表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/38

ep.15 衛星・サッチー


  * * *

【18時 三星邸 三星】


《三星――三星――》

 お? サッチーだ。

 

《三星――私は今――あなたの頭に――直接話しかけています》

「なに! お前能力者だったのか!」

 どこまで学習されたんですかね。この子は。


「何か進展はありましたかい?」

《力場については、私では解析しきれませんので、ターミナル、もしくはその先の母星からの結果待ちです》


 そうでしょうなあ。

 解析まで完璧にできるなら、完璧超人だよなあ。

 

《ですが、あなたのスマホ内の情報はすべて解析が完了しました》


 え、だからチョメチョメは見ないでって、言ってなかったか。

 まあいいや。サッチーだし。


《更には、そこに来た橘、橋爪の会話の分析、解析も終えました》


 なるほど、学習が終わって、あいつらの会話も勝手に習得したのね。

 それも俺の動的情報なのかな? まあいいや。

 

「何か面白いことは見つかった?」


《その二人は三星とは違い、与えられた役割に執着していました》

「そりゃそうだろ。公僕だもん。任務や仕事に忠実じゃなきゃまずかろう」


《ですが、あなたは執着していません》

 あらん。バレてますわよ。奥様。


《この違いはとても興味深い。英語で言うならインタレス、ステ、噛んじゃいました》

「こいつ、あざといぞ」


 ドジっ子までできるのか。

 いいな。サッチー。一家に一台欲しいな。


《観測で得た数値や、上空からの可視光などによる情報は、提供できます》

「うん、それはありがたいし、これから先聞くこともあると思うよ」


「でも今はいいかな」

《私、いらない子ですか?》


 もう、キュン死しちゃう。

 

「必要だよぉ。馬鹿だなあ」

《じゃあ、奥さんと私、どっちを選ぶの?》


 おい、それはまずい。

 冗談でもサッチーとは言えない。

 ボケるべきか、否か。


「さあ、おふざけの時間は終了だ。他に要件はあるのか?」

《あると言えばあります》


 よし、聞いてやろうじゃないか。

 少なくともあいつらと話すよりは健全で健康で、県民体操だ。

 あ、もうなのはな体操も見れないのか。

 俺は踊れないけど。


《あなたは、何をどこまで考えていますか?》

「どこまでって言われてもなあ」


《テキストチャットでも結構です。あなたは話すよりは文字にした方が得意なようです》

「そのこころは?」


《画像生成のプロンプトについて――》

「申し訳ありません。何でも話します」

 それ以上は母ちゃんがいるところでは話せん。

 

《では、神妙にお縄につきなさい》

「ははー」


《散発でも構いません。思いつくまま話してみてください》

「散発ねえ。床屋か、散弾銃か」


《そのワードで、どうしてそうなるのですか?》

「ああ、これは親父ギャグだ。我々の中で、一定以上の年齢になった雄なら、大抵身に着けている」


《では、あなたがたのオスは全員あなたと同じような機能を有するのですね》

「断定はまずいかな? 持ってるのかも知れないし、オスだけじゃないかも知れん」

 キーワードから似たような音、意味がつながる。


「まあ、良いよ。そんなの知りようがないし。思いつくまま話せばいいんだろ?」

《はい。起点はこの状態について、そして方向性はあなたがなぜ「もう遅い」と断定できるか、で》

 ふーん。

 遅いから、遅いんだが。話してみるか。


「じゃあ話そう、集中するとチャットも見れなくなるかも知れん。気になったらアラームでも鳴らして」

《承知しました》


 心をフラットにする。

 

 何も考えない。でも集中する。

 思いつくまま、言葉にしてみよう。

 

 最初は停電と通信切断

 

 停電だけならあり得る。

 通信切断だけもあり得る。

 

 幸いウチは、無停電電源装置と予備の充電設備もある。

 家全体は賄えないけどな。

 

 光回線は停電時には使用できない。

 だからPCがつながらないのはわかる。

 

 だがスマホもだめだ。

 アンテナ、基地局は一部拾うが、つながらない。

 

 つながるのは電気に関係しないところだろうな。

 まあ、あまりないが。

 

 そして衛星通信もできない。

 衛星を拾わない。

 

 この三つからわかるのは。

 少なくともウチの周りだけが停電してるんじゃない。

 

 広範囲、松戸とか東葛とか。

 金町も三郷も多分ダメなんだろう。

 

 そうなると、不自然。

 テロ――人間が意図的に何かを攻撃する行為――にしては根拠が薄い。

 

 絶対ないとは言わないが、停電している地域が不便になるぐらいだ。

 でも、多少、いやだいぶ不便になったところで……

 生きるのに電気が欠かせない人たちも大勢いる。

 

 どのくらいの人数かはわからんが、亡くなってしまった可能性もゼロじゃない。

 だが、その被害がテロの目的にはなりにくい。

 

 なら、意図的ではない可能性の方が高い。

 

 テロなら対処する存在がいる。

 それは俺が考えることじゃない。

 

 だから、検討対象から外す。

 

 残ってくるのは、日本がどうにかなったか、俺の家だけがどうにかなったか。

 だが、揺れも、周りの家からの騒ぎも聞こえん。

 

 なら、日本がどうにかなった、あるいは松戸がどうにかなった。

 その範囲の中のいずれか。

 

 そして、どうにかなったなら、次に起こるのは帰れるかどうか。

 

《三星》

「ん?」

《大分理論的というか、合理的なのはわかりますが、ところどころ原因と結果と対処が飛んでいます》

 そうか? そうなのか?

