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74 緑の少女

大地の呪縛(ガイアバインド)】によって吊るされた半人半植物の少女。


 太い蔓に絡め取られて逆さに揺れるその姿は、なんとも見覚えのある系統だった。俺は緑の少女を指さし、足元に埋まるユグに尋ねる。


「なあユグ。コイツってお前の仲間か?」


「仲間? 何を寝ぼけているんですか、一緒にしないでください」


「ん、なに――ひえっ!」


 ユグがジト目で即答し、声の発生源を探して地面を見た緑の少女は、埋まった生首と目を合わせて悲鳴を上げた。


「この者はおそらく――花人族、アルラウネでしょう。世界樹たるこの私とアルラウネを同等に捉えるなど不敬にも程があります」


「えぇー……ウチはたしかにアルラウネだけどさ。このコはなんでこんなエラそなの? つか世界樹とかウケんだけど。草生えるw」


 吊るされたまま肩を揺らして笑うアルラウネ少女。緑の髪も逆さに揺れ、大きな花飾りからは微かに良い香りも漂ってくる。


 というか、こいつはこいつで吊るされている立場でなかなか図太いな。


「貴様……何の目的でここに来た! 姫様を狙う不届き者なら――」


 しかしカナンがすらりと剣を抜くと、さすがのアルラウネも慌て始めた。


「ちょちょちょ待って! 姫様ってなに!? そんなん知らんし! てか事情はフツーに話すし、先にウチを下ろしてくんない!? さすがにずっとスカート押さえてんキツいんだけど!」


 慌てながらも、もじもじと頬を赤らめるアルラウネ。まあたしかに逆さ吊りだから、手を離せばスカートはペラリとめくれるんだろう。


 でもコイツの足は木の根なんだよな。これってパンツとか履いてんのかな。履いてるならどんなパンツなんだ? 少し気になる。


「ちょっ、おま! どこ見てんの!? 待って待って、絶対めくんないでよね!?」


「うわ、リーフさいてー」

「貴方って本当に節操がないわね」

「リーフとはこういう男なのです!」

「リーフ様。紳士たるもの、時と場合を考えて行動せねばなりません」

「あわわわわぁ……」


 周りの連中から一斉に冷ややかな視線と声が飛び交う。


 フィギュアを作る者として造形的に気になっただけなのに、なんだかエラい言われようだよ。


「……暴れないと約束するなら、下ろしてやる」


 皆の言葉をスルーし、俺はただ淡々とアルラウネに伝えたのだった。


 ◇◇◇


「――つまり、急に魔の森が広がっていることに気づいて様子を見に来た。そして俺たちを発見して後をつけていたと」


「そゆこと」


 アルラウネの少女――バルベラは、よく手入れされたネイルを指で触りながら答える。というか改めて見るとコイツってギャルっぽいよな。異世界にもギャルはいたのか。


「お前が後を付けていたのは気づいてたよ。けどアーマードボアが出たときはその場から離れてたよな。あれはどうしてだ?」


「あのアーマードボアってこの辺を荒らしている暴れん坊だったし。オイオイオイ、死ぬわアイツラって思ったから。フツー逃げるっしょ」


「まあ、そうかもな。その後は?」


「遺留品とかあったら何かわかるかなって戻ってきたワケ。したらなんか家とか建ってるし、ヤバくね? って近づいたら、アンタに吊り下げられたんよ。マジかんべんしてよね、超恥ずかしかったんだから」


「フン、知るかよ。深夜に勝手に家を覗きに来る方が悪いだろ」


「んー……。まあそれもそっか」


 からっと答えるバルベラ。どうやら俺の行為を根には持っていないらしい。根っこは生えているのにな。


「とりあえず事情はそんなカンジだし、誤解も解けたっしょ。それじゃウチ、そろそろ帰っていい?」


「まあ待てよ」


「んー。なにー?」


「この近くにお前たちの村か集落があるんだろ? だったら案内してくれないか」


「は? なんでアンタたちを――」


「夜に一人で帰るのも危険だしな。明日、俺たちと一緒に戻ればいい」


「いや、でも……えー……うーん……」


 うんうんと唸るバルベラ。集落に秘密でもあるのか、それとも単に面倒くさいだけか。ちらちらと俺を見ては、森の奥に視線を向けたりしながら悩んでいる。


「って、なに勝手に決めてるのよリーフ!」


 そこでアリスティアが割って入る。俺はまあまあとアリスティアの肩を押さえた。


「よく考えてみろよ。この魔の森が危険なことには変わりない。こいつら話の通じる連中っぽいし、それなら森の情報を仕入れておいたほうがこの先も安心して進めるだろ?」


「それは……たしかにそうね」


 もっともらしい理由を並べると、アリスティアはひとまず納得した。だがもちろん、俺には俺の理由がある。


 この森に住むのなら、近隣勢力の把握は必須だからだ。隣人ガチャでハズレを引くわけにはいかない。事前調査は大事だろう。


「……うん、わかった。おけまるー」


 しばらく悩んだ末、バルベラはOKを出した。


「よし、交渉成立だ。それじゃあ明日の朝に出発するからな。お前も今夜はもう休め」


 俺はさっそく、ユグの隣に【掘削(ディグ)】でちょうどいいサイズの穴を掘ってやった。バルベラが怪訝な顔をする。


「え? なにこれ?」


「お前も埋まって寝るんだろ? 遠慮はするな、ふかふかの土で埋めてやる」


「寝ないし! こんなんと一緒にすんなし!」


「こんなん……。どうやらお前も不敬な一味のようですね……」


 ユグが地面からバルベラをじっとり睨む。


 ということで、結局新しく【森の隠れ家(フォレストコテージ)】を建ててやった。さすがに今会ったばかりのヤツを女性陣小屋で同室にするわけにはいかないからな。


 そして目の前に現れた小屋を見て、バルベラが「家って生えるもんなの?」とぽかんと口を開けたのは言うまでもない。

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