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ep.18 大胆


  * * *

【松戸 三星邸 三星】


「で? 何だって?」


「お会いになるとさ」

「ぜひお会いしたいとのことです」


「そこは良いんだよ、知ってたから。いつ? どこで?」


 会わないって言われたら、じゃあこれから起こる責任はあんたらが負うんだな?

 って言えば、すぐじゃなくても会ったはず。


 即答で会うんだから、必死なんだろうな。

 分かってる。俺だって死に物狂いだよ。


「指定通り、本日一八〇〇に市役所にて、こちらは司令と需教隊長、俺が同席する。三人ならいいだろ?」

「二人ぐらいと言ったが、三佐は良いだろう。頭数にも入らん。わっはっは」

「言ってろ」


「市役所側は、市長、議長、私が参加します。場所は大会議室です」

「そんなにでかいところはいらんだろう。だが、わかった。色んな意味でな」

「ご理解いただけたなら幸いです」


「で、大会議室って何人ぐらい入るの?」

「ご存知なのでは?」

 一般市民が知るわけなかろう。


「よし、お前らこれから俺の秘密を一つ明かす。だが、事実だから疑うな。信じろとは言わん。疑うな」

「よくわからんが、わかった」

「拝聴します」


 ドキドキ。頼むよサッチー。

 

