66 コテージ村
「――【森の隠れ家】」
俺の意志に応えるように地面がざわめき、若木が猛烈な勢いで伸び上がった。元々生えていた巨木でさえ、まるで意志を持った生き物のようにぐにゃりと身をくねらせる。
「ひえぇぇ~!? ま、また木が襲ってきましゅぅ~!」
【大地の呪縛】がトラウマになっていたのか、リムララが悲鳴を上げてその場にべちゃりとへたり込んだ。
だがもちろん、動き出した木々がリムララを襲うことはない。互いの枝を編み込み、隙間を埋め、複雑に絡み合いながらどんどん形を整えていく。
「リ、リーフ……。これ、なんなの……!?」
「姫様、私の後ろにお隠れくださいっ!」
ぐにゃぐにゃと形を変え、動き続ける木々にアリスティアとカナンが息を呑む。
一方でスーリヤはそんな二人を眺めてにんまりと笑い、セバスはなにかを悟ったように月を見上げた。
世界樹の力を通して察しているらしいユグは、ふわあと大きなあくびをするだけだ。
そうして数分後――樹木を組んで作られた立派なコテージが森の中にずらりと並んだのだった。
呆然と立ち尽くしたまま、アリスティアがぽつりと声を漏らす。
「ねえ、リーフ……。これってもしかして……家? 私たちの分もあったりするのかしら?」
「あるに決まってるだろ。俺だけが屋根付きの部屋で寝て、姫様が野宿なんてことになったら、後で王族連中に何を言われるかわかったもんじゃないからな」
なんとなく気まずいと思ったんすよねーなんて言えるわけない。俺の言葉にアリスティアはくすりと笑う。
「ふふっ、別にそんなことはないと思うけれど……でも、ありがとうリーフ。ねえ、さっそく中に入ってもいいかしら?」
アリスティアがそわそわと玄関を覗き込む。
そこには以前【森の隠れ家】で作ったのと同じく、花の形をした発光植物が吊るされていて、夜の森に幻想的な光を灯していた。
「いいぞ。このコテージには女五人分の個室を作ってある。風呂も中にあるから、スーリヤにお湯を入れてもらえ」
「この中にお風呂まであるの!? カナン、行くわよ!」
「はいっ、姫様!」
風呂と聞いて、アリスティアとカナンが駆け込んでいった。その背中を見送っていると、足元から小さな声が聞こえた。所在なげに立っているリムララだ。
「あ、あのう、五人分ってことは……」
リムララはコテージに入っていった二人、スーリヤ、ユグと指差し、
「いちにい、さん、し……。あのぅ、もしかしてリーフ様かセバス様は女性だったのですか? だとすれば大変失礼をば……」
「五人目はお前だろ。なに言ってんだ?」
「ふぇぇ!? わ、私の部屋があるのですか!?」
驚いてまた腰を抜かすリムララを見下ろし、会った時から気になってたことを言ってやる。
「お前、ずっと泥まみれだろ。俺は綺麗好きだから、汚れてるヤツが近くにいるのもイヤなんだよ。ほら、スーリヤ」
俺が視線を送ると、スーリヤが満面の笑みでリムララの両肩にポンと手を乗せた。
「今日は私が一緒にお風呂に入ったげる。背中流してあげるからね~!」
「えっ、お風呂!? ドワーフの私がお風呂に?」
「リーフ、後は任せてね。ほらほら行くよ~」
「ひええええ~。リーフ様、あ、あの、ありがとうございますぅぅ~!」
スーリヤに立たされたリムララはそのまま背中を押され、一緒にコテージへと入っていった。
――さて、これでこの場に残ったのはセバスとユグなわけだが。
「おい、種……じゃなくてユグ。お前は中に入らないのか?」
「そんなことより今すぐ寝たいのです。発芽したうえに、さらに森を拡張させたのですから、さすがに疲れました」
疲れたというのは本当なのだろう。なんだか時間が経つにつれ、どんどん目をしょぼしょぼとさせている。
「それならなおさら、さっさと中に入ってベッドで寝ればいいだろ」
俺の言葉にユグはやれやれと首を振った。
「お前は世界樹の幼芽たるこの私を人と同列に考えているようですが、根本からして違うのです。そうですね……、とりあえずここに穴を掘りなさい」
「ん? なんで?」
「いいから早く」
「はいはい、わかったよ。……【掘削】」
ユグが指差した地面に、俺は【掘削】で穴を掘ってやった。一メートルくらいの深さだ。
するとユグはいそいそとスーリヤに着せられた服を脱ぎ始めた。
「なっ……!?」
セバスが慌てて後ろを向くが、もちろん俺は堂々とガン見である。こんなガキの裸体に興味はないが、何をするのかは気になった。
もちろんユグも俺の視線なんか気にしない。そのまま真っ裸になったユグは、すぽんと穴の中へと収まった。
「では、埋めなさい。なるべく土には魔力を込めるのですよ」
言われるがままに【土創造】で魔力をたっぷり込めた土を作り、ユグの入った穴を埋めてやる。
やがてユグは今日出会った時のような生首状態になった。
「最後に水をかけなさい。もちろん魔力たっぷりで」
「はいはい……。お前って、本当に植物なんだなあ」
さすがに理解した。こいつは土に埋まってるほうが快適ということらしい。
俺が魔力を込めた水をジョロジョロと頭にかけてやると、ユグが気持ちよさそうに目を細めてあくびをした。
「ふわぁぁぁ~……いい塩梅です。これが私の休息であり、食事なのです。覚えておきなさい、リーフ」
そういえば、こいつはメシも食ってなかったな。腹が減ってないだけかと思ってたんだが。
「くぅ……くぅ……」
しばらくして、土に埋まったユグから寝息が聞こえてきた。
セバスはようやくこちらを向き、ユグの生首状態を見て、深いため息をついていた。
「なあセバス。お前、顔色が悪いぞ。もう歳なんだし、今日くらいはゆっくり休んだらどうだ? いちおうお前の部屋も作ってやったし、見張りは感知で大丈夫だからさ」
「そうですね……もういい加減、リーフ様の非常識さに心が折れました。本日はありがたく、リーフ様のご厚意に甘えさせていただきます……」
やはりよっぽど疲れていたのか、セバスは力なくそう言うと、そのままコテージの中へと消えていった。
俺はひとり、静かに夜の森を見回す。
深い森に見えるが、実質は魔の森の端っこだ。さほど脅威は感じない。
……明日からが本番、ってやつだろうな。
今日はさっさと休むことにして、俺は自分のコテージへと入っていった。




