77 アルラウネ村の族長
族長はうっとりとした瞳で俺をじっと見つめ、いつまでも話を切り出そうとはしない。
しばらく沈黙が続いたので、俺から話を切り出した。
「あの、俺になにか用ですか……?」
つい敬語になってしまった。
だってこの人、若く見えるけど確実に俺より歳上だもの。それに身長が推定三メートルくらいあって圧もすごい。さらには巨体にふさわしい巨乳もお持ちときたもんだ。そりゃあ自然に敬語にもなる。
「いえ、うふふふふ……。オトコの人を見たのが久しぶりだったの。ぶしつけに見てしまってごめんなさいね?」
「いえいえ、お気になさらず……」
おいおい、男ならセバスもいるぞ。だが族長がセバスに視線を向ける気配すらない。
二度目のスルーとなると、さすがにセバスのプライドが傷ついていないかと心配になったが、当の本人は涼しい顔。背筋を伸ばし、完璧な従者の佇まいだ。プロフェッショナルである。
と、ひとまずそこで会話を切り上げ、アリスティアにバトンタッチする。アリスティアは小さく息を吐き、口を開いた。
「族長様、私は――」
「ああん、違うわよ~。私のことは、族長じゃなくてママって呼んでちょうだい♪」
「い、いえ、それはあまりに恐れ多く、その、族長様――」
「ママよ?」
族長はにこりと笑みを深める。柔らかな声色なのに、有無を言わせぬ圧がある。
どうしたものかと顔をこわばらせるアリスティア。その脇をバルベラが肘でつつく。
「ねえ、姫ちゃん。こうなったらもうめんどくなるから、とりまママって呼んでやってくれる?」
アリスティアは『ウソでしょ』と言いたげにバルベラを見るが、バルベラはこくんとうなずくだけ。やがてアリスティアは意を決したように大きく息を吸い、声を張った。
「え、ええと、マ、ママ……! わ、私はレストリア王国第一王女、アリスティア=セレク=レストリアと申します」
「あら~! よくできました♪ ええと、レストリア王国……? それってこの森の北にある、人の国だったかしら。その王女様がどうしてこの村に?」
会話が継続したことに胸を撫で下ろしたアリスティアは続ける。
「はい、実は王都への帰路として、この森を横断しております。それで、よろしければ今夜はこの辺りで野宿を構える許可をいただきたいのですが……お願いできますでしょうか?」
これでいいのよね? とアリスティアが俺にちらりと目配せする。
一泊の提案は俺が言い出したものだ。どうせならこの辺りで一泊して、アルラウネという種族の暮らしぶりを観察しておきたいからな。
「あら、そうなの? それは好都合――じゃなくて大歓迎よ。それじゃあ村で泊まれそうなお家を紹介してあげるわね♪」
「いえ、それには及びません、泊まる家は私たちで用意いたします。空き地を貸していただければ十分ですので」
「あら?」
アリスティアの言葉に首をかしげる族長。すぐにバルベラが説明をする。
「族長ー。このリーフってエルフ、マジすごいんだって。家を作る魔法が使えんの。あんなんウチみたことないって」
「あらあらあら、まあまあまあ! バルベラちゃんがそこまでいうなんて!? リーフちゃんったら本当にすごいのねえ♡」
族長がぱんっと手を叩き、花弁を震わせて嬉しそうに笑う。そのたびに甘く芳醇な香りが部屋に広がり、なんだか落ち着かない。
そしてアリスティアが気を取り直して最後の用件を切り出した。
「それからこのたびの交流の手土産として、こちらのアーマードボアの肉をお持ちしました。どうぞお納めください」
「あら、バルベラちゃん? これってもしかして……」
「そそ、あの暴れん坊のヤツ」
「まあっ! あのコには何度も悪さをされたことがあるのよ~! 逃げ足も早くて、私たちでは捕まえられなかったの。もしかして……これもリーフちゃんがやっつけたのかしら?」
「ええ、まあ、そんなところです」
「あらあら、リーフちゃんったら強いのね。私、強いコ大好きなの。これならきっと……うふふ♡」
そう言ってにこりと微笑む族長。……なんだろう、敵意は感じないんだけど、なんだか妙な迫力があるんだよなあ。正直あまりお近づきになりたくない。
そうこうしているうちに、お付きのアルラウネたちがやってきて、リムララの荷物からアーマードボアの肉を運び出していく。
荷物を崩す心配がなくなりリムララが安堵の息をつく一方、荷物タワーの頂上にいたユグは露骨に不機嫌そうな顔をしていた。
そういえばコイツ、種だった頃は世界樹の一番てっぺんに居たんだよな。単純に高いところが好きなのかもしれない。
その後、俺たちは族長の屋敷を出て、村を軽く散策した。再びアルラウネの娘たちに囲まれたりしながら、それほど広くない村の様子を眺めていく。
やがて日がすっかり暮れた頃、俺たちは村の中央の広場に招かれた。そこで俺たちの歓迎の宴が催されるとのことだった。
◇◇◇
広場は篝火で囲まれ、中央の高台ではアルラウネたちが華やかなダンスを披露している。
エルフはあまり身体を動かす方ではないし、世界樹の村ではこんな賑やかな催し物はなかった。なのでなかなか興味深いイベントだ。俺はこういうのに自分が参加したいとは思わないが、遠目で見る分には嫌いじゃない。
炎の揺らめきに映えるアルラウネたちの姿が幻想的で美しい。こういうのを見ると創作意欲が湧いてくるんだよな。
最近はカナンのリアルフィギュアを作って失敗したが、アルラウネならリアルとデフォルメを融合させた良いフィギュアを作れるかもしれない。
ちなみにアルラウネは下半身が根っこだからか腰下の動きは控えめで基本上半身、腕と手を音楽に合わせて動かしている。アレって前世で見たことのあるパラパラに似ているよな。まさかこの異世界でも見られるとは思ってなかったよ。
そうして謎の懐かしさを感じながらぼんやりとダンスを眺めていると、二人のアルラウネがやってきた。そしてぴったり寄り添うように俺の両サイドに座ったのだった。




