88 フォレストゴーレム
「出てこい。【森の巨人】」
俺の魔力に反応し、地面がうねり大きく盛り上がる。土と根が絡み合い、轟音ともに巨大な人型が姿を現した。
「うお、でっか……」
自分で創り出したのに、見上げて思わず声を漏らす。
全長およそ三メートル。土と岩、苔むした樹木が編み込まれるようにして出来あがった巨体は、森の風景に溶け込みながらも圧倒的な存在感を放っていた。
カナンが慌てて剣を抜く。
「なっ……! これはなんだ! なんなのだリーフ!」
「【森の巨人】だよ。自動で魔物を倒してくれる、すごいやつだよ」
「こ、これが自動で魔物を倒すだと……? ただのデカい土人形にしか見えんぞ……」
当然ながら3ゲットロボネタは通じなかったが、カナンが首をかしげながらフォレストゴーレムの足をツンツンと突く。だがフォレストゴーレムはじっとして微動だにしない。
「俺も動かしてみないことにはよくわからん。とにかく進んでみようぜ」
俺はいつも通りイメージを世界樹の根幹に流し込み、それを顕現させるだけだからな。
細かいところは世界樹が勝手に最適化しているので、俺のイメージがどう反映されているかは世界樹次第なのだ。
ズシン……ズシン……
フォレストゴーレムを先頭にして、俺たちは森の奥へと進み始める。
巨体が通るたびに邪魔な藪が左右へ押し分けられ、自然と道が開けていく。これだけでも快適で、十分価値があるよな。
そうしてしばらく進むと、角の生えたウサギの魔物――ホーンラビットが茂みから飛び出してきた。
「――ギイッ!」
ホーンラビットは一瞬フォレストゴーレムの巨体に怯んだが、すぐに牙を剥いて一直線に突進してくる。
「ボ」
フォレストゴーレムが低く唸る。そしてサッカーボールでも蹴るかのように右足を振り抜いた。
バァンッ!
まるで水風船が弾けたような濁った音が耳に届き、ホーンラビットが弧を描いて樹海へと吹っ飛んでいった。遠くで木々がガサガサと揺れ、その気配はぴたりと途絶える。
「おっ、ナイスシュ――」
「キュイイイイッ!」
今度は俺の声を遮るように怪鳥の鳴き声が響いた。
見上げると、上空を旋回していたアビスバード三羽が鋭いくちばしをこちらに向けて急降下してきている。
「ボ」
フォレストゴーレムは悠然と両腕を空へと構えた。
シュパァンッ!
「えっ、なんだコレ!?」
思わず声が出た。なんとフォレストゴーレムの両腕が空に向かって射出されたのだ。完全にロケットパンチじゃん。
そして真っ直ぐ飛翔した両腕は、アビスバードをまとめて巻き込んで空中で粉砕。アビスバードは羽と血を汚い花火のように巻き散らし、そのまま墜落していった。
直後、腕が無くなった断面からはズモモモモ……と新たな腕が伸びていき、あっという間に元の腕が再生されたのだった。
「はわわわわ……。すごいっ、すごいですぅ……!」
リムララが目をキラキラさせながら、フォレストゴーレムの周囲をぐるぐると回る。
「んにゃぴ……」
背負った荷物の上ではぐっすり眠ったユグがゆらゆら揺れて落ちそうになっているが、リムララが気づく様子はない。
「見た目はただの人形なのに、みっちり詰まった膨大な魔力を感じますぅ。その魔力がこの力を生み出してるんですねぇ……。はわわぁ、すっごぃですぅ~」
やっぱりドワーフってこういう魔法工学っぽいものが好きなのだろうか。普段のビビリ具合からは想像がつかないほどの熱中っぷりだ。
「――ひうっ!?」
だがその直後、リムララはハッとしたように表情を凍りつかせた。
「あ、あのぅ、リーフ様……。このフォレストゴーレムって荷物とかも持ち運べますかぁ……?」
「え? ああ。そりゃあできるだろ。余裕だ、余裕」
俺のフォレストゴーレムに不可能はない。魔物退治も荷物運びもなんでもござれだ、多分。そして俺が答えたその瞬間――
「びゃあああああ! アリスティア様、わ、私を解雇しないでくださぁい! 荷物運びもっともっと頑張りますからぁ! こんなところで捨てられたら死んじゃいますぅ! ですから、なにとぞ! なにとぞぉぉぉぉぉぉ!!」
リムララが涙目でアリスティアにすがりついた。どうやら突然の技術革新に、仕事を奪われる未来を想像したらしい。
前世でもたまに聞いた話だが、まさか今世で目の当たりにするとは思わなかったよ。
「ちょっ、ちょっと落ち着きなさいリムララ! 大丈夫よ、荷物はあなたに持ってもらうから。リーフもそれでいいわよね?」
「いいもなにも、最初からフォレストゴーレムに荷物運びをやらせる気なんてないって」
「そ、そうなんですかぁ。よかったぁ……」
ほっと胸を撫で下ろすリムララ。だが今度はカナンが青ざめた。
「で、では……姫様の護衛任務がこの土人形に奪われるということですか? わ、私の存在意義が……!」
がくりと膝をつくカナン。もう付き合いきれないのでバカは放置しておくことにしよう。
◇◇◇
そんな騒ぎをよそに、ゴーレムは淡々と魔物を蹴散らし続ける。もはや俺たちはただ歩いているだけなのでラクチンである。
しばらく進むと、激しい水音が聞こえてきた。
「川が見えてきたねー」
スーリヤが指を差す。その先に見えるのは、魔の森を横断するように流れる大河だ。対岸は霞んで見えるほど遠く、かなりの距離があることがよくわかる。
アルラウネ村の族長の話では、ここを川沿いに東に一日ほど進めばラミアの集落があるという。
そこでラミアと交渉し、川を渡るとよいと聞いているのだが……。
「よし、せっかくだから川を突っ切るぞ」
「えっ、どうやって? さすがに泳ぐのは無理よ!?」
「私も水着を持ってきてないぞ! まさか私たちに全裸で泳げとでもいうのか!? この変態めっ!!」
アリスティアとバカ騎士の言葉をスルーし、俺は川辺に手をついた。
「【森の架け橋】」
念じた瞬間、岸から太い樹木が猛然と伸び出した。
幾本もの幹が重なり合い、対岸へと弧を描くように伸びていく。水面に落ちる巨大な影に驚いた川魚たちが、飛沫を上げてパシャパシャと跳ね回っている。
やがて――対岸の土壌をガッチリと掴んだところで樹木の成長がピタリと止まる。
こうして誕生したのは幅広で安定感のある天然の橋だった。
しかも頑丈な手すりまで付いていて安心安全を完璧サポートだ。手すりがないと落ちそうで怖いよなあと思った俺のイメージをしっかり反映してくれたらしい。
「……なにこれ、王都の橋より立派じゃない。貴方、なんでもありになってきたわね……」
アリスティアがなんだか疲れたような声でつぶやいたのだった。