《よお、お前ら》


「?」

「腹話術をなさるんですか? それが秘密じゃあないですよね? だったら許しませんけど」


「おいおい、俺の口を見ろ。そして俺の話を――」

《俺が二人分話せるわけがないだろ?》


「スピーカーから音が聞こえる気がする」

「確かに」


《そりゃそうだ、俺は三星とは違うからな。スピーカー経由じゃないと音声信号を出力できない》

「出力?」

「音声信号」


「おい、本人が答えろ。スピーカーじゃない方の三星だ」

「ん? なんだい? 三佐?」

《俺は話しちゃいけないのか? 三佐?》

「ちょっとやめろ、混乱する」


「あらかじめ作っておいたとか、AIとかではないのですか?」

「疑うなと言ったろ?」

「では何だと言うんだ? 悪ふざけじゃすまんぞ?」


《三星は口下手ですので、私から説明します。良いですね、三星》

「良きに計らいたまえ」


《私はサッチーです。正式な呼称は別にありますが、三星に名付けられました。気に入っています》

「AIじゃないのか?」

《そちらの文明では、流暢に、また声真似を完璧に行うAIがあるのですか? 私のように完璧に?》

「そちらの、文明?」

「本気で悪ふざけじゃないんだよな?」

「あーすまん。俺も最初は信じられなかった。だが、サッチーは嘘はつかない。と思う」


《失礼ですね。私は真実が必要な時は必ず真実をお答えしてきました》

「それは、必要のない時は真実を話していないと言ってるんじゃないのか?」


《しまった! わたしとしたことが。一生の不覚。こうなったら腹を召して詫びる所存》

「お前、腹あるの?」

《いいえ、あなた方のような形状ではないので、腹に相当する部位はありません》


「奥さん、これって何ですか?」

「猫です」

「奥さん?」

「猫です」

「猫は話せんでしょうに」

「猫は話せますし、人間の言葉も理解します」

「わかりました」


「この夫にしてこの妻あり、そしてサッチー?あり、というかサッチーってなんだ? 説明しろ」

《私はこの惑星上空に存在する、衛星です》

「衛星? 観測とか通信の?」

《そのような低機能ではありませんが? 舐めないでいただきたい。橋爪三佐》

「失礼した」


《どんな機能があるかは問題ではありません》

「まあ、それはそうなんだが」


《私は長くこの惑星及び星系を観測してきました。そこへあなた方が突然出現しました》

《範囲は、千葉県。チーバ君のすべてだワン》


「ちょっと先に言わせてくれ、サッチーとやら、言語学習をして日本語を覚えたんだよな?」

《ええ、ちょろいもんです》


「もしかして、三星が日本語の標準とか思ってないよな?」

《いいえ、はい。三星を標準とは思っていません。ですが三星は、私にとって標準です》


「よし、もうだめだ。俺には相手ができない。橘さん頼んだ」

「そんなこと言われても」


  * * *

【三星邸 橘】


「そうですね。ではあなたはAIであったり、三星さんが作り出した、私たちを騙すような存在または機械だったりしますか?」


《三星には技術はありません。手先が不器用です。工作機械もないでしょう。好きなのは読書と、ちょめちょ――》

「サッチー。それ以上はいかん」

 人はそれぞれだ。うん。


「一体何なんだか。ではあなたが衛星である証明をしてください」

《あなたは人間であると証明できますか? できませんね。それが証明です》

「答えになっていないと思いますが……」

 哲学になってしまう。


《三星は受け入れてくれました。あるものを否定しても始まらないですよ。ないものをあると言うのはいけません》

「それはそうなんですが」


《橘、あなた、疲れてるのよ》

「そう、なんですかね?」

 うん、市長のおかげで少し休めたが。心配事はつきない。


「おい、橘さん、あんたまで巻き込まれるな。自分を見失うんじゃない」

《ちっ》

「こいつ、舌打ちまで」


《私を証明することはできないですね。あなた方が私を観測できない。私はあなた方が知らない情報の裏付けを出せない(出せるけど)》


「なんか言いくるめられてる気もしますが」

《事実です。では、その事実を使って証明を試みましょう》

《その惑星の直径は――》


「いや、そんな数字を何種類も言われてもわかりませんし、あなたが自身が『証明にはならない』って――」

《では、あなた方にもわかる数字を一つ。その地点の現在の気圧は約0.9気圧です。橋爪、これの意味がわかりますよね》

 

「確かに三星に言われて、帰ってデータを調べた。確かそれぐらいの値だった。あまり普通の事じゃないらしい」


《あなた方が理解でき、観測できる数字で証明できるのはそれぐらいですかね。あとは何を言っても証明にならないでしょう》

「そう言われればそうだな」

 いや、ある気はする。だが、それが何かといわれると、答えに詰まる。


「なんかすみません、私が主導すべきところを代わっていただいて。文系なもので……」

「あ、俺だって別に理系とかじゃないですよ? それで言うなら体育会系です」

「わっはっは。見た目通りじゃねえか」

「うるさい」


「な、だから疑うなって言ったんだよ。俺は心が素直だからすぐに受け入れた。お前たちは社会にもまれて汚れてしまったのだよ」

「お前が一番穢れてんじゃねえか」

 少しだけこの掛け合いが楽しいと思える。


「まあ、そんなわけでとても無駄な時間を過ごしたな。最初から俺の言うことを聞けばいいんだ。お前たちは」

「納得できませんね」

「なんかムカつく」

「ぐははは、今日から君たちは子分1号、2号と呼ぶよ。あ、三佐は3号がいいや」

「なんで俺は3号なんだよ」

「深い意味はない!」


《良いですか? 私も混ざりたいのですが》

「良いよ、良いよ」


《三星の言う通り、最初から素直に受け入れてくださればこんな漫才はしなくて済みましたよね》

「何も言い返せねえ」

「二の句が継げないです」


《さて、私が三星の「ひ・み・つ」です。良かったですね。三星に感謝なさい。1号・3号》

「私が1号ですか」

「だから何で3号なんだよ」


《私の証明はできませんが、私はあなた方の役に立つでしょう》

「なんだそれは?」

「とても興味深い」

 これは聞き逃せない。


《三星の考えを言葉にできます。あなた方が分かる形で》


《ただし、三星が許す範囲だけです》


 絶対に市長に会わせなきゃ。

 でも会わせたらおしまいって気もする。


  * * *

【サッチー】


 よし、間に合った。

 これから投下すれば、三星が望むタイミングまでには届く。

 

 今できることはこれだけだ。

 最善ではない。

 だが、悪くない。

 

 あの人が好きな状態だ。

 

  * * *

【三星邸 三星】


 遅い昼飯を食うと言ってあいつらを追い返した。

 時間になったら迎えにくるだろう。3号が。


「しかし、大丈夫か? 三佐には絶対バレるぞ」

 庭に空いた穴を見つめる。

 

 甲高い音と衝撃音。

 まあ、昼間だ。車も大分少ないが走ってはいる。

 注意深く聞いてなければ、わからないかも知れない。


《回収できたようですね》

「回収はできたが、三佐になんて言い訳すりゃあいいんだ」

《言わないのが一番ですよ。どうせわかりません》


「で、これがお前が言ってたヤツか?」

《はい。とんがり、いえ、コーン状の面部分を二度押してください》

「お、展開した、あれ、外装が消えたぞ? 消えるってなに? 質量はどうなるの?」

《考えてはだめです。感じるんです。焼失するようにしています》


「あぶないだろ? あれ、でも熱くない」

《だから、考えてはダメなの。ぷんぷん》


 うーん、学習が変な方に進んでるな。

 そっちはデータ少ないはずなんだが。

 全くないとは言わない。


《四つの球があります。識別は文字でわかるようにしました》

「確かに文字だが、壱とか書いてあるけど。数字は漢字じゃなくていいんだよ? カッコいいけど」


《順に説明します》

 スルーしやがった。

 

《四は――》

「普通は一からだろう?」

《先ほどと同じように「四」のどこでもよいので、二度触れてください》

「なぜ二回? それだと誤作動するだろ?」

《大丈夫です。私が保証します》


「不思議原理だな。いいよ、お前を信じてるから」

《ぽっ――私は頬を赤らめた。まるで少女のように》

「一人称の私小説か何かか? その系は読まないからわからんが、おっ? 浮かんだ? 浮かぶ?」


 なんだこれ。超先端科学は反重力とか反物質をコントロールできるのか?

