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11 大地の呪縛

「うわあああああああ!」「何だこれ! 地面が!」「助けてくれえええ!」「木が、木が生きているぞ!」「やめろ! 離れてくれ!!」「ひいいいいいいいい!」


 突然、地面を押し割って伸びてきた樹木とツタが兵士たちを襲い、辺りは瞬く間に阿鼻叫喚の巷と化した。


 森そのものが意思を持って牙をむいたかのような光景に、兵士は恐怖に顔を引きつらせ、我先にと逃げ出そうとして逆に絡め取られていく。


「クソッ、なんだこれは!? ええい、邪魔だっ!」


 そんな状況でも唯一冷静だったのがヴァルツ。ヴァルツは絡みつくツタを切り払おうと剣を力任せに振り回していた。だが一本断ち切ればすぐに次の太い根が絡みつき、ヴァルツを逃がすまいと締め上げていく。


 ちなみに、近くにいたスーリヤには根もツタも一本たりとも絡んでいない。俺の意思どおり【大地の呪縛(ガイアバインド)】は完璧に動いてくれていた。


「おい、スーリヤ! 早くこっちに来い!」


「えっ……う、うん!」


 状況が状況だけに呆然としていたスーリヤだったが、返事をすると手首の縄をパラリと外し、軽い身のこなしで俺の方へと駆けてきた。


 ……やっぱりウソ泣きだったか。どうせさっきのは隠し持ったナイフで縄を切っていたんだろう。


 なんだかんだで百年来の幼馴染だ。捕まったくらいでメソメソ泣くようなタマじゃないのは分かっていたからな。


「ふうっ、助かった! ありがとねリーフ……っていうかアレなに? なんなの!? リーフの魔法って変なの多いけど、あんなのも使えたの!?」


 兵士たちが根に絡まっている地獄絵図を指差しながら、スーリヤが興奮気味に尋ねてくるのだが。


「それは後で説明する。それよりさ、お前って別にひとりでも逃げられたんじゃないの?」


「無理無理! あのおじさん、全然スキを見せてくれなかったんだから!」


 おじさんって、絶対お前の方が年上じゃん。と思ったが、さすがに今は突っ込んでいるヒマはない。


「それじゃあ逃げるぞ!」


「オッケー!」


『はい……ぐすん……』


 再び種を鞄に戻すと、やたらテンション低めの念話が聞こえたが今はスルー。とにかく撤退だ。


「ヤツらを捕らえろ! 絶対に逃がすな!」


「ですがっ、ヴァイツ将軍! 木が絡まって、動けません……!」


「チッ、使えぬ者どもめ! ――はあああああああああああっ!」


 ヴァルツが怒号とともに剣を振り下ろし、ついにツタの束縛を断ち切った。そして怒りの形相で地面を蹴り、枝やツタを吹き飛ばしながら俺たちに突進してきたのだが――それも想定済みだ。


 俺は足を止めて振り返り、ヴァルツに向かって指を向けると――


「【石弾(ストーンバレット)】!!」


 走りながら準備していた弾丸が唸りを上げ、ヴァルツの土手っ腹へと一直線に飛んでいった。


 ガギィィィィィンッ……!


「ぐはっっ……!!」


 硬質な金属音が響き、ヴァルツの口から血が吹き上がる。


 どうやらあの真っ黒な鎧は相当な代物らしく、俺の弾丸でも凹ませるのがせいぜいだったようだ。それでもヴァルツの体をのけぞらせ、内部にまで届いた衝撃でヤツは膝からガクリと崩れ落ちた。


「よっしゃあ! ざまあああああああみろ!! ついでにもういっちょ【大地の呪縛(ガイアバインド)】!! 家を燃やされた恨みを思い知れっ!」


「ぐおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 追撃の【大地の呪縛(ガイアバインド)】が発動し、倒れたヴァルツの体を極太の枝とツタが鷲掴みにして締め上げていく。ギチギチと骨がきしむ音がこっちの方まで聞こえ、ヴァイツが苦悶の声を漏らす。


 よしっ、少しはスカッとしたぜ。復讐なんてガラじゃないが、それでもストレスは溜め込まずにしっかり発散させる。それが健康的な引きこもりの第一歩だからな。


 今度こそ本当に撤収だ。そうして俺とスーリヤは混乱する現場を背にして、森の奥へ全力で走り出したのだった――


 ――が、あっという間に体力を尽きた。


「はっ……はあ、ぜぇぜぇ……無理、もう無理ィ! 足がもげちゃう!」


「はいはい、ほら行くよリーフ!」


 途中から俺は完全にお荷物と化し、スーリヤに手首を掴まれてズルズルと引きずられていた。さっきの世界樹の件では謎の万能感に溢れていたが、俺の体力が回復したわけではなかったようだ。


 そんな中、俺のエルフイヤーには、さっきからとある音を捉えていた。


「ぜえぜえ、ひいひぃ……。な、なあ、スーリヤ。この先にあるのって……」


「あっ、そうだ! 崖だ! 崖があるんだった! この方角ダメじゃん。迂回しよ!」


「ああ、やっぱりか。それじゃあ――このまま行くぞ」


「えええええええええ!? それ本気ぃ!?」


 スーリヤの叫びを無視して、俺はずるずると足を進める。幸いスーリヤも文句を言いながらもついてきた。この辺の信頼関係はちょっと嬉しいね。


 やがて木々が途切れ、視界が一気に開けた。


 そこにあるのは聞いていたとおりの断崖絶壁。


 幅は数十メートル、真下には濁流が轟音を響かせながら流れている。落ちたら絶対死ぬヤツだ。


 もっと離れたところには橋があるそうだが、そこに向かおうとは最初からまったく考えていない。


「ほらー! やっぱ行き止まりじゃん! どうすんのよー!?」


 スーリヤが崖下を覗き込みながら叫んだ。そこに――


「追いついたぞ……忌々しい耳長どもがァ……!」


 森の暗がりから、ふらりとヴァルツが現れた。全身に擦り傷、腹を押さえて口端からは血を流し、怒りにギラついた目で俺たちを睨んでいる。


「絶対に許さん……。お前らだけは、この手で必ず殺す。耳を切り刻み、手足を切り落とし、目と喉を潰し――生きたまま地獄を味あわせた後でな……!」


 どす黒い殺気を撒き散らしながら身体を震わせるヴァルツ。正直めっちゃ怖い。肝が太いスーリヤですらその執念深さに青ざめていた。


「……なあスーリヤ。こいつにじわじわ殺されるよりは、今から俺のやることに黙ってついてくる方がマシだよな?」


「え? ……うん、まあ、そうだけど……」


 俺はスーリヤの手をぎゅっと握った。


「ちょっ、ちょっと、リーフ! こんなところでなにする気!?」


 あわあわと挙動不審になり、頬を赤らめるスーリヤ。この状況でアホな勘違いできるのは大物だと思うよ。俺はただ静かに、そして冷静に伝える。


「決まってるだろ」


 俺はスーリヤの抗議を無視して引き寄せると、その腰をしっかり抱いた。


「ぎゃっ! さすがに近い近い近いって!」


 本当に察しの悪いヤツだよ。俺はスーリヤを抱きかかえる力を強めると、最期の言葉をヴァルツに向かって叩きつけた。


「じゃあな将軍さん! 一足先にあの世で待ってるぜ!」


 そして俺は地面を蹴って、スーリヤごと崖下にダイブしたのだった。


 落ちゆく視界の中――


 崖の上に取り残されたヴァルツが血まみれの顔で歯を食いしばり、憎悪と悔しさに歪んだ表情でこちらを睨みつける姿が見えた。

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