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6 石弾

『キラーマンティスはこの森の中でも最強格の魔物。あなたのようなひ弱なエルフでは太刀打ちできません。今すぐ逃げなさい。幸い、動きはさほど早くもなく――』


「んー……。あれくらいなら大丈夫だろ、多分」


『……は? 《《多分》》で挑んでいい魔物ではありませんよ!?』


 じりじりと迫るキラーマンティス。その大きな鎌は月の明かりで鈍く光り、切れ味の良さをイヤなほどに主張してくる。アレで軽く払われるだけで、俺の首なんてスパンッとキレイに飛んでいくだろう。


 だが俺は慌てない。フィギュア制作と同じだ。過度な緊張は手元を狂わせる。


「ふう……」


 俺は小さく息を吐き気持ちを落ち着かせると、指先に神経を集中させた。


 そしてヤツに人差し指を突きつけ――念じる。


「【石弾(ストーンバレット)】」


 指先に土が集まり、弾丸状の塊が形成され始めた。


 俺はそれをさらにぎゅっと圧縮し、硬く、硬く、もっと硬くなるように念じる。ぎちぎちと密度があがり、押し固められた土はひと塊の石へと変貌していく。


 次に風魔法。石塊に風魔法をかけて、くるくると回転を加える。


 最初はゆっくり――次第に早く。キュルキュルと音を立てて加速していき、やがて耳鳴りするほどの高速回転へと変化させていく。


 回転速度は大事だ。空気を切り裂き、命中精度を高めてくれる。


 そうして回転が最高潮に達した瞬間――


「発射!」


 風魔法で一気に押し出し、石弾が弾けるように射出された。


 軌道は一切ブレずに一直線。狙い通りキラーマンティスの逆三角形の顔面へと向かい――


 パァン!


 乾いた破裂音とともにキラーマンティスの顔面が弾け飛んだ。貫通した弾丸はそのまま背後の岩へと突き刺さり、パキンと音を立てて岩の深くへと潜り込む。


 顔を失ったキラーマンティスはぐらりと揺れ――そのまま崩れるように倒れたのだった。


「よしっ」


 初めての大物相手だったが、妄想シミュレーションだけは欠かさなかったからな。ほぼ想定通りの結果に俺は小さくガッツポーズ。


 すると頭の中で種が戸惑い気味の声を響かせた。


『え? お前、引きこもりなのに……戦うすべを持っていたのですか?』


「まあ、こういうのを考えるのは好きだからな」


 テロリストが来たら――を妄想をする場合、逃げるだけじゃストーリーが薄い。戦うパターンも当然あるし、むしろそっちがメインだろう。


 そうなると戦うための手段を一つ、二つと考えるようになるわけだが、引きこもりの俺には自分のために費やす時間がたっぷりあるからな。やはり引きこもりは俺をさらなる高みへと導いてくれる。


『私、お前のことが本当によくわかりません……』


「なんだよ、ストーカーのくせに情報収集が甘いんじゃないの?」


『さっきから言っているそのすとーかーという単語の意味もよくわかりませんが、私を揶揄していることだけは理解できます。お前はもっと私を敬うべきです。私は世界樹の種子なのですよ?』


「いやだね」


『ぐぬぬう……』


 そうして勝利の余韻に浸ることしばらく。このままキラーマンティスを放置しておくわけにもいかないことに気がついた。


「ううーん、グロい。けどまあ、しゃーないか」


 俺は首のないキラーマンティスに近づくと、棒切れでつんつん突いて死亡を確認。


 次に胸のあたりをナイフで切り裂き、中から親指ほどの大きさの石を取り出した。ファンタジー物のラノベでよくある不思議アイテム、魔石である。


 魔力を貯めておける便利な石で、それを利用して作られた道具を魔道具という。俺のウロの家には、照明代わりの魔道ランタンくらいしかなかったけどね。


 何かの役に立つかもしれないし、放置しておくのはもったいない。拾っておこう。


 水魔法で魔石と手をじゃぶじゃぶ洗い、魔石を鞄に放り込んだら、手を振って水を切りながら周囲を確認する。とりあえず、今はもう辺りに魔物はいなさそうだが――


「それにしても……。こんなのがうろうろいる森じゃ、安心して眠れないなあ」


『それでは逆に今のうちに移動しましょう。本来なら夜の森の移動はおすすめしませんが……引きこもりは夜に強いのでしょう?』


「強いぞ。ところで、本当にキラーマンティス以上の魔物はいないんだろうな?」


『ええ、それは保証します』


「なら行くか。エルフって夜目もそこそこ効くし」


 森に適応したこのエルフの瞳は、月明かりがあれば十分に歩けるのだ。この身体になって百年、すっかり忘れていたけどエルフって種族チートもかなりあるよな。


「それじゃあしゅっぱーつ」


『足をすべらせることがないよう、注意して進むのですよ』


「はいはい」


 こうして俺たちは静かな森の中、出口もわからないまま、それでも前へと進み始めたのだった。

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