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109 豆知識

「……ところで。貴方、私にまだ言っていないことがあるわよね?」


 は? なにかあったっけか。


「カナンに聞いたのよ。ばなな? という食べ物があるのよね? 王国でも聞いたこともない、とても甘い果物だそうじゃない」


「なんだ、バナナが食いたくなったのか。姫様は食い意地が張ってるな」


「なっ……! わ、私はただ、次代を担う王族として未知の食料を――い、いえ、正直に言うわ。ええ、食べたいのよ! 悪い!?」


 顔を真っ赤にして言い切るアリスティア。堂々と開き直るあたり、さすがは王族というべきか。


「別にもったいぶる気はないって。食いたいなら食わせてやるよ。――おーい、生えてこいバナナの木」


 俺はその場で世界樹の魔力を足元に流した。


 途端に地面から緑の芽が飛び出し、ぐんぐんと伸びていく。そしてあっという間に俺の背丈ほどの木へと成長し、黄金色に熟れた果実が房になって垂れ下がった。


 ……相変わらず俺の知っているバナナの木とは微妙に形が違うのだが、まあバナナはバナナだ。そして俺はそいつを一本ずつもぎ取り、全員に手渡す。


 見慣れない果実を前に皆がまじまじと観察する中、カナンが得意げにレクチャーを始めた。


「オホン。皆様、よろしいですか! これはまず、皮を剥いてから食べるのです! 決してそのままかじってはいけませんよ!?」


「ふふっ、さすがにそのくらいは見た目でわかるよ」


 くすりと笑うスーリヤ。言ってやるな。そのまま食おうとしたやつが目の前にいる。


「……こうするのね?」


 そうしてアリスティアたちが丁寧に皮を剥き、中からなめらかなクリーム色の果肉が姿を現す。


「それでは実食といきましょう! こうしてパクリと食べるのです! ――んくっ……ぁ」


 カナンがまたしても無駄にエロい感じに食いついてしまう。ほんと、なんなんだコイツ。


 それに全員が引き気味になりつつも、顔を見合わせて一斉に口に運んだ。


「「「はぐっ……!」」」


 そして――


「まあっ……美味しい!」

「すっごく甘いね!」

「この香り、好きですぅ!」

「そうでしょう、そうでしょう! このカナン、偽りは申しませんとも!」


 ぱあっと女性陣の表情が華やぎ、カナンが自分の手柄のように胸を張った。


 ドヤ顔のバカ騎士はともかく、他も上々の反応だ。俺としても食わせてやった甲斐がある。顔をほころばせて喜ぶ連中に、お得な追加情報を教えてやることにした。


「バナナは美味いだけじゃないんだぞ。消化もよく栄養も豊富で……そういえば、美容効果もあるんだっけか」


「……っ!」


 するとアリスティアの目の色が明らかに変わった。


「美容にいいの!? リーフ、それって本当!?」


「ああ、ビタミンBやらポリフェノールがどうので、美肌効果やら抗酸化作用がどうとか? まあ、詳しくは知らんけど」


 そもそもこのバナナが前世のものとそこまで同じかはわからなかったりもする。ちょっとしたマメ知識のつもりだったのに、なんでこんなに食いつくんだよ。


「美容にいいなら私、ばななをこれから毎日でも食べたいわ!」


「なんでだよ。お前は別にそんなの食わなくても十分に美人だろ」


「はうっ……!?」


 一瞬固まるアリスティア。だがすぐに顔を真っ赤にして叫んだ。


「は、はあ!? 何を言ってるのよ! 私が美しいなんて当たり前でしょ!」


「だからそう言ってんじゃん」


「くっ……! そ、それでも、美しさを追及することに終わりはないの! わ、わかったわね!」


 なんだかわたわたと挙動不審になりながらアリスティアが力説する。ヘンなヤツだな。


 それに美しさの高みを目指したとて、意味なんかなにもないのだ。一度、美の到達点であるウチの両親でも見れば目を覚ますだろうか。


 だが、まあいい。好きにすればいいさ。


「はいはい。じゃあ毎日食わせてやるよ」


「本当!? 約束よ!」


「はいはい」


 軽く手を振って流すと、アリスティアは満足げにバナナをもう一本手に取り、もっしゃもっしゃと頬張った。


 ……コイツの食い方はゴリラみたいにワイルドだな。せめてお前がエロくあれよ。


 ◇◇◇


 そして翌日――まだ朝霧が残る時間帯。ゴウマが俺の地下室へとやってきた。


 そう、俺はあのブチ壊した牢屋を土魔法で修復し、マイホームへとリフォームしたのだ。


 ここはゴウマの族長宅から近いが、他の家からは離れた場所にある。おかげで静かで落ち着く。


 簡易的なベッドにテーブル。棚には寝る前に作ったフィギュアもいくつか並んでいる。


「兄弟。それじゃあ留守を任せるぜ」


 棚に並んだ試作品のフィギュアをひとしきり眺めた後、ゴウマが言った。


「おう。自宅警備のプロに任せておけ」


「戻ってきたら、約束通り俺のために作った特製フィギュアを見せてもらうからな。楽しみにしてるぜ」


「あんまりそういうことを言うなよ。死亡フラグみたいだから」


「ふらぐ? 兄弟の話はわかんねえの多すぎだろ! ガハハハハ!」


 なにが面白いのか、大笑いするゴウマ。


 そしてゴウマは村の男たちを引き連れて、ゴブリンの巣に向かって進軍していった。


 ゴブリンの巣まで片道一日半程度の行程。そして討伐と後処理、休息を含め、四、五日もあれば戻ってこられるという話だったが――



 そして何事もなく迎えた三日目。オーガ村に異変が訪れたのだった。

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