう。

 

 中継局も必要か。その辺は理工系に聞いてくれ。

 

 とにかく防災無線は何を言ってるかわからん。

 情報が極端に少ない。

 しばらくは市役所にも機能してもらわにゃならん。

 まあこれは後で話すよ。たぶん。

  

 最初は小学校でいい。

 適度に配置されてる。

 高齢者や補助が必要な人、コロニーで養えない人を守るんだ。

 あ、そうだな。病院というか医療関係者もそこに集めよう。

 

 うん、小学校はいいな。

 情報、医療、そして物々交換の場所。

 体育館が使える。

 

 あ、仕事だな。

 これこそギルドにしよう。カッコいいじゃねえか。

 

 どこのコロニーでどんな仕事が必要か、ギルドに貼り出す。

 それをコロニーでもいい、個人でもいい。受ける。

 報酬は、食料か、塩か、必需品だろうな。それはギルドが管理して渡す。

 

 そういうのは詳しい奴がいるはずだから、そっちに聞け。

 ハローワークの異世界転移版だ。それを言えばわかる。

 

 あとは、なんだ。

 警察かあ。

 使えるようで使えないんだよなあいつら。

 

 警察が県警や公安から離脱するなら使える。

 そのままと言うなら勝手にさせればいい。

 

 あ、法律だ。

 日本国憲法は難しいな。

 守りたい方向では考えているが、必要な物も人もないんだよな。

 文化的な生活も成り立たないからな。

 刑法とかとセットで考えてみるか。

 

 まあ、その辺は良い感じにしたらいいよ。

 どうせ、松戸しか実現できない。

 おそらく他の市区町村はそんな選択はしない。

 

 日本に帰れるつもりのまま、破滅していく。

 それに巻き込まれるな。

 

 あとはなんだろなー

 

 うーんたくさんありすぎてわからん。

 

 質問ある?

 

  * * *

【大会議室 橋爪三佐】


 誰も言葉を発しない。

 いや、何を話せばいいか、わからないのかも知れない。

 俺だって、奴の頭の中を見せつけられ、混乱している。

 そんなことをずっと考えていたのか?

 

 自衛隊以外の事はわからない。

 それにしたって、これだけの案を実現できるのか?

 

「なあ、お前、疲れないのか?」

「ん? ああ。疲れるよ」

 だろうな。

 肉体派の俺は人命が第一だ。

 考えるよりも、体が先に動く。

 

「質問はないかって聞いたが?」

「ああ、質問をしてよいかどうかわからんのだが」

「三佐、構わん、思ったことを聞いてみろ」

 司令も考える時間が欲しいのか。

 

「なあ、自衛隊は何をすればいいんだ? お前この前色々やれって言ったよな」

「やれとは言ってなかったと思うが」

「いや、『押さえろ』『手放すな』と命じている」

 しろ、するなは、命令だよ。

 

「三佐、あとは私が引き継ぐ」

「はっ! お願いします」

 俺にはわからん。司令ならわかるだろ。

 

「正直な話をする。あ、言葉遣いはもういいな?」

「ああ、構わんよ。その方が俺も話しやすい」

「すまんな。貴様の言うことは支離滅裂すぎる。だが、後で精査しなければならんが、確かにお前の前提条件なら考えられなくもない。一部は有用であるとさえ思う」

「そうなの? すまんな話すのは苦手で頭に浮かんだものを吐き出しただけだから、どのことを言っているかわからん。だが、聞き直してくれれば可能な限りは答える。あとはサッチーがまとめてくれる」

 奴の頭に浮かんだこと?

 一つであっても突き詰めて考えないと出てこないだろ?


「なら、都合がいい。貴様が今日、急いで我々を集めた理由を話してみろ」

「あー、それ大事。どう話せばいい? うーん。ちょっと待って」

「マンション、人口、過剰、あとはなんだ?」

 どういう発想で構築される?

 さっぱりわからん。だがまともじゃない。

 

「OK、大体思い出した」

「千葉市、というか県庁かな。それと湾岸部。あとは北西部だと舟ヶ崎はだめだろうな」

「まずな、県庁は情報過多、人が多すぎてもう身動きがとれない、指示も出せないはずだ」

「それに埋め立て周りのマンション群も抑えられないだろう」

「舟ヶ崎は顕著だな。新旧住民の諍い、備蓄、あふれた避難所。収拾がつかないどころの騒ぎじゃないはず」

「特に港まわりの倉庫があっただろ。あそこはもう騒動ではなくなっているはずだ。暴動、略奪だろうな」


「貴様がなぜそれを知っている? 衛星の情報か?」

《私は私自身のこと、この惑星のデータ、転移してきた範囲の情報、それらしか、三星には提供していません》

「なら、どうして今日起こったことを貴様が知っているんだ? やはり集団の一員という疑いは晴れない」

 司令。サッチーの話を受け入れてますよ?

 

 あと、その辺の話、全然聞いていないんですが?

 下っ端だから?


  * * *

【大会議室 本田二佐】


 驚いた。

 こんな人いるの?

 普段どうやって生きていられるっていうの?

 疑問しかない。

 だが今は……


「司令、前提がおかしいです」

「ん? あ、ああ。衛星の話をそのまま受け入れている点か」

「それもありますが」

「衛星の話はいい、AIだろうがなんだろうが、三星の情報を元に話しているなら、出口が違うだけだ」

「それは、そうですね」

「それ以外については、聞くな。まずは三星という男が敵なのか否か。それにより対応を決めねばならん」

《まだ愚かな考えを捨てないのですね?》

「対応を決めるとしか言っておらん」

《屁理屈を》

「だが、正直にと言った。一自衛官として、また司令という役職を背負う者としての重責はあるが、人間として三星という男には興味がある。衛星が危惧するようなことにはならないよう努める」

《その言葉、お忘れなきよう》


 私のターンではないのですか?

 

 三回しか話せなかった……



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