61 起死回生2
「おい、ギリク」
俺の呼びかけにギリクが振り返り、顔を険しくさせた。
「貴様……なぜ立っている。惨めに地面に這いつくばり、虫の息だったはずだろうが!」
「別にいいじゃん、細かいことは気にするなよ。それよりさ、さっきのアレは面白かったな」
「……なんの話だ?」
俺は肩をすくめて笑う。
「姫様の生殺与奪を握った瞬間のことだよ。お前が性欲丸出しでニチャアって笑ってさ、マジでキショくて鳥肌が立ったわ。鏡でもあれば、お前にも見せてあげられたんだけどなー」
「き、貴様……! 下等な耳長が戯言をッ!」
「はいはい、戯言戯言。とにかくお前には、俺に迷惑をかけた代償を支払ってもらうからな。覚悟してくれ」
そんな俺の言葉に、ギリクが口の端を吊り上げて嘲笑を浮かべる。
「フン、森が広がった程度で強くなったつもりか? ……クハハッ! さすが森に巣食う耳長は、脳まで苔に汚染されているらしい。先ほどまで消し炭寸前だったことは都合よく忘れたようだ!」
ギリクの嘲る声が辺りに響くが、もはや聞くだけ時間の無駄だ。俺はギリクをスルーしつつ、森の大地に向かって念じた。
「【大地の呪縛】」
ドゴオオオゴゴオオオオオオオオンッ!
瞬間、地面が爆ぜる。
辺り一面から太い樹木が噴き上がり、それらは蛇のように身をくねらせながらギリクと帝国兵たちへ殺到した。
幹が巻き付き、枝が絡み、有無を言わさぬ力で四肢を締め上げていく。木の幹がきしむ音が響き、森の中に兵士たちの悲鳴がこだました。
「な、なんだこれはっ!? まさかこれがサイロスを樹木にした秘術――」
樹木にガッチリ固定され、あっという間に身動きが取れなくなったギリクに、俺は淡々と訂正を入れる。
「違う違う。これはただの拘束用魔法だから」
それからふと思い出したことを口にした。
「そういえばサイロス……。アイツはこの【大地の呪縛】を普通に避けたんだよな。……ああ、そう考えると、お前ってサイロスより弱いんだな」
「ああ!? 何を言っている? 私が……あの、細々と情報を集めることしか能のないサイロスよりも弱い!? ふざけるな、今すぐ撤回しろ!」
樹木に絡め取られながらもプライドだけは健在らしく、ギリクが必死に怒鳴る。
もしかして二人はライバル関係だったのかな? まあ、そんなのはどうでもいいんだけど。
「さて……本当はお前も木にしてやろうと思ったんだが……」
「やっ、やめろ!」
「ああ、そうだな、やめとくよ。俺がこの辺を散歩したとき、お前の顔が浮かんだ木を見つけたら、また鳥肌が立っちゃうもんな」
「な、なんだと……!」
「だから、お前はただの廃棄物として処理してやる。――出てこい【人喰い花】」
俺の呼びかけに地面が脈打ち、土が割れ、中から血のように赤く巨大な花がその場に姿を現した。
ゆっくりとつぼみが開き、口を開いた花弁の縁には鋭い牙がびっしりと並び、中心部からは甘ったるい匂いが漂い始める。
「ようし、【人喰い花】。ごはんの時間だぞ~」
「ギュイイイイッ……!」
俺の呼びかけに【人喰い花】は花弁周りの蔓をピコピコと動かした。あらやだ、なんかかわいいな。
「このっ……! ファイアア――ぐあっ!」
魔法を仕掛けようとしたギリクの胸に【人喰い花】の蔓が鋭く突き刺さった。そして蔓がドクンと脈動し、ギリクの身体に何かを流し込む。
「【火矢】!……【火矢】【火矢】!……なぜだ、なぜ魔法が出ないっ!?」
どうやら【人喰い花】の流し込んだモノには魔法を阻害する成分が入っていたらしい。ひえっ、【人喰い花】、怖っ!
俺がそっと距離を取る間に、【人喰い花】は太い蔓で器用にギリクの身体を掴み上げる。
そして【大地の呪縛】の樹木ごと力任せに引き剥がすと、そのまま自分の花弁の真上へと持ち上げた。
花弁がさらに大きく開いていく。その内側には粘つく消化液が光り、獲物を待つように照り輝いていた。甘い匂いが強くなり、周囲の兵士たちをさらに怯えさせる。
ゆっくりと【人喰い花】がギリクを花弁へと運んでいく中――ヤツは恐怖に顔を引きつらせ、ジタバタともがきながら叫ぶ。
「なっ、や、やめろ、助けろ! そ、そうだ、おい耳長! 私を助ければ特別に貴様を我らが魔術院に推薦してや――グワアアアアアアアアアアアアアア!!」
【人喰い花】はギリクの命乞いなど意にも介さず、そのまま全身丸ごと飲み込んだ。
花弁がバグンッと一気に閉じる。その直後――
グチャ、グチャグチャリ、バギッボギボキ! バキッ、ゴリゴリゴリッ、ボキボギボギンッ……!
花の中で硬いものが噛み砕かれる不快な音が響く。そして最後には――喉を鳴らすようなゴクンという音。
それを最後に森は静まり返った。
周辺の兵士たちは今の光景に完全に心を折られたのか、樹木に拘束されたままガタガタと震えるばかり。もはや抵抗する気力すら残っていないようだ。
アリスティアとセバスは青ざめつつも安堵の息を漏らし、スーリヤはにこにこしながら駆け寄ってくる。カナンはというと、いつもどおり動けない兵士に剣を突き刺しに走っていった。
「ふぅ……。これでようやく一息つけるな」
俺は爆風で少しだけチリッとなった髪を手のひらで整えながら、大きく息を吐いたのだった。
ギリク戦決着です!
「面白かった!」「続きが読みたい!」と思ってくださった方は、画面下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして応援してくださると嬉しいです。
読者の皆様からの応援が執筆の励みになります。どうぞよろしくお願いします!




