ep.16 行政の長
タイトル(副題)を改題いたしました。
* * *
【二日目 舟ヶ崎市 副市長】
「港湾倉庫の騒乱が治まりません」
「なぜだ! まだ停電して二日だぞ!」
私に聞かれても答えられない。
市民感情なんて気まぐれなんだから。
「警察は何をしているんだ!」
「出動を要請していますが、市民の数が多く――」
数十人の警察官で、何百人、いや千人以上いるのか?
私も直接見たわけじゃないが、部下からの報告では、それぐらいいると言っていたな。
抑え込めるわけがない。
「役に立たん! 自衛隊を呼べ! 構わん、力で抑え込め!」
「市長、要請はしてはみますが、おそらくできないですよ」
「お前もワシに歯向かうのか!」
歯向かうとかじゃない。
自衛隊は役割が違うでしょうに。
それすらもわからないのに市長なのか?
「とにかく、抑え込むんだ!」
「お願いはしてみます。ですがそれだけじゃありません」
もういい加減わめき散らすのはやめて欲しい。
唾が飛んでくる。
「古い市民と新しい市民で軋轢がひろがっています」
「軋轢ぃ? なんだって言うんだ」
「わかりません。町内会に入っている入っていないとかで備蓄がどうとか」
「なんだそれは? 分け合えばいいじゃないか!」
分け合うなんてできないだろう。
古い住民は古い住民でまとまる。
比較的最近この市に来た住民は町内会に入らない方が多い。
「つまらんことで、ワシの手を煩わせるな!」
あんたが動かないからこうなってるんじゃないのか?
「すみません。関係各所に『要請』してきます」
「すぐにいけ、とっとと行くんだ! くそ!」
ああ、行くよ。
そしてもうここには戻らない。
仕事はここだけじゃないから。
キャリアがだめになった。
無駄な時間だったな。
* * *
【県庁 県知事】
「こんなにひどいのか……」
たった二日だ。
なのに、県民は我先に物資を求めてる。
「知事、県警と各消防本部からの要請で、県内の関係組織による協議体の立ち上げが急務とのことです」
限られた通信網で協議体? 災害対策本部ではなく? 実現できるのか?
災害対策本部はだめだ。私が責任者に就かなきゃいけない。
それに、協議体だって実現した後どうするんだ?
私が責任を負うのか?
「あ、ああ。それは議会に諮って決めましょう」
議会って言ってもほとんど誰もいない。
連絡がとれた者も、病気だ、都合がつかないといって登庁拒否。
議長と数人しかいない。
「私が決めた方がいいですか?」
決めたくない。
「知事、あなた以外に決定する者はいません」
なぜ、私の任期中にこんなことが起きるんだ。
せめて、停電か通信不通のいずれかだけなら何とかなるのに。
運が悪い。
「その件については、少し保留にします。議会の議長を後で呼んでください。相談します」
議長の意見を聞いて、議長に委ねてしまうか。
ああ、頭が痛い。
帰りたい。
* * *
【松戸市議会 市長】
「すみません、マイクが使えないので、出来るだけ前に集まってください」
そのために急遽パイプ椅子を用意した。
私もいつもの壇上ではなく、皆が見渡せる場所に陣取る。
「市長、どうなってるんだい?」
「どうもこうも、電気も電話もだめですね」
「そっか。回復見込みもないのか」
見込みがあれば多少は笑っても許されるんだろうが、今は一切笑えない。
だが、顔をこわばらせてもだめだ。
「水道の件もあります。火災は消防ができるだけ回ってくれてますが、すでに全焼も出ています」
「厳しいな」
「水道はどうなんです?」
比較的若い市議だ。
「ポンプがもつ限り、つまり燃料がもつ限りは送れますが、かなり厳しい状況です」
「下水も厳しいって?」
「そちらの方が急務ですね。ですが、今下水管に何も流すなというお願いはできません」
「そりゃそうだ。何も知らない人のが多いだろう」
「橋は? 復旧できるのですか?」
「資材もないですね。当面、というかこちらからアクションを起こすのは難しい」
「そうですか」
「で、今後は?」
「電気は病院など、今の命をつなぐために優先します。また、可能な限り通信をなんとかしたいと考えてます」
「何とかなるんかい?」
