78 歓迎の宴
「うぃーっす☆ 隣おじゃましま~」
「どもども~」
ドリンク片手のアルラウネが二人、無遠慮に俺の両サイドに座る。どちらも散策中に見かけた、派手な髪飾りのギャルたちだ。
「……どうも。それと、今すぐ俺から離れてくれないか? 俺は一人で静かに祭りを楽しみたいんだよ」
そのために俺は旅の一行からも離れ、わざわざ少し離れた木陰のベンチでひとりぽつんとステージを眺めていたのだ。
ちなみに他の連中はステージから一番近い特等席でまとまって見学している。
そしてちょうど今、こちらを振り返ったアリスティアとスーリヤが、アルラウネを侍らせている俺を冷ややかな目で見つめたようだったが、気にしないことにした。
とにかく、俺はせっかくの一人きりの時間を邪魔されたくないのだ。
「うおっ、孤高ってヤツ? リーフ君ってば意外とシブいんだねー」
「リーフ君てイケメンだよねー。耳触っていい?」
「ダメ」
俺の拒絶を完全スルーする二人。ラチが明かないので、俺は早々に新たな生贄を差し出すことにした。
「なあ、この村では男が珍しいのはわかる。けど、あっちにも男がいるぞ。向こうに行ったらどうだ? 紳士だし、俺よりずっと愛想よく相手をしてくれると思うぞ」
俺は前方でアリスティアの給仕をしているセバスを指差した。
「んー。さすがにあの人はパスかなー」
「いやいや、ああ見えてなかなかいい奴なんだぞ。昨日なんか、俺が歩き疲れて汗だくでその場に座り込んだとき、ハンカチをパタパタして涼しい風を送ってくれたんだ」
「性格の問題じゃなくてー、ぶっちゃけ枯れすぎなんだよね。てかもうっ、リーフ君てばわかって聞いてんでしょ? いぢわるなんだからー。つんつん♡」
俺の脇腹をつついてくるアルラウネ。
うーむ、そうじゃないかと思っていたが、やはり年寄りはお呼びじゃないということらしい。まあ実際は俺の方が歳上なんだけどな。
「とにかく、ウチらはリーフ君と仲良くしたいのっ。ほら、飲み物持ってきたんだー。あげるっ!」
そう言って、俺は無理やり木のコップを持たされた。
「ん? なんだこれ」
中にはとろりとした琥珀色の液体。そこからは南国の花のような、甘い香りがふわりと漂ってくる。
「蜜のジュースだよん。ウチの村の名物なんだー」
「へえ、蜜のジュースか。なかなか美味そうだな」
などと言いながらも、内心では一瞬ためらう。
だってさ、寄ってたかってグイグイと飲み物を勧めてくるとか――これってエロ漫画ならヤリサーで睡眠薬でも盛られていそうなシチュエーションじゃん? コレ絶対ヤバいって。
「んじゃま、いただくか」
だが俺は飲むのだ。
俺の中では毒だろうがなんだろうが、【癒やしの花】があれば平気説が定着しつつある。なにより普通にいい匂いがするから飲んでみたいんだよね。
というわけで、グビグビッと一気に飲み干した。
「――おっ、うま」
喉に絡みつくような甘さ。それでいてしっかり酸味も効いている。なんとも不思議な飲みごたえだが、とにかくウマイ。
すると不意に、ジュースを渡したアルラウネが
「あっ……♡」
と、妙に色っぽい吐息を漏らして身体をよじらせた。
「ぶっっ! なんだよ、いきなり!」
突然のことで噴き出す俺。当のアルラウネは頬を赤く染め、恥ずかしそうにくねくねと身体を揺らしている。
「あーごめんごめん。蜜を美味しそうに飲んでくれたから……ちょっとウチのほうが気持ちよくなっちゃって」
「……は?」
後輩にメシを奢るときに食いっぷりがいいと、こっちの気分もよくなるなんて聞いたことがあるが(俺は経験ない)、それのジュース版ってことか? 意味わからん。
「もうー! 次は私の蜜の番だからね!? ほら、リーフ君飲んで♪ あっ、コールとかいる?」
