それでも
ちょっと短めです
「禁止区域?」
「あぁ、そうだよ。そこにはたしかに魔女がいるって言われていて、漁師や交易船、観光船なんかも危険だから全部入っちゃいけないって、そこら一帯は侵入禁止されているのさ」
「どう、危険なんですか?」
「どう、って‥‥行ったことないからわからんが‥‥やっぱり王子様に呪いをかけた邪悪な魔女がいるんだから、まぁ、なんか危ないんだろう」
「そうですか‥‥ありがとうございます。とても助かりました」
キエリは微笑んで深くお辞儀をしてお礼を言った。
話しをしてくれた漁師は、どういたしましてとちょっとデレながら手を振った。
ゼノがお腹が減ったと言ってそこらへんの屋台で買ってきた魚の串焼きをほおばりながら話を聞いていた。
「ふーん、案外魔女って有名なのね」
「フェリクス様から聞いたことなかったな‥‥あまり話したくないことだったみたいだし」
「昔の女のことなんて話したくないでショ」
「その言い方は、なんだかすごく嫌だな。フェリクス様と魔女は別に、その‥‥魔女が一方的に好きだっただけでしょ?」
「でも、好きになるきっかけはあったんでしょ?」
キエリは、フェリクスを助けるためにみなぎっていた力が抜けていくような感覚がした。
そして、今までに感じたことがないイライラが心を小さくひっかいてきた。
「‥‥別になんにもないと思う。フェリクス様はかっこいいし、優しいし‥‥見かけるだけで好意はもつよ」
「それもそうねん。きっと人気あったでしょうねぇ‥‥いろんな令嬢に言い寄られるのが目に浮かぶわ‥‥」
「あっ! でも、たしか婚約者の子がいたわね。そしたら露骨には言い寄られないか」
ゼノは、とんでもない爆弾をさらりとキエリに言ってのけて、なんてことはなかったかのように魚をもぐもぐ食べている。
「こ、こんやくしゃ?」
「ありゃ? ご存じでないの? フェリクスは王子なのだから婚約者くらいいるわよぉ」
(ま、呪いがかけられたときに実質破棄してるみたいだけど‥‥正式かどうかはしんないし、不確定なことは言わないであげようかしら!)
「でも、気にしなさんな。王子様はアナタに夢中なんだから」
串焼きをぺろりと平らげたゼノはにんまりと笑う。
しかし、ゼノはちょっとしたいたずら心のつもりだったが、キエリには衝撃が強すぎたらしく放心してしまっている。
「キエリ‥‥あの、ちょっと、大丈夫?」
「‥‥‥あっ、ごめん。うん、大丈夫」
「‥‥‥‥」
キエリは放心状態から戻ってきたと思ったら、微笑んではいるものの、表情は固く血の気が引いて顔色が白くなってた。
(やっぱり、いたんだ‥‥わたしよりもふさわしい人‥‥‥もともと決められていた人が‥‥)
ゼノは、こりゃやりすぎたのかと反省して必死に取り繕おうとしたが、焦ってしまってうまく言葉が出てこない。
「んーと、えっとねキエリ、そのぉ‥‥だっダイジョブよ! ほんと、うん、だいじょぶ!」
「うん‥‥さっき聞けた船を取り扱っているお店に行こうか」
「そ、そうね。呪いを解く旅にレッツラゴー!」
ゼノが大きな手ぶりで拳を天高く突き上げて、キエリの気持ちをあげさせようとしたがキエリは優しくにこりと微笑むだけだった。
二人は教えてもらった店に向かって歩き出したが明らかにキエリは先ほどより元気がなくなった。
(もう、こうなったらポジティブに! そう、キエリに王子様を諦めさせるチャンス!)
キエリにフェリクスの呪いを解く手伝いをしながらも、未だにキエリと世界旅行に行くという野望を諦めていないゼノはこれを諦めさせるいい機会ととらえることにした。
「ね、ねぇキエリ。そんな自分の婚約者についても話していないような男やめちゃいなさいよ。こんなことが出てくるたびにキエリの方が傷ついて泣くことになるわよ」
キエリは歩みを止めて、水色の瞳がじっとゼノの顔を捉える。
その顔は少し寂しそうで何かに耐えているようでもあった。
「わたしはフェリクス様のことを確かに全部知っているわけじゃないし‥‥なかには知りたくないこともあると思う」
「でも、フェリクス様と一緒にいるときが一番幸せなの‥‥」
「‥‥婚約者さんのことは少し気持ちの整理が必要だけど、それをきいてもあの人と一緒にいたい気持ちは変わらないの」
ゼノは苦笑しながらふぅーっとため息をついた。
「はぁ‥‥おちょくるのは今日はここまでにしたゲル。いじめすぎてキエリに嫌われたくないし‥‥」
キエリはゼノの意図がわからず首を傾げたが、ゼノはにんまりと笑ってキエリの手をひいた。
「さ、行きましょ行きましょ! 早く呪いを解いてあげたいんでしょう?」
「う、うん」




