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3 妄想スライダー

「世界樹の種子……ねえ。……まあいいか、とにかく助かりたいんだろ?」


『そういうことです。あなたがあの狼藉者どもから私を守るのです』


「なんだよ、その偉そうな態度は。……でもまあ、せっかくここまで来たんだ。逃げるついでに連れていってやるよ」


 なんだかイラっとしたが、かと言って見捨てるほど薄情者にはなりたくない。俺は肩に下げた鞄を開き、そこに種をぽいっと放り込んだ。


『うびゃっ! ……や、やめなさい! もっとこう……両手でやさし~く包みこむように持ち運ぶのです』


「うるさいよ。助かりたいなら、多少の不便は我慢するんだな」


『むむむ、なんという無礼。……リーフ、私は知っているのですよ?』


「ん? なにがだよ」


 ――あれ? 俺、名前を言ったっけか。と首をかしげたところで種の念話が脳内に響く。


『あなたは日々、ふぃぎゅあなる物を作っていますね?』


「は? フィギュアのことをなんでお前が知ってんだ?」


『それだけじゃありませんよ。あなたはその自作ふぃぎゅあを使って――』


「お、おい! なにを言うつもりだ!?」


『一人再現あにめ大会をしていますね?』


「ぬわああああああああああああああああああああ!!!!」


 思わず俺は頭を抱えて絶叫した。それは俺が両親にもスーリヤにも隠していた、誰にも知られたくない秘密の趣味だ。


 フィギュアを作ると不意に日本のアニメを恋しくなることがある。だがこの世界にアニメは存在しないし、俺がアニメを作ることもできない。


 なのでせめてフィギュアをそれっぽく動かし、BGMを口ずさみ、セリフを自分でアテレコしながらアニメを見ている気分に浸るのだ。


 こないだは某アニメの最終回シーンを再現して、うかつにも涙まで流した。そんな誰にも知られるはずのない秘密の趣味を、なんでこんな種が知っているんだよ。


『私はこの世界樹の娘。母様が私を産み落とす際に母様の記憶が私に流れ込んだのです。母様の胎内であるウロの中に住んでいたあなたのプライバシーなど、存在しないと思いなさい』


「ふざけんな! 俺の恥ずかしい記憶を持ってるヤツを助けられるか! 気が変わった、お前は置いていく! 追放だ、追放!」


『あれあれ? よろしいのですか? 私、あの連中に拾われたら、ぜんぶ言いふらすと思いますけど? リーフというエルフがお人形を片手にボロボロと泣いていた――それはいつか帝国中で知らぬものなどいない逸話となることでしょう』


「脅迫じゃねえか!!」


 ああもうクソッ! 俺はやむなく鞄を閉じた。


 こうなったら仕方ない。とりあえずここから脱出して、逃げた先の人目に触れなさそうな僻地の深い地層にこの種を埋め込んでやる。絶対にだ。


『私を保護してくれるのですね。感謝しますよ、リーフ』


 鞄の中で世界樹の種が嬉しそうに揺れた気がした。たぶん気のせいだろうけど。


『それで、どうやって逃げるつもりです? あの兵士たちを全員倒すつもりでしょうか』


「そんなことはしないって。というかあれだけの数を一人でとか無理でしょ。無双ゲーとリアルを一緒にするなよ」


『ムソーゲー? では、どうするのですか?』


 俺はぐるりと辺りを見回す。世界樹のてっぺんからだと火の回っている方向がよくわかる。北側の森から真っ白な煙と炎が上がっているが、南側はきれいなものだ。つまり帝国兵は北から来ている。逃げるなら南だ。


「黙って見ときな――【土創造(ソイルクリエイト)】」


 俺は南の方角に、屋外プール施設で見るような半円型の滑り台を作り出した。それを風魔法【浮遊(レビテーション)】で浮かせてやる。


『ふむ、見事な土魔法と風魔法です。それで……?』


「こうする」


 俺は空中にぷかぷかと浮く滑り台の中に乗り込んだ。土魔法で作った滑り台は五メートルほどしかなく、その先は無い。


 だが俺は気にせずそのまま滑り台から手を離した。ケツが斜面を滑りだし――


「ひいいいいいいいい【土創造(ソイルクリエイト)】ぉぉぉ~~~~~!!」


 滑りながら斜面を作り足す!


 同時に【浮遊(レビテーション)】で全体を浮かせ続けて!


 重すぎると沈むので、滑り終えた箇所は分解して軽量化!


 その三つを同時にやりながら世界樹から離れるという、空中滑り台作戦が俺が妄想上で考えた脱出作戦だったわけだが――


「さすがにこのスピードは怖いいいいいいいいいいいいいいい!!」

『私も怖いですううううううううううううううううううううう!!』


 二人して絶叫しながら滑り台を滑っていく。


 こうして俺と世界樹の種は燃え盛る世界樹から、かろうじて脱出することに成功したのだった。

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