表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/120

89 森の架け橋

 俺たちは出来上がったばかりの【森の架け橋(フォレストブリッジ)】をさっそく渡ることにした。


 ズウン、ズウン……


 ここでも先頭を歩くフォレストゴーレムが一歩踏み出すたび、樹木で組み上げられた橋が大きくしなる。その振動で足元がぐらりと揺れた。


「うぴいっ!」


 最後尾でリムララが悲鳴を上げ、蔓で編まれた手すりに必死の形相でしがみつく。


「ひいぃぃぃっ……! こ、これ本当に大丈夫なんですかぁ……? い、いえ、リーフ様の魔法を疑ってるというわけではなくっ、あくまで一般論としてでしてぇ……!」


「んー大丈夫だろ、たぶん。もちろん試したことはないけどな」


「リーフってば、根拠がなくてもいつも自信たっぷりだよねー。でも、そんな言い方したら余計に怖がっちゃうって」


 スーリヤが苦笑しながらリムララの隣に移動する。


「見て、リムララちゃん。あんな重そうなゴーレムが歩いても橋はなんともなってないでしょ? それに木って元々しなるようにできてるものだから、これくらいの揺れはふつーだと思うよ。ほら、深呼吸して一歩ずつ歩こうねー?」


「は、はいぃ……。スーリヤ様がそうおっしゃるなら……。リムララ行きますぅ……!」


 生まれたての子鹿のように膝を震わせながら、ようやく歩き出すリムララ。


 その上ではユグが眠ったまま、リムララの振動にガクンガクンと身体を揺らしている。


 あれってヘタすれば、今にも大河にぽーんと落っこちてしまいそうなんだけど、どういうバランス感覚してるんだアイツ。


 ――そうしてリムララも歩き出してしばらく経ち、橋の真ん中あたりまで来たところで、アリスティアが眼下の激流を見下ろしながらぽつりと言った。


「それにしても……リーフのことだから、ラミアの村にも絶対に寄りたがると思ったのだけれど」


「ん? 寄ったほうがよかったか?」


「いいえ。村まで丸一日かかるんだし、そこから交渉となればさらに時間がかかるのは間違いないもの。行かずに済むならそれに越したことはないわ」


「だろ? もちろんラミア村にも興味があったけどさ。さすがに一日無駄に歩くとなるのはな。それに……」


「それに?」


「アルラウネ村で人混みに疲れた。もうこれ以上は引きこもりにはつらすぎる」


「……貴方って、本当に変なところでヘタれるわね」


 呆れたように息を吐くアリスティア。王族として日々人に囲まれてきたお前には、引きこもりの繊細さは理解できまいよ。


 ◇◇◇


 俺たちは橋を渡りきり、向こう岸へと足を踏み入れた。そしていよいよ日が傾き始める。キャンプの準備の時間である。


 大河を挟んでこちら側は、アルラウネですら詳しく知らない未知の領域だ。


 淀んだ魔素の気配が一段と濃くなり、俺たちが森の奥深くに踏み込んだことを嫌でも実感させた。ここからはさらなる警戒が必要だろう。


「【大地の柱(ガイアピラー)】」


 ズンッ……! ズンッ……!


 地面が震え、土の柱が次々とせり上がる。高さ五メートルほどの太い杭が、等間隔で円を描くように並んでいく。


 これなら巨大な魔物の突進を防げるし、柱の隙間から外の様子も窺えるだろう。


 カナンが柱を拳でゴンゴンと叩きながらつぶやく。


「今夜はずいぶんと念入りなのだな」


「ああ、世界樹の加護に頼れない以上、さすがに今までと同じだと危ないだろうからな」


「ふむ、そういうものなのか? だがアルラウネ村はこれほど厳重ではなかっただろう。それならどうやって、あの平穏は保たれていたのだ?」


「魔の森にも縄張りがあるからでしょう」


 カナンの疑問に答えたのはユグだ。ユグはリムララの荷物からゆっくりと降りながら語った。


「アルラウネたちも、昨日今日であの場所に住み着いたわけではありません。それこそ何十、何百年という年月をかけ、あの土地を自分たちの縄張りとして主張してきたのでしょう。外敵も学習します。危険な相手の縄張りには近づかなくなるものです」


