75 バルベラ
翌朝。バルベラを除いた残りのメンツで、昨夜の焚き火跡を囲んで朝食をとる。
メニューは昨日仕留めたアーマードボアの肉を厚めに焼き、レタスっぽい野草と一緒に黒パンに挟んだハンバーガーっぽい物だ。
濃いめのソースがあれば完璧だったが、これだけでも十分ウマイ。
そうして食べているとマネをする連中もでるわけだが、カナンは大きく口を開けてバクリと豪快に食べ、アリスティアは口の周りを脂で汚さないよう苦戦しながら小さく上品に食べていた。
アリスティアはともかくカナンも貴族らしいんだけど、なんとも対照的な二人である。
そんな様子を眺めていると、バルベラがコテージからのっそりと出てきた。下半身の根っこのような足を器用にするすると動かし、眠そうに目をこすっている。
「ふああ~……おはー。あれ、みんなもう起きてんの? 早すぎん?」
「我々は移動の準備もありますので。バルベラ様は朝食はいかがなさいますか?」
セバスがいかにも執事っぽくバルベラに尋ねる。いちおうバルベラは客人扱いのようだ。
「食べていいん? ならウチも食べたい! これ、例の暴れん坊の肉っしょ?」
「えっ、お前って肉も食べたりすんのか?」
思わず聞き返す。ユグ以上に植物っぽい外見だし、今度こそ光合成と水で生きていると思っていたんだが。
「だーかーらー。ウチをそこのユグちと一緒にすんなし」
「同じにされるのは私も不本意です。それと、『ユグち』とはなんですか?」
コップで水をこくこく飲みながら、ユグはバルベラを見上げた。
「ユグって名前なんしょ。だったらユグちじゃん」
「世界樹の幼芽たる私に愛称など不要です。ユグ様と呼びなさい」
「まーた世界樹とか言ってるし。ユグちってば、ドライアドじゃないん?」
「違います。世界樹の幼芽です」
「ウケる、めちゃ強情じゃん。んじゃそゆことでいーよw とにかく、ウチらアルラウネも肉くらい食べるってコト!」
「マジか」
「マジよマジ。てかリーフからはウチらが別の生き物みたく見えるかしらんけど、ウチらからしたらリーフの方がヤバイって」
「ほほう、どのへんが?」
「足よ、足。足が二本しかないとかマジ怖すぎ。一瞬、足切られてんじゃんってゾワっとするし」
「あー……なるほどな」
向こうから見れば、そういう感覚になるのか。こういう種族間の認識の差はなかなか面白い。
しかしそのわりにバルベラはコミュ力が高く、他種族に対する認識もまともだ。ということは、この森では異種族間コミュニケーションがそれなりに行われていると考えられる。
「もしかして、この森にはいろんな種族が住んでるのか?」
「いるいる。さっき言ったドライアド。他にはコボルト、ラミアにハーピーとか? ウチが見たことあんのはそれくらい? 他にも言葉の通じん連中もいるしー」
「あら、言葉が通じない種族もいるのね」
興味深げにアリスティアが尋ねる。
「ゴブリンとかオークとか。あいつらは言葉通じんし、見つかったらすぐ襲ってくるよ。マジ気をつけなー?」
どうやら思った以上に多種多少な種族がいそうな森である。面倒な連中もいるようだし、俺の棲み家をどこにするか、これは念入りに調査する必要がありそうだ。
そんな話をしている間にも、バルベラはアーマードボアの肉に舌鼓をうち、あっという間に朝食は終わった。
食事が終わった後は撤収作業だ。
俺の魔法で作った【森の隠れ家】を片付ける。このまま放置してヘンな魔物が住み着くと周辺に迷惑がかかるかもしれないからな。
俺が地面に手を触れて魔力を込めると、コテージがぐにゃぐにゃと形を変えていく。そして少しだけ歪な違和感を残しつつも、それなりに整った木々へと姿を変えていった。
それを隣で見学していたバルベラが目を丸くして感心したように声を上げる。
「エルフってこんなことできんだねー。マジすごない?」
「いやいや、こんな非常識なことできるのリーフだけだから」
手をひらひら振りながらツッコむスーリヤに、バルベラがぐっと顔を寄せる。
「そーなん? てかスーリヤに聞きたかったんだけどさ。リーフとは彼氏彼女の関係なん?」
「えっ!? ち、違うし!? ただの幼馴染だけど!? こんな引きこもりが彼氏なわけないし!」
慌てふためきながら全否定するスーリヤ。隣に本人がいるのにずいぶんな言い草である。まあ事実だからいいけど。
「あー、そうなんだ? そっか、ならまあ……ふーん」
なんだか納得したように、うんうんとうなずくバルベラ。もっとスーリヤをからかうのだと思ったのだが、意外と大人の対応である。
それからしばらくして撤収作業は完了した。
余ったアーマードボアの肉は数日は食べられる程度に持ち運び、残りはリムララが持てるだけ持って、バルベラの村に譲ることにした。
情報を仕入れるための手土産だ。絶対に喜ぶとバルベラのお墨付きである。
ちなみにアーマードボアの解体時には、ソフトボールくらいの大きさの魔石も出てきた。アリスティア曰く、討伐した俺に所有権があるらしいのでもちろんもらっておく。
とはいえこんなの普通に重くて邪魔になる。
そこでリムララに持ってもらおうとしたのだが、「こんな高そうな魔石、落としたらと思うと無理ですぅ~!」と半泣きになったので、仕方なくマイバッグに突っ込んである。デカくて重くて本当に邪魔だよ。
そうして準備を整え、俺たちはキャンプ地を出発してバルベラの村へと向かうことになった。
村までの距離はここから歩いて半日ほど。結構遠いなと思ったのだが、これはバルベラの根っこ足での計算でである。
バルベラはするすると滑るように歩くが、それでも二足歩行よりは若干遅い。つまり、体力を使いたくない俺的には大歓迎のペースだ。
そうしてゆったりとしたペースで森の中を歩いていく。
道中はまたしても魔物に会うこともなく、あまりのノーエンカウントぶりに案内人のバルベラも首をかしげていた。
そんな平和すぎる道中を経て、夕暮れになる前には――俺たちはアルラウネの村へと到着したのだった。