「いらんいらん。普通に飲むから」
二人目のコップもぐびりと飲んでみる。
「こっちもうまいな」
こっちはスッキリとして喉越しが爽やかだ。同じ蜜ジュースってジャンルでも、味がぜんぜん違うんだな。
「……んっ♡」
そして今回も、ジュースを手渡した方のアルラウネが身体を震わせて膝を擦り合わせていた。
「ええ……お前ら一体なんなの……」
これにはさすがの俺もドン引きである。
飲まされた方が変になるなら、まだ理解できるんだけどさあ。いや、そうなっても困るんだけど。
「あはっ、ごめんね。やっぱオトコに蜜を飲んでもらうのって想像以上に嬉しくって、なんかこう……本能に響くカンジ? マジでヤバ……♡」
うっとりしながら答えるアルラウネ。ここまできて俺は、今さらながらこの蜜ジュースの正体が気になってきた。
「……なあ、この蜜って一体なんの蜜なんだよ?」
「「そりゃもち、自分の蜜だけど?」」
当然、という顔で声を揃える二人。
「えっ、花の蜜を集めたとかじゃなくて……?」
「だから花人の蜜じゃん? ウチらの身体の一部っていうかー」
これってこいつら自身から採った蜜なの? それって大丈夫なの? などと考えている間に、背後から他のアルラウネたちも近づいてきた。
「あーずるいー! 抜け駆けじゃーん! リーフ君、ウチの蜜も飲んでよ。今、絞り出してくっから!」
「えっ、ウチもウチもー。最近出してなかったからすっごい濃いのでそう♡」
「誰のが一番好みの味か、後で教えてよねー?」
そうして木陰にばたばたと消えていくアルラウネたち。俺は両サイドのアルラウネに尋ねる。
「……なあ、その蜜ってどうやって採るんだ?」
「えっ、それ聞いちゃう? リーフ君てばえっちなんだから♡」
「…………」
俺はそれ以上追及するのを止めた。
世の中には製造工程を知らないほうが美味しくいただけるものが数多くある。深入りしすぎないことは、食を楽しむための一つの知恵だ。
このアルラウネの蜜が美味いのは揺るぎない事実。だからそれでいいのだ。それ以上知る必要はない。
こうして俺はその後も、次々と運ばれてくる『自家製』の蜜ジュースを片っ端から飲み干していったのだった。
◇◇◇
祭りが終わり、俺は村の空き地に建てた【森の隠れ家】へと引き上げた。
俺は蜜ジュースでたぷたぷの腹をさすりながら、胃腸薬代わりに【癒やしの花】をごくんと飲み込んでおく。
すると多少は胃の膨満感が収まった気がする。
アルラウネの蜜……どれひとつ同じ味がなく、個性的で飽きがまったくこない、恐ろしい飲み物だったよ。
そんな感想を抱きながら、俺は早々にベッドへと潜り込んだ。
◇◇◇
――ギシッ
「ふふっ、ここだよね」
「鍵かかってなかった♡ これ誘ってるでしょマジ」
「しーっ、声が大きいって。せっかく寝てんだからさ」
深夜。ひっそりとした部屋の中に、甘く濃厚な花の香りがゆっくりと満ちていく。
窓から差し込む青白い月明かりが、忍び込んできた三人のアルラウネのシルエットを浮かび上がらせた。
「てか良い家じゃん。リーフ君、ウチらにも作ってくんないかな」
「それな」
彼女たちはしなやかな身体をくねらせながら、リーフのベッドを囲むように近づいてくる。
「リーフ君、寝顔もマジかっこよ♡」
一人がベッドに膝をつき、吐息がかかりそうなほど近くでリーフの顔を見つめる。もう一人が反対側から近づき、最後の一人が足元からベッドへと乗り込んできた。
「あはっ♡ もう我慢できないって……」
「今度は蜜を直接飲んでくんないかなー」
「てか三人でたっぷり絞り出してあげよーね♡」
そうしてアルラウネたちはゆっくりとリーフへ覆いかぶさっていったのだった。




