73 肉の宴
「それでは、焼いていきますぅ~」
リムララが土製トングを使い、アーマードボアの肉を網の上へと並べていく。
今回は薄めに切った肉でバーベキュースタイルだ。本当は分厚いステーキをガッツリ食べたかったのだが、まあ初めて食う肉だしな。スーリヤが言ったとおり、火が通りやすい薄切りのほうがいいだろうという判断である。
すでに火の準備はバッチリ。網に肉を乗せるとジュウウッと脂が弾ける音が鳴り、香ばしい肉の匂いが一気に広がった。
「……こんなん、絶対うまいに決まってるだろ」
思わず漏らした独り言に、隣でスーリヤが無言で首をぶんぶん縦に振っている。
やがて――最初に焼き上がった記念すべき一枚。これを他人に譲るほど俺はお人好しではない。
俺は誰よりも早く箸で摘むと、そこにぱらりと胡椒をふりかけ――口の中へと放り込んだ。
瞬間、口内に衝撃が走る。
脂が舌の上で甘く、とろけるように広がる。噛むたびに濃厚な肉汁が溢れ出し、最後に俺が創り出した胡椒がピリリと味全体を引き締める。
「うっまーーーい!」
正直、前世も含めたこれまでの人生で一番ウマイ肉だと断言できた。
「ええっ、リーフそんなに!? わ、私も食べるっ!」
「おうっ、早く食え!」
スーリヤがさっそく焼きたての一枚パクリ。
「ふわあぁぁぁぁ……。すごぉい、お肉がお口で溶けちゃうよぉ……」
直後に幸せそうに顔を蕩けされるスーリヤ。そしてそんな俺たちを若干引き気味に見ていたのがアリスティア一行である。
「貴方たち……さすがに大げさじゃないかしら」
「姫様、仕方ありません。きっとリーフたちは今までよほど貧しい食生活を送っていたのでしょう……」
カナンが憐れむような、それでいて慈愛に満ちたムカツク顔を俺に向けてくる。
「お前らな……。魔物の肉を食ったことないのか?」
俺の問いかけにセバスが答える。
「いえ、ございます。ですが魔物の肉は当たり外れが激しいものでして……。たとえば先日のワイバーン。あの魔物の肉は筋張って食べれたものではありません。そして今回のような手強すぎる魔物の場合、肉に含まれる魔素が濃すぎると中毒を起こしかねなく――」
「理屈はいいから、ほら食えよ」
俺はぐだぐだと語り続けるセバスの口に肉を無理やり放り込んでやった。
「ふほっ!」
するとセバスの動きがぴたりと止まった。
「えっ、セバス。やっぱり魔素中毒かしら!? ほら、吐き出しなさい。ペッ、しなさい! ペッ、って!!」
アリスティアの言葉にセバスがゆっくりと首を振る。
「違います、姫様。これは――今まで口にしてきたどの高級食肉よりも……極上でございます」
「ウソッ!? あんな獰猛で岩みたいな魔物の肉なのよ?」
「肉質は驚くほど柔らかく、魔素の濁りが一切ありません。むしろ魔素が肉質を熟成させているかのようで――」
「いいからつまり、どういうことなの」
「リーフ様、おかわりをいただいても?」
その一言で十分だった。アリスティアもおそるおそる口へと入れ、目を見開いた。
「まあっ……すごく美味しいじゃない!」
「はぐはぐっ、姫様! 本当に美味しいです! 止まらないのだっ!」
「ふわぁぁ……お口の中が幸せですぅ~」
「リーフ、水をください」
いつの間にやら猛然とカナンが食い始め、リムララがウマさのあまり涙目に。そしてそれらを横目にユグは冷静にコップを俺へと差し出した。
「お肉はまだまだありますぅ~! どんどん焼きますよぉー!」
「「「おおーー!!」」」
賑やかな声と焚き火の弾ける音が夜の森に溶けていく。こうして俺たちはアーマードボアの肉を心ゆくまで食らい尽くしたのだった。
◇◇◇
肉の宴が終わると、その日の夜は【森の隠れ家】を建て、その場で就寝することになった。
腹も満たされ、全員が深い眠りについであろう深夜――
俺はふと、目が覚めた。
強烈な危機感というほどではない。しかし長年の引きこもり生活で培われた引きこもりセンサーは、それでも俺の意識を目覚めさせたのだ。
俺は音もなくベッドから抜け出し、コテージの外に出る。
そして辺りを見渡しながらスーッと気配を消した。居留守を極める過程で習得した特技である。
ざわ……。
しばらくして木立の隙間に人影が見えた。
そいつは慎重な足取りで周囲を探りながら、俺のいたコテージへと近づいている。
そして、そいつがコテージの扉に手をかけた瞬間――
「【大地の呪縛(小)】」
地面がうねり、太い蔓が蛇のように躍り出すと侵入者の足首をガッチリと捕らえた。そしてそのまま一気に真上へと吊り上げる。
「きゃああああっ!」
静かな森に甲高い悲鳴が響き渡る。即座にコテージから剣を構えたセバスが飛び出し、続いて他の連中が飛び出てきた。
「リーフ、どうしたの!?」
アリスティアの言葉に俺は吊るされた侵入者を見せつける。
「今日ずっと俺たちを尾行してたヤツだよ。ようやく捕まえたわ……ってアレ?」
俺は首をかしげた。たしかに侵入者を蔓で逆さ吊りにやったはずだが、そこには大量の緑の蔓しかなく……? ――いや違う。
「ううううううぅぅ……」
よく見ると、そこには緑がかった髪に花のような蕾をつけた半人半植物の少女の姿。そいつは逆さ吊りにされながら、涙目で俺たちをにらみつけていたのだった。
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