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【完結】呪われた王子と幸せにしたい少女  作者: Nadi
三章

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僕だけの君に

しばらく暗いかな?

 時は遡り、キエリが骸骨のマスクの男性に抱き上げられたあと。


 「ここは(きたな)らしいから、移動しようか」


男性がそういうと部屋の真ん中に突然、重苦しい扉が現れた。


その扉がひとりでに開くと、扉の後ろには何もないはずにもかかわらず、暗く先の見えない空間が広がっていた。


 「いっ、いや! 離してっ」


キエリは抵抗しようとしたが毒のせいで力が込められず、男性の胸を震える手で押しただけだった。


 「大丈夫、暗くても怖くないよ。僕がついているから」


キエリが恐ろしく感じていたのは明らかに男性なのだが、その考えは彼にはないようだ。


抵抗虚しく男性は歩みを進めて、重い扉は閉められた。


 「いや‥‥フェリクス、フェリクス助けて‥‥」


キエリが恐怖でフェリクスの名前を呼ぶと、男性は明らかに苛ついて、周りの低かった空気の温度が一層低くなって、キエリの吐く息を白くした。


 「あの愚かな男に随分と毒されてしまったようだね。よくない‥‥もっと早く君を迎えに行けていれば、こんなことにはならなかったのに」

 「あぁ、腹立たしい! 君は僕だけのお人形で、僕だけの一輪の花だったはずなのに!!」


男性は怒りがこみあげてきているのか、早口でまくし立て、声には憎悪が込められている。


 キエリは、男性の吐き捨てた言葉に聞き覚えがあった。


それはあり得ないことであるが、予想通りであれば、どうしてこの男性のことが今まで頭から離れなかったのか合点がいく。


 「まさか‥‥お父様‥‥‥」

 「あぁ、僕の可愛いお人形、気付いてくれたんだね」


キエリを作った父親は、キエリが自分のことに気付いたのが嬉しかったのか、先ほどまでの怒りが収まり、寒さが少しだけ和らいだ。


すっかり姿の変わってしまった父親を前に、キエリは思考が停止して、からだが硬直する。


 「ふふふ、混乱するに決まっているね‥‥大丈夫一から話してあげよう。昔みたいにお茶を飲みながらね」


 しばらく暗い道を歩いていたが突然、温かい光が差し込んできた。


 「あ、れ‥‥ここって」


キエリは見覚えのある部屋にたどり着いた。


天井がガラス張りになっている特殊な部屋で、温かい陽ざしが降り注ぐ。


白色を基調とした机と椅子があり、温かいお茶と美味しそうな茶菓子が用意されていた。


そこは紛れもなく、キエリが以前父親と暮らしていた屋敷のお茶をする部屋だった。


 父親がキエリを丁寧にクッションのついた椅子に座らせた。


椅子の両側には手すりがついていて、キエリは倒れずにいられた。


父親も机越しに向かい合って椅子に座った。


 「あぁ、しまったな。君には毒が回っているから、しばらくは飲めないか‥‥まぁ、その間にもお話しはできるね」

 「お父様が今回のことを仕組んだんですか? でも、なんで‥‥」


父親はため息をついて、ガラスの天井越しに空を見上げた。


きれいな青空と白い雲が流れていくのが見える。


 「仕方がないことだったんだよ。君に反省してもらうため‥‥それもこれも君が招いた結果さ」

 「わたし、が‥‥?」


キエリは訳が分からなかった。


 「わからないかい? 僕が怒っている理由‥‥」


ゆっくりと顔を下げ、キエリの視線と父親の真っ暗で空虚な視線と重なる。


 「君があの浅ましく汚らわしい、愚かな男に心とからだを許したからだよ」


父親の憎悪と支配欲にまみれた声がキエリのからだに纏わりついて震わせた。


キエリは、恐怖から泣きだしそうだった。


 「君は‥‥君は僕のものなのに! あんな奴に君が汚されたと考えるだけで、あいつの皮膚を剝いでやって‥‥あぁ、それだけじゃ足りない! 絶望の底に叩き落して、それから‥‥」


父親が狂ったように怒鳴り散らし始めたので、キエリは恐ろしくて、耳を塞いで、縮こまりながら泣いてしまった。


それに、父親が気付くと怒りを抑えて、息を細く吐き出し落ち着きを取り戻した。


 「ごめんね。君を怯えさせるつもりはなかったんだ。つい、ね‥‥大丈夫?」

 「は、はぃ‥‥」


キエリは全く大丈夫ではなかったが、とりあえず返事をした。


 「うん、そうだ。一から話すんだったね‥‥」


父親は立ち上がり、キエリの傍まで来て、冷たい手でキエリの頭を撫でた。


 キエリは、この父親が恐ろしいというのを感じていても、不思議なことに懐かしさもあわせて感じてしまい、気持ちがごちゃ混ぜになる。


 「‥‥謝らなくてはいけないことがある。あの時、君を置いて行ってしまってすまなかった」


あの時、というのはキエリがまだ人形で父親と暮らしていた時に、父親がキエリを部屋からとりに来なくなってしまった時があった。


 「どうして、わたしを迎えに来てくれなくなったのですか? やはり、あの時には、もう‥‥」


亡くなっていたのかと続けたかったが、その前に父親が首を振った。


 「死んでしまう一歩手前だったな‥‥最後の最後まで君といて、君と共にむこう側に行きたかったが、それを邪魔する奴らがいてね」

 「そいつらに無理やり病院に入れられて、さらには君をオークションで売るなどという奇行を許してしまった」

 「本当にすまなかった‥‥」


キエリは父親に抱きしめられた。


頭を撫でられたり、抱き上げられたりはしたが、こうして抱きしめられるのは初めてだった。


体温のないからだはひやりとして、キエリは父親の考えていることも訳が分からなくて、ただその抱擁を受けるだけだった。


 父親は、ゆっくりとからだを離した。


その表情が変化することはなく、相変わらず何を考えているか全く分からなかった。


 「許してくれるかい?」

 「は‥‥い。わたし、お父様を恨んだりなんてしたことありません‥‥」

 「そうか、君は優しいね」


本心ではあった。


父親を恨んだことはなく、むしろ感情の豊かになった今では父親との別れは悲しい思い出となっていた。


 父親は再び椅子に座った。


本当にキエリを置いて行ったことを気に病んでいたのか、肩の荷が下りたようにほっとして、安堵の息をもらしていた。


 「よかったよ‥‥この長い間、それが気がかりでね」

 「あ‥‥の、お父様‥‥でも、お父様はお亡くなりになったのですよね? 人間の寿命はどうしてもきてしまうから」

 「あぁ、そうだよ。僕は死んだ。けれど、蘇ったんだ」

 「君に会うためにね」

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