表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/24

5 引きこもりの夜

 土ドームの中でのんびり癒やされていると、いつの間にか夜になっていた。


 真っ暗なドームの中だというのに、俺の心は落ち着いている。引きこもれる場所を確保したことで、昼間あれほどボロボロだった精神が回復していったのだ。


 やはり引きこもるのは心と身体の健康に良い。最高だよ。


 そうしてひと息ついたおかげで、ようやく俺の頭もまともに働き始めた。


「……よし、少し外の様子でも見てみるかな!」


『気持ち悪いくらい元気になりましたね』


「知らないのか? 引きこもりは夜になると活性化するんだよ。夜なら外に出てもそれほど精神が削られないしな」


 思えば前世でも引きこもり生活を始めてからは、買い出しに出かけるのもほとんどが夜だった。昼は役所関係くらいだな。


 夜の方が人も少ないし、静かだし、スーパーに見切り品なんかも置いてある。夜は引きこもりに優しいのだ。


 外に出て、月明かりの差し込む森を見渡す。ひとまず、帝国兵が松明を持って徘徊している――みたいな気配は見当たらない。


 さらに遠くを眺めると、世界樹の巨大な影が月に照らされて浮かび上がる。もう燃えてはいないようだが、それでもまだ煙が細く立ち昇っていた。


「今さらだけど……意外と森全体に燃え広がらないもんだな。ここまで延焼しなくて本当によかったよ」


『本当に今さらですね。……母様が私を産み落とした後、最後の力を振り絞り森全体に加護を振りまいたのです。結果、すべての力を失い――文字通り燃え尽きてしまったのですが』


「ふ、ふーん……。と、ところでこれってさ、どこまで逃げたら安全なんだ?」


 なんとなくしんみりとしそうだったので、俺は話題をあからさまに変えた。種のヤツも続ける気はないのか乗ってくる。


「少なくともこの世界樹の森からは離れるべきでしょうね」


「この森の外か……森の中にいるだけでもしんどいのに、さらに外とか想像つかないんだが。で、どれくらい歩けば森から出られる?」


『知りません』


「おいおい。世界樹の種子さんよ? 母の記憶が受け継がれてるんじゃなかったのかよ」


『すべてではありません。私はあくまで一個体ですよ。ただ……母様から受け継がれた記憶に、お前に関するものが妙に多くて困惑していますけど』


「親子そろって俺のストーカーかよ。ほんと勘弁して」


『異世界から転生したお前に興味を持ったのかもしれませんね。……そうなのでしょう、リーフ?』


「あー……」


 ――これまで百年間のエルフ人生、頭のおかしいやつと思われそうで、誰にも異世界から転生してきたなんて話したことはなかった。


 だが、引きこもりは独り言が多い。部屋で独りでつぶやくことならよくあった。俺のストーカーであるコイツには……もう隠す必要もないか。


「そうだよ。この世界みたいな魔法は存在しなくて、代わりに科学ってのが発達してる世界にいた。馬車よりずっと速い乗り物はあるし、その場にいなくても人と会話できる道具なんてのもある。メシは美味いしアニメも漫画もあるし、とにかく便利な世界だったな」


「そうなのですか。では、この世界は辛かったのではないですか。……ああ、なるほど、それで引きこもりに……」


「違うっての。前世はたしかにここより便利な世界だったが、その分いろいろと面倒なことが多くてな……。そろそろ再就職しないのかだとか、お前そんなんで将来どうすんだよとか、母さんそろそろ孫が見たいわ――とか。それに引き換え、ここでの引きこもり生活は最高だったよ。それをクソッ、あの帝国兵どもめ……」


『おお、故郷を燃やされたエルフが復讐に燃える……! 実にけっこう! とことんやってください!』


 種のヤツ、やけに煽りよるな。なんでそんなにノリノリなんだ。しかし俺は鞄を指でピンと弾きながら答える。


「やらないよ。ムカつくけど、俺は復讐で人生を消費するより、楽しく引きこもる人生を選ぶね」


『……チッ、つまんないヤツです』


「好きに言っとけ。……にしても、いい加減ハラ減ってきたな」


 俺は鞄から干し肉を取り出し、ぽいっと口の中へ放り込んだ。


「うげえ……やっぱ不味いな」


 たまにスーリヤを怒らせてメシ抜きにされるので、そんなときのための保存食だったが、マジで不味い。しょっぱいガムを食べてるみたいだよ。


 保存食が美味くなるように、もっと研究しておくべきだったな。


『私にも食事をください』


「種って肉食えんの?」


『食べられるわけないでしょう。水ですよ、水』


「水だけで生きられるとか羨ましいな。俺も水だけで生きられたら、もっと引きこもりが(はかど)るのに」


『くだらないこと言ってないで、ほら早く。水にはしっかり魔力を込めるのですよ』


「注文が多いなあ……」


 文句を言いながらも、俺は鞄から取り出した種に水をちょろちょろとかけてやった。


 魔力はずいぶん回復しているので、なるべくきめ細やかに魔力を浸透させてやる。飲めば喉越しサワヤカ、魔力もちょびっと回復しちゃうという特級の水だ。


『ふむ、やはり……』


「ん? なんだよ」


『いえ、なんでもありません。さあ、身体を休ませなさい。明日も歩くのですから』


「だな。さっさと寝るか」


 俺は再び土のドームに入ろうとして――


 ガサリ。


 近くでなにかの物音がした。全身に緊張が走る。


 帝国兵……? いや、あいつらなら松明の光が目立つだろうし、装備の音が派手に鳴るはずだ。ということは……。


 俺は音のした辺りに目を凝らす。


 暗がりの茂みの奥で何かがゆっくりと近づき始め、細長い影が次第に姿を現した。


 体長は俺よりも高く二メートルほど。節くれだった腕、その先には鋭く曲がった鎌を持ち、こちらを見据える瞳は月明かりを鈍く返す複眼。


 ――キラーマンティスだ。


 そいつは俺を獲物と認識し、じりじりと音もなくにじり寄ってきた。

タイトルに副題を付けてみました。

この作品を「面白そう」「続きが読みたい」と思ってくださった方は、ブックマークや★★★★★評価で応援してくださると嬉しいです。

皆様の応援が最高のモチベーションとなります。よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