81 世界樹とアルラウネ
「別の方法で生む……?」
首をかしげた族長に、ユグがコクリとうなずく。
「そうです。ですがやはり……この村で一番長く生きているお前でも知らないのですね」
「ええと、ドライアドのユグちゃん、よね? あのね、よく聞いてちょうだい。アルラウネはね、オトコの人となかよし♡ しないと、子を成すことができないのよ?」
「私はドライアドではありません。世界樹の幼芽です」
「え?」
「聞こえませんでしたか? 私は世界樹の幼芽です。敬いなさい」
「ん? えっ、ドライアドじゃなくて? ええとぉ……」
族長が目を細め、じいっとユグを見つめた。さらには自身の根っこを地面に這わせ、土の中へと差し込んでいく。なにかを探っているのだろうか。
しばしの沈黙が流れ、そして――
「――えっ!? あ、ああっ……!!」
族長の大輪の花弁がをぶるんと震え、瞳がこぼれそうなほど大きく見開かれた。
「こ、この豊穣をもたらす揺るぎない生命力は……。あ、あの、まさか本当に……世界樹様……なのですか……!?」
「嘘をついて何の得があるのですか。……やれやれ、ようやく気づいたのですね。頭が高いですよ」
「は、ははぁ~~!」
族長が慌てて腰を折り、地面にぺたりと両手をついて深く頭を下げた。まるで巨大な花がそのまま地面に伏したような光景だ。それを見てバルベラがくすりと笑う。
「族長~。ユグちに付き合ってあげるとかマジやさしー」
「ち、違うのよお、バルベラちゃん。このコ……じゃなくて、この方は本当に世界樹様なのぉ~!」
バルベラがぽかんと口を開ける。
「えっ、マジ?」
「マジよぉ! ちょおマジなのぉ~!」
「マジですよ。頭が高いです。控えおろうですよ」
「へ、は? ははー?」
バルベラはきょとんとした顔のまま、とりあえず族長のマネをして頭を垂れた。
「よくわからんけど、ウチらもとりまやっとく?」
「だべ。なんかすごそーだし」
「「「ははーー」」」
さらには周りのアルラウネも次々にひれ伏していく。なんだこの時代劇でよく見たような光景は。
ユグが得意げににんまりと笑いながら俺を見る。
「むふふ、リーフ見ましたか。『控えおろう、この桜吹雪が目に入らんか』というやつですよ。完璧に使いこなしました」
どうやら俺から得た知識だったようだ。なんか副将軍と名奉行が混じってるけど。
「もう、いいですよ。頭を上げなさい」
「は、はぁい~」
族長たちが頭を上げると、ここ最近で一番気分がよさそうなユグが改めて問いかける。
「それで……別の方法での生み方を、本当に知らないのですね?」
「は、はい。恥ずかしながら存じ上げません……。あの、どういうことなんでしょう?」
「私には先代の母様から受け継いだ知識があります。それによると――いえ、まずは一度調べておきましょう。ええと……お前はもう若くはありませんね。一番若いアルラウネは誰ですか?」
「もうっ、私だってまだまだ現役ですうっ! ……でも、一番若いのならバルベラちゃんかしら~」
「そうですか。バルベラ、こちらへ来なさい」
「う、ういす……」
バルベラがユグにおそるおそる近づく。ユグはバルベラの腹にぺたんと手のひらを当てた。
「――――……」
ユグがなにやらもにょもにょと口ずさむと、淡い緑色の光がぽわんと手元を照らした。すぐにその光は消え、ユグはそっと手を離す。
「やはり……。合点がいきました」
「あのう、なにがわかったのでしょうか……」
不安げに尋ねる族長に、ユグが小さくため息をついた。
「植物としての本来の機能が、完全に眠ったままになっています。この土地の魔素が淀んで変質し、魔素が吸収できなくなった。そのせいで栄養繁殖に関わる器官が使われなくなり、閉じてしまったのでしょう」
「わっかんね。ユグち、つまりどゆこと?」
「私がお前の体内に直接働きかけ、植物としての機能を呼び覚ませば、土に根を張ることで子を成すことが可能ということです。あとユグちではありません、敬いなさい」
そんなユグの言葉に族長の表情がパアアアア……と輝く。
「あらあらあら! まあまあまあ! 本当なのですか、世界樹様!」
「ええ、本当です。ただし、私だけではなくリーフの力も必要なのですが」
「えっ、俺!?」
「はい。そもそもが土壌の魔素が淀んでいるのが原因です。まずはこの村の土壌を子を成すにふさわしい土壌に作り変えねばなりません。リーフ、お前は土魔法に関しては、この私が一目置くものがありますからね。土壌の改善はお手の物でしょう?」
「できないことはないだろうけど……。え? 俺がそこまであいつらの面倒を見るの? 結構面倒くさそうなんだけど」
「まあ、聞きなさい。ほら、しゃがむ」
と、ユグが俺の袖を引っ張り、耳元でささやいてきた。
「お前はこの森に住むつもりですよね? それならここでアルラウネの問題を解決しておかないと、きっとどこまでも押しかけますよ。種の保存とはそれほどまでに本能に根付いた欲求なのです。……根だけに。ふふ」
「別にうまく言えてないから。でも……確かにそうかもな」
この場を逃げおおせても、その後で延々と追いかけられて夜這いをかけられるのは困る。俺の静かな引きこもり生活のためには、ここで問題を解決してやる必要がありそうだ。
「しかし意外だな。お前がアルラウネのために、ここまでやってやるとは思わなかったよ」
ただの偉そうな種じゃなかったのかよ。そして俺の言葉にユグは呆れたように息をつく。
「なにを言っているのですか。私は世界樹の幼芽なのです。森の民はすべて私の子のようなもの。慈愛をもって導くのは当然です」
「へえ……」
などとほんの少しだけ感心していると――その直後、ユグがニタリと腹黒そうに笑った。
「ククク……。こうして私の忠実なるしもべとして森の民を束ね、いずれは世界樹軍団を結成し、あの愚かで高慢な帝国を攻め滅ぼしてやるのです。これはそのための第一歩ですね」
……やっぱり単なる帝国アンチだったわ。
「そこまでは絶対やらせねーからな」
「チッ……。まあいいでしょう。とりあえず今は私に協力はしなさい」
「ああ、わかったよ」
「それではまず――アーマードボアの魔石がありましたよね。あれを私に差し出しなさい」
そうしてユグが小さな手を俺の方へと伸ばしたのだった。えっ、なんに使うの?




