41 後始末
「とうっ!」
無駄に勇ましい掛け声とともに、カナンの長剣が振り下ろされた。
現在、カナンは重傷を負っていた黒装束たちに、情け容赦なくトドメを刺して回っている真っ最中である。武器を取り落とし、もはや抵抗の意思すら残っていない相手にも一切の躊躇はない。
そんな様子を眺めているとアリスティアから声がかかった。
「どうしたの? リーフ」
「いやまあ、必要なことなんだけどさ。あんなに風にトドメ刺して回るの俺には無理かもなあー、と思って」
「あら、貴方も気弱なところがあるのね、意外だわ。……ところで、この人たちは一体どうしたの……?」
不安げに尋ねるアリスティア。その視線の先には、先ほどまで彼女を担いでいた男を含め、数人の黒装束たちが無言のまま棒立ちになっていた。
そいつらはニ度にわたる【石散弾】の射線から外れ、無傷だった連中だ。
だが今は、まるで地蔵か大仏のように微動だにせず、虚空を見つめたまま固まっている。たまにうめき声らしきものは聞こえるけど。
「ああ、こいつらもすでに【森の人形】の支配下だ。お前を担いでいたヤツを支配した後、念のためやっといたんだよ。こいつらも、もう自分の意思で動けない」
「へ、へー……。そうなのね。これって……魔法を解けば、元通りになるの?」
「うーん、今なら戻るのかなあ……よくわからん。というか、このまま放っておいたら生きたままじわじわと木に変化していくんだよな。だから俺が荒らしてしまった森の、原状回復に役立ってもらうつもりだよ」
『素晴らしい! アフターケアも考えていたのですね。リーフにしては実に賢明な判断です!』
珍しく種が俺を褒める。
フフン、俺だって森を愛してやまない善良な一般エルフからな。これくらいのエコ活動は当然の嗜みだぜ。
だが、そんな俺をアリスティアは若干引きつった表情で見つめていた。
「そ、そう……。やっぱりエルフの感性って独特なのね……。いや、貴方がおかしいだけなのかしら?」
失礼なヤツめ。リサイクル精神はこの世界でも美徳だろう。なにも問題はないはずだ。
いや、そんなことは今はどうでもいい。ところで――
「なあ、姫様。そろそろ俺から離れてくれないか?」
救出されて以来、アリスティアはずっと俺に抱きついたままなのだ。
密着した身体越しに、むにゅんとした柔らかさとふわぁとした体温がダイレクトに伝わってきている。これ以上こんな状態が続いていたら、マジでおっぱいを触ってしまいそうなんだよ。
そしてうっかりこのロイヤルおっぱいに触れようものなら、それをネタに揺すられることは間違いない。
俺が巨乳の誘惑に負けたとなれば貧乳スーリヤもきっと庇ってくれないだろう。そうなれば俺の楽しい引きこもり生活も、今後どう転ぶか分かったもんじゃない。
「え? ……あ、ああ、そうね! ちょっと感謝を込めて長くやりすぎたかしら!? でも光栄に思いなさい、王国の至宝アリスティア姫のハグよ! この栄誉を一生の自慢にするといいわ!」
バッと離れたアリスティアが、ビシイッと指を突きつけてくる。その顔は真っ赤になっているが、ここはあえて触れないでおこう。触れてもロクなことがない。
するとそこに、ひと仕事を終えて額に労働の汗を光らせながらカナンが戻ってきた。
「――ふうふうっ! 姫様! このカナン、残党もしっかり討伐してまいりましたー!」
「まあっ! すごいわカナン!」
これ幸いとばかり、アリスティアも話相手をカナンに切り替える。
俺の気配感知にも、もう生存者の反応はない。どうやら連中はしっかり全滅したらしい。
なにせ帝国軍諜報院なんて名乗る連中だ。半端に逃がして情報を持ち帰られると、後々面倒になるのは目に見えているからな。これでアリスティアの捜索も大幅に遅れることだろう。
さっそく俺はあちこち歩き回り、カナンがトドメを刺した死体にも【森の人形】の根を張らせていくことにした。
この死体が養分になり、俺が荒らしてしまった森一帯を早急に緑に戻してくれるはずだ。これがサイロス最後の仕事でもある。大きく立派な木に育ってくれよ。
こうして後始末が完了し、ようやく一息つけると思ったのだが――
サイロスに一方的に切り刻まれていたカナンが、いまだに血まみれなのが気になった。というか、その傷でよく平気な顔で立っていられるなコイツ。
「おい、カナン。見てるこっちが痛くなる。これをやるから、さっさと傷を治してくれ」
俺は【癒やしの花】をカナンに手渡した。
「むむっ、すまない。ありがたくいただこう」
カナンは【癒やしの花】を受け取ると、花弁をいくつもの傷口にポンポンポンッと手際よく当てていく。
すぐに深い切り傷が塞がっていき、その光景にアリスティアが目を丸くした。
「えっ、なにこれ。これもリーフの魔法……なのよね? すごい……!」
「ああ、【癒やしの花】っていう魔法の花だ」
「むう、普通の薬草じゃなかったのか? たしかに痛いのがすぐに治まるなあとは思ったのだが……」
「ねえっ、この花ってもっとたくさん作れるの!?」
首をかしげる残念なカナンを横目に、アリスティアが縋りつくような必死さで俺に顔を近づけてきた。