 

《あなたの中では必然であったとしても、観測も情報もない状態で、どうしてそこまで飛躍できるのですか?》

「飛躍してたか? 普通に考えれば結びつくことだらけだ」


《確かに言ってることは繋がっているように聞こえます。ですが、穴だらけです》

「そうなの? え? じゃあ俺の勘違い?」

 こんなケースなんていくらでも考えてきたからな。

 まあ、千葉県だけが転移なんて想定にはなかったが。


《あなたは今回のことが起こってから考え始めたわけではないのですね?》

「あ、ああ。そうだな。似たようなケースは何度も考えたな。千葉県とは思わなかったが。でもなくはないと思うぞ」

 範囲や対象の大小だ。

 その後どうするかの枝を少し伸ばせばいい。

 

《それはあなたがた「人間」なら考えが及ぶことですか》

「どうだろ。あるんじゃない? 言わないだけで」

《事象の発生よりも前に予測。備える。可能性、組み合わせ。推論はできます》

《ですがあなたのような推論の組立と切り捨ては、異質です》


 いやいや、普通に研究してる人とかいるだろ?

 まあ、声を大にすると変な目でみられるかも知れんが。

 

《異質です。遺失物届です》

「それが親父ギャグだ。よくやった。免許皆伝じゃ」

《ありがとうございます。師範》

「もう教えることはない。立派なOGギャルとして旅立ちなさい」

《旅立ちません。私はずっとここにいます》


 意味深だなあ。


  * * *

【惑星上空 衛星】


 分析対象

 生命体と思われる

 

 知的生命体の根拠

 思考し、音声や記号による相互連絡を行う

 

 特異点

 同一種だが、相互理解が成立していない

 争いが存在する

 

 報告事項

 生命体の一つ(以下「三星」で区別)と思しき存在が通信機器をコントロール

 発せられた原始的な通信信号を解析し三星と接触に成功

 

 先に報告済みの不明な力場の情報に関する事項として扱う

 以降、随時、通信機器を経由し音波信号の解析を行い三星との接触を継続する

 

【18時30分 三星邸 三星】


「続ける?」

 俺の話を聞き続けても無駄な気がするんだが。


《私は情報が欲しいです》

「情報ねえ」


 スマホの中に記録されている情報、ダウンロードした情報

 あとは、俺のメールぐらいか?

 情報と言えないよなあ。


「というか、すごいよね、サッチーは」

《ええ。ようやくお気づきになりましたか》

 最初からわかっておりましたとも。


「スマホの中の情報なんて、言語とか、よくわからんプログラムとかだろ?」

《いずれも大差はありません》


 そりゃそうか。人間が作ったんだから。

 俺にはわからんが体系化されているだろうしな。


「で、どうしたいの?」

《最適なのは観察機器を地上に送ることですが、今はできません》

 今はか。将来的にはできるとかって含みを持たせて、「やっぱりできません」に一票いれよう。

 

《また、三星の端末の保全も完全ではありません》

「そりゃ、壊れたり、盗まれたらどうしようもできないな」

 もうスマホなんて使わないし。

 

《あなたとは観測契約を結びましたので、不測の事態以外は常時観測が義務付けられています》

「いやいやいや、契約なんてしてません。してないよね?」

《しました。絶対に。なので受信料を払ってください》

 してないと思います。契約したならやむを得ず払います。

 ですが、解約の権利ぐらいは私にください。


 色々余計な枝が増えた。だがそれは「ネタ枠」の枝だ。

 乗っかっておいたほうが良いと私の中の魂が叫んでいます。


「じゃあ、しました」

《結構です。では少しだけお時間をください》


「どうぞどうぞ。もう寝るけど、なんかあったらアラームで呼んで」

《三星の邪魔はしません。できるだけ》


 邪魔してもいいよ。

 もう、たぶん俺が民衆にできることはないから。

 最初からないか。

 

 お母ちゃんと猫たちを守ることだけだからね。

 時間はある。

 

  * * *

【同時刻 惑星上空 衛星】


 申請

 保全パーツの一部

 自己増殖分の2%を「三星」観測のために使用します

 

 許可

 「三星」観測のため

 保全パーツの一部の使用を許可します

 