「具体的な方策はありません。ですが市民を不安の中に置き去りにはできないですからね」
だが、通信を回復できるのだろうか。
根本的に考え違いをしている気がする。
「議会でできることはあるかい?」
「あります。可能な限り市民の声を聴いてください」
「なるほどな。わかったよ」
「陳情を受けるのも我々の仕事だ」
陳情なのかな。
不安だと思う。そして苛立ち。
「まだあるかい?」
「お願いとしては、知ってることは市民に話してください。未確定の情報でなければ何をお話くださっても構いません」
「真実に勝るものはなしか」
そうだ。
噂を消すには真実をぶつけるしかない。
真実を皆に提供し続ける必要があるが。
「市長」
「なんでしょう」
「準非常事態宣言だってな」
「はい、独断ですみませんが動きました」
「構わん、その決断力と行動力を市民が認めたんだ」
「我々も、でいいかい? 皆さん」
「ああ」
「勿論です」
「市民のためにあんたが先頭にたって働け」
「俺たちはあんたを支える」
「ありがとう、ございます」
また背負うものが増えた。
大丈夫。
橘さんや市役所の職員、消防、それだけじゃない。
多くの人が手伝ってくれる。
動こう。
先頭に立って。
* * *
【松戸 市長室 橘】
「市長、お疲れ様でした」
議会から帰ってから、より一層パワフルになった気がする。
「お気遣いありがとうございます。ね、橘さん」
「はい?」
「珈琲でも飲みませんか? あまり良い豆じゃなくて申し訳ないが」
「珈琲? いやのんびりしてる暇はないですよ?」
「五分だけでもいいです。あ、サイフォンなんで、もうちょっとかかりますが」
「誘惑には駆られます。すみません、こんな非常時なのに」
「いえいえ、ずっと動き続けですからね。私からの特別賞与と思ってください」
「それで終わりじゃないですよね?」
「え? おそらくこれで夏の分は終わりですよ?」
「ちょっと、考えさせていただいてもいいですか?」
「ははは、冗談です」
冗談か。楽しそうだ。
三星さんの話を聞いてから、市長は何かを考え続けていた。
私はいまだにわからない。
だが、市長は何かを見つけたようだ。
悔しくはある。
あの人の言葉を理解したいと思うようになってしまってる。
大半が戯言なのはわかってるんだが。
「おや、橘さん笑ってますね? いいことがありましたか?」
「お恥ずかしい。三星さんのことを考えてました」
「橘さんはそっちの趣味が――あ、失礼しました。私は別にあなたの趣味嗜好にどうこう言うつもりもありませんし――」
「違います!」
「わかってますよ」
とても話しやすくなった気がする。
三星さんが市長に安心を与えたのだろうか?
あの人が? あり得ないな。
「三星さんの話。まだ正解は見えてきません。だが、私なりの解釈はできます」
「市長でもわからないのですか?」
「ええ『だいぶ良いように解釈して』と注釈がつきますがね」
「それは、そうでしょうね。私には良い解釈も悪い解釈もできません」
根本的な勘違い、行き違いがあるように感じる。
視点がそもそも違うのかも知れない。
だが、どこに視点をおくのだろう?
「もしかしたら、解釈そのものも間違っているかも知れませんね。出発点とゴールが違うような」
市長も同じ感想なのか。
「橘さん、いろいろ思うところもあると思います。また、抱えている仕事も多いと思います」
今度は何を言われるんだろう。
あの人のところに行くのはいい。また話を聞いてこいというなら、メッセンジャー役は受け入れよう。
「可能な限り、あなたの役割を他の職員に割り振ってください」
「え? 免職ですか……」
ここまで市役所に尽くしてきたのに。
「違います。あなたは可能な限り、三星さんの言葉を私に伝えてください」
「いやです」
「え?」
あの人のところで無駄話を聞くぐらいなら、その時間で多くの市民を助けられる。
だが、本当に助けられるのか?
私に?
「あなたは、市役所で唯一、ああ、私もいますが市長としてはお会いしてませんね」
「市長に命じられたから会っただけです」
「確かに、ですが、おそらくあの人の話を聞ける人はこの市役所には見当たらないでしょう?」
どうだろう?