 いや、反物質はだめだろう。このサイズだって甚大な被害が出る。


《反重力でも、反物質でもありません。高性能駆動装置による浮遊型観測機器です》

「サッチーもすげぇな。エスパー機能標準装備かよ。で、これの特許は、」

《以前やりましたよね。ちなみにエネルギーは三星から供給を受けます》

「え? 俺吸われるの? 俺発電所? 色々突っ込みどころはあるが、食べる量が増えるとかか?」

《いいえ、一日稼働させても、角砂糖?一つ分もいりません》

「そか、痩せられるかもと思ったが、ダメか」

《四つすべて同じ補給方式です。ですので角砂糖約四つ分となります》


「まあいい。で次は? 参でいいのか?」

《いいえ、弐です》

「なんでだよ!」

 いかん素で突っ込んでしまう。俺の負けになってしまう。

 

《耳、音波を観測する部位の近くに、あまり他の人には見えない位置に貼りつけます》

「さっきのに似てるけど、多少平べったいのか。どれ、耳の後ろに――チクっとしましたが?」

《気のせいです》

 あれ?今、スピーカーじゃなく耳元で聞こえた。


《スピーカーは他者に聞かせる分には良いですが、それ以外はこちらの方が便利です》

 確かに色々と都合がいい。色々とな。


「それよりも、痛くしないでって言ったのに」

《言ってません》


《次は「参」を頭部の目立たないところに同じように》

 痛いのはいやだが、血液検査よりはマシだな。


「はい、つけたよ」

《では、最後に「壱」ですが》


「他につけるところなんて思い浮かばないが」

《飲み込んでください》


「おい、それはちょっと、どうなんだ?」

《あなたが心配するようなバッチいものは付着してません》

「いや、それにしたって、未知の文明が作ったものを体内になんて」

《三星はすでに、耳にも頭にも装置がついています。体内か体外かの違いだけです。それとも怖いのかな?》

「怖くなんかねぇ! チクショウ飲んでやる!」

 飲み込む。味はしない。飲みかけのコーヒーで流し込む。


「飲んだよ。説明よろしく」

《最初に起動させた――》

「番号をつけた意味ないじゃねえか。面白いからいいけど」


《四は、観測機器兼アンテナです。と言っても観測は半径十メートル程度、障害物がある場合は観測できないこともあります》

《特に鉛や水》

「ちょっと待て、それって放射線とか関係してないよな?」

《大丈夫です。多分。きっと。おそらく》


《あなたは色々考えていると思いますが、影響のない数値のさらに十分の一にしています(出典『よくわかる原子力』)。だから半径十メートルです》

「そうか、俺はともかく、よそ様には迷惑かけるんじゃないぞ(二度目)」

《はい。承知しました》


「時間もあまりないからサクサクいこう」

《耳の装置は音声信号を三星に伝達するためのものです》

「骨伝導とか、そんな感じか」

《そんな感じです》


《頭部の装置は、三星の脳の入出力信号を観測します》

 ああ、むき出しの脳に色んな配線がなされている図が思い浮かぶ。

 

《何を考えているかわかりませんが、三星の脳の信号が言動や行動とどう結びつくか観測するためです》

「検査機器みたいなもんか」

《そんな感じです》


《最後はエネルギー吸収装置です》

「もうね、言葉がないです」

《更にはあなたがた人間の、様々な分析をします》


《ですが、寿命は三か月です》

「それを過ぎるとどうなる?」

《体外へ排出されます。ウン――》

「女の子がそんなこと言っちゃいかん」

《はい……きゅん》


《初号機ですので、三か月としました。体内でどのような反応をするか分かりませんので》

「え? 病気とか大丈夫だよね」

《大丈夫 (でしょう)。あなたの端末にあった、『家庭の医学』にあるような症状が出た時は、対処できます(たぶん)》

「言いにくいんだが、『家庭の医学』よりは、違う資料を参考にして欲しかった」

《今後の課題にします》


「まあ、病気とかにならないならいいや。なったら頼むぞ」

《頼まれました。三か月の寿命ですが、改良を進めていきますので、三十日を目途に弐号機を届けます》

「わかった」


《あなたには以前通告しました。あなたを観測すると》

《ずっと、一緒だよ、ぐへへ》


 怖いわぁ

 

「ただ、約束してくれ。俺はお前に何を言われようが、どんな情報をもらおうが、俺の考えは曲げん」

《はい》

「俺は母ちゃんと猫たち。そして、サッチー。お前を守る」


《三星……もし私が不要なら、浮遊する四を壊してください。それですべて元通りです》



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