64 生首
思わずビックリして叫んでしまったが、その生首の声には聞き覚えがあった。
俺はスーリヤの背中からそっと離れると、いまだ身構えている連中を横目に、その生首へとすたすたと歩み寄る。
「ええっ!? リーフ、大丈夫なの!?」
「おのれ奇っ怪な! 姫様に手出ししようものなら、たたっ斬ってくれる!」
「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃ……た、たしゅけてぇ……呪われるぅ……」
背後は騒がしいが、今は無視だ。俺は生首の正面に立ち、それをじっと見下ろす。
「お前……『種』なのか?」
「当たり前でしょう。というか、なに上から見ているのですか。不敬ですよ、ひざまずきなさい」
脳内で何度も聞いたようなセリフを言い、むすっと唇を尖らせているのは、鮮やかな緑髪の幼女――の首から上だ。
「……なんだ、やっぱ種かよ」
俺は肩をすくめると、まずは後ろの連中に向かってひらひらと手を振る。
「おーい、お前らー。この生首、見た目はグロいけど敵じゃないから安心していいぞー」
「は? 生首とは失礼ですね。私はただ、この大地に埋まっているだけです」
言われて改めて確認すると、たしかに首が切断されているわけじゃない。ただ首まで地面に埋まっているだけのようだ。
……そう考えると、前世のバラエティ番組で芸人がよくやっていたことと変わらないな。なんか笑えてきた。
「なにやら不敬なことを考えていそうですが――ひとまず、ここから私を抜いてくれませんか」
「おう、わかった」
俺は元『種』で、今はよくわからんヤツのアゴの辺りをがっしり掴むと、大根でも引き抜くかのような要領で、そのまま真上に向かって力いっぱい持ち上げた。
「いだだだだだだだだだ! もっと丁重に扱いなさ――」
スポンッ!
元種が勢いよく地面から抜けた。
その反動で俺はその場に尻もちをつく。すると、寝っ転がった俺の視界にスッと影が落ちる。
「フフン、そうです。そうやって下から私を見上げるのが、正しい敬い方というものです」
そうして顔を上げた俺の目に飛び込んできたのは――勝ち誇った表情で腰に手をあて胸を張る元種の、なにもかもさらけ出した真っ裸の股ぐらだった。
そして次の瞬間――
「ちょっ、キミこっちに来なさい!」
「ん? ああスーリヤですか。お前も私を敬――」
「いいから! 来・る・の!」
「ひえっ」
と、スーリヤがものすごい勢いで俺たちの間に割って入ると、元種を引っ張ってリムララの元へと連れて行った。
そして予備の着替えやら布やらをかき集め――あっという間に見事な元種用の服を作り上げたのだった。
こうして最低限の身だしなみを整えた元種は、見た目だけならリムララと大差ない幼女に見えた。ただし臆病なリムララとは違い――
「やれやれ。どうして私が人と同じ服を着なければいけないのですか。どうせなら、しめ縄とかのほうが良いのですけど」
それって御神木とかに巻かれるヤツじゃん。――とにかく、態度がデカいのは種の頃と変わらないようだった。というか、むしろ人の形になったぶん、余計に偉そうに見えるよ。
◇◇◇
「それで……なんで人の形になってるんだ? お前、世界樹のはずだろ」
そろそろ夕暮れも近い。今日はここでキャンプということになった。
皆で焚き火を囲みながらの俺の問いかけに、元種は着慣れない服の裾をいじりながら、あっさりと答える。
「わかりません」
「わからんのかい」
「ですが――だいたいお前のせいではないですか?」
「え? 俺?」
「初めて出会ったあの日、お前は私の大事なところをめちゃくちゃにかき回して、無理やり私の中にアレを注ぎ込んだではありませんか。あんなことをされて、何事も起きないほうがおかしいでしょう」
その言い方、語弊がありすぎない? 俺は世界樹の中を探り、魔力を流しただけだよ。
だが、周囲の視線が一気に冷たくなるのを感じる。
アリスティアは汚物を見るような目で俺を見てるし、カナンはアリスティアをかばうように一歩前に出て、リムララは顔を真っ赤にしてうつむいている。そしてスーリヤが深刻そうな顔でおずおずと俺に尋ねてきた。
「ねぇ、リーフ……。こんな小さな子にいったい何をしたの……?」
「おい、変な勘違いするな。だからコイツはさっきまで鞄に入ってたあの種なんだっての! とりあえず少し黙ってろ。――それはつまりアレか? 俺が魔力を流し込んだ影響でこうなったって言いたいのか?」
「もともとがイレギュラーな状態なのです。その可能性が高いかと。それと――なんとなーくですが……」
元種はじっとりとした目を俺に向けた。
「お前が私をどこか辺境の土地にでも埋めそうな予感がありましたからね。いざというとき自分で歩けたほうが便利だなあと、心の片隅で考えていたことが影響したことも考えられます。……まあ、なし崩し的にこの森に埋まることができたので杞憂となりましたが」
「……ぐっ」
そこは完全に図星なので何も言い返せない。元種は勝ち誇った顔でうなずき、改めて辺りを見回す。
「ともあれ、こうして私は発芽し、ひとまずの成長を遂げたのです。さあ皆の者、この世界樹の幼芽たる私を敬うのです」
そうして相変わらず偉そうに胸を張る元種に、俺以外の全員は揃って唖然とした表情を浮かべるのだった。
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