導かれて
大事だけど、移動回…
「んじゃ、ちょっと、ぷふっ、アルスも手伝って」
ゼノがちょっと吹き出しながらアルスと名乗るロゼを呼んで、キエリ救出の準備を始めた。
ロゼはゼノを睨みつつも、指示には大人しく従った。
「んーよしよし、ほいさ!」
ゼノとロゼの魔法よって何もない空間に突然現れた扉を作り出した。
「ゼノ、こんな一昔前の移動魔法、よく知ってるわね」
「‥‥‥‥特殊で危険な方法だけどね。でも、相手がどこにいるわからないとき、この方法はずっと近道になるのよね」
「まだまだ勉強不足ね! 先人たちの知識の詰まった本という発明をご存じないのかしらん!?」
ロゼは、むすっとしながらも今学んだことをメモに取って、そのメモは鞄にしまった。
「褒めたのに茶化して返さないでよ」
「だって、アナタってからかうと面白いもの」
会話の途中少しゼノが固まった気がしたが、ロゼはいちいちゼノの挙動を気にしてはいられなかった。
フェリクスは、キエリ救出の準備に魔道具である黒色の鎧に身を包んでいた。
「殿下、やはり兵を連れて行った方が‥‥」
コンゴウがいつもの厳しい面持ちが崩れるほど心配しているが、フェリクスは兜越しに安心させるように微笑んだ。
「俺とゼノ殿、それにアルス殿で行く。大人数で行って敵に気付かれても困るし、キエリが攫われたなど皆に知れれば大事になる。それに、大人数では皆を守り切れん」
「殿下の御身を身をていしてでも守るそのための兵です!」
「あぁ、もし俺たちが明日までに帰ってこなかったら助けに来てくれ」
グイスが心配するコンゴウの肩を叩く。
「でーじょぶだって、あの魔女のねーちゃんがついてんだから、そこらの兵より強いって」
「コンゴウ、俺のいない間にブラッタ家の処理を頼む」
コンゴウは、まだ言い足りなかったようだが、ぐっと飲み込んで承諾した。
復活したエレドナがクイナに支えられ、フェリクスを見つめる。
「殿下、あの子を頼みますね」
「あぁ、行ってくる」
フェリクスは、力強く頷いた。
ゼノは、かがみこんで犬になったイラに何かを嗅がせていた。
犬は理解したというようにきりっとした表情でわんっと吠えた。
もう、犬ということは受け入れているのだろうか。
「あいつの魔力の残り香はたくさんあるから、わんちゃんにたどってもらいましょう。先陣を切ってもらうことでカナリアにもできるし」
犬は、ゼノの容赦のない荒い犬使いに、ぷるぷると震えている・
ゼノは立ち上がるとにこりと笑ってフェリクスを見る。
「じゃ、準備はできたかしら?」
「あぁ、よろしく頼む」
扉がひとりでに開き、フェリクス、ゼノ、ロゼ、そして犬は扉をくぐり抜けた。
フェリクスたちは、現実とは思えない真っ白な光の道を犬を先頭にして歩いていた。
地面には靄が漂っていて、フェリクスたちの足に纏わりついては流れていく。
(歩きにくい。道に広がる靄が濡れた綿のようだ。油断すれば足を引っ張られてしまいそうだ)
「気を付けてねーん。この道は近道だけど、長時間いると戻れなくなるし、からだがもっていかれちゃうわよ」
ゼノはこの道に慣れているのかヒールにもかかわらず、軽やかにスキップしながら進んで行く。
「うわっ!」
「大丈夫か!?」
ロゼが足を滑らせて転倒しそうになったところをフェリクスが腕を掴んで支えた。
ロゼは、体勢を戻すとすぐにフェリクスの手をどけさせた。
「だっ大丈夫です」
「そうか、気を付けろ」
ロゼは、助けてくれたのにぶっきらぼうになっているとは思ったが、必要以上にフェリクスの顔を見ることができなかった。
「うわん!」
先頭を歩いていた犬が立ち止まり、しっぽを振ってゼノに何かをうったえる。
そこには何もないのだがゼノは嬉しそうに犬をわしゃわしゃと撫でた。
「おーしよしよーし、見つけたわね」
「ゼノ、そこに何があるの?」
「別に今は何もないわよ。今から作るの」
ゼノが魔力を手に込めて、空気をかき回すようにくるくると腕を回すと、ぽっかりとあいた穴が出来上がった。
「さ、ここを通れば敵さんのテリトリーよ」
「よし、俺が先に下りよう。ゼノ殿とアルス殿は後で来てくれ」
フェリクスは片手に鞘を握りしめ、ゼノが作り出した暗闇が続く穴に飛び込んだ。
「っつ!」
穴から出た場所は、地面ではなく空中であった。
辺りはほとんど光がなく、この落下が終わる地点をすんでのところで確認し、受け身をとってそこに落ちた。
思ったよりも衝撃はなく、手で地面を確かめるとそこは地面ではなく何かよくわからないガラクタで地面が敷き詰められていた。
目が慣れてきて、敷き詰められているものを見ると、それは球体人形の手、足、頭などの部品だった。
(これは‥‥人形の部品か? だがなぜこんなにもたくさん)
ただ、それらは砕けていたり、組み立て途中であったりして、まるで失敗作のようだ。
あたりに敵の気配がないか確認するが不気味なほど静かだった。
周りを見て気付いたが、どうやら大量の人形の部品が山になっていて、その上に落ちたらしい。
しばらくすると、犬を抱えたゼノとロゼも風の魔法を使ってからだを浮かせ、優雅にゆっくりと下りてきた。
二人は、暗いのがわかると、魔法で灯りを作り出した。
「ぎゃっ!? なにこれぇ‥‥やだやだやだ、めっちゃ怖いんだけど‥‥」
ロゼが山と積まれている人形の部品を見て野太い悲鳴をあげた。
ロゼの悲鳴は反響して、遠くまで響いた。
ゼノが人形の手を拾い上げて、空洞になっている中を覗き込む。
「なんか、キエリの魔力を感じる?‥‥中がキラキラして綺麗ね」
「ちょ、ちょっとゼノ! なんで平気で触れるのよ!?」
「別に何が怖いのよ? この子たちは何にもしてないじゃない」
「だ、だってなんか不気味よ‥‥どうしてこんな人形のガラクタなんてあるのよ?」
ゼノはさぁ?と言った様子で肩をすくめた。
「‥‥‥先に進もう」
フェリクスは、人形の山を滑り落ちると、ようやく地面についた。
地面を足でならすとじゃり、という音がして、建物の中というよりは自然な地面のように思えた。
「敵の気配はしない。光がほとんど届かず、声が反響する。ただ、外ではないが、地面は土だな‥‥」
ゼノもロゼも人形の山から下りてきた。
「ここが現実のどこかであると仮定しない方がいいわよ。魔力の流れもぐちゃぐちゃ、現実でないみたい。ま、肝心なのはキエリがいるかどうかよん。でも、この人形からキエリと同じ魔力を感じるし‥‥空気中も魔力で満たされて、こんなんじゃ追えないわ」
「ここにはキエリ‥‥は、いない気がする」
「キエリ『は』って言われると、キエリ以外になんかいるみたいじゃない」
「敵、ではないと思うのだが、何かいる」
フェリクスは、何かを感じる方向に吸い込まれるように歩みを進め始めた。
「殿下! どこに行かれるのですか?」
「あっちに何かいる気配がする‥‥」
ロゼはフェリクスを追いかけると、後ろからゼノも犬もついて行った。




