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32 今後の予定

 スーリヤの両親は今朝になってファルトスの町に到着した。予想どおり、のんびりと寄り道しながら来たらしい。


 そして合流したスーリヤがさっそくこの宿に連れてきたわけである。


 挨拶がひと通り終わったところで、俺は気になっていたことを尋ねた。


「それで、パパさんたちは住むところをどうするつもりなんですか」


 ちなみに俺の彼らの呼び名はパパさん、ママさんである。


 両親が旅立ったあと何かと世話になっていくうちに、スーリヤがパパママと呼んでるせいか自然とそうなった。というか、二人の名前ってなんだっけかな……?


「うん、それなんだけどね。実は僕らも北の森に寄ってきたんだよ。でも、なんだか移住は無理みたいじゃない? それで他に行く先は決まってない状態なんだ」


「ああ……。ウチの両親がなんかすみません」


「いやいや、あの二人が悪いわけではないし、北の森の住民も悪いわけでもないと思うよ。移住っていうのはね、理屈じゃなくて相性の問題だから。今回は極端に合わなかったんだろうね。移住問題ではよくあることだよ」


 うんうんと物知り顔でうなずくパパさん。


「そういえばお二人も他の森から世界樹の森に移住してきたんでしたね」


「うん。だから僕らを受け入れてくれた世界樹の森には感謝してるんだ」


 そしてパパさんは、気安そうにさらに続ける。


「それでね、僕らは今度は町で暮らしてみようかなーって思ってるよ。北の森も過疎になりつつあるみたいだし、たぶん()()()()()()()住人を受け入れざるを得なくなると思うしね」


 気の長い話である。エルフの()()()()()()()は十年二十年くらいは余裕で想定内だからな。


「へー。この町で暮らすんですか。正直、その発想はなかったな。それじゃあスーリヤはどうすんの?」


「うん……。パパとママが暮らすなら私もそれでもいいかなって思ったんだけど……リーフは?」


「俺? 俺はもちろん森を探すよ。例の種が毎日のようにうるさいしな」


 するとそこでパパさんが声を上げた。


「そうそう、スーリヤから聞いたよ。リーフ君は世界樹の種子を拾ったんだってね」


「ええ、まあ。なんか成り行きで」


「たとえ成り行きだったとしても、その種子は大切にすべきものだと思うよ。だからこそ、君は絶対に森に行くべきだ」


「そりゃあ行くつもりですけど……」


 じっと俺の目を見るパパさん。その視線には普段はない真剣さを帯びていて、年長エルフならではの重みみたいなものを感じた。


 すると種から妙に感じ入ったような声が響く。


『くうっ……! ま、まともなエルフがいたことに私はいま猛烈に感動しています。見ましたか、リーフ? これが世界樹に敬意を払う、普通の、普通のエルフの姿なのです!』


 などと脳内で種が勝手に盛り上がる中、スーリヤがちらちらと俺の方を見ながら口を開く。


「そっかー、リーフは森か。まあそうだよね。……そ、それならさ、私もリーフについていこっかなー。私も町よりも森のほうが好きだしなー」


「ん? せっかく両親に会えたのにいいのかよ」


「あらあら、私たちのことは気にしないでいいのよ? スーリヤも立派な大人なんだから」


「だよねママ。うん、決めた! 私はリーフについてく。リーフもいいよね?」


「俺の面倒をみてくれるならいいよ」


「……なるべく自分のことは自分でやってよね」


 はっきり否定しないあたりが、こいつの人のいいところである。


「まあスーリヤ、よかったわね。それじゃあ移住先が決まったらお手紙ちょうだい。孫の顔を見に行くから♪」


「そんなんじゃないって言ってるでしょ!」


 スーリヤが再び顔を真っ赤にさせる。


 この手のからかいは世界樹の森にいた頃から散々やられてきたはずなのに、どうしてコイツはいつまで経っても慣れないのだろうね。


 それから気を取り直したスーリヤが、「じゃあ今後の予定だけどさ」と、お手製の地図を広げた。


「ここがファルトスの町ね、ここからこう……さらに南に行くと大きな町があるの。リーフの好きな外壁に守られた町だそうだよ。それで、その近くの森を探ってみるのがいいと思うんだけど、どう?」