聞くだけなら誰でもできると思う。
おそらく水道課の課長なら喧嘩しながらも聞くとは思うが。
「これから私たちが行うのは、当面の対処だけです」
「それが今できる最善だと思います」
「ええ、そうですね。ですがこの先、私たちでは考えつかない未来が待ち受けるなら、どう対処しますか?」
あの人は、もう遅いと言った。
何が遅いのかはわからない。
だが、考えつかない未来があって、その対処を早くできないなら、「遅い」という無理やりな解釈もできなくはない。
「たびたび職責を変えて申し訳ないのですが、あなたを市長代理に任じます」
「市長、代理? そんな大役はお受けできません!」
議会にも諮らずに勝手に決めてはだめだ。
市長の見識が疑われてしまう。
「議会は私を支援してくれます」
「言ってませんが、議会とは」
「あなたが考えそうなことですよ」
私は単純な人間なんだろうか。
自信とかこれまでの積み重ねが崩れていく気がする。
「それにやることは難しくない。いや、ある意味難しいかな?」
聞きたくない。
もうおおよその予想はついている。
「三星さんの住む町内会に市長代理として派遣します。権限はほとんどありません。ただ聞いて報告する係です」
絶対に嫌だ!
* * *
【南房総 役場】
「水は大丈夫そう?」
「そうですね、湧水も枯れてないですし、しばらく持ちそうですね」
役場から少し距離のある川。
源流と小さな沼。
澄んだ水。
「まあ、飲み水にしなけりゃ井戸もあるもんね」
「沸かせば飲めるでしょう」
畑も家畜も問題ない。
人口だって少ない。
「消防団はどう?」
「ずっと見回りしてくれてます」
「バイク好きが多いのが助かるね」
「燃費が違いますからね」
二台、二人一組で地区を回って、火事だけでなく、急病人や足のわるいお年寄りを見る。
「太陽光パネルがなあ」
「邪魔ですねえ」
停電になって期待したのが太陽光パネル。
だが、それを使うことはできなかった。
地域に電気を配る。そんなこともできない。
保守は東京からわざわざ派遣されて来る。
それも半年に一度。
「ゴルフ場、開放したんだって?」
「ええ、サービス無しの条件で、好きに回っていいって」
「爺さんども喜んでたろ」
「いつも高い高いって言ってましたからね」
「学校は?」
「地区に住んでる教師が、通常の授業とは違う特別授業をしてるみたいです」
「へえ、何教えてるんだろ」
「この地区の古い歴史や電気も水道もなかったころの話らしいですよ」
「あの若い教師がよく知ってるな」
「東北の奥の方の出身らしいですが、赴任の前に調べてたからって言ってました」
「まあ、子どもらには良い経験になるだろうなあ」
「そうですね、私も時間があいたら聞いてきます」
「お、いいね。俺もいこうかな」
「なんなら、リヤカーに人乗せて皆で行きますか」
「駐在に怒られるぞ」
「大丈夫です、彼も巡回と言いながら、自分の子どもと一緒になって聞いてます」
「あはは、消防団もそこに報告にいくわけか。こりゃ合理的だな」
「そうですね、しばらくはあそこを役場にしましょうかね」
「悪くないね」
【読者諸氏】
先ほど第2章を脱稿しました。随時校正、確認し予約投稿をいたします。
原則一日一話としておりますが、状況により遅延する場合があります。ご容赦ください。
投稿はしばらくの間、4時とします。
ただ、もしこの話を読むためにその時間まで起きていらっしゃるとしたら大変申し訳ないので、早めが良い、遅めが良いなどのご希望があればお知らせください。
【感謝】
はじめての「小説家へなろう」投稿のため、わからないことばかりで四苦八苦しております。
基本的には私が読みたいものを書いております。
バトルや魔法万能、ご都合主義も面白い作品が多く学ぶことばかりです。
私個人としては、空想の世界であってもできるだけ体感しやすい、身近なものが好きなため、どこかつまらない作品になってしまうかと思います。
投稿当初は読んで下さる方がいるかわからず、毎日アクセス数を見ておりましたが、今日では十数人という固定読者が居られるようで、大変ありがたく、また心強く、励まされております。
構想は第3章、4章、それ以降と進めておりますので、もうしばらくお付き合いいただけると幸いです。
未明の4時台に読んでくださる方々、時間不定でも追いかけてくださる方々に心より感謝申し上げます。皆さまが読んで下さるおかげで毎日投稿できております。
引き続き千葉千日をお楽しみいただけたら幸いです。
追記 改題いたしましたが、内容や方針の変更はございません。
今後ともサッチーメイン(えええ?)で参りますので、よろしくお願い申し上げます。
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