84 最高の組み合わせ
翌朝。俺は土魔法で作成した機密性の高い特製ボトルを手に取り、コテージの外へ出た。
特製ボトルの中身はもちろん、水魔法で作った氷でキンキンに冷やした蜜コーラだ。氷がほどよく溶けたことで水分が増し、喉越しもさらに良くなったことでさらにコーラとして仕上がった一品である。
昨晩バルベラに頼み込み、たっぷり分けてもらったのだ。
バルベラも自分の蜜を喜ばれたのがよっぽど嬉しかったらしく、シナシナになるまで絞りだしてくれたよ。いまだに製造方法は謎だけど。
ちなみにこの黒い蜜は一晩経った今でも、しっかり炭酸が残っている。おそらく蜜に含まれる微量の魔素が炭酸を生み出しているのだろう。
だが魔素が含まれていようがいまいが、俺の中でこれは紛れもなくコーラなのだ。
コテージの外では、セバスとリムララがすでに朝食の準備を進めていた。網の上ではアーマードボアの肉がジュージューと音を立て、香ばしい匂いを漂わせている。
目論見通り、今朝もアーマードボアのハンバーガーを食べられそうだぜ。フフフ……。
「リーフおはよー。朝からなんかご機嫌だねー?」
「おはようリーフ。あら、なにを持っているのかしら?」
網の前にいたスーリヤとアリスティアが、俺の特製ボトルに視線を向ける。
ちなみにカナンは少し離れたところで剣の素振り。昨晩遅くまで起きていたらしいユグは、まだ土に埋まって熟睡していた。
「ああ、これか。フフフ……これはな、コーラだ」
「「こーら?」」
二人揃って首をかしげるが、説明は後だ。
俺はさっそく黒パンを手に取り、レタスっぽい野草と分厚く焼けたボア肉を豪快に挟んだ。お手軽すぎるがハンバーガーの完成である。
そしてハンバーガーにもっとも合う飲み物といえば……そう、コーラに決まっている。今朝はハンバーガー&コーラの最強タッグで、異世界史上最高の朝食を味わうのだ。
「それでは……いただきます」
俺はさっそくハンバーガーをがぶりと一口。
途端に、野性味あふれる肉汁と脂の旨味がじゅわっと口いっぱいに広がっていく。
このままでも十分幸せなのだが、本番はここからだ。俺は間髪入れず口の中に蜜コーラを一気に流し込んだ。
「――っ! くう~~~~~~っ!!」
弾ける炭酸の強烈な刺激。脂を一瞬で洗い流す爽快感。そして後味に残る甘さとほろ苦さ……! 完璧だ。マジで最高すぎる。
まさかこの異世界で、この組み合わせを再現できる日がくるとは思わなかったよ。
「その飲み物がこーら、なの? なんだかすごい色してるわね……」
俺が百年ぶりの感動に浸っていると、アリスティアが興味深げにコップを覗き込んできた。
「コーラだ。正確にはバルベラの蜜ジュースなんだけどな。気になるなら飲んでみな、飛ぶぞ?」
「飛ぶってなによ……。まあ、そうね。気にはなるけど……」
「それじゃ、ほら」
俺は自分のコップに、シュワシュワと泡立つ漆黒の液体を注ぎ、そのままアリスティアに差し出した。
これは最高の飲み物だからな。さすがに俺一人で独占するのは罪悪感が半端ない。バルベラからも、みんなが美味しく飲んでくれるなら構わないと許可は取ってある。
「え、ええと……」
だがアリスティアはコップを受け取ろうとはせず、なぜかコップと俺の顔を交互に見て視線を泳がせる。
「なんだ? 毒でも入ってると思ってるのか。俺が今飲んだだろ」
「そ、そうじゃなくて……」
俺はピンときた。
「ははーん。なんだ姫様、間接キス程度で照れてんのか」
「なっ……!?」
「ちょっとーリーフ。デリカシーないよー?」
顔を真っ赤にさせるアリスティアと、呆れたように俺をたしなめるスーリヤ。
「デリカシーて。俺を色仕掛けでハメようとした王女様には不要だろ」
「っ……! あ、あのときは本当に必死だったの! ――というか、別に間接キスくらいどうってことないわよ! ほら、さっさと貸しなさい!」
怒りで顔を真っ赤にさせながら、アリスティアが俺のコップを奪い取った。
そして目を固く閉じてコップを傾け、
「ごきゅっ、ごきゅっ、ごきゅっ、ごきゅっ!」
と、お貴族様とは思えない勢いで喉を鳴らして一気に飲み干していく。
「おいおい、もったいねーな。もっと味わって飲みなよ」
「……ぷはっ! ほら、見たでしょ! 間接キ、キスなんて全然平気なんだから! 貴方のことなんてこれっぽっちも意識してないんだからね!」
アリスティアは空になったコップを俺に突きつけてくる。唇の端に少し泡がついているのに気づいていないのがマヌケだけど。
「わかったわかった。……で、味はどうだった? コーラ、美味かっただろ?」
俺だって間接キスなどどうでもいいのだ。それよりも異世界人にとってコーラは口に合うのか合わないのか。その感想の方に興味がある。
だがアリスティアは目をぱちくりとさせて固まってしまった。
「えっ、あ、味……?」
「ああ。味もそうだし、喉越しとか炭酸の強さとかさ。なんかいろいろ感想があるだろ」
「そ、そういえば……どんな味だったかしら……。まったく記憶にないかも……?」
「マジかよ、お前……」
「やめて、今すごく反省してる。やだ、自分で自分が恥ずかしいわ……」
アリスティアはその場にしゃがみ込み、両手で顔を覆ってしまった。耳まで真っ赤になっているのが、真上からはっきりと分かる。
「リーフもいじわるだったと思うけど、姫様さすがにそれはちょっと……」
お人好しのスーリヤですら、フォローできずになんとも言えない顔である。
「……次はちゃんと味わって飲めよ」
そして俺は呆れながらも、コーラをもう一杯注いでやったのだった。




