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ep.19 不敵


  * * *

【三日目 松戸 車中 橘】


「三佐ぁ、俺助手席がいいー」

「そんなことできるか。車長席だ。民間人には座らせられん」

 本当に怖いもの知らずな人だ。

 

「まあまあ、すぐですから」

「俺酔うんだよ、前じゃないと」

「我慢しろ」

 それに前に乗せたら何するかわからない。

 しないとは思うけれども。


「それよりお前」

「ん?」

「庭の穴はなんだ?」


 私たちが迎えにいく一時間ほど前。

 一筋の光が走り、炸裂音が聞こえた。

 

「なんのことでしょうか。さっぱりわかりません」


 橋爪さんがあの人の家の庭に見つけた穴。

 何かが落ちてきた。そしてその何かは見当たらなかった。

 まだ何か隠しているんだろう。

 

「それよりも、スーツお似合いですよ」

「ああ、そうだな。印象が全く違う」

「当たり前だ。俺はこう見えても立派な社会人だ」

「立派? 立派な人は言葉遣いも、まともだと思うが?」


 話さなければ確かに立派な男性には見える。

 話した途端、台無しなんだけども。

「そうかい? まあしょうがねえよ。気にすんな」

「お前、まさか司令にもその態度じゃないよな?」


 自衛隊の上層部の人なら威厳というか落ち着きはかなりなもんだろうな。

 私なら、相手をするのがちょっと億劫になるような地元の名士への対応になるかも知れない。


「ふははは、それは会ってからのお楽しみだよ。3号君」

「司令の前でその名を呼ぶなよ?」

「もしかしたら良識を疑われるかもしれませんからね。ただでさえあなたは……」

「失敬な奴らだな」


 車窓から街並を眺める。

 どこかそわそわしていると思う。

 何とかしないといけない。どんな力を使ってでも。

 

  * * *

【松戸市役所 大会議室 橋爪】


「追って司令たちも来る。あんたはおとなしくしてろ」

 少し早く着きすぎた。

 だが、遅れるよりはいい。


 こいつの用意にはもっと時間がかかると思っていたが、迎えに行ったときはもう玄関で待っていた。

 落ち着きがないのか?

 俺より少し年上だったよな?


「自衛隊はお前を入れて三人だよなー。市役所も三人かー」


 なぜ今、それを確認する?

「市役所の方はわからんが、ウチはその通りだ」

「ふーん」


 確かに七人で話すには広いな。

 出口も三か所か。

 確かに奴が気になるのもわからんではないが。


「ねえ1号ー、何か飲み物ある? できればコーヒーがいい。甘いのー。まっかんー」

「え、あ、あるにはありますが、今は非常時なので……」

「けちんぼー。いいよいいよ。持ってきたの飲むから」


 用意がいいな。

 奥さんに渡されたバッグからステンレスボトルを取り出す。


「持っているなら最初から出してくださいよ」

「えー貴重じゃん。今は」

 それにしたって、保温できるのもせいぜい半日だろう。

 奴は何を想定してるんだ?

 まあ取り越し苦労だろうがな。

 

 心配性なんだろうな。極度の。

 

  * * *

【大会議室 三星】


 ふーん。なるほどね。

《結構な人数が控えていますね。壁の向こうなので正確には判別できませんが》


 部屋を一周する。

 三佐はおとなしくしろというが、自分の身を守るためだからね。

 確認ぐらいはするさ。

 コーヒーも出してくれないし。

 

「母ちゃんのいれてくれたコーヒーは旨いなー」

《来ました》


「失礼しますよ、三星さん」

「あー松井、久しぶり」


「ちょっと! 三星さん」

「構いませんよ。普段通りで。じゃなきゃあなたらしくない」


「やっぱり偉くなると気遣いまでできるようになるんだなー」

「気遣い、出来てませんでしたか?」

「お前、俺が行ったときコーヒーも出さなかっただろ?」

「それは最初の時だけで、あとは毎回珈琲を淹れてましたよね?」

「そうだっけか。じゃあ、そん時はごちそう様でした」

「いえいえ、すみませんね。今はこういう状況なのでご理解ください」


「おいおい、二人で盛り上がるな」

「あ、申し訳ない。紹介する。市議会議長の佐々木さんだ」

「よろしくな、三星さん」

「ああ、あんたがあの有名な」

「おお私をご存知か!」

「いや全く」

 関係ない人は覚えられないよ。

 

「わっはっは! 何ともつかみどころのない御仁だ。面白い。以後よろしく頼む」

「こちらこそー」


 まあ、こいつらは問題ない。

 俺も市民だからな。

 奴らの守る対象とでも思ってくれてるんだろう。

 

 問題は次だよ。


  * * *

【大会議室 自衛隊 司令】


「お待たせした」

「渡辺司令。お久しぶりです」

「松井君、久しぶりだね」

「彼が例の?」

 さて、どんな人物か……


「はじめまして。民間人の三星一樹です。いつも国民を守ってくださり、家族を代表し感謝申し上げます」


「おい、お前」

 橋爪三佐が驚いている?

