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【完結】呪われた王子と幸せにしたい少女  作者: Nadi
二章

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海の底で

※倫理観注意です

人魚をセイレーンにしました。

 「うぅ‥‥はぁ! はぁ、はぁ‥‥ここは?」


キエリが目を覚ましたのは、見知らぬ空間だった。


洞穴のようで壁はごつごつとした石でできていて、形も半球状なのか天井が丸い。


ただ魔道具で灯りをともしてあって中はとても明るいし、キエリが目を覚ましたのは不思議な丸い形をしているぷよぷよとした感触の寝台の上だった。


他にもまるで普通の部屋のように家具がそろっている。


 「わたし‥‥生きてる? それか死んじゃった?」


キエリはわけがわからず、胸に手をあててみるとからだは温かいし、心臓がどくどくとなっている。


 「い、生きてる‥‥? でも、どうして?」

 「あっ! 起きてんじゃーん! 」


部屋の出入り口であろう穴から女性が入ってきた。


水色の髪をさっぱりと肩のところで切っていて、夜の海のような深い青の瞳が美しい。


ただ、その恰好は実に奇抜で貝殻を胸当てにして、下は海藻を編み込んだスカートを履いているだけだ。


 「丸一日寝てたからてっきりもうだめかと思ったよ」

 「ま、丸一日!? ってそれ!」

 「ん? あぁ、お代としてもらっといてるよ」


見知らぬ女性は、キエリの鞄を抱えて、そこから干し肉を取り出して勝手にかじってた。


 「あ、あの、あなたは誰ですか? それにわたしはたしか溺れたはずじゃ‥‥」

 「まず、質問一の回答は、メレ。あたしの名前ね。そして回答二、あんたは溺れててそこをあたしが助けたってわけ」

 「あなたが、わたしを?」


メレは、ぼすっとキエリが寝ていたぷよぷよ寝台に座って、キエリの顔を覗き込んだ。


 「あんた、きれいな瞳してんのね。人間の雄だったら真っ先にあたしがもらったげるのに。世の中には性別を変える魔法があるっていうけどあんた興味ない?」


キエリはとりあえず褒められたのかなぁ、と思ったが後半の言葉が何とも言えなくて苦笑いしながら首を傾げた。


 「あっあの、わたしはキエリと申します。助けていただいて、ありがとうございました。お礼をしたいところなのですが、今はわたしは何も持っていなくて‥‥それに急いでいて、すぐに行かなければいけないんです」

 「なので、お礼は改めてさせていただけないでしょうか」


深く頭を下げるキエリをメレはまだ干し肉をかじりながら見つめる。


 「いや、お礼は今欲しいな。もちろん干し肉よりいいやつ」


キエリは、顔をあげると申し訳なさげに眉を八の字にあげていて、それを見たメレはくすりと笑った。


 「そんな不安な顔しなさんなって、別に雌のあんたをとって食いやしないから」

 「あんたの持ってるもの、それを使ってほしいだけさ」

 「わたしの持っているもの?」


キエリは鞄の中に何か特殊なものがあったのかと頭を働かせたがそんなものはないし、からだには服にあとは足につけた短剣があるだけだ。


キエリが不思議そうに考えているのが顔にまるっきり出ていて、メレはくすくすと笑ってキエリの額をつんとつついた。


 「あんたってわかりやすいね。その方があたしは好きだよ。安心してよすぐに終わるし、その後人間の港にとどけてあげる」


キエリはそういえばこの場所が一体どこなのかとわからないでいたが、港ではないことは確定した。


しかし、港に行くことが今の目的ではない。


 「わたし、港に今は戻れないんです。王子様に呪いをかけた魔女がいるところに行かなければいけないのです」


メレは、魔女の居場所を知っているようで、彼女の深い青の瞳が大きく開かれる。


 「あんた、やっぱあそこに向かってたの? さっきだってそのせいで死にかけたのに、また行くっての? あんたもしかしてバカ?」

 「それでも行きます。わたしの大事な人を助けるために、あの魔女の呪いを止めに行かないといけないのです」


キエリのまっすぐな瞳をメレは、むすっとした表情で干し肉をかじかじしながら見つめる。


 「ふぅん、よっぽど大事なんだね。それってあんたの雄?」

 「そ、そうです」


雄、という言い方が気になるが意味合いは同じなのかなとこくりと頷く。


 「そこまですんだ。へぇー‥‥恋ってやつなのかな。あたしたちにはよくわかんないけど」


メレがふぅと息を吐き、顔をしかめながら顎をさする。


 「あそこはもともと島がなかったけど、その魔女が来てから突然島が現われたの。というか、あれは島っていうより、魔女そのもの?」

 「島が魔女?」


キエリ首を傾げると、メレはうーんと考えながらキエリの鞄の中から新たな干し肉を取り出して食べ始めた。


もう完全に自分のものにしているらしい。


 「魔女の島は全体がとげとげの植物でできてんの。あんたの船を貫いたとげとげ草の群れ、あれは魔女の一部だよ」

 「そ、うなんですね‥‥」


 (あの茨が魔女の一部? いったい魔女はどんな状態になっているんだろう? ゼノは魔女は呪いの反動を受けていると言っていた‥‥もしかして、フェリクス様みたいにからだが変わってる?)


