82 ユグの施術
「は? ユグ、お前。魔石なんか何に使うんだ?」
「説明しなきゃ駄目ですか? どうせ持て余して、邪魔だと思っているのでしょう。だったら黙って私に差し出しなさい」
「やっぱクソ偉そうだな、オイ。でも……まあいいか。ちょっと待ってな」
高額で売れるらしいから一応持ってはいたけど、魔の森にたどり着いた今となっては、金なんて別に要らないんだよな。
なので何か使い道があるなら、ユグにくれてやっても惜しくはない。本当に邪魔だったし。
俺は一旦コテージに戻り、鞄からアーマードボアの魔石を引っ張り出してきた。
「ほれ」
俺がソフトボールほどの大きさの魔石を差し出すと、ユグはそれを両手でしっかり受け取り――
「んあー」
あんぐりと、その小さな口を限界――いや限界以上に大きく開けた。
「えっ!? ちょっ、おまっ!」
「ごくん……けぷっ」
俺が止める間もなく、ユグはそのまま魔石を丸ごと飲み込んでしまった。
「まあっ、世界樹様ったら! そんなもの食べたらメッですよ! ぺっしなさい、ぺっ!」
子供が異物を飲み込んだみたいに族長が慌てるが、ユグは「ふう」とひと息ついて涼しい顔だ。
「落ち着きなさい。私はなんともありませんから。今のは魔石を体内に取り込むことで、私自身の成長を意図した方向へ促したにすぎません。先ほどまでのままでは、さすがの私もお前たちの体質改善が難しいですからね」
つまり魔石を使って自分自身をアップデートしたってことだろうか。世界樹の生態は相変わらずよくわからん。
「では、バルベラ。こちらに来なさい」
「え、なに。どうすんの? ウチ、痛いのはヤなんだけど」
「痛くはありません。少し器官を整えるだけです。さあヘソを出しなさい」
「それもフツーに恥ずいんだけど……」
バルベラがちらっと俺を見る。
なるほど。スカートの中を見られても平気なアルラウネもいれば、ヘソを見られるのも恥ずかしいアルラウネもいるようだ。ギャルも千差万別である。
「はいはい、俺は後ろを向い――」
と俺が気を利かせるより早く。
「邪魔くさい、もういいです。強制執行です」
ユグがバルベラの上着の裾をぺろんとめくり上げ、そのまま人差し指をバルベラのヘソへとずぶりと突き入れた。
「~~~~~~っ!!」
バルベラが声にならない悲鳴を上げ、全身をビクンと跳ねさせる。
「――――――……」
そしてユグは集中するように目を閉じ、言葉にならないつぶやきを紡いでいく。
するとユグの胸元にポウ……と淡い緑の光が生まれた。
それは胸元を伝って腕へ、そこから指先へと、脈打つように流れていく。そしてその光は指先からバルベラに注ぎ込まれた。
バルベラの全身が柔らかな緑色に包まれる。光の粒子がしばらく周囲に舞い、やがて静かに収束すると、ユグが指をすぽっと引き抜いた。
「これで完了です」
「え、これで終わりなん? マ?」
目をぱちくりさせながらヘソの辺りをさするバルベラ。
「はい。栄養繁殖の器官は開かれました。後は適切な土壌さえあれば、いつでも子を生めますよ」
「ふーん。そっかー」
「なんだバルベラ。あんま嬉しそうじゃないな?」
俺の言葉にバルベラが肩をすくめる。
「まーね。ウチはまだ若いから、別に子供とかいらんし。まだまだ自由に遊びたいざかりってやつ?」
「もうっ! バルベラちゃんたら、またそんなこと言って! せっかく世界樹様が治してくださったのよ? もっと感謝したほうがいいと思いますうー!」
などと唇を尖らせる族長だが、ユグは面倒くさそうに首を振る。
「ああもう、うるさいです。そこは個人の自由だから別に構いません。それよりほら、他に希望者がいるなら並びなさい。さっさと施術していきますから。ガンガンガン速でいきますよ。朝までに終わらせます」
「「「「うぇーい!」」」」
一斉に声が上がり、ユグの前にぞろぞろとアルラウネが集まっていく。
やがてそれは長蛇の列となり、その最後尾には族長までもが期待に頬を赤らめながら並んでいる。
こうして――深夜のアルラウネ村で、ユグによる一斉施術が続いていくのだった。