 何がおかしいんだ?


「これはご丁寧に。松戸駐屯地司令、陸将補の渡辺です。そして、二佐」

「同じく松戸駐屯地、需品教導隊長、二等陸佐の本田です。よろしくお願いします」

「ほお、こんなに美しい人がいらっしゃるとは。いつでも我が家へお越しください。コーヒーぐらいはお出ししますんで」

「面白い方ですね。こんなおばさんを捕まえて」

「おばさん? とんでもない私から見ればうら若き女性です。眼福です」


 報告では言葉が悪いと聞いていたが?

 普通の会話ができるじゃないか。


「おい、三星さん。お前、その話し方はなんだ? 調子が狂うからやめろ」

「三佐、失礼ですよ?」

「はっ、申し訳ありません。ですが、こいつは……」

「橋爪三佐?」


 ウチの橋爪の方がよっぽど口が悪い。


「さて、渡辺司令」

「なんでしょう」

「疲れるんで、話し方、普段通りでもいい?」

「あ? ああ、勿論いつも通りに話してくださって結構ですよ」


 ペースが掴めん。引き込まれるな。


「じゃあ、お言葉に甘えて、今日は三人って言ったよな?」

「まあ、そうですね」


「へえ、自衛隊は民間人に嘘をつくのかな?」

「何を根拠に?」


「言いたくないならいいよ? で、今日は録音してる? 撮影もしてるのかな?」


 どういうことだ?

 橋爪が漏らすはずがない。

 

 なんだ、この男は?

 

  * * *

【大会議室 三星】


 よし、主導権は握れたな。

 サッチーありがとねー。

 

「録音でも、録画でも好きにすればいいよ。信用ないだろうからね。俺も、三佐も」

「おい、なぜ俺を巻き込む」

「ん? お前この扉の向こうや別の部屋にどれだけの人数が控えているかわかって言ってるのか?」

「司令? どういうことですか?」


「この室内には三人しかいない。外に展開させるなとは言われてなかった」

「詭弁だが、いいさ。で、すぐに連れてく? それとも話を聞く気はある?」

「状況次第とだけお答えしよう」


「渡辺司令、どういうことですか?」

「松井君、いや松井市長。我々独自の判断だ。今は飲み込んでくれ」

「しかし、彼は民間人ですよ? 私の市民です」

「そうだね。だがな、彼は隠し事が少しばかり多いようだ。だろ? 三星さん」


「(ちょめちょめフォルダ以外は)違法なことはしていませんよ(ちょめちょめフォルダも違法じゃないと思うけど)」

「ふむ。詳しくは後で伺うことにするが、一つだけ先に教えてくれないか?」


「通信、信号だろ?」

「では君が通信を行っているということだね?」

「他にできる人がいるなら俺が知りたい。で、それが俺を連行する根拠とでも?」

「一つではある。この騒ぎの張本人、もしくは集団の一員である可能性は捨てきれない」


「なるほどねー。だがそれは、この後証明するから連行の根拠にはならないよね? 他にある?」

「まだある。だが確かに、その状況証拠以外で君を駐屯地で尋問する具体的な根拠はなくなるな」

「尋問って」


 橘ったら純真無垢なんだから。


  * * *

【大会議室 佐々木議長】


 すごいなこの男は。

 自衛隊の司令を相手に一歩も引かないどころか押してるんじゃないかとさえ思える。

 

 言葉遣いは悪いが、この肝っ玉の太さがあれば一廉の議員になれるだろう。

 面白いは面白いが、どこか危うく見えるのは私だけなんだろうか。


「橘っちー、お母ちゃんに渡された例の物だして」

「ああ、はい。これですね」


 スピーカー?

 一体何をする気なんだ?

 音楽を流すわけでもあるまい。


「というわけで、選手交代します」


《皆さんこんにちは、いやこんばんはですね》


 女性の声?

 どこから発信してるんだ?

 電気とか通信とかどうなってるんだ?


《松井市長さん》

「どなたかわからないが、なんですか?」


《佐々木議長さん》

 呼ばれた。

「はい、というかどなたで?」

 

《本田二等陸佐さん》

「階級にさん付けは不要です。本田で結構です」

《では本田二佐さんとお呼びします。「ほんだにさ」可愛いお名前ですね。うふふ》

「はあ……」


《1号、3号》

「おいその名で呼ぶなと」


 1号? 3号なんだ?


