57 VSギリク
俺はギリクに向き合うと、ニチャリと下品な笑みを浮かべた。
「……で、ギリク? まさかお前一人で俺の相手する気か? なんか弱そうだし、部下全員でかかってきてもいいんだけど」
「なっ!」「ギリク様になんという暴言を……!」「エルフの分際で!」「ギリク様が出るまでもありません!」「ここは我々が」「ひいっ、ひぃぃ……!」
俺の不遜な態度に、カナンを追わずに残った十人ほどの兵士たちが一斉に殺気立つ。……ただ、幼女だけは半泣きでガタガタ震えてるのが目に入ったけど。
だがギリクは苛立つ部下を片手で制した。
「黙れ。……エルフごときにナメられてたまるか。帝国魔術院の力、その身に刻みつけてやる……!」
怒りに顔を歪め、声を震わせるギリク。その様子に俺は内心でガッツポーズだ。
――よしっ! 作戦成功! 一対一に持ち込めた。やっぱりプライドが高そうなエリート様は、こういう挑発に乗りやすいんだな。
もしここで――
『それもそうだな! よおし、全員であいつを袋叩きにするぞ~☆』
『おー!^^』
――なんてノリになっていたら、その瞬間に詰んでいた。心臓バクバクだったんだけど、上手くいって本当によかったよ。
「ほら、お前らも離れとけ」
第一段階をクリアしたら、次は人払いだ。するとスーリヤが心配そうに声をかけてくる。
「リーフ、本当に大丈夫なの? 相手の人、強そうだよ!?」
「任せとけ。タイマン魔法バトルはとっくの昔に妄想済みだ」
俺は前世では格ゲーも嗜んでいたしな。飛び道具使い同士の立ち回りなんて、だいたい想像がつく。俺は詳しいんだ。
「?? よくわからないけど……絶対死なないでよねっ!」
首をかしげつつもスーリヤたちが距離を取ったのを確認し、俺は改めてギリクと向かい合った。
ギリクがさっそく俺に手のひらを向ける。
「別れの挨拶は済んだか? ではまずは小手調べだ。――【火矢】!」
ヤツの頭上に一本の火の矢が生成され、即座に射出された。速い、けど軌道は直線。読みやすい。
「【土壁】」
俺はその射線上に【土壁】を展開。ボンッという鈍い破裂音と共に火の矢が霧散し、熱風だけが俺の髪を軽く撫でていく。
あっさり防がれたことに、兵士たちがザワザワとどよめき、ギリクがわずかに目を細めた。
「ほう……。なかなかの創成速度だな。それに【土壁】ごときで俺の【火矢】を防ぐとは思わなかったぞ。だが――」
なにやら上から目線で講釈を垂れ流そうとしているが、それを聞いてやるつもりはない。
「【石弾】」
俺の弾丸がまっすぐギリクに向かう。狙いは腕だ。
「チッ……この程度!」
――ギンッ!
だがギリクが身にまとうコートをはためかせると、硬質な音を響かせて石弾を弾き飛ばした。魔法的な何かが付与されている装備なのか? いいなあ、俺もそういう装備が欲しい。
と、まあ、俺の攻撃があっさり防がれたわけだが、そんなのは想定内だ。
「【石弾】【石弾】【石弾】」
さらに三発、立て続けに放つ。どれもギリクのコートに弾かれ、あるいはかわされて決定打にはならない。
しかしそれでいい。
俺の狙いはギリクにダメージを与えることじゃなく、種が魔の森に埋まるまでの時間を稼ぐことだからな。
飛び道具使い同士の戦いの基本は、飛び道具を打ち続けること。手を休めないことが鉄則だ。そうすれば膠着状態となり時間も稼ぎやすい。
遠くから飛び道具を連打するウザいキャラに――俺はなる!!
「チッ、薄汚いエルフが小賢しい真似を! これならどうだ!?」
さらに一発【石弾】を弾き飛ばしたギリクが、懐から短い杖を取り出した。
先端には魔石らしき物が付いている。魔法使いの杖というやつだろうか。
それを両手で構えてギリクが念じると、瞬時にヤツの周囲に五本の火矢が展開された。
「喰らえっ! 【炎の滝】!」
五本の火矢による同時射撃。しかも上下左右と軌道をずらし、逃げ場を奪うように炎が一気に迫ってきた。
わずかな隙でこれだけの攻撃をするとは、さすがはエリート様だけのことはある。けれど――
「全方位版、【土壁】!」
それも全て【土壁】で防いでやった。
結局、狙いは俺一人。俺の周囲を【土壁】で覆ってしまえば攻撃は通らないのだ。【土壁】の耐久度を信じてるからこそ、できるんだけどね。
「なっ!?」
ギリクの顔が引きつる。【土壁】ごと吹き飛ぶ俺を想像していたんだろうな。そして次は再び俺のターンだ――
――ここから何度か【石弾】を撃ち、隙を見てギリクが反撃――と、似たようなパターンが何度か続き、俺は順調に時間を稼いでいった。
しかしあまり状況が膠着すると、兵士の参戦もあるかもしれない。ここは戦いに彩りを添えるべく、少しはギリクにダメージを与えてみることにしよう。




