103 再会
俺はユグに念話を通じて、オーガに勝利したこと、安全を確保したことを伝えた。
川沿いからオーガ村へと続く道は、ゴブリンを掃討したばかりで比較的安全らしい。とはいえ、俺もカナンもアリスティアの護衛役だ。念のために俺たちが迎えに行くことになった。
そうして昨日、俺が気絶したまま運ばれていったらしい道を逆に進んでいくことしばらく――川にかかった【森の架け橋】の手前で、アリスティア一行の姿を発見した。
「おーい、こっちだこっちー」
俺は大きく手を振りながら呼びかけた。
「リーフッ!」
俺とカナンの姿を認めた瞬間、アリスティアが弾かれたように駆け出した。そのすぐ後ろにはスーリヤも続いている。
そうして俺たちの前に真っ先にたどり着いた二人。スーリヤは俺を見るなり、長い耳をへんにょりと垂らした。
「もうっ、さすがに今回は心配したんだからね~?」
「おう、悪い悪い」
さすがの幼馴染でも今回ばかりは堪えたらしい。
そんなスーリヤに苦笑いを返していると、隣のアリスティアが――えっ、なんか涙をボロボロと流しているんですけど?
「そうよっ……! 私っ、本当に、心配して……ぐすっ、ぐすっ……」
あふれる涙を手の甲で拭いながら、声を震わせるアリスティア。
「おいおい、なんで泣くんだよ。ほら見ろ、怪我ひとつないだろ?」
「だってリーフ、すぐに戻るって言ったのに戻ってこなかったじゃない! 私たちを逃がすために貴方が犠牲になったのかと――」
「いやまあ、こっちにもいろいろと想定外のことが起きてだな……」
と、言い訳しようとした瞬間――
「姫様、ご安心ください!」
カナンが空気をぶった切るように口を挟んだ。
「そもそもリーフはオーガに立ち向かった直後、石の破片に当たって気絶して、なんの役にも立たなかったのです! ですから姫様が御心を痛める必要など一切ありませんっ!」
「えっ? 石が……えっ?」
アリスティアが目をぱちくりさせる中、カナンが得意げに続ける。
「むしろ――私の勇敢な戦いっぷりがオーガの長に気に入られたからこそ、我々は生き延びられたと言えましょう! つまり、このたびの第一功はこの私、カナン=アルブレンドなのですっ!」
むんっと胸を張り、ドヤ顔で手柄をアピールするカナン。このバカ騎士め、余計なことまでペラペラ言いやがって。
「おっ、そうだな。お前がそのままゴウマの嫁になれば、俺が余計な苦労することもなかったんだよ。今からでもそうすればどうだ?」
「むううっ! どうしてそんないじわるを言うのだっ!」
「お前がしょうもないことを言うからだろうが! そもそも俺が行かなきゃお前はトイレのない牢屋で――」
「うわーっ! それ以上言うのを止めろ!」
両手で俺の口を塞ぎにかかるカナン。アリスティアは話についてこれず涙を止めてきょとんとすると、突然ぷっと吹き出した。
「ふふっ、貴方たち、本当に無事だったのね。……よかったわ」
そう言って、ようやく肩の力の抜けた笑みを浮かべた。
――と、場の空気が和んだそんなとき。
「おい。立ち話はそのへんにして、そろそろ村に戻らねえか?」
ズシンズシンと足音を響かせながら、三メートルもの巨体を誇るオーガがこちらへ歩いてきた。
もちろんゴウマである。俺たちに同行していたのだ。
さすがにビビるだろうから離れてもらい後から紹介するつもりでいたのだが、どうやらしびれを切らして出てきたらしい。
そんなゴウマが視界に入った瞬間、アリスティアとスーリヤの表情が一気に引きつった。
セバスは腰を落として警戒態勢を取り、リムララは器用に立ったままブクブクと泡を吹いて気絶している。荷物の上のユグだけが、いつものように平然としていた。
「おうっ! 事情は兄弟から聞いたぜ!? お前ら俺のゴブリン討伐に巻き込まれていたらしいな! ガハハッ、すまなかったな!」
豪快に笑いながら軽く手を上げるゴウマ。そもそも俺とカナンをさらっていったくせに、なにも気にしていないようである。
ちなみにコイツはいつの間にか、俺のことを兄弟と呼ぶようになった。
理由は単純だ。ひとまず村からの逃走を諦めた俺は、約束通りゴウマにフィギュアを作ってやることにした。
その過程で好みや性癖について語り合ったりしたのだが、そのあたりからすっかり懐かれてしまったのだ。
「……あの、リーフ。本当に大丈夫なの……?」
アリスティアが小声で俺に問いかける。その視線はゴウマに釘付けだ。
「大丈夫だって。話してみたら意外といい趣味してるし、悪いヤツじゃないぞ」
俺としても自分の仕事を褒められるのは嫌いではない。俺のフィギュアに首ったけなコイツのことを、少しは認めてやってもいいと思っている。
「おっ、おい。兄弟、あまりその、趣味のことは……」
図体に似合わず、恥ずかしそうにゴウマが肩を狭めながらつぶやく。
「別に隠す必要なんてないだろ。恥じるなよ、堂々としてろ」
「そ、そうか……! うむ、そうだな!」
俺の言葉にゴウマがぐっとたくましい胸を張った。
うんうん、フィギュア収集は決して恥ずかしい趣味じゃないんだからな。でもベロベロマンだけは他人に見せるなよ。
「まあとにかく、村で歓迎してくれるってことだから、とりあえず行こうぜ」
「わ、わかったわ……みんな、行くわよ」
「ハッ……姫様」
ようやく警戒を解き、セバスがうなずく。
こうして――気絶しているリムララを起こしたあと、俺たちはオーガ村へと向かったのだった。