「それが無難そうだな。南に行けばいくほど北にある帝国の影響が少なくなるだろうし」


 もはや俺は死んだと思われてるだろうが、それでも世界樹の種子を狙っているような連中とはなるべく離れたい。南に進むのは大賛成だ。


『なぜですか。むしろ帝国領ギリギリを狙って進みましょう。そして返り討ちにしてやるのです』


 コイツはコイツでどんどん過激派になってる気がする。やっぱストレスとか溜まってんのかな……。


 そしてスーリヤが地図を眺めながらぼそっとつぶやく。


「でもさー。お金が心配なんだよね……」


「なんで? 姫様御一行にもらった金がまだたんまりあるじゃん」


 俺の言葉にスーリヤが肩を落としながらため息をついた。


「リーフさあ……。森を探して旅をするならお金がいくらあっても足りないよ? そりゃあ安く済ませるなら大人数が泊まるような部屋で雑魚寝したり、道中も安くて固い黒パンなんかを食べたりして節約はできるけど……リーフは我慢できんの?」


「無理。俺はストレスのない快適な環境を要求するぞ。引きこもるには衣食住の充実は不可欠だからな」


「でしょー。だからこのファルトスで冒険者になってしばらくお金を稼ぐって案も考えてるんだけど、どう?」


「お前って、よっぽど冒険者になりたいんだなあ」


「へへっ、やっぱり一度はやってみたいかなあって……」


 金の問題か……。今回は野盗に遭ったり、フィギュアが売れたり、姫様御一行から謝礼が出たりとかなり幸運に恵まれた自覚がある。野盗と姫様は戦闘に巻き込まれたから幸運というか不運のような気もするけど。


 とにかく今後は食い扶持も考えなきゃダメってことか?


 いやいや、俺は悠々自適に暮らしたいのであって、食うために仕方なく働くとかイヤだぞ……。冒険者なんて絶対無理だし。森にさえいれば自給自足できる自信があるのに、どうしてこうなった。


 とはいえ、金の問題よりも先に済ませておきたいこともある。


「とりあえずさ、次の町に行くくらいなら金も足りるだろ。俺はここからさっさと出たいし、ひとまず金の件は次の町で考えないか?」


「あー……。たしかにそうかもね」


 スーリヤが隣の部屋を眺めながら答える。


 当然、姫様の勧誘は断っているのだが、それでも毎日勧誘されるのは普通に落ち着かない。だがこちらが先に町を発ってしまえば、向こうも諦めるしかないだろう。


 ちなみに、連日俺の部屋でフィギュアを見学していた金髪巨乳姫様1/1スケールは、今朝は珍しく姿を見せなかった。


 今日はこの町の協力者も交えて重要な打ち合わせがあるとのことだ。向こうも向こうでそろそろ出発が近そうである。


 ――こうして、俺たちは近々ファルトスの町を発つことが決定した。


 スーリヤの両親は別宿へと向かい、それにスーリヤもついていった。今日は向こうに泊まってくるらしい。


 つまり俺は念願の一人部屋状態。


 面倒な王族も留守ということで、久しぶりにひとりっきりの創作活動を満喫していたわけだが――


 バタン!


 破壊されて以来、鍵の付いていない扉が勢いよく開け放たれた。


「おい、こら! せめてノックをだな――」


「リーフ!」


 そこに立っていたのは、血相を変えたカナンだった。鎧も傷だらけで額からは血を流している。


「は? なっ!? おい、カナンどうしたんだよ!」


「姫様が……」


 荒い息を吐きながら、カナンは叫んだ。


「姫様が、さらわれたのだ!」

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