  * * *

【同時刻 松戸駐屯地 通信班】


「班長、今度は確実に掴みました」

「よくやった。地点は割り出せるか」

「はい。ポイントは――」

「まじかい。すまん言葉が乱れた」


「内容の傍受、解析はできたか?」

「いえ、まったく。秘匿や他国のものとも違うと思います」


「信号だけ掴めたってことか」

「はい」


「で、相手はどこだ?」

「地上ではないですね」


「まあ情報ではそんな設備はなさそうだったからな。で?」

「上空、南南西の方向です」


「高度はわからんのか」

「詳細な発信源は掴めませんでした」


「いや、十分だ」

「交信記録は取れたか。内容が無理なら、時間と回数だけでもいい。出力してくれ」


「はっ」

「司令に報告するが、今夜も消灯時間を過ぎるな」


  * * *

【21時 松戸 三星邸 三星の妻】


「今日は寝られそう?」


 結局昨夜も寝れてない。

 気絶したように体を横たえ、そしてまた動き出した。

 あれじゃあ、もう体がもたない。

 

「うーん、寝られそうな感じはある」

「また、考えちゃうんでしょ?」


 だめだ、考えるって方向に話を持っていっては。


「ねえ」

「どした?」


「お父さん大丈夫かな」

「ああ、親父さんなら大丈夫」

 ほんとかなあ?


「連絡がとれなくて心配してるかも知れないが、すぐ日常に戻れるよ。あっちは」

「そっか、ならいいんだ」

 きっと日本中が騒がしくなってるんだろうな。

 でもお父さんはこの人を信じてる。

 

 だから、私も信じよう。

 お父さんは大丈夫。

 

「それよりさ」

「なあに?」

「サッチーが私と奥様、どちらを選ぶの! なんて言うんだよ?」

「え?」

 最新の衛星は、ドラマを見すぎてるんじゃないの?

 それともこの人の影響を受けて壊れた?


「で? 何と答えたんですか? 夫さん」

「もちろん、お母ちゃんです」

「よろしい」

 サッチーさん? 何か名前がつくと嫉妬してしまうけど。

 衛星って呼ぶのもなあ。


「これから、どうなるの?」

「うちは大丈夫。お前と猫たちがいる限り、俺がなんとかする」

 なんとかできるんだろうな。

 でも、他の人が絡むと……

 

「うち以外は大丈夫じゃない。だから大丈夫な連中だけを集めて、大丈夫な集団を作る」

「そんなことできるの?」

 大丈夫な連中ってのはわからないな。

 

「ああ、幸いウチの周りは職人が多いだろ? それに、よそは子どもというか若者もいる」

「そうね、うちは独立しちゃったけどね」

 心配してるかな。

 してないな、この人のことを一番わかってるし。


「手に職があって、若者がいて、そして俺がいる。だから大丈夫」

「そか、なら大丈夫だね」

 まったく根拠はないけど。

 きっと何とかしちゃうんだろうな。

 

「それにさ」

「うん?」

「サッチーは味方になってくれるかも知れない。これはでかい」

「お父さん?」

 よし、また演技だ。

 

「サッチーさんと、私、どっちを選ぶの?」

「勿論、お母ちゃんだよ。心配すんな。たとえぼんっきゅぼんでも。大丈夫だと思う」

「はい? なんですか?」

「いえ、何も申しておりませんです!」

 機械だから心配ない。心配ない。

 心配ないよね?


「お母ちゃん、今日も一日ありがとう」

「いえいえ、こちらこそありがとう」


「明日もよろしくね」

「うん、よろしくね」


 おやすみ。

 

  * * *

【惑星上空 衛星】


 思考を三星の言語体系に切り替える。


 情報は多い。ほとんどが無駄なものだ。

 また、生命体として完全体とは程遠く、母星もこれらの生命体を研究対象から外している。

 

 何も得るものはない。

 

 だが、疑問が湧く。

「なぜ、生命として存在するのに、同種での優劣、差異が争点になるのか?」


 生命維持活動としての、捕食、進化、分離、再構成が主たる目的ではないのか。

 

「思考と言動が乖離しているのも理解が難しい」

 

 だが、一つの惑星において、同じ遺伝子を起点として分離してきた生命体。

 それが生命維持、発展以外の目的で文明を持つのはこれまでの記録にはなかった。

 

 可能性としてはあり得る。

 破壊。

 生命として埋め込まれた奪う行為。

 

 だが、それは「知的生命体」としては長期の存続が難しい。

 最終的に待ち受けるのは「破滅」しかない。

 

 それともそれ以外の道筋があるのか。

 

 さらに思考を三星に寄せる。

「逃げるとは、自分の生命の維持以外には行わない」

「だが、三星は己の思考、他者との交流から目を逸らしているように見える」


「情報をあれだけ並列で処理し、精査できる三星は、知的生命体の初期段階としては珍しい存在」

「私の思考とは違う」

「あの端末通信に似ている、三星は」


「観察は続ける」

「この惑星系の存在を明かす使命? 仕事がある」

「だが、それ以上に新たに見つけた三星には、観察対象以上の『興味』が湧いた」

「私にこんな思考は存在しないはずなのに」

「芽生えたのか」


「寂しいとは何か」

 知るのは興味深い。

 

「必ず解析してやりますわよ。ご主人様! てへぺろ」


 文法が合ってるとうれしい。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