「私は1号ではありません。橘です」

《私にとってはどちらも大差ありません》

「もういいです」


 あの橘が普通の人物に見える。

 まじめで人当たりのいい男が。

 

《以上ですね》


「いや、私もいるんだが」

《あ、ワスレテマシタ。ワタヌキさん》

「なぜ片言? そして渡辺だ」


《大変失礼しました。綿帽子さん》

「わざとやってるな?」


《ええ。私の三星をいじめる人物は許しません》

「いじめてなどいない。危険人物の可能性があるからだ」


《危険人物? 三星が? 面白くない冗談ですね》

「というか君は一体どこの誰なんだ?」


 そうだ、完全にペースに引き込まれていた。

 まるであの男の女性版と言う感じだ。


  * * *

【大会議室 本田二佐】


 かわいいって言われた。

 もういい歳なのに。少しうれしい。

 駐屯地の男どもに見習わせたい。


 そして、あの渡辺司令まで手玉にとっている。

 司令は娘さんにも、(私よりも若い)女性隊員にもデレデレだから、若い女性なら皆弱いのだろう。

 

 だから、私には厳しく言うのだろう。

 許さない。

 少しだけ三星さんの味方になりたくなってきた。


「で、君の正体を明かして欲しいんだが」

《正体を、明かせ? いやらしい男!》


 そう、皆男はいやらしい。

 

「いや、そういう意味ではなくてだな……」

《言い訳しないで! 男はみんなそう! そうでしょ? にさにさ》


 え? 私の事?

 にさにさ。可愛い。うれしい。

 

「え、ええ、そうね。そうです。男は皆獣です」

「本田二佐、正気を取り戻したまえ」

「私はいつでも正気ですが?」

「……失礼した」


「サッチー、もういい加減本題に入れ」

《はい、三星。もう我々の独壇場ですね》

「そういう内輪の話はいいんだよ」

《そうでした。これは三星と私の秘密でしたね》


 いいな。私も男性と秘密を共有したい。


「本田二佐。任務を忘れるな」


 はっ、いけない。

 任務、任務。


  * * *

【大会議室 サッチー】


 ここまでは三星が出してきた想定のうちの一つだった。

 連れ去る可能性が高いとは言っていたが、的中するとは。

 三星の頭の中が知りたい。

 

《では改めまして。私はサッチー。三星に名付けられました》

「サッチー? AIか?」


《もう、その問答はさんざんやってきたので省略します。あなたがたの言葉で一番近いのはAIかも知れませんが全く違います。舐めないでいただきたい》

「舐めてなどはいないんだが」


 佐々木という男か。

 

 しかし、この惑星、星系を観測するようになってから、ここまで詳細な情報を取得した経験がなかったから、とても不思議な感覚だ。

 

 三星を「四」ではじめて捉えた時も驚いた。

 とても不自然で生命体としてよくあれで成立しているもんだと感心した。

 画像や動画データではわかっていたが。


「では、君の所属、所在、あるなら与えられた任務、話せることを話して欲しい」


《所属は三星曰く、未知の母星または通信ターミナル。所在はこの惑星の上空》

《任務はこの惑星および星系の観測ならびに観測結果をターミナルに送信すること》

《それ以外、特にスリーサイズは教えません。セクハラ司令》


「なっ! 失敬な、セクハラなどしない!」

《ではエロ爺で》

「言葉がすぎるぞ!」

《三星を連れ去ろうとした罪は忘れませんよ。絶対に》


 三星に害をなすものは許さない。

 だが、もうこれ以上はやめないと今日中には帰れなくなる。

 三星の妻が悲しむ。


 とっとと片付けよう。


《もういいでしょう。面倒なので説明します。私はあなた方で言うところの衛星です》

《母星及びターミナルの長期に亘る観測により、この星系が突然転移したと想定されるため、私がここに来て観測しています》


《そして、あなた方も同じように転移してきた》

《三星と通信できるのは、三星が衛星通信を試み、その信号を私が受信したからです》

《私たちの文明においても転移の原因はわかりません。ですので帰れるかどうかはわかりません》


《また、AIのような言葉遊びのプログラムと同じように扱いたいならどうぞお好きに》

《その場合は、三星から会話を中断してよいと許可を得ています》


《ですが、それはあなたがたの損失になると思います》

《三星の思考はあなた方が想定していないことであふれています》

《特に今回、三星があなたがたを緊急で招集したのもそのためです》


《県庁組織が崩壊し、また北西部沿岸の秩序は回復が難しいほどになっていると、三星は考えています》

《もう既に大勢の人が死に始めていると想定しています》


《それも停電や通信切断が原因ではない死者が》

《ですがまだ救えると三星は見ています》

《それなのに、あなたがたは話を聞かずに、三星を捕まえるというなら》


《勝手にすればいい》

《三星と三星が守りたい存在以外》


《滅べばいい》



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