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19 邪教の儀式

 結果からいえば、野盗たちはあんまり金を持っていなかった。まあ金をたっぷり持っていたら野盗なんてやらないか。


 とはいえ、無一文だった俺とスーリヤにとって臨時収入はありがたい。


 こいつらは仲間すらも信じられないのか、現金はすべて持ち歩いていたようだ。なので鞄やポケット、剣の鞘――さらには靴の中に至るまで入念にむしり取った結果、総額で五万G(ゴル)ほどになった。


 Gはこの辺りで使われている通貨の単位でゴルと言う。


 スーリヤに聞くと、五万Gあれば二人で一週間は宿屋に泊まりながら飲み食いできるくらいの金額らしい。


 他にも物価の値段をいろいろ聞いたところ、1G=前世日本の1円くらいに思っておけばいいのかなという結論に達した。


 まあ細かく調べればぜんぜん違うのかもしれないが、わかりやすいのでとりあえずそう考えておこう。


 そして有り金をむしり取られた野盗たちはというと――


 俺の穴掘り土魔法【掘削(ディグ)】で掘った穴に、一人ずつ丁寧に埋め込んでやった。


 焚き火を囲んで生首が並んでいるように見える光景は、なんだか邪教の儀式みたいだ。夜中に通りかかった人がいたら、間違いなく腰を抜かすと思う。


 もちろん簡単に出られないように、土魔法で固めている。


「あ、あの、命は助けてもらえるんじゃ……」


 首を動かして媚びるように見つめる野盗に俺は言い放つ。


「ああ、運がよければ助けてもらえるかもな」


 こいつらが悪党なのは間違いない。とはいえ、積極的に命を奪うほど正義マンにはなれないので、俺の預かり知らないところで勝手に死んでくれないかなーくらいがちょうどいい。


 我ながら中途半端だとは思うが、俺の心の平穏を保つことがなによりも大事なのだ。


「だ、誰か! 助けてくれー!」「おーい!」「誰かー!」


 俺からの救いがないと気付いた連中の叫び声が、夜の草原に虚しく響く。


 俺は連中から見えない位置に土魔法で簡単な看板を作り、こう書き記した。


『この辺に出没していた野盗です。賞金がかかっているようなら、ご自由にお持ち帰りください』


 これなら次に見つけた人の判断材料になるだろう。運が良ければ仲間に助けてもらえるしれない。


 逆に恨みを持つ人に見つかれば……まあ、言わずもがなだ。


 こうして野盗の処理は終わったが、叫び続ける野盗を尻目に安眠することはできない。


 そこで仕方なく、俺たちは月明かりを頼りに夜道をさらに歩くことになった。


 ◇◇◇


 野盗と対峙していたときはそっちに気を取られていたせいか、外に出ていることすら忘れていたが、落ち着いてくるとやっぱりしんどい。


 夜になった分少しはマシになったとはいえ、それでも広大な空と地平が俺を不安にさせてくる。


 そこで引き続きひたすらスーリヤの背中を見続けながら移動して一時間。俺たちは新たな野宿ポイントへと到着した。


 さすがに疲れたのでさっさと野宿する運びになったのだが――ここで俺はある問題に気づいた。


「あ」


「どしたの、リーフ」


「【森の隠れ家(フォレストコテージ)】が使えない」


「そういやワッサー! って木が襲いかかる魔法も使えなかったね。……ぷふっ」


 俺の黒歴史をさっそく思い出したらしく、吹き出すスーリヤ。


「そのことについてはもう忘れてくれ。とにかく、森が近くにないと世界樹の力が使えないみたいなんだよ」


「ふーん、そうなんだ。……案外使えないんだね。世界樹って」


『やはりこの娘も不敬ですね。いったいあの村はどうなっているのですか?』


 種が不服そうに念話を飛ばしてくるが、実際そうなんだから仕方ない。世界樹の力がないなら、タダのしゃべる種である。


「じゃあ、今日は家がないんだ」


 しょんぼりするスーリヤ。まあ野盗に遭った直後だし、ここは気分を切り替えるためにも完全リラックス状態で眠りたいという気持ちはよくわかる。


『ふふん、少しは私のありがたみを感じることです。そして私をもっと敬いなさい』


 種の野郎が勝ち誇ったような念話を届けてくる。


「ほう……」


 正直、俺は昨日作ったような土ドームでも構わないと思っていた。しかしこの念話を聞いて気が変わった。


 ここは引きこもりの住環境に対する情熱を、思い知らせてやるべきだろう。


「【土壁(アースウォール)】」


 俺の魔法が発動し、地面から土がせり上がった。


 さらに前世の公園にあった東屋をイメージしながら、まずは柱、そして屋根を土魔法でしっかり作る。さらに風除け用の壁を足して、隙間を埋めていく。


 そうして数分も経たず、小さいがしっかりした土造りの家が出来上がった。


 そして中には土が土台のベッドを二つ作った。ちょっと固いが、まあ無いよりマシだな。


 さらにもう一つ東屋を作り、今度は内側を防水用に魔力でカチカチに固める。水を張れば、簡易的な風呂の完成だ。


 俺は完成した二つの建物を眺めながら、軽く汗をぬぐう。


「ふうっ……。世界樹の力がなくても、これくらいできるんだよなあ」


「といってもさ、ここまでできるの、村でもリーフくらいだと思うよ……。普通、土を高く伸ばしていったら途中でボロボロ崩れるもん」


『ぐぬぬぬ……』


 感心してるのか呆れてるのかわからんスーリヤはともかく、種の悔しそうなうめき声はとても気持ちいい。


 魔力をかなり使って正直ヘトヘトだが、家を完成させた後の気分も悪くない。フィギュアを一体作り終えたのと同じくらいの達成感があるな。


 こうして、なんだかんだで二日目の夜も無事に終わった。


 そして――三日目の昼前。


 俺たちは、ようやく目的地であるファルトスの町に到着した。


 町を取り囲む石造りの壁が見えたとき、その『壁』という存在そのものに、俺は強い安心感を覚えたのだった。

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