赦し
「きゃあ!!」
「わっ!」
ロゼの移動魔法でキエリたちは海から陸地にたどり着いた。
ただ、場所が悪かった。
「いてて‥‥ってあれ、ここは?」
ロゼが辺りを見渡すとそこは見覚えのあるきらびやかな場所だった。
周りには綺麗に着飾った人が何人もいて、まるであの日を思い出させるようだった。
ロゼの顔から血の気が引いた。
(まさかっ、ここは城!? 座標がうまく取れなくて、城にまで来てしまったの!?)
キエリも起き上がって、辺りを把握していた。
「はぁ‥‥よかった。陸に着いたんだ。ありがとう、ロゼ」
「いやっ、ちょっと何呑気なこと言ってるの!? ここ城よ!」
「そう、みたい。ふぁ‥‥」
キエリは魔力を使いすぎて、眠気がきているせいであくびをしてしまった。
今後の人生がかかっているというのに呑気にあくびをしていると思ったロゼはカチンときて、キエリにしっかりしなさいよ!と言って肩をぐらぐらとゆする。
動揺していた周りの貴族たちがロゼに気付いてさらに騒ぎだした。
騎士団員たちが素早くロゼとキエリを取り囲んだ。
ロゼは、あの日の再現のように感じて、冷や汗がどばどばと全身から噴き出す。
キエリは、ロゼの手をそっと握って、優しく微笑む。
「大丈夫、一緒にちゃんとお話ししよう?」
ロゼは不安そうに眉を八の字にして、動揺していたがぎゅっとキエリの手を握り返した。
「キエリ!?」
「あ、フェリクス様!」
憎い相手であるロゼがいると思って、騎士団たちの輪をかき分けてきたフェリクスが、傷だらけでぼろぼろになっているキエリとロゼが手を繋いでいるのを見とめて素っ頓狂な声がでた。
一方、キエリはフェリクスと再会できたことが嬉しくて、明るく笑ってフェリクスに手を振った。
「キエリ、その女から離れるんだ! その女はっ‥‥」
「フェリクス様に呪いをかけた人、ですよね‥‥」
キエリは、ロゼに行こうと声をかけて、ロゼの手を引いてフェリクスの前まで来た。
フェリクスは、キエリには見せたことのない憎しみで歪んだ顔でロゼを睨みつけている。
ロゼは、フェリクスの顔が見られずに肩を震わせながら俯いている。
「さ、ロゼ‥‥」
「‥‥‥」
フェリクスは、剣に手を付けたままだが、剣を鞘から出すことはせず、じっとロゼを睨みつけている。
「‥‥‥あ‥‥‥の、フェリクス様‥‥‥」
「貴様に名など呼ばれたくはない」
「も、申し訳ありません、殿下!」
ロゼは今にも心が折れてしまいそうだったが唯一の支えのキエリにすがるように繋いでいる手に力を込めた。
キエリも見捨てることはなく、しっかりと握りこんでくれる。
「殿下‥‥‥呪いをかけてしまって、本当に、本当に申し訳ございませんでした」
何を言っても言い訳にならないと理解しているので、ロゼは、深く、できるだけ深く頭を下げた。
頭上からフェリクスの憎々しげに見る視線が痛いほどわかった。
金属同士がこすれる音がした。
「フェリクス様!」
キエリの焦った声が聞こえた。
フェリクスが鞘から剣を引き抜いたのだ。
「わかっているのか‥‥お前は俺の時間を奪った。俺の大事な人を苦しめた‥‥本気で許されると考えているのか?」
「‥‥‥っ返す言葉もございません。本当に申し訳ございませんでした」
恐怖でロゼのからだが震えた。
今すぐ殺されてもおかしくない。
それでも謝ることしかできない。
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥」
「‥‥‥だが、全てが悪いことばかりではなかった。本当に俺のことを大事に想ってくれる存在に気付くことができた」
フェリクスは、ぽつりとつぶやくと怒りを息と共に吐き出し、剣を鞘に戻した。
