44 報酬
「報酬……?」
アリスティアはあざといくらい可愛らしく、こてりと首をかしげた。
「今回の件はリーフがこの愛らしい私のために、自ら進んで動いてくれたのではなくて?」
「そんなわけあるか。そこのバカ騎士が報酬を出すからって泣いてお願いするから、仕方なく、本当に仕方なーーーーく行ってやったんだよ」
「……ふふっ、わかってるわ。ちょっとからかっただけじゃない」
アリスティアは楽しそうに微笑みながら続ける。
「もちろん、私を救ってくれたことに心から感謝しているし、そのうえセバスまで助けてくれた。報酬は王族の名にかけて、きっちり用意させてもらうわ」
「フン、当たり前だ。こっちは本当に大変だったんだからな」
俺が鼻を鳴らすと、横で聞いていたカナンがいぶかしげに眉をひそめた。
「むっ、それほど大変だったか……? お前は帝国軍の精鋭相手であろうとも、さほど苦戦した様子もなくあっさりと殲滅させたではないか。さすがに謙遜が過ぎるぞ。ほら、もっと胸を張るがいい」
そう言ってにこやかに笑いながら背中をポンと叩いたカナンを、俺はじろりと見つめる。
そうだな。たしかに世界樹パワーのゴリ押しのお陰で、戦闘は面倒だったが大変だとは思わなかった。
でもなあ、こいつのお陰でゲロを吐いたり頭を打ったりと散々な目に遭ったんだよな。そっちの方が俺にはよっぽど大変だったよ。
すると今度はアリスティアが少し言いづらそうに、手をもじもじとさせながら口を開いた。
「あっ、でも……。報酬の話でひとつだけ、どうしても聞いてほしいお願いがあるのだけれど……いいかしら?」
「なんだ? 言っとくが、ツケなら利かないぞ。いつもニコニコ現金払いだ」
「そういう話じゃなくて。貴方が金銭以外で求めている報酬のことを……カナンから聞いたの。……それで、その……カナンを性奴隷にするという約束だけは、なんとか考え直してもらえないかしら……?」
その瞬間だった。突然カナンが弾かれたように俺の前に跪き、床に額をガンッと叩きつけて土下座を披露した。
「た、頼む! 姫様が無事に救われた今、私にも欲が出てきてしまったのだ……! これからも姫様を支え、守り、共に歩んでいきたい! そう強く願ってしまった! そのためにも、お前の性奴隷になるわけにはいかないのだ! もちろん、お前が私の身体に欲望を吐き出したいという気持ちは分かる! 分かるが! そこをなんとか、無理を承知でお願いできないだろうかっ……!!」
「えっ、リーフ。マジでさいてーなんだけど……」
カナンの土下座を呆然と眺めていると、隣から冷え切った声が。顔を向けるとスーリヤがゲロカスを見るような目で俺を見つめていた。そしてさらにパパママは、
「ははっ、リーフ君って意外と性欲が強いんだね。性欲が弱いと言われるエルフの中では貴重な逸材だよ」
「あらあら、それだけ元気なら、やっぱり来年にはスーリヤとの間にも……♡」
なんだか朗らかに笑っていたよ。……っていうか、どういうことだ!?
「待て、待て待て待て! おいカナン! 性奴隷って、一体なんの話だよそれは!?」
「リーフが私に言ったのではないか。姫様を助けて欲しくば私に奴隷になれと。私のようなうら若き乙女を奴隷するということは――つまり、そういうことなのだろう? だがあの時はもうお前に縋ることしかできず、私は自分の身を捧げる覚悟をもって――」
「は? え? いや、そんなこと言ったか? 俺が?」
このバカ騎士を性奴隷にしたいと? んなことあるわけない、常識的に考えて。
そこで俺は今日一日の記憶を必死に掘り返し――優秀なエルフブレインはなんとか記憶を探り当てた。
わかった! 俺が報酬のことを考えている間、カナンのやつがなんかごちゃごちゃ言ってたアレだな!?
「バカ! それは違うだろ! お前が勝手に『なんでもする』『奴隷にでもなる』『死ねと言われれば死ぬ』と言ったんだろうが!」
「むっ、そうだったのか? ……む、む、たしかに言われてみれば、そうだった気がするのだ……」
カナンがぱっと顔を上げる。
「姫様! どうやら私はリーフの性奴隷にならなくて済みそうです!」
「よかったわね、カナン。これからも私の傍にいてね」
「はいっ!」
「はいっ! じゃねーよ!」
俺は即座に突っ込んだ。
「おいカナン。よくも思い込みだけで、俺にとんでもない赤っ恥をかかせてくれたな?」
「リーフ、そんなに責めないであげて。カナンはちょっと忘れっぽくて、そのうえ自分の都合のいいように物事を改変してしまうだけで、ぜんぜん悪気はないの!」
「なおさら質が悪いわ! そういうことなら俺も引き下がらないぞ。……いいか、カナン。性奴隷になれとか死ねとか言うつもりはない。けどな、一度口にした以上、せめて『なんでもする』って約束だけは絶対に守ってもらうからな……!」
「ぐ、ぐうっ……。わ、わかった。騎士の言葉に二言はないのだ……」
顔をしかめながらもうなずくカナン。こいつにはおしおきが必要だからな。後でたっぷり反省させてやろう。
とにかく、しょんぼりしているバカ騎士を見て、ようやく俺の溜飲も下がった。これでやっと本題に入れる。
「……じゃあ話を戻すぞ? 報酬の件だけどな、俺は姫様のお命を助けたんだし、せいぜい気前よく払ってもらうつもりでいる。それで問題ないよな?」
「ええ、もちろん。でも、正直に言うと、かさばることもあって私たちはあまり現金を持ち合わせていないの。だから――」
そう言いながらアリスティアは自分の豊かな胸元に手を突っ込んだ。
……おい、まさか。
この期に及んで報酬はロイヤルおっぱいお触り券とか言う気じゃないだろうな?




