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14 キャンプ

「ただいまー……」


 お花摘みから戻ってきたスーリヤは何事もなかったかのように、近くのちょうどいい岩に腰を下ろした。


 気まずい空気を引きずらないよう、俺はさっさと話題を変えることにする。


「そういえば、ここって森のどの辺りになるんだ?」


「う、うん。あの崖からだいぶ流されたみたいだし、もうすぐ森を抜けると思うよ」


 ひとまず森を抜けるのが今の俺の目的だ。どうやら逃走自体は順調らしい。


「それじゃあもうすぐ逃げ切れそうだな。……ああ、そうだ。お前の両親はどうなったんだ? もしかして帝国軍に捕まったりとか……」


 スーリヤの両親には特製肥料を買ってもらったり、買い出しを頼んだり、飯を作ってもらったりと実の両親以上に世話になっている。俺はイヤだぞ、あの人たちが不幸な目に遭ったりするのは。


「それは大丈夫だと思うよ。あのおじさん以外には見つからなかったし。あのとき、二手に分かれて逃げたんだけど、自由都市連合の町で待ち合わせしてるんだ。むしろ川を早く下れた分、私のほうが先に着くかも」


 ――自由都市連合。世界樹の森の南方に広がる、小国と町が寄り集まった地帯。帝国からは離れているし、影響力は皆無のはずだ。たしかにそこまで行けば安全圏と言ってもいいだろう。


 そうして俺が内心で胸を撫で下ろしている間に、スーリヤは慣れた手つきで周囲から枯れ枝を集めていた。


「ん? それ、どうする気だ?」


「焚き火用。今夜はここでキャンプをするんだよ。ずっとあんな繭の中にいたら身体がバッキバキに固まっちゃうし」


「そうか。じゃあ俺は繭に戻って寝るからな。もし魔物が来たら大声を上げて起こしてくれ」


「えっ、リーフは戻るの?」


「ああ。繭の中でゆらゆら揺られて安らぎたいんだ」


「いや……うん、わかるよ? リーフらしいし。でも……やっぱ夜の森って一人だとちょっと怖いじゃん? 私としては一緒にいてくれると助かるんだけど……」


 なんだか言いにくそうにもじもじとつぶやくスーリヤだが。


 ――お前はなにを言っているんだ?


「は? 夜の森って怖いか? むしろ落ち着くだろ」


「それ、リーフだけだからね……」


『やはりお前だけなんですね。すべてのエルフがおかしいのかと勘違いするところでした』


 なんだか好き放題言われてる気がする。とはいえ、俺としてもさんざん世話になった幼馴染を突き放すつもりはない。


「わかったよ。それなら、ちゃんと寝られる場所を作ってみるか」


 帝国兵に追われる前に作った土ドームでもよかったが、スーリヤも使うならせっかくだ。世界樹の力を使って、もう少し快適にしてやろう。俺は地面に手をかざし、イメージを固めながら――


「――【森の隠れ家(フォレストコテージ)】」


 世界樹の魔力を地面に流し込んだ。


 グググ……ギチッ、バキッ……!


 まず足元の土が静かに波打ち始めた。続いて周辺の木々とは明らかに違う若木が地面を押し上げるようにぶわっと芽吹き、急速に太く長く伸びていく。


 一見すると【大地の呪縛(ガイアバインド)】と似ているが、すぐに違いがはっきりした。


 今回生まれた木々は互いに引き寄せられるように近づき、幹がくにゃりと柔らかく曲がって絡み合い、自然ではありえない形を作り始めていったのだ。


「わっ、なにこれ!? どうなるの?」


 スーリヤが一歩引きながら、少し不安そうに声を上げる。


 けれど俺自身もなんとなく『こうなったらいいな』くらいのイメージで魔力を流し込んでいるだけなので、正直どうなるのかよく分からないんだよな。


 なので、ここは魔法に集中しているフリをして、黙っておこう。


 そうして俺が無駄に真剣な顔をしている間にも、木々がどんどん生まれ、絡み合い、融合していく。


 ある木々は壁のようにまっすぐ立ち並び、別の木は屋根を形作るように緩やかに弧を描く。枝は窓の枠を形作るように丸い曲線を帯び、小枝から伸びた葉は木々の小さな隙間を埋めるように重なっていった。


 やがて――木々は一つの建造物を編み上げる。それは森と一体化したような小さなコテージだった。


 はっきりと家の形が完成すると同時に、玄関らしき場所にぽうっと柔らかな光が灯る。よく見ると花の形をした発光植物が照明代わりに根付いていた。……なかなかオシャレじゃないか。


「俺はここで寝る。二部屋あるはずだからな、スーリヤも入ってもいいぞ」


「ええっ!? これってもしかして家なの!? リーフ、いくら引きこもりたいからってやりすぎだって……」


『同感です。世界樹の力をこんな土木工事に使うなど……。母様が聞いたら卒倒してしまいそうです』


 スーリヤと種、双方からの呆れ声を背中で聞き流しながら、俺は完成したばかりのコテージへと向かったのだった。

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