「顔を上げろ」
ロゼはゆっくり顔を上げた。
フェリクスの顔をやっとまっすぐに見られた。
フェリクスは、まだ瞳に怒りを宿しているがそれは静かな炎だった。
「全てが悪くなかったといっても、俺はお前を許すことはできない」
「はい‥‥」
「二度とその顔をみせるな‥‥どこにでも行け」
「‥‥‥! あ、りがとうございます」
ロゼは再び頭を下げた。
キエリは、とりあえず危機を脱したようでほっと胸をなでおろした。
(よかった‥‥)
「キエリ‥‥」
キエリの大好きな人が自分の名を優しく呼ぶ。
ロゼに向けていた視線とは違って穏やかに自分を見つめる。
(あ‥‥よかった。そうだ。本当に呪いが解けたんだ)
キエリは、嬉しさがこみあげてきて胸がいっぱいになる。
「フェリクス様」
キエリが心がいっぱいになりながら、大好きなフェリクスの名を呼んだ。
ロゼがそっと手を離してくれて、キエリはフェリクスの胸に思い切り飛び込んだ。
フェリクスは、胸に飛び込んできたキエリを持ち上げて抱え込むように全身で抱きしめた。
「あぁ、キエリ、傷だらけじゃないか。本当に心配したんだぞ」
「心配させてしまって、ごめんなさい」
「でも、よかった。戻ってきてくれて‥‥ありがとう」
「フェリクス様のいるところがわたしの居場所ですから‥‥」
キエリは、抱きついて埋めていた顔を持ち上げた。
久々のフェリクスの顔、優しい笑顔が嬉しくてキエリも自然と笑みがこぼれた。
嬉しさで油断しきっていたキエリにフェリクスは唇を重ねた。
「ふぇ、フェリクス様!」
「ふふっ、いいじゃないか皆に見せつけないと」
すっかり二人の世界に浸っていたキエリはハッとして周りを見ると騎士団員や貴族令嬢たちがキャーキャー言いながら見られていることに気付いた。
フェリクスはにこにことしていて悪びれる様子はない。
またしてもしてやられたような気がした。
「お、おぉ、おります! そういえば汚れてましたし!」
「駄目だ。傷だらけじゃないか、このまま医務室に行こう」
「い、いいです! 歩けます! 歩けますから!」
キエリはじたばたしてみるがそんなことには慣れているフェリクスには通じることはなく、下りられそうになかった。
「ちょ、ちょっと待ってください! ロゼとお話ししなきゃいけないんです」
フェリクスの動きがぴたりと止まり、不満そうに眉をひそませる。
「キエリ、まさかあの魔女と仲良くなっていないよな?」
「うーん‥‥まだあったばかりですから、もし仲良くなるとしてもこれからですね」
「駄目だ」
「‥‥‥でも」
「キエリ、頼むそれだけは容認できない」
キエリは心配そうにロゼを見る。
ここにはキエリ以外味方がいないロゼは、心細そうにしている。
キエリは、ここでロゼと離れてしまえばずっと心に後悔をしょったままになってしまいそうな気がした。
「フェリクス様、彼女にはやり直す機会が必要なんです。せめて、その手伝いをさせてください」
「‥‥‥」
キエリはじっとフェリクスの瞳を見つめて訴えかける。
「‥‥‥俺は心底、お前の瞳に見つめられるとダメみたいだ‥‥」
フェリクスはキエリを下ろした。
「ありがとうございます」
キエリは微笑んでフェリクスにお礼をいった後、ロゼにもとに駆け寄った。
「行こうロゼ」
「い、行くってどこに?」
「怪我だってしてるし、着替えだって必要でしょ? だから、とりあえずはわたしの部屋に行こう」
ロゼはこくりと頷くと、キエリはロゼの手をとってダンスホールを抜けていった。
周りからの視線が痛かったがキエリはまっすぐ前を向いていて、ロゼはそんなキエリに少し憧れた。




