79 繁殖
「はい、アウトー」
俺が声を上げた瞬間――
床、壁、天井、ベッドの隙間――部屋中のありとあらゆる場所から、無数の蔓と細い枝が獲物を狙う蛇のように音もなく飛び出してきた。
「ちょっ!?」
「きゃあああっ!」
「待ってナニコレ!」
それらは瞬く間に三人のアルラウネの手足と腰を絡め取り、壁へと縫い止めて身動きを封じていく。
俺はゆっくりとベッドから起き上がると、部屋の隅に生える蛍光植物に指を触れて明かりを灯した。
ここは【森の隠れ家】――世界樹の加護で俺が作り上げた棲み家。
言うなれば俺の巣のようなものであり、この空間では床下に張り巡らせた木の根の一本に至るまで、すべてが俺の手のひらの上にある。
この場で俺をどうこうしようなんて、不可能だと思っていただきたい。
……まあ正直、最初からなんとも怪しいと思っていたんだよね。
だが、俺の目的はこの森で生きるアルラウネという種族を知ることだ。それには拒絶して追い返すよりも、相手の出方を見た方が早い。
だからこそ、あえて受け身になって様子を窺っていたのだが――
俺は壁に縫い付けられたアルラウネたちに歩み寄り、静かに問いかけた。
「念のため聞くけど……お前ら、こんな時間に人の部屋に忍び込んで、一体なにしに来たんだ?」
すると三人は揃って一瞬ぽかんした顔になり、それからえへへと笑った。
「えっ、もしかしてリーフ君てば、わかってなかった?」
「かわい♡ 純情すぎん?」
「そんなん夜這いに決まってんじゃん♡」
悪びれる様子は微塵もない。そのおバカすぎる表情はウソをついているようにも、悪意を隠しているようにも見えなかった。
「……なんだ、やっぱりそうか」
俺のつぶやきにアルラウネたちがほっとした顔をする。
「わかってんじゃーん。なら早くコレ外してよ~」
「もしかして相手を縛らないとコーフンしないタイプ!?」
「ウチら初めてだし、できればノーマル希望なんだけど……」
やんややんやと騒ぐアルラウネたち。それを眺めていて、俺の中にふとした疑問が芽生えた。
――下半身が根っこの種族って、一体どうやって人とアレをするのだろう?
瞬間、ムクムクと湧き上がる好奇心。そういやバルベラのときは見れなかったしな。
俺は一番近くにいたアルラウネに近づくと、ためらいなくスカートをガバッと上までまくり上げた。
「きゃっ♡ 恥ずかしっ♡」
恥ずかしいと言いつつも、嫌がる素振りはない。そりゃまあ夜這いに来たのだし、そんなものか。せっかくなのでじっくり見させてもらおう。
あ、パンツは履いてないんだ。……ふんふん。ああ、そっか。へー、こういうカンジなんだ。これならまあ……できるのかな。いやむしろこの形なら……なるほど、なるほどなー。
「……ふう」
好奇心が完全に満たされ、俺はスッキリした気分でスカートを元に戻した。
「え~、見るだけ~!? 触ってもいいんだよ♡」
などという声を無視して、俺は考える。
――さて、コイツらをどうしよう。
前世では夜這いが風習として根付いてる地域もあったはずだ。日本でも昔はあったらしいし。
アルラウネに悪気がないのは明らかなので、こいつらを懲らしめるつもりはない。けど、今回の事情は知っておきたいんだよな。
単なる男漁りには思えない。なにかしら事情があるはず。
……だって、さすがにさ? 俺がここまでモテるのは異常だと思うよ。俺はエルフの中ではフツメンだ。イケメン・美女というのは俺の両親みたいなのを言うのである。
などと若干悲しい気分になりながらも、俺は連中の拘束を解除した。
縛られたところをさすりながらも、アルラウネは怒ったり怯える様子もない。根っから明るいなコイツら。
「もうー。いきなり縛りプレイはビックリしたってマジ」
「てかさ、もしかしてリーフ君も初めてだったり? 照れてんの?」
「だいじょぶだって。ヤリ方はママにバッチリ教わってきたし」
やっぱりママ――族長が裏で糸を引いてるっぽいな。
俺はハッキリと告げた。
「俺はお前らとコトをいたすつもりはないから」
「「「えーーーーーーー!?」」」
俺の言葉に不満げに声を上げる三人。
「なんでなんで!?」
「一緒に気持ちよくなろーよ」
「責任取れとか言わないしー。マジ今楽しむだけだしー」
「……というかだ、お前らの男に対する執着はなんなの。なんでそんなにガッツリ肉食系なんだよ。はっきり言って異常だからな?」
「えーそれはねー。なんていうか……」
三人が困ったように顔を見合わせた。――するとそのとき。
ズルッ……
外から、何か巨大なものを地面にこすりつけるような音が聞こえてきた。
ズル……ズルズル……
「……来たか」
俺たちは外へ出た。同時に近くにある別のコテージからも旅の一行が飛び出してくる。
アリスティアとカナンとスーリヤにリムララ。別のコテージからはセバス。ここにいないユグは俺のコテージの裏手に埋まったままなのだろう。
ちなみに俺は事前に『おそらくアルラウネが俺のコテージに夜這いにくるから、邪魔するなよ』と言っていたのだが、アリスティアとスーリヤからはゲロカスを見るような目で見られたよ。
すぐに説明を補足して誤解は解いたのだけれど、あの時の冷ややかな視線はしばらく忘れられないかもしれない。
ズルリ……
月明かりの下。巨大な根をうねらせながら、ママこと族長がゆっくりと姿を現した。
三人のアルラウネたちが族長の元へと駆け寄っていく。
「ママー! リーフ君てば、全然その気になってくんないんだけどー!」
「あらあら……。おかしいと思って様子を見に来たのだけれど、やっぱりそうだったのね~」
族長は困ったわねと言いたげに手のひらを頬にあて、首をかしげた。
「事情を説明してもらえるんだろうな?」
俺の言葉に族長はうなずく。
「ええ、いいでしょう。この村……そしてアルラウネについて、ママがやさしく教えてあげるわね」
そうして族長は艷やかな笑みを浮かべたまま、巨大な根をゆっくり這わせて俺たちの前まで近づいてきたのだった。




