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【完結】呪われた王子と幸せにしたい少女  作者: Nadi
三章

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大切なお前に

 もはや化け物と化した父親に引っ張られたキエリとフェリクスは再びディナディアラピスのいた空間に戻された。


 「くそっ! キエリを離せ!」

 「お父様! もうやめて!」


化け物はキエリの腹に泥状のからだを纏わりつかせ、縋りつくように引っ張り続けていて、フェリクスが必死にキエリの手を掴んで阻んでいた。


しかし、化け物は引っ張るのを止めたかと思うと、からだを大きく波のように膨れ上がらせ、キエリのからだを飲み込み始めた。


フェリクスが泥をかいて助けようとするが、泥は次から次へと湧き上がり指の隙間からくぐり抜けていき、フェリクスの努力の甲斐虚しくキエリは化け物のからだに飲み込まれた。


しっかりと繋いでいた手も泥が隙間に入り込み滑って、離されてしまった。


 「やめろっ! 彼女を愛しているというのならこれ以上彼女を暗闇に閉じ込めるな!」



 化け物に飲み込まれたキエリは真っ暗闇の中、かろうじで呼吸をしながら、フェリクスと繋いでいた手を必死に外へと伸ばしていた。


 「アイシテ、アイシテ、アイシテ」


父親だった化け物の声は酷く淀み、キエリの耳に纏わりつく。


 「お父様、もうやめてくださいっ」


 「アイシテ、アイジテ、アイ‥‥」


キエリは、父親に対して哀れみや悲しみといった感情が占めていたが、だんだんと欲望のままに動くだけの化け物になった父親にふつふつと胸の奥から熱く燃え上がるような感情が芽生えた。


 「どうしてわからないのですか!? わたしはあなたを愛していました。けれど、もうあなたには付き合いきれませんっ」

 「あなたは他人からの愛を受けることも、他人を愛することもできない哀れな人です。だから人に優しくできず、傷つけるばかりなのです‥‥」

 「あなたに必要なのはわたしからの愛などではなく、あなた自身のしたことを顧みる時間です」

 「それができないのなら‥‥わたしはもう、死んでもあなたを愛することはありません‥‥」


息苦しい中、この胸が張り裂けるくらいに、気持ちが伝わるようにできる限り強く訴えた。


 「ウルサイ! ウルサイ! ウルサイ!!」


キエリを包む化け物のからだが大きく揺れ動き、キエリの首を締め付け始めた。


 「ドウシテ‥‥キミハボクヲアイスルタメニウマレタノニ」

 「ボクヲキョゼツスルナ!!」


 「っ‥‥ぁ‥‥」




 「キエリ! キエリ!!」


 いくら化け物のからだをかき分けてもキエリの姿が見えず、それでも諦めることのないフェリクスは泥を手ですくい続けていた。


 「っく!」


化け物はからだで鞭をつくり、振り払うようにしならせフェリクスの腹を攻撃してきたが、フェリクスがそれで引くことはなく、何度も立ち向かっていく。


すると、フェリクスの周りに水色の光が集まってきた。


 『フェリクス! 剣をかざして!』

 「ディナディアラピスか! わかった‥‥キエリ、今助ける」


光が一段と輝きを増し、フェリクスが構える剣に水色の光が集まり、光の大きな刃が生み出された。


 「キエリを‥‥俺の大事な人を返せ!!」


フェリクスが化け物めがけ剣を振り下ろすと、光が化け物を真っ二つに切り裂いた。


 「アアアアァ‥‥」


化け物の悲痛な断末魔が響き渡り、残った化け物のからだはディナディアラピスの光が包み込んで風に乗るようにどこか遠くにさらって行ってしまった。


そして、化け物がいたところにはキエリが倒れ込んでいた。


 「はぁ‥‥はぁ‥‥キエリ!!」


フェリクスが急いでキエリに駆け寄って、抱き寄せる。


 「キエリ、キエリ‥‥」


フェリクスが呼びかけるとキエリの瞼が動き、ゆっくりとその瞳が見えた。


フェリクスがほっとして泣きそうな笑顔で微笑んだ。


 「あなたは‥‥無事だったのですね‥‥」

 「俺は大丈夫だよ‥‥」


フェリクスは、優しくキエリを抱きしめた。


ぼろぼろになっていても諦めずに必死に助けてくれたフェリクスの優しさと温かさに、キエリは涙が溢れてきて、背中に手をまわして抱きしめ返した。


 「ありがとう‥‥優しい人‥‥」




 (ここからどう帰ったものか‥‥毒のせいで目までかすんできた‥‥せめてキエリが帰れるように帰り道を見つけなければ)