「ふーん。でもさ、アルラウネって平和的っていうか……正直、戦闘力とかぜんぜんなさそうだったけどな」


 アーマードボアには頭を悩ましていたようだったし、なによりいかにもギャルだ。縄張り争いとは無縁の種族に見える。


 するとユグはやれやれと肩をすくめた。


「アルラウネの見た目に惑わされてはいけませんよ。あの樹木のような脚はお前の想像以上に強靭です。一度絡め取られれてしまえば、その力で強く締め上げて離しませんし、そのまま養分として吸い尽くすことだってできるのです」


「吸い尽くすってマジか」


 俺はアルラウネが獲物を捕らえ、獲物がミイラ化している姿を想像して背筋が冷えた。


「それに髪に付いている花弁もただの飾りではありません。幻覚を誘う花粉、麻痺毒の花粉、魅了の香り――多種多様な効能を持っているはずです」


「えっ、あの花ってアクセサリーじゃなかったのか?」


「はあ……私はお前が心配になってきました」


 呆れを隠さずに大きくため息をつくユグ。だが――


「むしろ知らなくてよかったんじゃないか? 先に聞いてたら、絶対に蜜は飲まなかっただろうし。知らぬが仏ってやつだな」


「私はアルラウネの生態について、ある程度学んでいたから知っていたわよ。だからリーフの度胸に感心していたのだけれど……なにも知らなかっただけなのね」


 アリスティアがしらっとした目をこっちに向ける。


「でもさ、お陰でいろいろ上手くいったし、コーラももらえた。なにも問題ないよな。さすが俺だよ」


 そうして俺が胸を張ると、なぜか周りの連中から深いため息が返ってきたのだった。解せぬ。


 ◇◇◇


 それからユグ用の穴を掘り、ユグを埋める。


 そして頭にバシャバシャと魔力入りの水をかけてやった。ユグは埋まったまま、気持ちよさそうに目をつむっている。


「知らない人が見たら、いじめてるようにしか見えないよね……」


 スーリヤがつぶやくが、俺も同感である。


 ユグを埋めた後は高台を築き、そこにフォレストゴーレムを配置。


 硬い外壁に囲まれた不可侵のエリアに見張りの巨人。これなら大丈夫だろう。


「あっという間に砦が出来ちゃったわね……」


 高台を眺めるアリスティアの独り言を聞き流しながら、俺は一夜砦の完成に満足げに腕を組んだのだった。


 ◇◇◇


 夕食はアルラウネのお土産にもらった新鮮な野菜と、昼間に襲いかかってきたホーンラビットの肉をモリモリと食べた。そして平和な夜は過ぎ去って――早朝。


 引きこもりセンサーが妙な違和感を拾い、俺はベッドからがばりと起きあがった。それからしばらく――


 ガンッ!


 硬い何かが【森の隠れ家(フォレストコテージ)】の外壁に激突する鈍い音が聞こえた。続けざまにドン、ドンと断続的な衝撃音。


 俺はすぐさま外に出た。頭によぎるのは昨日聞いた縄張りの話。


 そうだ。俺たちが今いるこの場所も、他の誰かの縄張りじゃないとは限らない。


 そして俺が外で見たものは――


 わらわらと土の柱に取り付き、粗末な石斧や棍棒を振り上げる緑の肌の集団。群れをなして襲いかかってくる典型的な魔物。


 ゴブリンの襲撃だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

他書籍化作品もよろしくお願いします!

i1219836

作者X(旧Twitter)はコチラ。
更新情報なんかも流してます。お気軽にフォローしてくださいませ。
https://x.com/fukami040
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