58 VSギリク2
ここは戦いに彩りを添えるべく、少しはギリクにダメージを与えてみることにしよう。
「【初期化】」
俺は目の前に並べられたいくつかの【土壁】から魔力を消し去った。ガチガチに固まっていた土の壁が一瞬でさらさらの砂となり崩れ落ちる。
その瞬間を見計らって――
「【爆砂】!」
圧縮した風を一気に前面に叩きつけた。視界を覆い尽くすほどの砂塵が爆ぜ、猛烈な勢いでギリクへと襲いかかる。
「ぐあっ!?」
突然の砂嵐に、ギリクがたまらずコートで顔を覆った。
俺はその隙を逃さず、念入りに弾丸に魔力を練り込むと人差し指をギリクを突きつける。
「――【石弾】!」
今度は牽制ではない、渾身の魔力を込めた一撃だ。
狙い通り、弾丸は最短距離でギリクに迫る。ヤツは反射的にコートを盾のように掲げて防ごうとしたが――
バスンッ!
「があっ!?」
鋭い衝撃音と共に弾丸がコートを貫通。ギリクの右肩から鮮血が噴き出した。
「ぐぅっ、貴様ァ……! 下劣なエルフ如きがこの俺に傷を……!」
滴る血を抑えながら、ギリクが痛みと憎悪に歪んだ顔で俺を睨みつけてくる。そんなギリクに俺は肩をすくめてわざと軽い調子で返した。
「いやいや、あれくらい軽く防ぐと思ったんだけど、なんかゴメンな? ……というか、さっきから気になってんだけどさ。お前らってやたらエルフを下に見てるけど、正直言ってお前らの方が雑魚じゃね? なんでそんな上から目線でいられるのかわかんねーよ。よかったら根拠を教えてくれないか?」
実際、別に腹が立ったりはしないけど、たびたび出てくるウエメセ発言は気になってたんだよな。この際聞いておこう。
すると次の瞬間、ギリクが肩の傷も忘れたように声を張り上げた。
「下等な長耳めが、ふざけた口を……! いいか、よく聞け、我々人間こそが神に選ばれし唯一の種族なのだ! 魔道の叡智、剣技の極み、文明の進歩――すべてにおいてお前たちなど足元にも及ばん! エルフなど、ただ長く無駄に生きるだけの古臭い化石だろうが! お前たちのようなゴミはせいぜい輝かしい栄光を歩む我らの足かせになる前に、今すぐこの世から消え失せるがいいっ!!」
怒りで顔を真っ赤に染め、血管を浮き上がらせるギリク。
結局のところ、見下す理由はしょうもない選民思想のようだ。だが、それはともかく効いてる効いてる。
こうやってプライドを刺激して、俺へのヘイトを固定することで部下の介入を防ぐ――これが俺の作戦だったわけだが――
突然ギリクが兵士たちに向かって怒鳴り声を上げた。
「貴様らッ! いつまでボサッと突っ立っている! その頭は飾りか!? 早くこの愚かで無礼な長耳をなぶり殺せ!」
――おいおいおい、まだ一発しか食らってないだろ!? 怒りの沸点低すぎない!?
「ちょ、おまっ! お前それでいいのかよ! タイマンで俺を倒すんじゃなかったのか!?」
「黙れッ! 私が率いる小隊の勝利は、すなわち私の勝利だろうが! 結果さえ出せば過程などどうでもいいのだ!! 総員、攻撃開始ッ!!」
ウソだろ、あっさり開き直りやがった。というか、もしかして俺が煽りすぎたせいか?
そしてギリクの号令に、控えていた兵士たちが一斉に杖や手のひらをこちらに向ける。
「「「【火球】!」」」
「うおぉっ!?」
十数発の火の球が一斉に飛来してきた。
俺は大慌てで【土壁】を展開する。やはりエリート様の洗練された魔法とは違って速度は遅い。だがそれでも火力だけなら段違いだ。数の暴力は大正義すぎる。
――ドゴォオオオオォォンッッ!!
連続する爆音と衝撃波が辺りを震わせた。
【土壁】が一瞬でボロボロに削られ、熱風が顔面に吹きつける。俺の自慢のサラサラヘアーもチリチリになりそうだよ。
「リーフ!」
タイマンが崩壊したのを見て、スーリヤが飛び出す。
「私も戦うよ! 【風刃】!!」
「ぎゃあっ!」
スーリヤの放った鋭い風の刃が、兵士一人の腕を深く切り裂く。戦場は一気に乱戦の様相を呈し始めた。
そのすぐ横では、さっきからずっと半泣きだった幼女が地面にへたり込んで、
「ひいっ、ひぃぃ……怖い、怖いよぉ……!」
と両手で頭を抱えて震えている。なんだアイツ。YOUは何しに戦場へ?
「ふははははっ! やれ、どんどん攻めろ!! あの長耳を肉片に変えてやるのだ! はははははは!」
負傷した肩を押さえながら、ギリクが血走った目で高笑いする。
なんか『肉片』とか言ってるんだけど、俺は『生け捕り』予定じゃなかったっけ!? 完全に頭に血が昇ってやがる。エリート様の煽り耐性がここまで低いのは想定外すぎる。
俺はすぐさま新しい【土壁】を構築し、【火球】に備えるのだが――
爆風で砂煙で視界が遮られる中、めったやたらに【火球】が撃ち込まれ、作ったそばから【土壁】がいくつも崩れていった。
「スーリヤ、下がるぞ!」
「う、うん!」
「ハーッハッハッハッハ! 見ろ、長耳どもが無様に逃げ出したぞ! 絶対に逃がすな! アハハハハハ!」
ギリクの高笑いを聞きながら、アリスティアとセバスも合流し、俺たちは防戦一方で平原を後退していく。
後退しながらも飛来する【火球】をなんとか【土壁】で防ぐが、いい加減魔力も枯れてしまいそうだ。
というか――あのバカ騎士はまだか? もう結構な時間が経ったよな!?
俺は心の中で毒づきながら、崩れ行く壁を補強するために必死で魔力を練り直し始めたのだった。