キエリはふと、当然の疑問を思いつく。


 「船があの茨で貫かれたところもメレさんは見たんですよね? そもそも、メレさんあんな危険な中どうやってわたしを助け出したんですか?」


メレは、あーといいながら寝台から立ち上がった。


 「いいよ。あんたになら別に見せてもいいでしょ。というかお礼をしてもらううえで隠すのは無理だし」


メレはキエリの腕をもって寝台から立ち上がらせ、洞穴の部屋から出た。


部屋の外は迷路のようになっていて、あちこちに穴が見える。


 「こっちこっち」


メレに引っ張られるままに進んで行くと、大きな穴が見えてきた。


 「これ、どうなっているのですか?」


キエリはあまりの不思議な光景にまぶたが何度も瞬いた。


キエリが連れてこられた大穴にはまるでコップに溢れそうなほど注がれた水のような水の膜が張っていて、その先は水で満たされている。


ここにくっきりと境目ができていて、境目の向こうを見上げると、キエリたちがいる場所は円柱状に頭上に続く巨大な穴の底で、周りは岩肌となっており、そこら中に穴ぽこが見える。


岩肌には色とりどりの海藻やサンゴ、イソギンチャクが引っ付いていて地上とは全く違う。


そして、何か人間ほどの大きさの魚のような、しかし上半身だけ不思議な形をしている生き物がそこらじゅうを泳いでいる。


 「こっから先は海だよ。今あんたが居るのはセイレーンの国さ」


メレはにこりと笑って水の中に飛び込んでいった。


すると、人間の姿だったメレのからだの下半身が魚の鱗のように輝きだし、みるみるうちに魚のものへと変化した。


 「え!? メレさん、あなたって人間ではないの?」


キエリが目を丸くして驚いていると、メレが顔を水面から出してころころと笑う。


 「セイレーンってやつさ、というかあんただって見た目は人間だけど、人間っていう感じじゃないじゃんか?」


キエリはドキリとした。


キエリはもともと人間ではなく人形だった。


しかし、今はすっかり人間のからだとなっているはずなのでそう言われるとは思ってもみなかった。


 「ど、どうしてそう思うんですか?」

 「魔力が違うってカンジ? あたしにはその魔力は人間には見えないな」

 「魔力が‥‥」


この魔力自体は人形の頃から変わらず、ゼノには魔力が特別だと言われていた。


だがそれは、からだが完全になっても魔力までは人間のものではないからなのかとここで初めて気づかされた。


 メレは、キエリの腕をいきなり引っ張って水の中に引き込んだ。


 「わっぷ!」


 (なっ、息が!)


キエリは驚いてじたばたと手足を動かしたが、メレの力が強く離れるどころかどんどん引っ張られていった。


ついに我慢できずにキエリの口が開いてしまった。


 「あれ?‥‥息ができるし、話せる?」


メレを見るとキエリの反応が面白かったのか、「うける」といいながら大笑いしている。


さすがに笑いすぎではないかとキエリがメレを責める視線をむけると「ごめん、ごめん」といってやっと笑うのをやめてくれた。


 「いやぁ、いっつも人間を連れてくる時は気絶してるからさ。反応が面白くて。こんなんなら、毎回意識があるうちに連れてこれればいいのにね」

 「連れてくるって、どうしてですか?」

 「あたしらセイレーンって雌しかいないからさ。子供をつくるには人間の雄が必要だから溺れたやつとかここまで連れてくんの。一時期大量の人間が溺れてたなぁ」

 「あとは、やることやって、港にぽい。命を助けてるんだからいい取引だろ?」


今さらりとすごいことを言わなかったかとぎょっとした。


 「でもほんと残念。あんたが雄だったらねー。顔がいい奴はやっぱ人気なんだよね」

 「あ、はぁ‥‥」


キエリは、内容がすごすぎてまったく頭で処理できないでいた。


もう、どうして息ができるのかとかどうでもよくなってきて、おそらく、彼女の魔法か何かだと考えておくことにした。

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