42 後始末2
「ねえっ、この花ってもっとたくさん作れるの!?」
詰め寄ってくるアリスティアに、思わず一歩引きながら答える。
「お、おう。今ならいくらでも作れるけど……」
「じゃあ作って、お願い! 今すぐ!」
切羽詰まった顔で懇願するアリスティア。その必死さはさっきまでの強気な王女然とした態度とはまるで別人だ。
正直、こいつに無償提供してやる義理はない、一切ない、まったくない。
ないのだけれど――その謎の圧力に押され、俺は【癒やしの花】を次々と生み出してやった。
それを生えていくそばから、アリスティアは爪の間に土が入るのも構わず必死な手つきでむしり取り、懐にかき集めていく。
「おいおい、まさかそれを転売する気じゃないだろうな? 俺は転売厨だけは許さないと心に決めているんだ。もしそのつもりなら――」
「違うに決まってるでしょ! いいから今すぐ帰るわよ! これがあれば……もしかしたらセバスが助かるかもしれないんだから……!」
「なっ……姫様! セバスさんはまだ生きているのですか!?」
「少なくとも私が拐われた時にはまだ息があったわ! あのセバスがそのまま簡単に死ぬとは思えないもの!」
「あのセバスって……。その割に爺さん、俺が見たときは馬車であっさり気絶してたけど?」
「あれは私とカナンをかばったせいなの! って言い争ってる暇もないわ。とにかく急いで!」
どうやら休憩なしの強行軍で帰ることになるらしい。俺は腹の底からクソデカため息を吐き出しながらカナンに命じた。
「は~~~~~~~。……わかった帰ろう。カナン、そこにしゃがめ」
「……む?」
首をかしげてぽかんとするカナン。ウソだろ、もう俺という名騎手の存在を忘れてしまったのか?
「いやいや、お前には俺を運ぶという重要な役目があるだろ?」
「バカなことを言うな! 姫様を救い出した今、私の両腕は姫様を安全にお運びするためにあるのだ! ささ、姫様。お疲れでしょう? 私がおぶって差し上げます!」
そう言ってアリスティアに背中を向けるカナン。マジかよ。アリスティアを助けた途端、手のひらを返しやがった。
……だが、俺としても今さら歩いて帰るなんてまっぴら御免だ。こいつらの様子を見るに、このままだと普通に俺だけ置き去りにされかねない。
「……わかった。じゃあこれならどうだ?」
俺は地面に手をかざし、イメージを固めながら世界樹の魔力を地面に流し込んだ。
すぐさま足元の土が盛り上がり、ツタや若木が一斉に伸び始めた。それらは絡み合い、編み込まれ、あっという間にひとつの形を作り上げていく。
そうして完成したのは、前後に二人が座れるサイズの植物製のソリだった。
地面との摩擦を極力減らすように、底面はツルッツルに仕上げておいた。カナンの馬鹿力なら余裕で引っ張っていけることだろう。
「この二人乗りのソリなら俺も姫様も運べる。これなら問題ないだろう?」
「ふむむっ、そうだな。問題ないぞ!」
あっさり承諾し、ソリの牽引ロープを握りしめるカナン。さっそく俺とアリスティアがソリに乗り込んだ。
配置はアリスティアが前、俺が後ろだ。今日の俺は頑張ったからな。後は静かにアリスティアの背中でも眺めながら、しばし一人の世界に引きこもろう。
「貴方って……こんなものまで簡単に作ってしまうのね……」
座席に腰を下ろし、手すりを撫でながらアリスティアがつぶやく。
「まあな。でも座り心地までは期待するなよ。……いや、本当に大丈夫か……? なんか急に心配になってきた。おい、カナン。なるべく揺らさないように慎重に――」
「それでは行きます。姫様、しっかり掴まってくださいね! うおおおおおおおおおセバスさん、今行きますよおおおおおおおおおおおおおおおおー!!」
ドゴォォォォンッ!
土煙を盛大に巻き上げ、ソリが凄まじい勢いで急発進した。
「おい、待てカナン! もっとスピードを落と――いや今すぐ止まれ! おい止まれって! とま、と、お、う、うわああああああああああああああ!!」
俺の声が届かないのか、カナン号は森の中を爆走していく。これって森に来た時と同じじゃねーか!
既視感にゾッとした俺は、前に座るアリスティアの肩を必死に揺さぶった。
「おい、姫様! カナンにスピードを緩めるように言ってくれ! 聞こえないみたいならポニテを引っ張ってやれ!」
「なぜ!? 今は急がないとダメなのよ! カナン、もっと速く走れないかしら!?」
アリスティアを前にしたのが仇となった。あろうことか、アリスティアはいかにも王族らしいよく通る声で、さらなるスピードアップを命令しやがった。
「もちろんいけますとも! うおおおおおおおおおおおお!」
「その調子よ! カナン頑張って!」
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
こうして森の中で俺の絶叫を響かせ、俺たちはファルトスへの帰路を突き進むことになったのだった。




