86 掘っては埋める
俺はひたすら【掘削】で穴を掘り続け、【祝福の大地】でそれを埋めていった。
魔力自体は世界樹から引き出しているので枯渇の心配はない。だが――自分で穴を掘って、埋める、掘って、埋める。ただそれだけの単純作業を延々と繰り返すのは、予想以上に俺の精神をゴリゴリと削っていた。
前世で聞いた、穴を掘らせては埋めさせるというロシアの刑罰の話が脳裏をよぎる。今やってることってそれに近いよな。いちおう成果はあるんだけどさ。
しかもこの赤ちゃん畑予定地を隅々まで歩きながらの作業なんだから、足腰への負担も半端ない。この重労働後に普通に旅を再開するとか、もう悪夢としか思えないんだが。
「か、完成したぞ……」
最後の区画に肥料土を流し込み、俺はその場にどさっとへたり込んだ。
一面に広がる柔らかな土壌は、陽光を浴びてふかふかと優しくきらめいている。労働の達成感だけはあるが、心と体の疲労はマックスだ。
その周囲では、今か今かとアルラウネたちが待ち構えていた。作業の邪魔になるので完成するまで待てをさせていたのだ。
俺の作業が終わったのを見届け、ユグが偉そうにうなずく。
「ふむ。……ではアルラウネたち、入っていいですよ」
「「「「「ウェーイ!」」」」」
歓声とともにアルラウネたちが一斉に畑へとなだれ込み、思い思いの場所に根を下ろしていく。
「うおっ、めっちゃ気持ちいいんだけど!」
「すっごいフカフカ~。一生埋まってられるってマジ」
「リーフ君ありがとねー。マジ感謝!」
きゃっきゃと笑いながら土に埋まったアルラウネたちが俺に声をかけてくる。
うんうん、もっと感謝してくれ。報酬もなんもないんだから、せめて褒め称えられなければやってられんからな。
そしてそんな光景を指をくわえて羨ましそうに眺めていた族長が、ふとユグに尋ねる。
「世界樹様、ここにどれくらい埋まっていれば、赤ちゃんを授かるのでしょう?」
「そうですね……栄養繁殖ですから、毎日数時間ここで魔素を吸収し続ける必要があります。それで妊娠するまでひと月ほどですかね。そして妊娠後も同じように畑に根を下ろし、母子ともに栄養として魔素を吸収しなさい」
「なるほど~承知しましたあ。みんな~聞こえたかしら~?」
「「「「「ウェーイ!」」」」」
コイツら揃ってウェーイしか言わないな。ギャルの語彙力ってどうなってんだ。
◇◇◇
それからしばらく。アリスティア、スーリヤは先にカナンたちの元に戻り、俺は身体を休めながら畑の様子を眺めていた。
すると少し離れた木陰にぽつんと立つバルベラを発見。ヒマ潰しに声をかけてみる。
「よう、バルベラ。なんだよさっきは。急に隠れやがって」
俺の声にバルベラが気まずそうに視線をそらし、髪をくるくるといじりながら近づいてくる。
「ごめんごめん。なんか急に恥ずくなったっていうかー」
「ああ、コーラの件か」
「もうっ! わかってんならわざわざ言うなし!」
唇を尖らせるバルベラ。昨夜は、こんなの誰も飲みたがらないって涙目だったもんな。今になって恥ずかしくなるのもわからんでもない。
「結果的に美味い飲み物だって気づけてよかったな。俺のおかげだぞ。感謝しろよ」
「まーね。それは感謝してるってマジで」
「素直でよろしい。ところで、お前は畑に入らないのか? なんかみんな気持ちよさそうにしてるけど」
「だってデキちゃうんでしょ。ウチはまだいいって言ったじゃん」
「あーそうだった。なんか俺、温泉施設を作った気分になってたわ」
「てかさー。どーせ生むならリーフの赤ちゃん生みたいし、畑はパスかも」
「ふんふん、そうか……って、さらっと物騒なことを言わないでくれるか? 俺はイヤだぞ、俺の子とか」
「物騒とかそれはそれで失礼じゃね? でもま、それくらい感謝してるってこと。気が向いたら、また村にきて声かけてよ。いつでも都合よくやらせてあげるから」
「いらん。でも、ここに来ることがあればコーラは欲しいな」
「別にコーラ目当てでも全然いーよ。いつでも来なよ。とりま今日、村出るんしょ? ならお土産に持ってく? 絞ってくるけど」
「なら、頼む」
俺はその場で土魔法でコーラ専用のボトルを作りだした。
「んじゃ、この中に入れてきてくれ。なるべくたっぷりな」
「おっけー。……ってか、こうやってリーフに都合よく使われんのもなんか悪くないね。ウチ、結構Mっ気あんのかも♡」
にんまりとした笑みを浮かべながら、木陰へと歩いていくバルベラ。
……バルベラのヤツ、なんか変な性癖に目覚めつつないか? そんな予感を抱きながら、俺はバルベラの背中を見送ったのだった。
◇◇◇
ともあれ、これでアルラウネ村の問題はひとまず解決した。
俺たちは今回のお礼に日持ちしそうな食料を貰い、それをリムララの背中に積み込んでいく。正直、俺の労働のワリには合わないが、アルラウネに追いかけられるという今後の憂いがなくなっただけでもヨシとしよう。
それに出発の間際には、ヨレヨレになったバルベラが搾りたてのコーラをボトルいっぱいに詰めて届けてきてくれた。
さすがに大丈夫か心配になったのだが、本人はなぜか満足げだったので、これもヨシとしよう。
「真っ直ぐ北に進めば大きな川が見えると思います。ひとまずそれを目標に進めばいいでしょう」
族長が見送りに立ち、ながらそう告げた。
背後では黄金色の畑に根を沈めたアルラウネたちがのんびりと手を振っている。
「「「「「リーフくーん! また来てねー! ウェーイ!!」」」」」
最後までウェーイらしい。俺は半ば呆れながら手をひらひらと振り返し、騒がしいアルラウネ村を後にした。
◇◇◇
そうしてアルラウネ村を出発してからしばらく経ち――俺たちは異変に気づいたのだった。
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