 フェリクスとキエリは手を繋いで、出口を探して彷徨っていた。


しかし、歩いても歩いても出口が見つからず、途中フェリクスの足元がふらつき、キエリが支えるように寄り添いながら歩き続けた。


 キエリはフェリクスの体力がすり減り、弱ってくのを見て心が張り裂けてしまいそうなほど辛かった。


歩いている途中、何度も謝罪の言葉を述べるキエリに、温かい言葉で返してフェリクスは優しく微笑んだ。


 ついにフェリクスの体力の限界がきて、地面に膝をついた。


 「はぁ‥‥はぁ‥‥‥」

 「フェリクスさんっ! あぁ、どうしよう‥‥」


キエリはからだの負担をなくそうとフェリクスの鎧を取り外せる部分を外した。


 「背中にもたれかかってください」


キエリは、フェリクスを背中に背負い両腕を握って前に進もうとした。


しかし、キエリと体格差があるフェリクスの足は地面に引きずられ、キエリはほんの少しずつしか進めない。


 「キエリ‥‥いいよ、俺を置いて行ってくれ」

 「嫌です! 絶対に嫌ですっ‥‥あなたを見捨てるなんて、できません」


 「っつ!」


キエリが足を滑らせてしまい、前に倒れてしまった。


 「ごめんなさいっ、フェリクスさん大丈夫ですか?」

 「キエリ、一度横にならせてくれ‥‥」


キエリは不安げに顔を曇らせながらも言われた通りにフェリクスを仰向けに寝かせた。


フェリクスが胸のポケットを探ると、指輪を取り出した。


 「左手を‥‥」


キエリが左手を差し出すと、フェリクスが宝物に触れるようにキエリの手に触れ、薬指に指輪をはめた。


 「これは?」

 「お前のものだ‥‥」


はめられた指輪にはキエリの目の前に横たわる、優しい人の瞳と同じ宝石が輝いていた。


それを見ると胸がいっぱいになって、訳も分からず涙がこみあげてきては流れ落ちる。


フェリクスは泣くキエリに困ったようにだが、少し嬉しそうに微笑んだ。


自分を涙を流しながら見つめてくれるキエリの頬をそっと手で包み、愛おしい彼女の涙を優しく拭った。


 「愛してる‥‥」


フェリクスの言葉を聞いたとたん、キエリの靄がかかっていた頭の中が一気に晴れていった。


 「‥‥フェリクス‥‥わたしの大切な人‥‥あなたを助けたい」


キエリはフェリクスに顔を近づけ、そっと唇を願いを込めて重ねた。


すると、キエリからフェリクスに魔力の光が伝わり、からだを巡り、フェリクスの顔色も穏やかになった。


 フェリクスはゆっくりとからだを起こし、傷のあった手をハンカチをとって確かめると、すっかりと傷が消えていた。


 「あぁ、よかった! フェリクスっ、フェリクス!」


キエリは、いつぶりかの花が咲いたかのような笑顔をみせ、フェリクスに思い切り抱きついた。


フェリクスもキエリが記憶を取り戻したとわかり、喜びを感じながらキエリを強く抱きしめ返した。


 「キエリ‥‥記憶が戻ったのか‥‥取り戻せた‥‥よかった‥‥」

 「あなたのおかげよ。ありがとうフェリクス、あぁ、フェリクス‥‥」


キエリは愛おしい人の首筋に顔をうずめて、できるだけ二人の距離を縮めて、からだいっぱいに彼から与えられる優しさを受け取った。


 しばらく抱きしめ合っていたが、キエリにはやるべきことが残っているので、名残惜しいとは思いながらも、からだを離した。


 「まず、帰らないと‥‥みんな心配しているよね」

 「そうだな‥‥しかし出口が見つからん」

 「大丈夫、だんだんとわたしの魔力の使い方がわかってきたの! きっとこうすれば‥‥」


キエリが深呼吸をし、両手を祈るように交差させる。


手に光が溢れて、光が球体のように広がり、キエリとフェリクスを包み込むと二人の姿はその場から消えてしまった。




 「ここは?」


 キエリの魔力の光が消えるとキエリとフェリクスは明らかに先ほどの空間とは異なる、花畑の中心で座っていた。


空には温かい陽が昇っていて、爽やかな風がキエリたちの髪をなびかせる。


 「あ! ここはお屋敷の近くのお花畑だ! 遠くにでちゃったけど‥‥うまくいったんだ!」


キエリが喜びを全身で表しながら嬉しそうにまたフェリクスに抱き着いた。


フェリクスはいつの間にか魔法がかなり使えるようになっているキエリに驚いて目を丸くしていたが、キエリが笑顔で無事に戻ってこれたということの方が重要で嬉しかった。


 「キエリ」

 「わっ!」


 フェリクスがキエリを抱きしめながら花畑にからだをうずめる。


倒れ込んだ二人の顔が近くなると、キエリの鼓動が速く、胸が熱くなる。


フェリクスが愛おし気にキエリの髪を撫でてくれると、キエリも大好きが込められた笑顔が自然と現れる。


自然と顔がお互いに引き寄せられ、深い口づけを交わした。


しかし、心の熱さとは裏腹にキエリとフェリクスは疲れと安堵から急激な眠気に襲われた。


 「‥‥どうしよう。すごく眠気がやってきてる」

 「あぁ、俺もだ‥‥傷は癒えても体力がな‥‥少し休んでから帰ろうか」

 「うん‥‥」


二人は睡魔に負けて、花畑の中で抱きしめ合いながら目を閉じた。




 「ありゃりゃ、寝ちゃってるわね」

 「本当にいた‥‥キエリ‥‥フェリクス様よかったぁ~」


 花畑でのんびりと眠っている二人をゼノとロゼが見つけた。


ゼノは困ったように笑っていて、ロゼは安心してぼろぼろと涙を流していた。


 「じゃ、持って帰りますか! ロゼ、泣いてないで手伝ってよん」

 「う、ぐず、わかってる」


ロゼがフェリクスを背負ってゼノはキエリを背負い、二人は移動魔法を使って皆が待つ城へと戻った。

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